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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
一章:招かれざる『転生者』
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第6話 『ドルイド』

sideテーレ


 【確定大失敗(ファンブルクライシス)】の発動は思ったより負担が大きかった。

 それに、予想外の現象につながってしまった。

 これは人間の姿で使える能力じゃなかったと見るべきだろう。


 これから使うとしても、出力を落として、使用回数も制限した方がよさそうだ。


 それにしても……


「クックッ、すみませんテーレさん。まさか『驚きすぎて魂が身体から抜けかける』とは、この世界では実在する症例なのですね。漫画的表現とばかり思っていましたが」


「笑うな」


「はい(真顔)」


 この世界の医者の診断ではそう診断されたけど、別に驚きすぎて魂が抜けそうになったわけじゃない。人間の肉体で天使としての姿に合わせて作った能力を使おうとしたせいで魂と肉体の繋がりが切れかけただけだ。


 今はこの肉体にしがみついているだけで、本来の天使としての力を万全に使えるのは天界だけなのだからそちらに引き戻されかけたというだけの話。


 ……別に死にかけたわけじゃないし。

 ちょっと天に還りそうになっただけだし。


「というかあなたの方が重傷でしょ。私を笑う暇があったらさっさと寝て治して」


「なるほど、それはごもっとも。それにしてもすごいですねこの世界の薬学は。一生スカーフェイスかと覚悟しましたが、すぐに処置したので痕も残らないと言われました」


 一生スカーフェイスって、顔の半分包帯に覆われてる状態で簡単に覚悟しちゃいけないでしょうに。

 それに、この世界の薬学は確かにレベルは高めだけど、その分入手困難で高価な動植物が材料だからいつでもすぐに処置できるとは限らない。今回はこのラタ市が薬草の名産地だったからよかったけども。


「あー、そういえば治療費。割安だとしても結構かかってるはずだし、『測定水晶』もあんな修理不能な壊れ方してたら借金は不可避なはずよね……後でいくら必要か聞かないと」


「そういえばテーレさん。これを見てくれませんか?」


「何よ考えごとしてるときに。そのネームプレート……誰よ『狂信者』って」


「私の異名だそうです。何でもこれで保険が適用されるとか。本来は功績などから異名を決めるそうですが、今回は治療費のために早急に認定してもらう必要があったので唯一検出できた適性のある職業名をそのまま異名とさせてもらいました。なんでも前例のない職業だそうで」


 異名……まあ、一応予定通りではあるか。

 『測定水晶』を割るほどのステータスがあると認識されれば、ギルドが将来有望かもしれないとマーキングしてくるのは当然だし。


 前例のない職業適性が出たっていうのは予想外だったけど、あの時は私の【運命的大失敗(ファンブルクライシス)】が効いてたからバグって変な検出結果が出たとしても何もおかしくない。

 おかしくない……はずだ。


「そう。じゃあ治療費は思ったより心配いらないみたいね。じゃ、私はちょっと眠たいから、あなたも早く寝なさい」


「了解しました」


 どちらが従者だかわからない深い礼をして離れていく後ろ姿を見送って、目を閉じる。

 眠たいのは嘘じゃない。魔力の使いすぎで実際眠い。いつもと同じ感覚で魔法を使うには人間の魔力容量はちょっと少なすぎる。


 でも、本当に寝てしまう前に確認すべきことがある。


(ターレ。聞こえる? 今回の転生者のステータスで気になることがあるんだけど)


 天界との通信。

 あるいは天啓と呼ばれるもの。天使なら現世にいても使える基本的な能力の一つだ。


(あ、はいはい! テーレさん! そちらはどうですか? 連絡まで思ったより時間がありましたが)


(予想外のことが連続しちゃってね。それはともかく、転生させる前に測定したステータスリストあるでしょ? あれの中に500越えのスキルってあった?)


(ちょっと待ってくださいね……うーん、『狂言』のスキルレベルがちょっとおかしいですね。それでも500までは行きませんし測定ミスかと思っていましたけど)


(『狂言』ね。なるほど、あの面倒くささも納得だわ。まあ、それなりにレベルが高いのとタイミングが重なればこういうこともあるか。神官への適性と『狂言』のスキルで『狂信者』なんて悪趣味な冗談だけど)


(何があったんですか?)


(大したことじゃないわ。ディーレ様には心配しないように伝えておいて。寄り道はあったけど、計画に沿った動きは何とかできてるから)


(わかりました。お身体に気をつけてくださいね)


(わかってる。人間の肉体は脆いからね)


 通信終了。

 ターレには天界からのサポートを頼んであるけど、天界には他にも仕事はあるし長く時間をとらせたくはない。

 気掛かりなのは、他の女神からの妨害だけど……


(今回の転生は邪魔が入らない内にできるだけ素早く手続きを終えた。現世にいれば直接女神が手を出してくることはまずないし、天界で動きがあればターレから連絡が来る。問題はないはず)


 予想以上に曲者な転生者に加えて他の女神の妨害が始まったら計画通りにことを進めるのは無理だ。

 妨害される前に冒険者としての活動を始めて方針を固めておかないといけない。


(何はともあれ、冒険者ギルドへの登録と異名を手に入れる所まではこぎつけた。後は基本的な戦闘技術を仕込みながらモンスター狩り……いや、戦闘技術は後回しにしてもいい。まず私が前に出て一人でモンスターを全滅させてでも、冒険者としての名声を高めた方がいいか。外堀から埋めて流れを作れば、優秀なパーティーメンバーを雇って本人の能力や性格に関係なく偉業を達成できる)


 最終的な目標は、この世界の国や人類を大きく発展させる、そしてそれらを脅かす『魔王』と呼ばれるような存在を打倒するような『偉業』の達成。


 私には生産特化のチートと呼べる能力はないしこの世界に調整された最高水準だから技術力の発展での偉業認定は難しいけど、ありがたいことに現在のこの世界はそれなりに物騒だ。

 人間同士の争いも撲滅されたわけじゃないし、無法者や犯罪者もいくらでもいる。冒険者としての活躍でも英雄的偉業を遂げる余地は十分にある。


 そして、それによって得られる冒険者という立場での最大級の報酬。

 偉人として聖典に名を刻む権利と、領地を受け取り治める権利。それを使って、誰もが認めざるを得ない女神ディーレの『聖地』を築き上げる。


 信仰を安定して供給する『聖地』を持つことは、神々にとって大きな意味を持つ。ディーレ様が他の女神と対等の地位に立つには、どうしても必要なことだ。


 幸いと言うべきか、神官の修得しやすい能力は回復や支援、補助がほとんどだ。本人が表立って前に出なくても後衛に徹していると主張できる。


 最悪の場合、パーティーメンバーすらもいらない。

 私が一人で戦えばいい。

 誰にも頼らなくていい。

 転生者本人に力なんて持たせなくていい。


 私には転生特典としてのそこらの人間を遙かに越える力がある。

 手段を選ばなければ、土俵を選ばなければ相手が戦闘なり諜報なり生産なりのチート能力を持った転生者だとしても、十分に勝てる。


 信仰を集めれば、もうディーレ様が他の女神の嫌がらせなんて受けずに済むようになる。


(ディーレ様……あなたはいつまでも、優しく笑っていてくださればそれでいいんですから)







side 狂信者


「あの時は急に熱くなりだした水晶を見て驚きましたが、ふと『これは冒険者になる者として咄嗟の反応力を試されているのでは』と思いつきまして、とりあえず距離を取ることにしたのです。実際は事故だったそうですが、冷静に対処できたことは幸いでした」


 テーレさんには寝るように言われましたが、あの水晶玉を割ったというのは結構なニュースになったらしく、冒険者の方々が質問しようと詰めかけてきました。役員さんは医務室に入らないように言ってくださってるようですが、さすがは冒険者ギルド。

 窓や床下から忍び込んでくるくらいは何のその。隣の個室で眠っているテーレさんを起こしても悪いのでこうして私が説明しているというわけです。


 しかし、それにしても……


「ああいった事故はよく起こるものなのですか?」


「いやないって」

「ヒビが入るとか真っ二つに割れるとかは聞いたことあるが、爆発はないな」

「あんなのが頻繁に起こる危険物なら誰も使わねえよ」


 通常は壊れるとしても割れる程度。

 私はディーレ様の加護によって無事に済みましたが、運が悪ければ死んでいてもおかしくない現象でしたね。とてもただの不運で済ませていい現象ではありません。


 そして、気になるのがその直前のテーレさんの反応。

 お医者様の診断では発光に驚いて魂と肉体の繋がりが切れかけた、元の世界で言うところのショック死に近い現象だと聞きましたが、コボルトにあそこまで即座に反応してみせたテーレさんがあの程度で死ぬほど驚くとは思えませんね。

 そして対応が私より遅かった、というより満足に動けていなかったのが気になります。


 私の推測が正しければ……


「いや、やめておきましょう。人を無闇に疑うべきではありません」


「おい、どうしたんだ? 傷が痛むのか?」


「いえいえ、ちょっと考え事をしてしまいました。これからもあんなことがあるようなら水晶玉には飛散防止の粘着シートでも貼り付けておくべきではないかと。あ、粘着シートはこの世界にはないかもしませんね。ネバネバして尖った破片などがくっつく素材です」


「つまりトリモチか? おめえ面白いな! ベタベタする『測定水晶(ステータスクリスタル)』なんて誰も使いたくねえよ!」


「ではたまに爆発する水晶玉とベタベタする水晶玉のどちらかを選んで使ってもらいますか」


「嫌な選択肢だな!」


 どうやらジョークとしてそこそこ受けたらしく笑いが巻き起こりました。

 いやはや、日本ならスポーツジムに入るために体重計に乗ったら爆発した、なんて事件が起きたら何日かニュースになった上で訴訟やら謝罪会見やらで騒がしくなるところですが、この世界の感覚では生きていれば笑い話なんでしょうか。

 もしかしたら、職業柄死の危険が珍しくない冒険者だからというのもあるかもしれませんが。


「おいこら貴様ら! 病人に負担かけんなって言ってんだろうが! 十秒以内に出て行かないと全員丸刈りにすんぞアホンダラ!」


 本当にハサミをチョキチョキやってます。

 中世のお医者様は理髪師との兼業が多かったと聞きますが、回復に魔力が絡むこの世界でもそれが一緒だとしたら興味深いですね。

 しかもなかなか強者のご様子。皆さん本当に十秒以内に部屋の外に出て行きましたね。


「じゃあまたな『狂信者』」

「仕事で仲間が欲しくなったら言ってくれ」

「カノジョを大事にしろよ」


 部屋の仕切りの外からはまだ声が聞こえますが、お医者様にどんどん押し出されていきますね。


「はい、では皆さんも、危険に気をつけて」


 気のいい方々でしたね。

 ま、打算がないわけではなさそうですが、それを隠そうともしていませんし、あの水晶玉を壊してしまった迷惑料と考えれば優しい方でしょう。


 話を聞く限りでは、反応の激しさはともあれ、あの『測定水晶(ステータスクリスタル)』が壊れるというのは何かの能力に特化して優れた才能を持つ冒険者に見られる傾向らしいですし、将来有望な新人に顔を売っておくと同時に、対策を取るための情報を得ることもできます。

 そして、情報を売って利益を得ることも可能でしょう。

 テーレさんとの関係も結構質問されましたし。


「『カノジョ』、ですか。テーレさんは私のことが嫌いだそうですがね」


「へえ、それじゃあ今は嫌々パーティー組んでるわけ? それだったらこっちに乗り換えない?」


 やれやれ、ようやくテーレさんに言われたとおりに眠ろうと思った矢先だというのに。

 しかしまあ、問われたからには答えますか。


「私の勝手な判断でパーティー変更はできないので、今はお断りさせていただきます。それに、テーレさんが私を嫌っていても、私はテーレさんを嫌ってはいないので」


「そう、それは残念」


 気配を絶つ技術……いえ、視覚的に姿が見えなくなるのは魔法でしょうかね。

 壁により掛かって、いつからいたのやら、女性の冒険者の方が部屋に潜んでいたようです。


 年齢は、女性としては長身に見えますが年配には見えません。人類の成長が元の世界と同じなら25から28というところですか。

 かなり薄着、というよりどこかの民族衣装のような金属を使わない繊維質の帯と袴に近い長めのスカートを纏っています。おそらくですが、露出した腹部や腰回りの体型が崩れていないので子供はいないかもしれません。


 手には木質の杖。複雑な加工のされていない、むしろ自然の中で生まれた流木をそのまま研磨して磨き上げたような品です。

 顔や体型は一般的な感覚でいって、十分に美人だと表現すべきだと感じましたが……アイドルのような美しさより、戦士のような美しさですかね。割れた腹筋と締まった腕の筋肉が彼女の冒険者としての経歴を感じさせます。


 というか、初めて話す方ではありませんね。


「これはこれは、確かパーティーメンバー募集の紙を探していましたね? そして、真っ先に担架を運んできてくださった。あの時はどうもありがとうございました」


「別にいいよ。それはともかく、ちょっと話したいんだけどいい?」


「先程の話と出会ったときのことからすると、パーティーメンバーとしてのお誘いですか? 残念ながら、それは私の一存では答えかねますので、テーレさんが起きてからもう一度検討させていただきたいのですが。今のままだとNOとしか答えられないので」


「まあまあ、そういわずにさ。ぶっちゃけると、あの子が寝てる間にしかできない話もあるから、聞くだけ聞いてほしいんだよ。できればここじゃなくて、私のとってる宿でさ」


「失礼ながら、これでも私は回復を命じられた身なので一刻も早く眠りにつかなければなりません。それに、処置は早かったものの完治まで時間をかけると傷が残ってしまうらしいので。お話はまたのご機会に」


「つれないなあ。じゃあ、その傷がすぐ治れば少しくらい夜更かししてもいいんでしょ?」


 女性冒険者の方はそう言って、私の火傷が軽めで包帯をしていなかった部位である手に触ると、軽やかな声で短く唱えます。


「【この者に 癒しと 穏やかな時を】……【治癒(ヒール)】。祖霊よ、感謝します」


 温かな光と、引いていく痛み。そして、目に見えて消えていく火傷。

 これは、回復魔法というものですか。


「火傷の薬草は早く治りはするけど、大体治ってくるとすごく痒くなるし辛いから、すぐに治せるなら魔法で治した方が楽だよ。ま、こうやって傷痕を残さずにパッと治せるような技術を持った人がなかなかいないから結局我慢して薬草で治す人の方が多いけど」


 光を放つ手が離れると、火傷の回復も止まり痛みも戻ってきました。

 どうやら、単純に傷を負う前に戻すだけでなく痛みを和らげる鎮痛剤のような効果もあるようですね。


「なるほど、ありがとうございます。ためになりました」


「はいどうも。でも、今治したのはほんの一部だし、全部治そうとしたら時間もかかっちゃうよ。私としては、いきなり異名なんてもらったあなたには丁度いい怪我をしてる今、それを治して恩を売って、ついでに実力も認めてもらえると助かるのよ。でも、一般のお医者さんの営業妨害になるから高レベルの回復魔法を無料で他人にかけるのはマナー違反だし……私、あなたのことがもっと知りたいのよ。だから……私を助けると思って、私の部屋に来てくれない?」


 ふむ……困りましたね。

 テーレさんには眠って治すように言われたのですが、助けると思ってと言われると無碍にもできませんね。

 それに、まあ、なんといいますか……


「私は森司祭(ドルイド)のアーリン。一晩じっくりかけて、たっぷり癒やしてあげるから」


 この明らかな『お誘い』を断るのは、いかがなものでしょうかね?


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[気になる点] どうしてターレは500lv以上のスキルがないと嘘をついたのですか?その理由がこの先出てくるならすみません…
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