第691話 『赤き戦士』と『大実在』
side ドレイク
「はあ、はあ、はあ……」
「ボ、ボス……大丈夫ですか?」
「ああ……大声を出したら、少し落ち着いた。大丈夫だ」
そう、落ち着け。
頭まで覆うアーマースーツの中でも不思議と呼吸は問題なくできるらしい。
息を整えながら、思考と情報を整理する。
まず、大前提。
多少取り乱しはしたが、俺は自分の精神に悪影響を受けているようには感じない。
全身に溢れる力は感じるが、不自然な全能感というよりは『祝福』の魔法支援を受けた時の感覚を強めたものに近い。
体感的には俺の本来の容量限界を超える強化を受けているはずだが、それによって発生するはずの負荷も感じない。コンディションとしてはむしろ十全以上だ。
様子を見る限り、カサンドラたち部下三人も同じ状態だろう。
そして、『黒鐘の魔神像』……改め、『大実在ベンヌ・ブレイカー』という真紅の巨像。
こちらも、暴走の気配はない。
可能性としては俺との契約が巨像としての再起動に必要なだけで俺に従うというのも全て嘘だといきなり手の平を返してくることも僅かに心配していたが、そういうわけでもないらしい。
つまり、完全に味方。
完全に制御可能な助太刀としての、『終末の騎士』と『黒鐘の魔神像』に匹敵する戦力支援。
「イメージとは違うが、戦力としては期待通り……いや、期待以上か」
デザインや誘導されたポージングに対して言いたいことは山ほどあるが、俺が予期していた強化法との内容的な差異はほとんどない。
多くの転生者を敵に回して暴れ回り、それでも暗殺や狙撃によって討伐されることのなかった『終末の騎士』の武装と身体強化。
そして、『大怪獣』に匹敵する巨大戦力の使役権。
期待通り、この状況において必要な戦力だ。
加えて……
「ボス! 俺たちはいつでも戦えます!」
「状況はここに来るまでに大方確認済み。いつでも指示を」
王都に残してくるしかなかったカサンドラたち、俺が転生者討伐で幾度も率いて来た本来の部隊員との合流。
個々の戦力では確かに狂信者たちに負けるが、連携のしやすさで言えば一緒に『長城』を攻略してきた即席パーティーよりも上。
俺にとっては願ってもない追加戦力だ。
「……作戦を続行する。ライラック! 戦場の経験値が一番多いお前が代理指揮官だ! 五人で先に進め!」
「いいのか、リーダー! 戦闘終了を待って一緒に進行することもできるぞ!」
「時間がない! 俺たちが突破口を作り、背後からの追撃を防ぐ! お前たちは先行して儀式を止めろ! アオザクラ、この先のルート選択は任せるぞ!」
「了解! 神殿まで到達したら合図するからな!」
俺の指示に従って影兵の軍団を回り込んで進行を始めるライラックたち。
当然ながら、それを妨害しようと陣形を変え始める影兵たち。このままならば、ライラックたちは包囲されてしまう流れだ。
「ヨハネ……いや、フェニックス、しばらくお前たちだけで怪獣の足止めはできるか?」
『我が全霊を解放するには至らぬが、永久に比すれば瞬きほどに短き寸刻の戦端など、我が真体ならば造作もない』
『あっ、姉さんったらまた……はい、ブラッド。兵装は制限されますが、短時間ならば単独戦闘も問題ありません』
声が少女のものになっても相変わらず仰々しすぎて紛らわしいフェニックスの言葉を通訳する、フェニックスの『同胞』。
このまま巨大戦力で影兵も蹴散らすという手も無くはないが、味方を巻き込む危険もある以上は怪獣軍団への対処に集中させた方がいい。
俺が下の戦場へ降りることを考え始めると、バイザーの中に新たな動作アシストが表示される。
「なるほど、これは便利だな。フェニックス……いや、ベンヌ・ブレイカー! しばらく後ろの怪獣たちの相手を頼んだぞ!」
『クックッ、我が背は大いなる城壁。その堅牢さに万軍が平伏すであろう……』
『防御力には自信があります。安心して背中を任せてください』
「行くぞ! 白兵戦だ!」
アシストのイメージを信じて、四人で地面へ飛び降り、前転しながら着地する。
これだけで傷一つなくかなりの高さから着地できたことに装甲の強度と身体強化の確かさを確認しながら向かい合うのは……
「ボス、あれは……」
「ああ……『枯死』だ。やたらと増えてやがるがな」
量産された『枯死』の軍勢。
俺の過去は、カサンドラたちも知っている。俺の心情を心配してくれているが……
「大丈夫だ。今は、それよりもあいつらを先へ送り出すために戦うぞ! 総員、戦闘態勢!」
「「「了解!!」」」
全員で、アーマースーツの手首の『収納』から出現した警棒型の武装を手にする。
すると、それは光の刃を纏って短剣に近い形状に変わる。
「影兵特攻の光だな……行くぞ!」
襲いかかってくる『枯死』の群れ。
量産型になっている分だけ能力が落ちているのか、今日の初戦で戦った『枯死の影兵』と比べればスピードが大幅に落ちてはいるが、それでも一般兵よりは遥かに高い身体能力で群がってくる。
だが……
「…………そういえば、昔はこう思ってたっけな。余りに憎くて、一回殺すだけじゃ足りない。再生能力があるなら、何百回でも苦しめて殺してやりたいって。だが……実際やってみると、思ったよりも楽しくないんだな」
一般兵よりは疾く、力もあるのは確かだ。
再生力もあって、攻撃力も素手で十分に剣や魔法が必要ないレベルに高い。
なのに……まるで怖くなかった。
『ぐわっ!?』
『馬鹿な!』
『この俺様が!?』
数の力で俺たち四人を蹂躙しようと襲いかかってくる軍勢を、人混みをかき分けるように切り裂き、バラバラにしていく。
影兵の構成物質を霧散させていく光の刃を振り回し、敵を一閃する。それだけで、敵は形を保てず四散していく。
そんな中……影兵の群れの奥から、桁違いの速度で駆け抜けてきた『獣』が爪を振るい、アーマースーツの表面から火花が散った。
「くっ!」
「ボス! きゃっ!」
「こいつは、ぐっ!」
「速い! どあっ!?」
『アハハハハッ!! 遅い、遅いわね!! このアタシの美しき改造ボディの前ではそんな鎧なんてガラクタよ!』
『量産型の枯死』とは明らかに違う動き。
獣の動き。否、それだけじゃなく、姿形も確かに獣……『黒豹』だった。
黒豹に姿を変え、爪と牙で襲いかかってきたのは……
「『魔の薬師』……サロか」
この鎧の防御力でダメージは少ないが、素早さと縦横無尽の身軽さで負けている。
このまま奇襲攻撃を受け続ければダメージの蓄積で危険だ。そう思ったところで、腕環が叫ぶ。
『戦いの術を封じ込めし記憶の断片を解放するのだ!』
『「バトルフロッピー」を使って追加機能を起動してください!』
バイザー内に表示される機能の使い方。
カサンドラたちと一瞬だけ顔を見合わせて同じ情報が共有されていることを確認し、頷き合う。
「「「「【バトルフロッピー】!」」」」
手首の収納から飛び出す薄板状の神器。
アシストの通りに、腕環の側面に開いた溝にその神器を挿入し、追加機能を起動する。
「「「「【電子演算視】!!」」」」
認識力が拡大する感覚。
それは、時間軸方向と空間方向への感覚的な超速理解。
こちらからは直接視認できないはずの影兵の背後を駆けて奇襲を仕掛けようとしてくる黒豹の姿が、未来の軌道が、リアルタイムで情報化されて頭に入ってくる。
そうなれば、後は容易だった。
たとえ相手がどれだけ速かろうが、たとえ音や光と同等の速度だろうが、どこを通りどこから来るのかが『視えて』いるのなら、カウンターは難しくない。
「はあっ!」
「やっ!」
「フッ!」
「どりゃあ!!」
事前の合図すら不要な連携の四連撃。
最初に俺を狙った初撃に合わせて飛びかかってくる脚を叩き、転がりながら地面に飛び込む両側から腕を砕き、それでも噛みついて来ようとする顎を叩き割る。
『グルァアア!?』
攻撃手段と共に静止の手段を失った超高速の黒豹は、量産枯死の群れに飛び込んでそのまま爆発四散した。
『電子演算視』が解除されると同時に、広がっていた知覚の反動で軽く目眩がする。
そこに……蝙蝠型の爆弾の群れが襲いかかってくる。
「くっ! これは、『爆弾魔マイン』!」
「ボス! あそこです!」
蝙蝠爆弾の群れを飛び出て爆破の衝撃を回避した俺に、カサンドラの声がかかる。
示された方角を見ると、そこには自走地雷に乗って逃げに徹しながら爆弾人形を放ち続ける爆弾魔の姿があった。
「チッ! 単純な移動速度で逃げ続けられると『電子演算視』じゃ捕まえられないか……」
『契約者よ! 空裂く厚き刃に跨るがよい!』
『コンバット・モノリスを使ってください!』
またも表示されるアシスト。
それに従い、新しいバトルフロッピーを取り出し、腕環へと挿入する。
「「「「【飛翔空盤】!」」」」
手首とは別の収納空間から飛び出してくる浮遊平板。
それに飛び乗った俺たち四人は、不思議と慣性を感じさせない加速軌道によって自走地雷へと追走する。
『っ!? 近付くな!! 大人しく、パパみたいに惨たらしく死ね!!』
驚いた様子で爆弾人形を大量展開する爆弾魔。
だが、本体を安全圏に置いて遠隔で爆破できた先程までとは状況が違う。
アシストに従い、追加のバトルフロッピーを腕環に挿入する。
「「「「【モノリス・ストライク】! ハァッ!!」」」」
変形し、左右に巨大な刃の翼を広げて攻撃的な形状を取ると同時に、乗り手を保護する障壁を展開する浮遊平板。
一度宙返りする形で加速をつけた俺たちは、そのまま爆弾魔の遁走を支える自走地雷を引き裂くように横切る。
そして……
『ぎゃあああっ!!』
爆発四散。
自走地雷の爆発に周囲の爆弾人形が連鎖した大爆発に呑み込まれ、爆弾魔の姿は炎の中に見えなくなる。
浮遊平板から飛び降り、爆発に巻き込まれて壊滅した量産枯死の生き残りに向かい合ったところで……
『コロ!! ぶっ殺せ!!』
「うぐっ!」
「ぐあっ!!」
大型獣火機三体による高威力の弾幕攻撃。
飛び降りたばかりの浮遊平板が連携し障壁を展開するが、それでも抜けた攻撃がアーマースーツに火花を散らす。
「『犬戒千里』と『獣火機』! こいつらは……強いぞ!」
シンプルに高火力、高耐久、長射程、そして数が多いという強みを持つ『獣火機』の猛攻。
浮遊平板の障壁が破られれば、反撃の隙なくそのまま押し切られる可能性もある。
俺が危機感を覚えたそこで……バイザーの中に、新しいアシストが表示される。
それは、これまでのようなバトルフロッピーの使用ではなく……追加武装の召喚だった。
直感的に、それが特別な力を持つものだということを感じ取る。
四人揃って手を目の前に伸ばし、『その武装』の名前を呼ぶ。
「「「「来い! 【礎築く決意の剣】!!」」」」
数秒の沈黙。
それは、収納空間ではなく、この世界のどこからか飛んできた『それ』が伸ばした手の先へ柄を差し出すまでの時間。
その数は四本。
『台座に刺さった剣』に見えるデザインの追加武装。
四人それぞれの装甲に合わせた色合いに染められたそれの柄を掴むと、手の中に大きな力を感じだ。
『契約者よ! 汝ならばきっとそれを抜くこともできる! さあ! 力の限り引き抜けえ!!』
腕環の叫びに逆らわず、剣の柄を手に力を込める。
アシストではなく、心の中に浮かび上がった言葉と共に。
「「「「【思想鍵、完全照合】! これは、この世界を守る戦いである!!」」」」
そして、力の限り剣を引き上げようとして……思わず、仰け反った。
「うおっ!? フェニックスてめえ!! 力の限りとか言うからかなり重いかと思ったのに、軽すぎてすっ転ぶと思ったぞ、この野郎!!」
『クックッ! ハッハッハッ! 汝の心があまりに高潔なのが悪い!!』
「どういう意味だそりゃ! って、なんだ!?」
剣の突き刺さっていた台座が独りでに分裂し、アーマースーツの胸部を覆う追加の装甲と肩当てとして武装に加わる。
それと同時に、全身に溢れる力の勢いもさらに増したのを感じた。
「これは……」
「ボス! 障壁が!」
カサンドラの声に、意識を戦況へと戻す。
『獣火機』の群れからの弾幕で蓄積したダメージで砕けようとする浮遊平板の障壁。
回避行動を取るべきか……そう考えた瞬間、剣が勝手に動いた。
それは、己にできることを示そうとするかのようで……アシストを通さず、勝手に動きのイメージが浮かぶ。
それはカサンドラたちも同じようだった。
「……弾幕を押し返すぞ! 斬撃、放て!」
「「「了解!!」」」
剣の意思に逆らわず、むしろそれを手助けするように振り下ろす。
その軌道から放たれる光の斬波。
四人で放つ連続した波動の軌跡は絡み合い、獣火機の口から放たれる連射弾と砲弾を空中で両断させながら爆散させ、それぞれの獣火機の砲身の中まで届く。
そして……
『馬鹿な! 私のコロが! 数多の命を奪って得たこの力が負けるはずは! ぐわぁああ!!?』
一斉に爆発四散する自らの使役獣たちの爆炎に呑まれる『犬戒千里の影兵』。
それでほぼ決着が付いたかに見えた戦場で、地面から湧き出るように巨大な黒の塊が立ち上がる。
『こんなもんで死ぬわけねえ、だろ……俺は不死身の、この世界の「主人公」だ……!! てめらみたいな脇役のモブ戦闘員なんかに殺されるわけがねえだろうがぁぁあああ!!』
生き残っていた量産枯死たちが一体に寄り集まった醜悪な怪物。
その体表には、枯死だけでなく爆発四散した『魔の薬師サロ』『爆弾魔マイン』『犬戒千里』と『獣火機』の顔も浮き出た状態の酷いゾンビのような姿。
腕環から、落ち着いた声が発される。
『あれぞ悪夢、その丈が我が真体に届くより先に滅ぼすべき凶星の断片なり』
『ナイトメア形態の発生を確認。巨大戦力級への到達前の最終破壊を推奨します』
バイザー内に表示されるアシスト。
それに従い、バトルフロッピーを挿入する。
「「「「【武装合体! 未来証明弾】!!」」」」
収納空間から飛び出すロッド、集合する浮遊平板、そして四人でそれぞれ引き抜いた剣のパーツが一つに寄り集まり、一つの大砲のような武装を形成する。
アシストに従い、その砲身を俺が肩で支え、残る三人が左右と後ろから照準を合わせ……成長し続ける巨体で襲い来る怪物に向け、放つ。
『『『『俺は俺はオレはオレはオレはアタシはあたしは私は我らは未来を阻んで不快を振り撒き幸せを邪魔して世界を絶望で染め上げ誰もかもを不幸にし続けるために!! 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも……』』』』
「「「「【虚悪粉砕】──はあっ!!」」」」
『『『『そのために、そのためだけに生まれ、うまれ、うっ、うぼぉぁあああああっ!!!!』』』』
爆発四散。
今度こそ、欠片も残さない木っ端微塵の霧散消失。
残照が消えた後、そこには初めから何もなかったかのようだった。
「……『仮想敵』か。馬鹿が、目を逸らさなきゃハリボテだって丸わかりだっての……他人を不幸にするためだけに存在する人間なんて、そんな『都合の良いだけの敵役』なんて、実在するわけないだろうが」
巨塊になった残敵の消滅を確認。
地上での白兵戦に勝利した所で、地響きが響く。
背後を見上げれば怪獣たちが連携して防御姿勢の『ベンヌ・ブレイカー』を攻め立てているのが見えた。
『契約者よ! 疾く我が魂蔵へ収まり、我が真の力を発揮する糧となるがよい!』
『すいません! そろそろ単独戦闘の限界なのでサブコックピットへ乗り込んで武装の解放をお願いします!』
腕環から通信。
部下たちと頷き合い、合体武装から分離し直した浮遊平板に乗って飛び上がる。
「行くぞ!」
神像の背面に開いた穴から内部に乗り込む。
そこには、足下に四角い溝の空いた四つの台座があった。
溝の形と大きさから、やるべきことはすぐに分かった。
剣の先端を覆う形に戻ったブロックをそこに嵌め込み、剣をそのまま操作器具のように握って立つ。
「「「「【大実在! 武装展開!】」」」」
壁面に表示される神像の視界と外観の変化。
人間のような五指のある手の部分が獅子と大顎竜の顎門の中へ収容され、腰部分から消防車の放水装置が変形した砲門が迫り出す。
『敵対存在の分析完了……過去の戦闘記録から、沖縄作戦において交戦した守護獣の暴走状態に酷似! 有効な攻撃手段を選定……「首里城回路」の再現術式、発動します』
『ぬぉおおっ! 末妹よ! 我が言を追い越すか!?』
両腕の獣の頭部を模した顎門から放たれる音とも衝撃とも判別できない波動の共鳴派。
そこに腰の砲門から拡散された花火のような多段式の光弾が重ねられ、猛攻を仕掛けてきていた怪獣たちを怯ませる。
『これは! 怒れる神々に捧ぐべき笛と火の……どうして「黒鐘の魔神像」がこれを!』
壁に映る外の映像の中、空中で狼狽した様子を見せるイカロ。
だが、すぐに持ち直した竜人は、怪獣たちの中央へ飛び込むと、その胸を手で強く押さえる。
『隣人たちよ! 惑わされてはならない! あれは蛮神! 退散させるべきものだ!!』
『ドクン』……そんな、心音に似た鼓動がイカロから広がったのを感じた。
それに合わせて、怪獣たちからも同じ波動が発せられ始め、段々と重なり合っていく。
「まさか、『星の鼓動』か! ベンヌ・ブレイカー!」
『ぬうっ! かつての慟哭に連なる気迫、その重なりは危ういものぞ! 契約者よ、我が剣を解放せよ!』
『警告! 分析結果、過去のデータから「島の悲鳴」の予兆に酷似! この数は危険です! ブラッド、「地球人生存剣」を起動してください!』
バイザーに表示されるアシスト。
それに従い、手に握る剣の柄に『祝福』の力を送り込む。
「【地球人生存剣】!」
神像の前に現れる巨大な物体。
神像の装甲と同じ『大天使の鎧』で構成された、『地面に刺さった大剣』。
右手代わりの獅子の顎と、左手代わりの大顎竜の顎がその柄を掴み、引き上げる。
それは、大地からも何かを吸い上げるように引き上げられながら光の刃を形作って行き……
『っ! 【蛮神退散】!!』
「はあっ!!」
収束しながら迫る波動。
その中心を走る眩い光の一閃。
数瞬後。
立っているのは、波動を切り払い、左右に両断して一歩も引かなかった神像。
振り下ろされた光の刃の輝きを見て動揺しながらも臨戦態勢を解かない怪獣たちと向かい合い、剣を構える。
「アオザクラ、ミダス、ターレ、ライラック……そして、狂信者。俺たちはこのまま足止めだ。神殿の方は、任せるぞ」
side イカロ・フェニキュア
大地の剣を構えた巨神像が、その鎧と神の力で猛攻を耐えている。
おそらく、この護りを抜くことは難しい。
「マズい……このままでは、彼らが神殿まで到達してしまう」
もう時間的に見て、既に儀式は始まっているはずだ。
儀式を進める上で重要なポジションにあるアンナは動けない。
その他の戦力では、あの五人の進行を止めるのは不可能に近い。
その前に隣人たちと共に追い付ければ進行を封じられると考えていたが、神殿の内側まで入りこまれてしまうと隣人たちの巨躯では手が出せなくなってしまう。
「ここは隣人たちに任せて目の前の巨神像が先へ進むことだけは防ぎ、私が単独で先回りするしかないか……!?」
そこで、空気に『異変』を感じた、
感覚的なものだが、勘違いはありえない確信的なもの……今、確かな変化が空間に起きた。
「まさか、『ジライガの神像』が!」
神殿で常に力を発揮していなければならないはずの『転移対策の神器』が、なんらかの要因で……おそらく、何者かの攻撃で機能を停止させた気配。
騒ぎすら起こさず神器の働きを止めた方法はわからないが、その目的は間違いなく……
「儀式場が、まずい!」
私は、巨神たちの戦場を背に儀式場へ急ぐしかなかった。
……ちなみに、おそらくはお察しの通りですが、ドレイクさんが手にした血色の『聖剣』はオルーアンから飛んできたものです。




