表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5




時刻は日が昇る寸前。


真っ暗でもなく、だからと言って朝日が昇っているわけでもない中途半端な時間。

スキルも何にもない俺は夜目が全く効かないから、自分的には身を隠せるちょうど良い時間だ。

しかし、もう直ぐ朝日が昇り始める。おそらく住民が外に出始めたらタイムオーバーだろう。

できれば完全に明るくなる前に宿に戻りたい。ばれないように戻らないと宿のおじさんおばさんに不審がられてしまうから。


それまでに父を探さないと・・

それか、何事もなく宿の部屋に帰って、俺がいないという事態に焦っていれば良い。


宿からの通りを北へまっすぐ進み、国の中心部にある商店街に出た。

商店街の大きな通りは、白い制服を着た兵士で溢れていて朝が近いことで誰もが必死な表情を浮かべている。

俺は、商店街の店と店の間の隙間に身を潜めている。

人1人ギリギリ入れるような隙間に、お店のゴミが入った樽が置かれていて、鼻がもげそうになりながらも

兵士が通り過ぎるのを静かに待っていた。


そこへ1人兵士が俺の潜んでいるお店の前で急に立ち止まった。

何か重要な知らせがあったらしい、右手を耳に当て何にかすると右耳にはめていた、イヤホンのような装置が光った。

魔法道具の通信機だ。

『報告です!

 南A地区 チェルテラ教会周辺にて、光の巫女と思われる人物と犯人を発見』

「捕まえたのか!」

『いえ!現在追跡中です。至急応援を!』

「よし!チェルテラ教会なら近いぞ

全員、至急南地区へ迎え!いいか絶対に逃がすな!」


そう言うや否や、大通りに集まる兵士はバタバタと南地区へ走っていた。


通りが静かになり、潜んでいた隙間からそっと顔を出し、辺りを見回しながら大通りへ出た。

俺は通りの中心で立ち尽くし、一度東の空を見上げた。少し朝日が顔を出しつつある。


俺は兵士の言葉で気になった部分を呟いた。

「・・・チェルテラ教会なら近い?」


色んな可能性と疑問を、小さな頭の中で精一杯考えながら歩き、商店街の入り口にある観光用のタウンマップの看板まで、たどり着き足を止めた。


全体マップを確認し、

「・・・あのバカ親父・・・」

もし、この誘拐犯が親父だった場合思いつく場所は1つだけだった。

そうであれば最悪だと、悪態をつく。


時間がない。こうなれば一か八かだ・・


そう思いながら俺も走り出した。




兵士の走った方向とは違う別の道へ。
















観光地というのはどんな国でも、お客様に気持ち良く楽しんでもらうために綺麗に整備されていることが多いが、

国そのものが観光ちだからと言って国中美しく整備されているようなことなんて不可能なことだ。


この世界一豊かで美しい国と称される【ロージアン王国】だってそうだそう。


大きな商店街、入口の門、王様のお城、ロージアン様の像、そこに面した街並みの整備は本当に美しく目をみはるものがある。

しかし、本当の国の現状というのは有名な通りから少し外れただけでも見えてくるものだった。


おそらくロージアン王国の現状は西区が物語っている。

小綺麗な街並み華やかな草木と美しい小川が流れる観光地とは打って変わって、

家の塀のレンガは崩れ、屋根は傾き、窓ガラスは今や枠だけとなり中が丸見えとなっているが、部屋の中は何もない。

少し体当たりでもしたら家が崩れてしまうのではないかというくらい、ボロボロの家がいくつも続き街をなしていた。

美しい小川の行き着く先が、こんなにも空き瓶とゴミで汚れた場所というのを観光客は知っているのだろうか。

よくある当たり前の事だとしてもなんだか悲しい。


(偉大なロージアン様もガッカリだろうな)


そんな事考えながらも俺はこの地区のありとあらゆる場所を探し回っていた。



この地区は昨日、俺と父がチェルテラ教会に向かう途中に通った地区だ。

その時は、観光地の闇くらいにしか思っていなかったが、北に集結している観光地から南の教会までなら、

真っ直ぐ観光地を通って南に行った方が自然でかつ行きやすい。その証拠に教会からの帰りはしっかりと観光地を通って宿に行ったのだ。

なのに父はわざわざこの西地区へ遠回りをして教会へ行っていた。



仮に・・仮に父が犯人であるとすると、この場所に潜伏する可能性を考えていたに違いない。

誘拐してとにかく早く外に出たいのは山々だけど、この国の出入り口は何時間も並んで入国できたあの門しかないのだ。兵士がこんなにうろつく今、もちろん門の前が一番兵士が多く配置されることだろう。

門からの脱出を図るのは得策とは言えない。


しばらく頃合いを図って、落ち着いた頃に門を出るか、ロージアン王国で取引がされるのか


それとも誰か共犯者がいて画策してくれる約束とかがあるとか・・


そんなこと考えながら細かな通り、廃墟の中を探していると、

コンッと何かの音がした。

後ろの方からだ。

人のいない時間に物音は小さくても響くもので、俺は勢いよく振り向くと腐りかけた大きな樽と家の瓦礫でよく見えないが、

確かにそこで何かが動いた。

「・・っ!待って!!」

俺は声を出し、それに向かって走り出した。

その黒いものは俺が振り向いたことで反応し、逃げるように走っていく。

瓦礫の家のかどを曲がり、細い道へと逃げ込んだ時、黒いものの姿ははっきりした。

背は俺と同じくらいの小柄で、どうやらこの地区には慣れていないようだ。

あたりを確認しながら右へ曲がり、左へ曲がりを繰り返している。そして時々後ろを振り返る。

(・・・?)

必死に追いかけている俺だがどこか違和感を持っていた。

俺から逃げるような素振りを見せながら、どこかに案内されているような気がしてならないのだ。


何度かの道を曲がり、俺はその黒いのを追って西地区の一番端の塀の方まで来てしまった。

「止まれって!この先は行き止まりだぞ!」

俺はその黒いものに言うが聞き耳持たない。

塀の周りは小さな水路しかない。どちらにしても追いかけっこは終わりになる。

俺の膝ももうガクガクしてて横腹は痛いし正直もう休憩したい。

諦めて立ち止まってくれよと願っていると、黒いものの体が大きく傾いた。


カランと、ビンの音が響く。


どうやら足を取られバランスが崩れたらしい黒いものは、勢いよく水路の方へ倒れこむ

「危ない!」

俺はおもわず叫ぶと、限界だった体力の最後の力を振り絞り手を伸ばした。



黒いものの腕を掴む。思った以上に細い腕で驚いた。



その勢いで黒いものがこちらを振り返って初めて目があう。




朝日が昇り、薄暗い空から赤みが差し、彼女の顔がはっきりと見えた。


陶器のような真っ白の肌、真っ白な腰まで伸びるストレートな髪、こちらを見つめてくる緑がかかった瞳は

太陽の光で一層美しく見えて息を飲んだ。


こんなにも綺麗な女の子を見たのは初めてだ。


それなのにどこか懐かしと感じる自分がいた。どうしてだかわからない。





そしてすぐに理解した



彼女が【光の巫女】その人だと。




根拠なんて何にもないが、絶対に間違いではないと確信している。

自分でもわかっていないが、絶対に彼女が【光の巫女】なのだ。



「あ・・ありがとう」

戸惑ったように彼女が礼を言う。


「あ・・・いや別に・・」

一瞬時間が止まっていた俺は、その声を聞いて思わず勢いよく手を離した。


現状俺はプチパニックを起こしているのだ。



「・・あんた、こんな所まで来て何・・」

一度冷静になろうと、彼女に話しかけようとした時、


「ブハッ・・・甘酸っぱいなぁ青春かよ」

どこかで聞いたことのある小馬鹿にしたような声とともに

瓦礫に埋もれた家と家の間から、ローブを被った見覚えのある男がひょっこりと顔を出した。


ああ・・どうやらミスリードではなかったみたいだ。



「一体・・これはどう言う事?」

「どうもこうも・・こういう事。気づいててこの地区に来たんだろ?

わざわざ身を隠す服装までしっかりとしちゃって、できる息子を持ったよ俺は」

 なんて言ってのけるバカ親父の腹に、思いっきり回し蹴りをくらわせる。

「グエッ」と汚い声とともに前かがみになり悶絶する父だが、俺の怒りはそれじゃあ治らない。


こいつは美少女誘拐犯なのだ。


「お前、何やったのかわかってんのか!」

父親が10歳に言われる言葉じゃないからな!

普通逆だからな!


「何って、俺は商売をしているだけだぜ。

【光の巫女】の納品を頼まれたのさ」


「大丈夫か!頭!」

いくら珍しいものの販売をしているとはいえ、人間の取り扱いはしたことがない。

俺は父が情けなくなり、握った拳を父親に向けて振り下ろそうとしたが、


「待って」

その手は彼女に取り押さえられた。


俺の脳内はプチパニックから大混乱にレベルアップした。いや、レベルダウンだろうか


彼女はこの事件の被害者だろう。

一体どうして、俺を止めているのか。むしろ一緒に殴って良い立場だろう。


「さて、感動の再会もそろそろだ。

イーノア、納品場所も計画も全て詳しいことは彼女に聞け。」

「は?」

「いいから!文句だろうがなんだろうが全部終わったらいくらでも聞いてやるよ。」

父はいつも通りヘラヘラした表情を浮かべながら、俺の手に一枚のメモ用紙を渡した。


「これを納品相手に見せろ。

いいか?失敗は許されねぇからな。俺の商売があがったりになっちまう。


頼むぜ相棒


・・・・・いや、共犯者か」


一向に戸惑う俺を残し、そういうと父はニヤリと笑い、身につけていたローブを深くかぶり、通りの方へ駆け出していった。

父の向かった方向から警笛がなり、大きな足音と兵士の声が響き渡る。囮ということか。



彼女は俺の右手を強く握ったまま何も言わない。

少し小刻みに震えていのは恐怖ではなく不安だからだろう。


「あの・・・「わかったよ」」

彼女が何か言おうとしていたが、言葉を遮って言う。

俺の言葉に驚いたのか、俯いていた顔をこちらに向ける。

このまま放って帰るわけにもいかないし。


「とりあえずここからどうしたら良いのか教えて」



俺はその日、大きな犯罪の共犯者となった。
















その覚悟と同時に、頭の片隅でなんでもない誰かが言う


『条件を達成いたしましたので、スキル【迷いし者】を獲得いたしました』



もう色々有りすぎて、俺は一度考えるのをやめたのだった。


















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ