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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
最終章:『転生者たち』の物語

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第721話 第二波到来

side ライエル・フォン・クロヌス


「そうか、狂信者が……その作戦が決行されるまで、ガロムの結界を保たせればよいのだな……」


 通信を終え、一つ息をつく。

 機密が関わること故に詳細までは通達されなかったが、中央教会でなんらかの『準備』を終えた狂信者が儀式のための禊ぎに入ったらしい。


 オルーアンからの連絡で見えた希望。

 狂信者を軸として行う『大地の女神を鎮める儀式』の計画……現状取れる短期決着の手段としてはおそらく最も成功率が高いと思われる作戦だ。


 そして、そのためには荒野の結界の補助が必要になる。

 突貫工事で行われている儀式の準備……その完成は、おそらく日没頃。


「今はまだ昼過ぎ……ここから数刻の耐久戦か」


 正直、いつ決壊するかわからない防衛戦で最短の解決でも数刻先までは耐えなければならないというのは朗報とは言い難たい情報だ。

 だが、同時に不可能とも言えない。


 人を巻き込めば巻き込むほど、そしてその情熱を共有し空気を醸成させるほど強力となる荒野の能力にガロムの全人口の力が乗っている。


 最も混乱を極めた災竜たちの振りまいていた無象の天災は収まり、その際に出た怪我人や要救助者も次々と避難所へ運ばれていると報告が集まっている。


 そして、長城の防衛ラインも苦しい戦いであることは間違いないが、それでも現場の人員が経験を積み安定した戦い方が確立されつつあるのだ。

 さらに、ソニアがその性質的に応援を送るべき地点を的確に特定して戦場全体の指揮を補助していることもあって防衛ラインはかなり安定的に保てている。


 このまま戦線を維持できれば、日没まではどうにか耐えられる。

 士気を落とさず、総意の力をより強固にすれば状況は楽になっていくはず……全体の疲労や消耗での防衛力を差し引いて考えればギリギリにはなるだろうが、防衛ラインを死守できるはずだ。


「ライエル!」


「な、なんだ荒野……異常事態か? まさか、結界の維持に問題が起きたか?」


「……それはまだじゃ。じゃが、手応えが所々妙じゃ。言葉にできんが今が一番ヤバい気がする。気を引き締めいや」


「それは……どういうことだ?」


「『嵐が弱まったでちっと畑の様子を見に行くでよ』……そう言って、ぶっ倒れた木に挟まれて足折ったオッサンがおるんじゃ。村におった頃の知り合いに」


 荒野は、胡座をかきながらも気を抜くことなく結界の維持と総意のリソース操作に神経を注いでいる。

 予想外の『何か』が起きることを確信しているように、それに備えてすぐ動けるように。


「わいは力を送るのに手一杯でどこがおかしいのかまで気を回す余力がないから、何が起こるかはわからん……じゃが、こういうんは、緩んだ時を狙ったみたいに何か起こるもんじゃ。油断するとひっくり返るぞ」


 こちらに向けられるのは鋭い視線。

 今この瞬間、誰よりもこのガロム全域の様子を感覚的に認識しているであろう荒野の言葉はたとえ直感からのものだろうと無視できない。


「……レイン、追加人員に処理させていた報告を俺とルゥ将軍へ上げろ。被害、警告、異常報告、ここまで処理優先度を下げていたものから未解決の情報を抽出して出すのだ」


「はい、ライエル様。今すぐに」


 『被災地』、『長城』、『災竜』。

 現場で対処法が確立されて俺から指示を出さなくても追加人員だけでもしばらくは回せる『戦場』から焦点を外し、逆に追加人員に処理させていた情報を映し出させる。


 今のこの状況で『異常事態』が起きていない場所などない。

 その全ての報告を直接受け取っていたら情報を処理しきれずにパンクしてしまうと考え、先の三つの戦場に関わらないものは『アビスの箱庭』を通じて確保できた人員に処理を任せていた。


 だが、それによって俺が見れば今すぐに対応すべき情報と即座にわかるものが埋もれてしまっている可能性は十分にある。

 レインが抽出したものだけでも膨大で瞬時に読みきることなど俺にはできないが……


「……愚弟!!」


「荒野! ルゥ将軍の画面をこちらに共有しろ!」


 『戦場』における情報整理の才能でルゥ将軍を越えるを俺は知らない。

 追加人員、レイン、そしてルゥ将軍という三つのフィルターを通して抽出された『未解決の重要事項』を受け取って対応の判断をするのが指揮官としての俺の仕事だ。


 俺の前に映し出される『三つの報告』の記録。

 それは、ここに配属された直後から無数の報告を受け取っている追加人員が、おそらく現場のパニックや誇張として報告の重要度を上げずに流してしまったであろうもの。


 だが……その報告に含まれていた単語は、見るべき者が見れば無視できないものだった。


「『女神ディーレ神殿』、『旧都』、『無数の肢の怪物』……」



 『女神ディーレ神殿からの避難所緊急移動の報告と危険予知による警告』。


 『旧都を中心に広がる「明けない夜」の集団幻覚による放火多発』。


 そして……『「無数の怪獣の群れ」と戦う「無数の肢の怪物」の目撃情報多数』。



 おそらく、これまでの俺自身の経験やこれまでの事件の流れについての正確な情報がなければ、混乱の中でのデマの一つとして処理してしまいかねなかったものだ。


 だが……俺は、仮に狂信者が理屈抜きに『逃げるべき』だと言ったなら、それを絶対に無視することはできない。


 俺は、狂信者やドレイクたちがどうして『旧都』から逃げ去るように撤退することになったのかを知っている。


 そして、俺は……まるで絵空事の中の英雄譚のように、無数の怪獣を相手に戦い続けることが可能であろう『怪物』を目にしたことがある。


「荒野!! 『緊急移動を行っている避難所』と『旧都周辺』、それに『怪獣の群れ』が発生している場所だ! 全て『内地』のはずだ! すぐに映像を出せ!!」


「っ、『内地』か!! わかった!!」


 比較的安全な地帯と認識していた『内地』という言葉を聞いて声に焦りを紛らせる荒野。

 おそらく、荒野も支援を送るために『内地』ではなく『長城』へと意識の大部分を注いでいたために意識の端でしか違和感を捉えられなかったのだろう。

 元より女神の補助があろうと、広大な『ガロム全域』を感知能力で把握するなどというのは、人間の思考力の限界から考えて非常に困難なことだ。


 意識を向けた瞬間にわかるほどの異常事態に意識を向けられていなかったことに気付いた、そんな間違い探しや失せ物探しに近い感覚だろう。


 荒野が結界を走査し、すぐさま検出された光景が映像として俺の眼前に映し出される。

 それは……



『とにかくたくさんの人に、早く逃げるように伝えて!! ここも危ないんです!! 誰か! この地図の印の近くにいる人に、いえ、町や村全部に逃げるように伝えて!!』


『──ァァァ、アアアアアアアッ!!』


『ゴァァアアアアッ!! グルァアアアアアアッ!!!』



 『ガロム全域』を記した地図の各地に付けた印の場所の周囲からできる限りの人間を逃がそうとする少女と神殿の者たち。


 炎の帯による束縛を今まさに突き破り……さながら夜明け空の絵に黒インクをぶちまけるかのように、空を『暗雲』などという物質的なものではない概念そのものと感じさせる『闇』で覆い始める恐怖の化身。


 そして、次々と生み出される大樹の怪獣たちを藁人形のように蹴散らしながら、空間の裏側を走り抜けるように転移する『怪獣王』を追う怪物『土蜘蛛』。



「くっ! これほどまでの異常に何故……いや……」


 何故などと問うまでもない。

 この『戦場』が広すぎるのだ。


 普段なら、戦場の異常は音や気配でも感じ取れる。

 だが、普段の感覚で言えばこれは『他の地方領で起きている異常事態』なのだ。


 荒野の能力で遠い場所が見えていると言っても、この世界のすべてが同時に見えているわけではない。

 死角の方が圧倒的に多いことを認識した上で、報告の取捨選択に条件を追加するべきだった。


 だが、今から悔いている時間はない。


「オルーアンに事態の報告! それからディーレ神殿には今すぐ『危険予知』の詳細を問い合わせろ! 神官への天啓でも転生者の能力でも構わん! 少しでも新たな危機の根拠が確認できたなら避難の支援を全力で……」


「いや……ライエル、確認の必要はないようじゃ」


「なんだと!?」


 荒野が苦い表情を浮かべながら、映像の一つを目で示す。

 それは……雄大なる『大地の女神』の神体。出現してからこれまで動きと言えるだけの動きを見せなかったそれが……『巨腕(山脈)』を振り上げていた。


 五指を目いっぱいに開いた手の平を大地に向けて……


「『皆の衆!! 今すぐ縦揺れに備えろ!! とんでもねえもんがくるぞ!!』」


 荒野の叫びが耳と脳内に同時に響くと同時に、レインが俺の腰を支えて柱に掴まる。


 同じ映像を見ている者たちも一斉にこれから起こることを理解して、近くの何かへ掴まって身を護る。


 そして……数十秒後。


『ゴウンッ!!』


 振り下ろされた女神の手。

 その瞬間、『世界』が確かに縦に揺れたのを、自身の肉体が浮き上がったのを感じた。


 だが、それは『始まり』に過ぎなかった。


「ライエル……これは、ヤバい……」


 映像の中。

 必死に避難を呼びかけていた少女と神殿の者たちが間一髪で『アビスの箱庭』から転移して消えた直後の街。


 その光景は、巨大な『地割れ』に変わっていた。


 人を呑むどころではなく、城すらも丸ごと落ち込むような大地割れ。

 そして……


「来るで……『とんでもねえもん』が」


 映像の中の地割れから、目に見えないほどの速度で『巨大な何か』が空へ向かって飛び出したのが見えた。

 そして、それを追うように伸び上がったのは……あまりに巨大な『花の(つぼみ)』。


 荒野が手を振り、映し出す景色を増やす。


 それは、防衛ラインの『内地』の各所、およそ数十ヵ所……いや、下手をすれば百に届く数。

 おそらく、あの少女が掲げていた地図の印と同じ地点にできた巨大な地割れと、そこから伸び上がる異常なスケールの『蕾』。


「荒野、今の揺れは……いや、あの地割れと花は……」


「ライエル、今すぐ気ぃ張り直せや。『揺れ』は単に、『あれら』を目覚めさせるための合図……『地割れ』は単に、『あれら』が地表に出るために押し広げられた卵のヒビじゃ。『これから』が、本番じゃぞ」


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― 新着の感想 ―
土蜘蛛さんそっち行くのか…今から怪獣バトル楽しみ。こんな状況だけどライエルさん周り見ると楽しくなるライエルさんとレインも好きだけど、ルゥ将軍結構好きなキャラ
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