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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
第十二章:暇乞う『魔王』

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第454話 また、頼もしからずや

side セブンス・ブレイブ


 『代打ち』開始から八ゲーム。

 既に、この勝負の趨勢は決した。


「三枚交換、フルベットだ」


「……ドロップでお願いします」


 狂信者が勝負を降りて開示する手札は、完全に把握したとおりの札。

 勝負していれば俺の勝ちが確定していた。だから狂信者が勝負をせずにゲームを降りたのは最善手ではあるんだろうが、それだけだ。


 俺は別にこのゲームが得意ということもない、それどころか、ほとんどやったこともない。

 いつか敵対する転生者の能力にゲームルールが絡む可能性も踏まえて訓練の一環でプレイヤーとして必要な最低限のルールを学習した程度の見識しかないが、その最低限のルールだけで十分に理解できることがある。


 それは、『このゲームは全てのカードの動きを見切ることができれば勝てる』というシンプルな事実だ。

 相手がいくら消極的になろうが、常にこちらが強い手を保持していれば参加料で相手のチップは削れていく。


 狂信者の『幸運』はシャッフルされた山札に偏りを与えるが、所詮は種類と数の決まったトランプの束だ。どちらかだけに有利なカードもないし、片側にしか認められない手役もない。

 カットの段階で狂信者の使えるカードに強い役が揃わないように調節すれば、恐れることはない。


「ふーむ……どうやら、目や神経の疲弊を期待するのも無駄っぽいですねえ……」


「ふん。正規勇者がこの程度で音を上げていたら訓練で死ぬだけだ。不眠不休で昼夜問わず飛んでくる毒矢を避け続ける訓練に比べれば大したことはない」


「それ訓練とは言わない気がしますよ。というか毒はいらないでしょう」


「俺に言うな。さあ、次のゲームだ」


「せっかちですねえ」


「いいからさっさとしろ」


 狂信者も、既にわかっているだろう。

 俺には勝てない。俺の五感、集中力、判断力はこんなカードゲームくらいで落ちたりはしない。


 そして、ただ『カードの動きを五感で捕捉しているだけ』である以上、そこに破るべき種も仕掛けもない。

 狂信者にどれだけ知恵と幸運があろうとも、ルールの上での勝負には裏技はない。原理上、俺が勝つのは確定している。

 万が一、狂信者に『突破口』があるとすれば……それは、狂信者側のイカサマしかない。

 だが、それも無駄なことだ。


「どれだけ考えても手はないぞ、狂信者。お前がどんな小手先を振るおうと、魔法を使おうと、俺が『イカサマ』を見逃すことはあり得ない」


 テーブルの上に見えている部分だけでなく、テーブルの下に隠れている下半身であろうと、中継映像で語られていたミスリードのように右手の黒指を用いた小細工だろうと、怪しい動きは見逃さない。

 振動、筋肉の動き、空気の動き。俺が注視している以上は予兆も見逃さない。

 狂信者にできることは、時間を稼いで『幸運』を待つことくらいだ。


「そういえば、あの後……」


「無駄話をするな。ゲームを進めろ」


「本当に、せっかちですねえ。そんなに私と話したくありませんか?」


「時間の無駄だからだ。言っただろう? 俺は一秒でも早く『祭壇』を回収しなければならない」


「そんなもの、長距離移動は夜が来て朝が来てという周辺環境の条件が絡みますし、ある程度は行動と無関係に時間が均されるものですよ。この場での一秒の短縮にさしたる意味はないでしょう。それはただの焦りですよ……あるいは、『自分は脇目も振らずに行動した』と言いたいアピールとも言えますか」


「黙れ」


「それか、あるいは私にいろいろとつっこまれるのが嫌な話題とかあったりします? シアンさんたちが一緒に行動していないこととか、軍都の事件の時はどうして出動できなかったのか、とか?」


「早くゲームを進めろと言っている」


「はあ、ゲーム中の心理戦とかそういうのもギャンブルの楽しみじゃないですかね? あなたは作業でやってるようにしか見えませんよ」


「早く、ゲームを、進めろ」


「はいはい、五感を研ぎ澄ましてはいても心の耳を塞いでいる人には何を言っても、ということですね。『聞こえてないふり』じゃ、根本的なところは何も解決しないと思いますがねえ」


 そう言って、参加料を払って次のゲームを始める狂信者。

 狂信者の立場からすれば、『王家の書状』がある以上は俺に『祭壇』が渡ったところで後々の交渉次第で政治的に『取り返せる』可能性がある。ここで負けても、次の手がある。

 それでも粘ろうとするのは、このゲームにこの街の後継者争いが関わっているからか。


 俺は両陣営のことはここ数日で調査した評判くらいしか知らないが……今、後ろからゲームを見ているマニスという男の性根は典型的な闇商人だ。

 どんな非合法な品だろうと、倫理ではなくリスクやデメリットの計算でしか『扱わない理由』に納得できない、周囲を包む世界が無法化すれば真っ先に人間だろうが毒薬だろうが好き勝手に商品扱いし始めるタイプの人間。


 この街には『ノギアス・マフィア』の力で政府に規制されていない違法な商売が無数に存在する。

 規制技術、希少品、人間由来の内臓や血液といった非倫理的な商品。マニスはそれを利用して、より違法ビジネスに特化した街を造り上げるだろう。

 以前は失敗したらしいが、過去には違法薬物も扱っていた男だ、それをこの街の規模でやり直す。


 依存性の高い薬物の値段と需要、そして生産の容易さ。

 利益率の高さを考えれば、そして倫理の枷さえなければ闇商人気質の人間にとって違法薬物に手を出さないのは愚かなことだ。

 今のこの街ではボスの意向で規制されているが、マニスがボスの座に着けば手を出さない理由はない。


 今はカジノと規制はあっても安全な違法商取引が中心……犯罪組織(マフィア)としてはかなり健全な部類のこの街は、形態を変えて汚れることになる。


 だが……狂信者に、それを防ぐ義務はないはずだ。

 義務じゃなく義理で、街の未来を憂う……こいつらしいといえばらしい。

 だが、それなら対して俺は国の未来を憂いて行動している。俺の方が大義で正義、そのはずだ。

 そのはずなのだ……だっていうのに、勝っているのに気分が悪い。


「時間稼ぎなんてするな。『奇蹟』なんて期待するだけ無駄だ。世界は、なるようにしかならない」


 『わかりきった結果』へ向かって、過程を推し進める。

 決定された勝敗に向かって、波乱もイレギュラーもない順当な結末に向かって。

 楽しむ余地なんてなし、ただの作業として。

 それでいい……



「その勝負、少し待ってくれないかい? なに、やり直そうという話じゃない。少し混ぜてほしいだけだよ」



 カットの宣言に入ろうとしたところで、向かい側の入り口からかかる声。

 入ってきたのは……見覚えがない。黒い肌の老人と、その従者らしき少年……? いや、女か?

 周りの人形とは違う本物の人間らしいが、いずれにしろ……


「妨害はゆるさない。部外者は黙ってみていろ」


「残念ながら部外者じゃなくてね。こちらの派閥のトップから許可証はもらってきているよ。なに、妨害というわけじゃない。そこの代表は個人的な友人でね、助っ人としてアドバイスさせてほしいんだ」


「いきなり現れて勝手に……」


「なに、構わないだろ? こちらはキミの『代打ちの代打ち』だって認めたんだ。それか、そちらのオスカー氏を起こして『イカサマ行為』の立証から、もう一度しっかり話し合ってみるかい?」


 痛いところを突かれた。

 確率能力だから『証拠』がなく、俺が剣気で気絶させたからうやむやになってはいるが、オスカーが転生特典でイカサマをしていたのは確実。イカサマが立証されたとなればこのゲームは自動であちら側の勝ちになる。

 オスカーがなんらかの形で自白でもすれば、俺がどれだけ強くてもこちらの反則負けだ。


「……狂信者、本当にお前の知り合いなのか?」


「おや、あなたは……四日ぶり、ですかね。こんなところにお出でになるとは意外でした」


「いやなに、照明が落ちてきた時には助けてもらったからね。恩を受けたままというのも気持ち悪くて……それとも、まさか黒色人種(ネグロイド)の友人がいたらいけないかね?」


「いいえ、いけないことなど何も。はい、勇者様。彼は私の大切な友人ですよ。話した数や時間は少なくとも、私の人生におけるかけがえのない方の一人です。傍らの彼女も、同様に」


「なに、私は昔ちょっとやんちゃをしてしまったおかげで、いろいろと身体が悪くてね。彼女に身の回りを世話してもらわないと何もできないんだ。二人で一人と思ってくれ」


 そう言いながら、自分をさり気なく支える従者にそっと体重を預ける老人。

 確かに、俺の目で見ても老人の身体はかなりボロボロだ。昔にどんなことをしていたかは知らないが、過剰な『祝福』の負荷に遭ったかのように全身が内側から傷付いている。腕に至っては精巧だが義肢のようだ。

 これは確かに介護なしでは生きられないかもしれない。


 従者の方は実力を隠してはいるが、それなりに戦える人間の気配がある。

 容姿から心当たりはないが、ともすればそれなりに地位か権威のある人間だとするなら、従者の方は単なる付き人ではなく護衛も兼ねているのかもしれない。

 だが、だからといって俺の脅威にはならない。


 そもそも、このゲームは既に結果が決まっている。

 それを覆すとすれば、それはこの『助っ人』が加わったことによって可能になる何らかのイカサマだけ。ならば、俺がそれを指摘すればその時点で勝負が終わる。


「いいだろう……ただし、その代わり雑談なんかで時間を潰すことはもう許さない。いいな?」


「わかりました。では、こちらが『親』でカットの宣言から、でしたね。カットは……」


「狂信者、十八枚目だ」


「ええ、十八枚としましょう」


 老人の囁くような『アドバイス』に従って宣言された枚数が山札の上から下へ移動する。

 上から裏向きでカウントされながら分けられた十八枚が、元のトップを一番下へ移動させ、逆順でボトムへ溜まる。


 今のところ、イカサマの気配はない。ならば、俺も今のカードの並びからこちらの方が強い手札を配られる場所を……今回の場合は『親』である狂信者から手札を配られるから、六枚目から十枚目に当たるカードが強い手で揃うようにカットの宣言をする。


「……二十枚」


「はい、では手札をどうぞ」


 互いに配られる手札。

 こちらはフラッシュ、あちらの手札はツーペアのはずだが……


「これとこれを交換だ」


 老人の指示で、交換される狂信者のカード三枚。

 これで引かれるのは確か……チッ、一枚目と二枚目でワンペアがフォーカードになるな。

 あちらには山札が把握できていないはずだから手札交換までは考えてはいなかったが、今回は負けか。


「多めに賭けていい」


「では、二十枚でベットしましょう。はい、お次をどうぞ」


 渡される手番、今の山札の上から五枚目までを思い出してみるが……ダメだな。もしあちらの交換札が三枚よりも多いか少なかったら勝てるのに、どう交換しても勝てる手にならない。


「ドロップ。次のゲームだ」


 参加料分のチップだけを引き渡し、こちらが『親』で次のゲームを開始する。

 もちろん、どの瞬間もカードの順番を把握しながらイカサマへの警戒を忘れてはいない。

 カットや交換に指示を出しているのは、どこかですり替えたりマーキングしたカードを引くための複線かもしれないのだ。


 今度はこちらから、カットを宣言。

 この場合は、狂信者のカットが後に来るからまずは狂信者の『幸運』で揃えられた飛び抜けて強い手の並びを寸断する。


「十六枚でカット」


「……二十二枚目」


「二十二枚でカットをお願いします」


 カット宣言の通りに山札が動き、新たなトップが決まる。

 ポーカーのルール的に、手札交換は互いに一回までで、枚数の上限は五枚。つまり、勝負に関与しうるのはトップから二十枚目まで。


 互いに手札が配られ、その内容を思い出す。

 そして……


「……一枚、交換」


 比較的にだが、手が悪い。

 こちらのカットが先の場合は最終的なトップを操作できるが、『親』の時はそうもいかない。

 だが、これでも相手の初期手札よりは強いことがわかっている。問題は……


「五枚交換でいい」


「はい、では五枚で交換しましょう」


「っ!」


 問題は、五枚交換されると負けるカードが溜まっていること。

 俺が今の交換で一枚引かずにいた場合は三枚交換で、二枚以上引いたとしても、こちらの手が崩れるからあちらの交換次第で……待て。


 今のは、偶然か?

 五枚交換しなくてもワンペアはできていたのに、全てを入れ換えれば勝てると判断したのか?


 まさか……


「……一枚ベット」


 『親』は相手のコールの最低額を決められる代わりに、一枚もベットしないわけにはいかない。

 最低限のベットを受けて、狂信者は老人からの指示を今度は言葉を受けるまでもなく小さな頷きだけで察する。


「レイズします」


「……ドロップ」


 やはり、まさかとは思ったが、間違いない。

 新たなゲームの始まりとして、回収したカードを山札と合わせてのシャッフルが開始される。

 このタイミングでカードの初期位置を記憶し直し、何枚目で山札が切られたかを動体視力で認識して何枚目がどこへ移動したかを把握する。


 単に速いものを見るだけじゃなく、超音速戦闘で必要とされる爆発的な集中力とその中で戦術を組み立てる超速思考能力がなければ絶対にできない、知覚情報を元にした視界外のリアルタイム物理シミュレーション。

 重力加速があまりに遅く感じる超音速戦闘の最中で空中に『動く障害物』として存在する戦場の破片や瓦礫を利用するためにも使う技術。死角からの狙撃や完全に隠されたトラップも無効化する全神経の完全臨戦態勢。

 常人には到底不可能な技だ。


 だが……そのシャッフルの合間の刹那、確かに見る。

 向かいに構える狂信者の傍ら、黒肌の老人を支える少女の目が、正確にディーラーの手の動きを追っている。

 俺と同じように、シャッフルされるカードの動きを追っている。


 あの年齢でそれができる人間がいるか?

 転生者であれば……以前パーティーにいた夢川のような能力ならば可能だろうが、そういった能力の恩恵とは思えない。

 純粋な動体視力とセンス、そして……『才能』か?


 軍でも冒険者でもない在野の人間でそれができるような子供がいるとすれば……『神性持ち』くらいしか思い当たる可能性はない。

 それも、ロバートのような人工的に後付けしたものではなく、天然の性質。何らかの、身体的な能力に影響する神格との縁の持ち主。

 ……まさか、第一位の隠し子とかじゃないだろうな?


 いや、相手の素性はどうでもいい。

 問題は……その従者に身を支えられている老人の方。

 筋肉の動きを見ると、シャッフルの間から従者の腕が小刻みに『力』を入れている。おそらくは、従者が把握できているのは『何枚目でカードが切られたか』まで。全てのカードを記憶して頭の中で並び替えるまではできていない。

 ただ、そのシャッフルで何番目のカードがトップになったかだけを、指圧の暗号で短縮してその都度伝達している。


 そして、それを情報として処理して頭の中でこれまでに公開されたカードの初期位置から山札の現状を再構成しているのは老人の方。

 だから、老人の側が狂信者に指示を出している。


 つまり、俺がやっている『カード把握』を二人で分担してやっているわけだ。

 秘密裏に情報を共有していると言っても、根本的にはデッキのシャッフルを見ているだけで伏せられたカードの裏を見ているわけじゃない。精度が高くとも、単なる『カードの予測』だ。

 こちらもやっていることだ、イカサマは指摘できない。


 状況は五分と五分になっているわけだ。

 だが……


「次のゲームだ」


 たとえ神性持ちだろうと、才能だけで長続きするか。

 指先で伝えられる情報だけで、いつまでもミスなくカードの位置など把握できるわけもない。


 勝負は俺が不利になったわけじゃなく、拮抗しただけだ。

 そして、高い集中力の必要とされる『カード把握』を続ければ、最終的には軍の訓練で持久力を身に着けた俺が勝つ。

 それまではどちらも、相手と自分の手を知っていて勝負することになる以上は消極的な勝負になるだろうが、拮抗しているなら総合的なチップの移動はさほど大きくはならない。最終的にあちらの集中力が続かなくなってから取り返せばいい。


 思わぬ助っ人だが、それでも俺との根本的な性能差を埋めるには至らない。

 ただ堅実に、この膠着状態を維持すればいい。


「ドロップだ」


 ただ堅実に……


「……一枚ベット……ドロップ」


 膠着状態を……


「……ドロップ」


 拮抗を……


「一枚、ベット…………ドロップ」


 待て、何かおかしい。

 何故、チップが一方的にあちらへ流れ続けている?

 互いにカードがわかっていて、勝敗が明らかである以上は必ずドロップで終わる。それはいい。

 だが、俺だけがドロップを宣言し続けている?


 どうして、カットして完成した山札から引いたカードが……互いに、最大五枚の手札交換を終えた時点で『俺が負ける手札』が完成し続けているんだ?

 一度や二度なら偶然かもしれないが、あまりに連続し続けている。


 狂信者の『幸運』か?

 いや、それもあるかもしれないが、あちらが『親』で俺のカットが後になる時、俺が最終的なデッキトップ、つまり『互いの初期手札』を決められるタイミングでも、勝てる手が作れない。

 あちらが『親』として先に手札交換した時点でこちらが何枚手札交換しても勝てない手しか残っていない。俺がどこでカットを宣言しても、おそらくそうなっている。


 断言できる、イカサマはない。

 ディーラー以外に、シャッフルしているカードに干渉している者はいない。

 だとすれば……


「まさか……」


「三十一枚」


「はい、三十一枚目でカットを……どうしました、勇者様? そちらのカット宣言ですよ?」


 あちらのカット宣言の時点で、俺がどこでカットを宣言しても勝てないようにカードの並びが調整されている。

 信じられないことだが、イカサマがない以上、それしか考えられない。

 この老人は、単に従者からのサインでシャッフルされた山札の並びを把握しているだけじゃない……


「まさか、『計算』しているのか? 五十三枚のカードを、どこでカットすれば『俺がどうやっても勝てない山札』になるのかを……?」


 黒肌の老人を睨む。

 ありえない、俺ですらこの場で瞬時にできないことを、何度もやってのけている老人。

 戦闘能力を応用したイカサマではなく、転生特典の類を使っている気配もない。単なる頭脳で、凄まじい演算能力でそれを可能にしている埒外の男。

 俺の知らない次元の『強さ』を持った男は、俺の視線を平然と受け止めつつ、小さく笑った。


「フッ……ようやく気付いたのか。頭の中でカードの並びを作れるのは大したものだが、単純計算だけで発想力がないな。単純な数学ゲームに勝てないからと睨むなよ」


「なん……だと?」


「『相手に20を言わせるゲーム』を知らないか? 互いに三つまで数字を言って進めていくあれだ。少し計算が複雑にはなるが、思考法はあれと似たようなものだ」


 単純な数学ゲーム?

 『相手に20を言わせるゲーム』と似たようなもの?


 ふざけるな。

 シャッフルの度、新しいゲームの度にデッキのカードの並びはランダムに変化する。

 狂信者の『幸運』であちらに有利な並びにできる可能性が必ずどこかに生まれるとしても、それを見つける『必勝法』は毎回違うはずだ。言わば、毎回違ったルールの数学ゲームで瞬時に『必勝法』を見つけているようなものだ。


 あまりに天才的な頭脳、尊敬を通り越して化け物じみた知能。

 それを、人伝のデッキ情報だけで涼しい顔でやってのけるこの男は……


「お前は、何者だ?」


 狂信者の『友人』を名乗ってこの勝負の最中に現れた男。

 黒肌の老人は、知らぬ間に震えの混じっていた俺の声音に対してわずかに目を細めながら、皮肉っぽく小さく笑った。


「名乗るほどのものじゃないが、そうだな……『イコール博士』とでも名乗っておこう。なに、ただの数字が得意な隠居学者。通りすがりの……このいけ好かない野蛮人の、どうにも意見の合わない『ケンカ友達』ってやつだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 白色人種の日本人がいたっていいし 黒色人種の友人がいたっていいでしょう ですよね等(イコール)博士? 昔戦った相手が味方として出てくる そんな少年漫画の王道みたいな展開なんて いいに決まっ…
[一言] 途中まで誰だかわからなかったけど、これは熱い……
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