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俺は馬車から降り、石畳の質感を自分の足で確かめ歩いていた。
この数日土と木の根しか踏んでない足だ。石畳の感触と人工的な作りはなぜか自分自身に安心感を与えた。
さっきの不機嫌は何処へやら、
おそらく好奇心に満ちた表情をしているのであろう俺は、街並みをマジマジと見上げていた。
商店街は、2階建の赤煉瓦造りの建物が通りを挟んで並んでいる。
空を見上げると、両脇の建物がアーチ状のの天井を鉄骨で造り、その鉄骨部分は美しい植物で隠され景観を保っていた。
商店の入り口は、
モンスター用の武器や防具に始まり、
戦闘用のアクセサリー、それをらを直す修理屋
傷を治す道具が売ってるお店から
俺と父のように日常的なものからガラクタまで何でも売ってるお店。
はたまた、観光客用に世界樹の森のモンスターのステーキなどの美味しそうな食べ物まである。
「・・イーノア、父ちゃんはお前が楽しそうで何よりだ!」
父によれば俺は相当興奮していたらしい。
ロージアン王国に入った初日
父と俺は思う存分ロージアン王国を堪能したのであった。
———————・・・
——・・
活気溢れる中心部から離れたら
人通りもほとんどなく、綺麗な街並みとは打って変わった小汚い建物が並んでいた。
まぁ…観光地とはそう言うもんだろう。
そう思いつつも、少し残念に思いながら
閑散とした街も通り過ぎると、少し広い場所にたどり着いた。
【聖チェルテラ教会】
建物に続く道にの両サイドには
手入れされた花々と小さなお墓が続く、
いたって庶民的な教会だ。
俺は先を歩く父の後ろをピタッとくっつき
ついていく。
街の中心の喧騒が遠くに聞こえるだけで、
こちらには人の声はしない。
重苦しいと言うのは少し違うが、教会という場所だからなのか、少し緊張していた。
ギィーッ…っと扉が開く音が部屋に響いた。
祭壇の方へ歩くコツコツと靴音が響く。
「おや…とても久しい顔だ」
靴音に反応した祭壇にいる1人の老人が
少し笑みを含んだ表情を見せて言った。
「レオンスです。…覚えてくれていましたか。」
「あの日の事を一度も忘れた事などありませんよ。10年振りですね。」
2人の間には懐かしさと、少し気まずさが流れていた。
俺は父の服をギュッと掴み、なるべくその老人に見つからないように後ろに隠れるようにして立っていた。
なんだか、会ってはいけないような
そんな空気だったからだ。
「…あなたに会ったのは、産まれて間もない時でしたね。」
俺はこれっぽっちも隠れられていなかったようで
俺の高さにまでしゃがみ、その老人は俺に話しかけた。
勿論、俺はこの人に会った覚えなんてない。
俺は軽くその老人に頭を下げ挨拶をすると、
その老人は嬉しそうに俺の頭を撫でた。
「元気そうで何よりです。イーノア」
この人がどんな人なのか分からないけど
この教会の神父様なのは間違いない。
神父様に、俺がここ最近毎日のように見る夢の話をした。
神父様は俺と父の話を聞き、時々優しい表情を厳しくさせる。
全ての話を聞いた後、考え込むように沈黙し、やがて静かに口を開いた。
「…そうですね
夢に関係する呪術、スキルは沢山あります。
睡眠というのは人間が生きていく上で必要なものですから、それを阻害する術は人間に十分な効力がありますからね。
一方で、夢は何かの報せを告げている事もあると言います。
スキルもありますが、
予知夢というモノもそれにあたりますね。」
そこまで話すと、少し考え込み
1度俺の方を見て、微笑んだ。
「…呪われるような悪い事を、こんな小さな子供がしないでしょう
まぁレオンス関連で貴方が呪われたのであれば別ですが」
そうであれは、本当に迷惑だ話だ。
教会の中に響き渡るほど大きな声で
「恨まれるような事してませんよ!」
と、父の声が響いた。
「だとしたら、夢は貴方に何か伝えたい事があるのでしょう。
良い事、悪い事それは定かではありませんが、
遅かれ早かれ
それが貴方の試練となる事に間違いはありません」
夢が伝えたい事がある
そう神父様に言われて、どうしてか分からないが納得している自分がいた。
同じ夢を見るが何故か嫌な夢とは思わない、どこか懐かしい気持ちになるからだ。
「大丈夫です。神は乗り越えられない試練は与えないと聞きますから」
神父様は優しく微笑んだ。
———・・・
「そういえばイーノア知っていますか?」
ひと通り相談した後、
教会を出たら、空はもう真っ赤に染まり夕方になっていた。
夕焼けの美しさをしばらく眺めていると
神父様に問いかけられた。
「何を?」
「明日、【光の巫女】のお披露目があるんです。」
その言葉に驚いて声を出したのは父だ
「【光の魔法使い】が現れたんですか?!」
「ええ。ちょうど先週、10歳の女の子がスキルに目覚めましてね。
ロージアン様がお亡くなりなられてから100年振りに【光の魔法使い】の使い手が現れたそうです。
まだ魔法使いとは言えない程弱いスキルな為【光の巫女】と呼称するそうですよ」
この街が活気に溢れている理由は観光地というだけでなく、それもあったようだ。
「父ちゃん、知らなかったのかよ」
商売は情報が命じゃないのか。
そう言って、いつも通り小言を言おうとして父の方を見て、俺は言えなくなってしまった。
「・・・」
無言で考え込む父の表情が
10年間一緒に生きて初めて見る表情をしていたからだ。
日が暮れても、街の中心部からは賑やかな声が聞こえる。
俺は教会から宿へ行く道中も、その父の表情が頭から離れられず、どこが胸騒ぎがした。