第717話 『中央教会』
side ユーキ・マキシマ
『アビスの箱庭』はガロム全域で遊ばれている盤上遊戯だ。
戦乱の時代には軍の士官教育の一環として各国に取り入れられていたこともあって、市井に埋もれた名将の卵を見つけるための施策として国同士が競うように広められたこともあって地方領の垣根なく普及した歴史がある。
けれど、それでも一種の教養がなければ楽しめないものであるのは確かだ。
軍都なら一家に一つはあるものだけど、地方の町や村、そして離島なんかだと村長の家に一つあるだけなんてこともある。
たとえばここ……『イディアナ諸島』。
いくつかの島があわさって一つの村のようになっているここなんかもそんな場所の一つだ。
「女神ディーレ神殿の方々が避難所を用意しています! 慌てないで指示に従ってください!」
転生者の能力でガロム全域に状況が伝えられていると言っても、それは能力のリソースの問題で『アビスの箱庭』を起点にした投影を通じた限定的なものだ。
ここみたいに『アビスの箱庭』がない地域や離島がある場所だと、状況説明と避難誘導のために状況を理解できている人員が必要になる。
僕がここに来たのはそのためだ。
オルーアンの指揮陣営から、僕はまだ慣れない神器の力で危険な最前線に出るよりは、この力を人命救助や市民の避難のために使った方がいいと判断された。
これも適材適所。
オルーアンで状況の変化をリアルタイムで見ていて世界の現状を他よりも詳しく知っているからっていうのもあるけど、それと同時に中央政府が前線以外の人命にも力を割いてることを示して市民へ安心を与える役割でもある。
『闇市』との関係発覚で信用を失ったガロム正規軍じゃなく神器の力を与えられた『謎のヒーローインセクター』として振る舞うことで『中央政府公認の転生者』に近い信用を得られる僕はこの役にうってつけだった。
「いやー。お疲れ様、インセクターくん。本土に避難できるって言われてもその後どうしたらいいかとか不安で動けない人も多かったし、キミみたいな真面目で誠実な子が来てくれて助かったよ」
「いえ、ルカさん! これも軍人の……いえ、力を持つ者としての義務ですから!」
最後の島民の避難を見届けて声をかけてきたのは、現地に住んでいた冒険者のルカさん。
旅人ではなくイディアナ諸島の守り手のような生き方をしているらしい彼女は、瓦礫の中からケガ人を助け出すために甲虫鎧を展開した僕に全く驚くこともなく受け入れてくれた器の大きな人だ。
「うんうん、あれからもケガをした島民や荷物もたくさん運んでくれましたし、ホントに力持ちでよしよし。やっぱり昆虫系の子だからかな? 珍しいからあんまり会ったことがなくて、ここまでパワフルだとは知らなかったけど」
「珍しいっていうのは……」
正直に言って、僕以外に『昆虫系の人』なんているとは思えないというか、いるとすればそれこそ僕にとっての心の師とも言える『先代のインセクターさん』くらいしかいないと思うのだけど、言葉の綾か何かなのだろうか。
そう思っていると……
「そんじゃあ、島のみんなの避難も終わったし……大丈夫だとは思うけど、一応ちょっとひと泳ぎしてちょっと離れた島の様子も見てくるわ」
「えっ、ルカさんは避難しないんですか!? というかまだ海かなり荒れてますよ!? ひと泳ぎどころか溺れ……」
「んー? あら、気付いてなかった? ほら、よっと」
まだまだ荒れている海が見える波打ち際へ歩いて行ったルカさんが、腰布を翻す。
下着が見えてしまうかと思わず目を逸らしかけたけれど、そこに見えたのは……魚のような、鮫のような尾ビレだった。
「え? ええっ!?」
「あらら? うぶな反応ね。もしかしてキミ、隔世遺伝タイプ? 自分と同じような体質の人と今まで会ってなかった感じかしら?」
「あの、えっと……」
「ま、もし人間社会で行きづらいって思ったならうちに来るといいわ。いい無人島紹介してあげるし、同じ昆虫系の子も少しなら知ってるからお嫁さん探しも手伝えるわよ」
そう言って、躊躇いなく海へ飛び込んで鱗肌とエラの生まれた姿を改めて水面から出して手を振るルカさん。
「じゃ、アタシはちょっと行ってくるから、そっちは避難した島のみんなの方をよろしくねー」
荒れた海なんてなんてことないとばかりにすごい速度で遠ざかっていくルカさんを見て、僕は唖然としながら呟くしかなかった。
「そっか……僕以外にも、案外いるんだ……誰かからこういう力をもらった人って。うん、僕も頑張ろう」
別に、自分が『主人公』とか『勇者』ってわけじゃないのは知っていたつもりだったけれど。
インセクターさんから力をもらった自分だけが世界で唯一のヒーローだとか、特別な存在ってわけじゃない。
僕は、ルカさんとの出会いから、思わぬところで世界の広さを知ることになったのだった。
side ドレイク
「さすがに丈夫な建物だなここは。伝統的な造りでガリ樹の柱が使われてるせいもあるが、テロ対策も考慮された耐久設計だ……この状況だと『神殿』というよりは『巨大金庫』って感じに思えるな」
深い歴史と実用的な頑健さを両立した荘厳な神殿建築。
ここは、『アビスの箱庭』を使ってやってきた『中央教会』の本部施設だ。
『中央教会』は便宜上は『主神』を祀るための宗教的な神殿だが、社会的に他の神殿とは一線を画する位置付けにある組織だ。
平たく言ってしまえば、多数の国や異なる神々への信仰が統合されたガロム中央会議連盟の『基準』を統一するための調節者的立場。
中央政府の役割が政治的な折衝なら、中央教会の役割は文化や歴史、そして技術的な折衝。
神殿同士の宗教的な衝突を避けるだけでなく、工業的な職人ギルド同士とも連絡を取り合って、ガロム文化圏での統一規格が必要な部品の規格定義や教本の検閲なども行っている組織だ。
影は薄いが、なくてはならないシステム。
はっきり言って兵力は最低限しかないが、影響力は強く利権も大きい組織。
攻めの力はないが、その代わり防備と保全においては住民を抱える街として開かれた王都や軍都を越えるであろう専守防衛の重要拠点。
そして……最も信用されるべき歴史の教科書の原典とも言える『聖典の原本』を管理している組織でもある。
「…………」
「どうした、狂信者。さすがに聖職者として、本部神殿は見て何か感じるところがあるか?」
「……まあ、確かにそれもありますが。話で聞いていた以上に『主神様のための神殿』という感じではないのだなと。どちらかといえば……このガロムの神話体系そのものを象徴するようなデザインに見えて」
「そうだな。壁画や彫像、象徴もそうだが、そこら中に彫られてるのは『神々』を示すものだ。一応、よく見れば主神を示すものは他より中心的な位置だったり大きめだったりはするが、初見だと気付かない奴もいるくらい目立たない……中央教会の歴史は古いが、ここらへんは主神と直接会ったっていう王朝の初代王の時代からそうらしい。主神直々の注文なのかもな」
「『秩序と混沌』……確かに、神殿らしからぬ混沌とした様相と、それでも見てて不快にならないバランスはとても『らしい』ですね」
狂信者と共に、神殿の中の通路を進みながら壁を見遣る。
多数の神々の彫像、数多の象徴、数多の祭壇。
他の『神殿』が信奉する神に関するものに特化しているのに対して、この中央神殿だけは信奉すべき主神を前に押し出すことなく、『神々』に大きな差を付けず同等に近い形で祀っている。
感覚的な表現になるが……その中での主神の位置取りは、『支配者というよりも代表者』と言えるような見せ方だ。
他の中央教会支部では象徴物を飾るスペースや費用の問題で省略されて三大女神や主だった名のある神々を従えるような形で存在を示されることも多いが、こうして本部の完全な装飾類を見ると数多の神々を従えているというよりもその喧騒を溜め息交じりに見守りながら眺めて楽しんでいるようにも見える。
それに……
「おや、この壁画は……」
「……これも、『王朝』の時代から受け継がれてるものだそうだ。いろんな意味や考察を重ねられて暗号が含まれているんじゃないかとも言われているが、未だに答えは出てない。案外、単純に『ごちゃついた世界』ってやつを表現したかっただけかもな」
長い直進通路の壁に描かれた十数枚の巨大壁画。
それは、同じ土地を示す地図の上に、そこに暮らす人々を描き込んで、通路を進むごとにその色模様を変化させたようなもの。
……それ以上を一言で表現するのは不可能に近い、乱雑ともいえる情報量の詰め込みと、それでもなんとなしに連続で眺めていればその移り変わりに法則のようなものが見えてきそうな気がする世界の縮図。
その壁画の上では、常にどこかで戦争が起きている。
常に誰かが嘆き悲しみ、常に誰かが血を流し、常に誰かが不幸に襲われている。
そして同時に、常に誰かが喜び笑い、常に誰かが何かを祝い、常に誰かが天に感謝を捧げている。
絵画やら芸術品やらってものは、本来そういう要素を同居させないし混ぜ合わせない。
見た人間にある一定の感情や感覚を想起させるために、そのノイズになる逆の要素は排除するものだ。
だが、この巨大な壁画たちはどこに目を向けるかで『喜劇』を表現しているか『悲劇』を表現しているかの印象ががらりと変わる。それに加えて、ただの何気ない日常や新たなイベントへの助走のように見える部分も混在している。
「……全ての地域も、キャラクターも、『最初から最後までずっと平和で幸せ』ということがないものの、逆に『最初から最後までずっと不幸で苦痛』ということもない。焦点を絞ってみれば、村も人もそれぞれ喜怒哀楽と上り下りのある物語を持っている。そういう絵ですか」
「ああ、そういう解釈をされることもある。これは、主神と王朝の初代王が歩んだ旅の中で見てきた人や場所の幸や不幸、隆盛や衰退なんかを一つの俯瞰視点に押し込めた『旅の記録』みたいなものなんじゃないかってな」
と、そこで狂信者が杖をつく手を止めて、しばし立ち止まった。
どうしたのかと視線の先を見ると……その目は、壁画の端の小さなキャラクターに吸い寄せられていた。
「……ああ、『お気楽旅うさぎ』か。そういえば、兎は女神ディーレの象徴の一つでもあるから気になるか」
「ドレイクさん、この兎さんは……」
「この壁画は一種の宗教画として知られてて、それぞれのキャラクターがいろいろと物語的に解釈されてるが、その兎は『一番最初の絵』で一番酷い目に遭って泣いてるんだよ」
「…………」
「まあ、他のキャラクターもそれどれどこかで最悪な目に遭ってはいるんだが……そいつは、一番最初に理不尽な目に遭った後は、その場所を離れて他の場所で収穫祭に混ざったり平和なところで昼寝をしたりって、平穏と破壊が巡る世界で平穏の部分を巡って気楽に楽しみ続けてるんだ。まあ、絵の法則的には『酷い時』が一番最初の絵だっただけで特別扱いってわけでもないんだけどな」
『血や涙を流す時』と『祝祭や特別な幸福を迎える時』の回数は、どのキャラクターも大して変わらない。
この兎も、最初に苦しんだ後はずっと特別な幸福に恵まれ続けるわけじゃなく、ただ『不幸な場所』にいないだけ。
それなのにこのキャラクターが『お気楽旅うさぎ』なんて呼ばれ方をされるのは、特別な幸運ではないはずのただの平穏を迷いなく享受しているからだろう。
草原で昼寝をしたり、河原で釣りをしたり、村から村への道を歩いているだけなのに楽し気な笑みを浮かべているような表情に見えたり。
それが、自分の『酷い目』の絵を迎えた後はどこか苦悩が尾を引いたり表情を険しくしたりというのを感じさせる他のキャラクターの多くと違って、一番最初に迎えた不幸を忘れてしまったかのようなその振る舞いが『お気楽』に見えるから、そう呼ばれている。
「……やれやれですね、主神様は。そんなこと、直接言えばいいのに」
「どうした、狂信者」
「いいえ、趣のある絵だなと思っただけですよ。芸術の類に明るくはありませんが、主神様らしくていい代表作だと思います」
「芸術鑑賞が終わったらなら行くぞ。事前連絡もしてあるから、そろそろあっちの評議会メンバーも揃ってるはずだ」
「ええ、そうしましょう。不意に善いものが見れた……この幸運に感謝を」
そう言いながら杖をつくペースを速める狂信者に合わせて俺も歩を進める。
そして、厳重な警備がされた部屋へ通されて、中へ入る。
そこは、入り口目の前の中央席を囲むようにして高い位置に評議会メンバーが陣取るどこか息苦しさのある部屋。
壁は磨かれた大理石、評議会メンバーとこちらの間にはその姿を隠す御簾。
さすがにと言うべきか、この世界でも宗教的にはトップと言える人間との対話に用いられる部屋らしい雰囲気だ。
「ガロム王室直属の武装工作員『ドレイク』、そして女神ディーレの担当転生者でありその神性の化身『狂信者』……事前にガロム王からの書状は受け取っている」
上から響く評議員の声。
御簾のせいもあって、誰からの声かもわかりにくいが、おそらく正面から。
俺は、正面の御簾の人影に向かって、顔や表情は見えないなりに目を見るつもりで声を返した。
「時間がないから単刀直入に申請させてもらう。書状の通り、この男はガロム王からの正式な勅令を受けている。非常大権に従い、最悪強引にでも実行させてもらうぞ」
俺の無礼な態度は敢えてのもの。
『ガロム王が強引に採用して重用している一般盗賊上がりの武装工作員』という俺の経歴は、こういう時に無法者のような振る舞いをしてでも迅速に話を通すヤクザな役回りをするためのものでもある。
元より、普通に手続きをすれば何年かかっても無理筋な案件だ。
世界の危機をどうにかする一手のために俺が無礼な嫌われ者になるくらいは安い。
「しかし、転生者に聖典の加筆を許すなど……」
「あまりにも危険が過ぎると言わざるを得ない」
「もし、それで問題が起きれば……」
顔を隠す御簾の向こうから漂っている、判断を渋っているような気配。
さすがに冗談抜きで世界の滅びを前にして伝統だなんだとは言えないが、それでも自分たちが決定を下すことで発生する責任や前例が招く問題を看過して二つ返事で了承するというわけにはいかない、そんな政治の世界ではよくある匂いがする。
なら、ここは強引に押すべきだ。
「ガロム王からの命令は既に出ている。それに、言うまでもなく世界の危機なんだ。責任や関連して発生する問題に関しては事態の解決後にガロム王が直々に対話に応じると託っている。それだけの事態……今こうしている間にも、毎秒死人が出てるんだ。政治的な交渉なんかは後付けで済ませてくれ」
「人類の危機、それはわかっている! しかし、聖典への加筆を許すということがどういうことか……貴様にはわかるまい!」
思ったよりも強い反発。
それは、事前に想定していた政治的な腰の重さではなく、本当に『危険物』の扱いに関する慎重さから来るもののように思えた。
そこで……
「ドレイクさん、私から一言。その方が話がスムーズに進むかと」
「狂信者、おまえ……」
「ご安心を。別に脅そうとかそういうことではありませんので」
杖を一つ力強くついて、俺の前に出る。
そして、微笑みを口元に浮かべたまま、狂信者は静かながらに通る声で言い放った。
「中央教会の皆様、私は女神からとある『神託』を受け取っております。それを開示しても?」
相手が宗教的組織である以上、無視できない言葉。
それが単なる転生者というだけならともかく、信仰を極めて『女神の化身』にまで至った者の言葉に、どよめきが走る。
「神託……」
「神々が人間社会への干渉を?」
「いくら神性持ちであっても、虚偽ではないという確証は……」
「転生者よ、貴殿が幸運の女神の化身であることは知っている。だが、女神そのものではない貴殿の言葉で……」
信じ切れない、というよりも立場として鵜呑みにはできないという空気が感じられる困ったような返し。
だが、それを笑顔のまま受け止めた狂信者は、想定通りの反応とばかりに敢えて空気を読まない態度でこう返した。
「いいえ、神託は『豊穣の女神アルファ』からのものです」
場の空気が凍った。
そう表現できるような、不意を突かれたが故の沈黙があった。
俺にはそれが何故そこまで致命的な反応に繋がるのかはわからない。だが、それが確かにクリティカルな一言だったとわかるくらいに明確な動揺が見えた。
「…………なん、だと? それは……」
「はい、マジですよ? なんなら後で豊穣神の神殿を通して確認を取ってもらっていい。その場しのぎの嘘でないことは……まあ、わかるでしょう?」
全てを見透かして……あるいは『察して』いるかのような狂信者の慇懃無礼な態度での返答で、気配が変わる。
それは、動揺……あるいは、恐怖とも取れる大きな感情の揺れだった。
狂信者は敢えてそれを無視するように、神託開示の是非の答えも待たずに言葉を放った。
「神託ではただ、『母が欲しい』とだけ……まるで、幼子のように純粋に、そうおっしゃられました。随分とまあ、非道いことをされましたね。もしや案外、希望的観測というか、『憶えていない』と思っていましたか?」
狂信者の言葉に、ざわめきが広がる。
その時の空気を、同表現すればいいのだろうか。
悲痛、納得、罪悪感、恐怖、諦念。
そして……
「……話し合う、しばし待て」
そんな、真剣そのものな言葉。
俺にとってはやり取りの意味がよくわからないまま、十分程待たされて、御簾の向こう側に人影が帰って来る。
そして……
「結論は定まった……ガロム王からの申請を受理しよう」
あまりにあっさりと、そう言われて困惑する。
だが、狂信者はただ一つ頭を下げて応じた。
「ありがとうございます。さ、行きましょうドレイクさん。時間が惜しい」
杖をつき、出口に向かって踵を返す狂信者。
その背中に、御簾の向こうから声が放たれる。
「狂信者よ……一つだけ、問いに答えてほしい」
「あら? なんでしょう?」
「彼女は……『女神アルファ』は、我々を憎んでいたか?」
恐る恐る、答えに覚悟はできているというような問いかけの言葉。
それに対して、狂信者は微笑みながら呆れたような声で答える。
「クックッ、先ほど言葉にした通りですよ。アルファ様はただ、己に欠けたものを求めているだけ……親も知らぬ幼い内に『人柱』にされたことへの復讐なんて、どうでもいいのでしょう。少なくとも、『立派な女神』になることに比べれば」
「…………」
「しかし……同じことを繰り返せば、今度はそうはいかないかもしれませんよ。今の女神アルファは既に母を求める子であると同時に、子を育もうと努力する母でもある。大地の女神が人類の祖であれば、その原初の名を受け継いだ女神もまた母としての側面に目覚めるのは当然。であれば、その怒りを買うような行為は今後控えるべきでしょう」
「そうか……」
「しかし……後の誰かが同じことをしてしまえる手段があり、歴史の重みを背負ってきたあなたたち自身がそれを放棄できないというのなら……部外者の私がするべきことをしてもいい。スムーズに話が進んだ辺り、この話が来てから、というかその前から、議題には上がっていたのでは? ただ、受け継いできたものの重みからそうできなかっただけで。私が妙なことを追記したならば、それを理由に全て『なかったこと』にしようとか、その責任を誰が取るとか」
「っ! だが、まさか……」
「ええ、この世界の歴史にはよくあったこと。『この世界の歴史の重みを知らないお馬鹿な転生者が、何も考えずにやらかした案件』というのが一つ増えるだけです。『いつか、きっとどうにかなる』の『どうにか』の部分、勝手にやらせてもらいますよ」
俺には意味がわからない会話。
だが、御簾の向こうの評議会メンバーには確かにその真意が伝わったようだった。
「ドレイク……彼が『聖典』に何をしようと止めるな。禁書の部屋でこれから起こること全て、心の内に留めて決して後世に遺すでないぞ」
……おそらく既に忘れられている伏線紹介。
ep141【第134話 小麦さん】より
(狂信者さん)「そうですか……ちなみに、何か欲しいものが一つもらえるとしたら、何が欲しいですか?」
(コムギさん(女神アルファ))「うーん……わたしのおかあさん?」
話数カウントだけで言っても583話越しの伏線回収になるとは……。




