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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
第十二章:暇乞う『魔王』

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第448話 ハイコスト・ラッキーゲーム

side 狂信者


 契約成立から、ほぼ丸一日。

 街の未来を決める大イベントの準備を設営から広報まで含めてたった一日で済ませるというのは、言うのは簡単でも実行するのはそう簡単ではないもの。


 それでも、一応は想定内ではありましたし、なんとかはなったにはなったのですが、やはり少し手伝うだけでも疲れるものです。

 まあ、作戦の中心となる私に万一のことがあってはいけないと大したことはさせてもらえなかったのですが。単純な力仕事の方が得意なのに安全な部屋の中で書類仕事の手伝いというのも気疲れの原因ですかね。

 こういうのはいつもテーレさんに任せすぎていた気はするので経験としては悪くありませんでしたが。


「ふう、チケットは完売。まあ、そりゃ当然という話なのですが」


「あら、狂信者ちゃん。これから大勝負なのにお疲れ気味かしら?」


「おっと、これはこれは。失礼しました、ゴルディオさん。ええ、一応は仮眠もしましたしコンディションに問題はありませんよ」


「それはよかった。隣、座っていいかしら」


 ここはダイアナさんの所有する賭場(ハウス)の裏手にあるスタッフルーム。

 対決前の控え室として用意された部屋。

 皆さんはもう配置に着いているはずですが、責任者のゴルディオさんが大役を任された私の様子を確認に来るというのは当然と言えば当然のことですかね。


 座っていたソファーの端へ寄ると、反対側に腰かけるゴルディオさん。

 三人掛けでも問題のないサイズのソファーなので体格の大きなゴルディオさんが座っても適度な距離感は十分に保たれた状態。


 ただ、その距離でも……


「はあ……正直、三日っていうのは断ってくれてよかったわ。準備は忙しかったけど」


 嘆息から伝わってくる緊張感。

 表面的には余裕を取り繕っているようですが、その裏にある余裕のない感情は察するまでもないというところ。

 皆さんがもう所定位置まで行ってしまって、責任者として最終チェックをしながら静寂の中に自分の動揺を見た、そんなところですかね。


 まあ、私も似たようなものですが。


「クックッ……私もそうですが、やはり慣れませんよね、大勝負というのは。命懸けならば特に」


「あらぁ、やっぱりそう? 狂信者ちゃんは余裕そうに見えるけど?」


「言うほど余裕ということはありませんよ。作戦があって勝算があったとしても、どこかで見当違いやイレギュラーが起こる可能性はいつでも付き纏う。どこかで初歩的な計算ミスをしていないかといつもドキドキです……使うものがカードだろうと、殺し合いや決闘みたいなものだと思えば尚のこと。まあ、逆に言えばこれも単なる殺し合いというだけでいつも通りなんですが」


「ふふっ、言いたいことはわかるわ。そうね……アタシも冒険者やってたし、モンスターとかともやり合った。同じように考えた方が気楽かもしれないわね……アタシ、賭けそのものにはあんまり触れてこなかったから。賭博都市の元締め『ノギアス・マフィア』の若頭なのにおかしいけど」


「おかしくはありませんよ。王様が最強の戦士でなければならないわけではないように、自分にできないことができる人を集めるのも上に立つ人間の才能です」


「ポジティブな意見をどうも。でもね……怖いのは、やっぱりごまかせないわ。他の子たちの前では見栄を張ってたけど、カードやサイコロ……それに、他人。何かに命を預けるっていうのは、やっぱり怖いものね」


 大きな体格、恵まれた肉体。

 冒険者として生活できたというだけあって、自分自身についての自信がないというわけではないでしょう。

 けれど、賭け事に求められるのは別方向の強さ。モンスターや刃への恐怖は肉体や技の鍛錬で和らぎますが、ゲームはルールの異なる世界。


 まあ、私も専門というわけではないのですが。

 むしろ素人、門外漢もいいところです。

 だからこそ、私がこの街で下手に重要な賭けをしていなかったからこそ、成立した作戦でもありますが。

 しかし……


「はあ……テーレさんに言えば困らせてしまう気がするので普段はあまり言わないのですが、やはり怖いですよ。私自身の命がかかっていることも、私の手に他者の命がかかわっていることも、勝って相手の命を奪うことも。しかし……不謹慎なのでしょうが、それと同時にこのゾクゾクを楽しんでいる自分もいる」


「……へえ、そうなの。少し意外だわ。ギャンブラーの才能があるのかもね」


「どうでしょう? 私の場合は、スリルそのものではなく『自分の感情が動いている』というのを実感していることにそういうものを感じているだけなので。幼い頃はそこまででもなかったはずなのですが、どうにも他の人より情動が鈍いところがあるらしくて……『痛い』も、『怖い』も、不快な感情であるのはわかっていますが、強い刺激で自分の心が動いているのを感じると、『ああ、そういえば自分も生きた人間だったな』って感じがするんですよ。同じ刺激だと、繰り返しても飽きてしまうかもしれない」


「なるほどね、それならちょっと納得したかも。そうね、確かにギャンブラーとはちょっと違うかも。あの子の……ダイアナちゃんの母親は、ギャンブルそのものが『生きること』で、それそのものに誇りを持っていたから。その戦いの結果で死ぬなら仕方ないって思えるくらい。それくらいでなきゃつまらないってくらい、スリルを楽しんで、強い相手を求めてた。ある意味、ギャンブルに負けて、それが原因でっていうのも本望だったのかも」 


 そう言って、昔を懐かしむような表情をするゴルディオさん。

 ダイアナさんの母親は彼の親友、それと同時にダイアナさんの父親は彼女に勝ったことで死に追いやったとも言える人物。しかし、それでも恨んでいる様子がないのは、彼女の戦いが命を懸けた『戦士』としての誇りを持ってのものだったからでしょう。

 負けて失うものではなく、この相手に負けるのなら悔いはないという覚悟まで含めた誇りある戦いとして。


「ちなみに、そういう話はダイアナさんには?」


「まあ……したわよ? つい最近、だけどね? もっと早くしておけばよかったって思ったけど。あの子がますますこの街の外で生きていけなくなっちゃう気がして躊躇っちゃった。ううん、それだけじゃないか……アタシは、親子の……自分と父の話に触れるのも怖かったのよ」


 『大親分(ボス)』ではなく、『父』と。

 この街の支配者の実子であるゴルディオさんが、初めてそう呼び表したのには、それなりの覚悟が必要なことであったようで、その表情は少々緊張しています。


「親友の彼女とは、街の外で知り合ったの。そして、彼女は噂で聞いた父のことを尊敬していた。裸一貫から一代で、ギャンブルで街の支配者に上り詰めた男。全てを賭けて、そして勝ち取ってきた伝説のギャンブラー。アタシがこの街に帰って来るきっかけも、彼女との出会いだったわ。アタシだけなら、一生戻っては来なかった気がする」


「……悪いことではないと思いますよ。外の世界を経験することも、誰かのために決意をすることも。実際、今のゴルディオさんが皆さんから集めている人望には、そうして外で得た経験もあると思います」


「ふふっ、ありがとう。でも、やっぱりギャンブルそのものは今でも全然無理。アタシは昔から……ほんの少しの運命の気まぐれで積み上げたもの全部が終わってしまうかもしれない、そんな世界が怖かった。そんな世界を生きる人間が理解できなかった。けど、外の世界もそれは変わらなかったわ。『冒険者の世界』だったからかもしれないけど、あっちの方がルールは絶対的じゃなくて、悪辣な人間もたくさんいた。どこに生きるにも、何かの『覚悟』は必要だった」


「そうですね……飢える覚悟、裏切られる覚悟、戦う覚悟、戦わない覚悟、生きる覚悟。全ての覚悟ができる人なんてそうはいないでしょう」


「アタシはそれに気付くのに回り道しちゃったけど。結局、アタシは甘ちゃんだったのよ。この街は守られてる……父が、ボスが定めたルールは、完璧ではないとしても偉大なものだった。この街の空気を作った。支配者にとって都合がいいだけじゃない、街のみんなが受け入れて存続を望む世界。けど……ダイアナちゃんには正確には伝えていないけど、あと一年でボスは死ぬのよ。他ならぬボス自身が、そう言ってるの」


「ボス自身が?」


「そう。知らされてる人は少ないけど、何年も前からね。自分が何歳で、何日に、どんな病気で死ぬかを知っている……そして、本当にその通りの病気になったわ。自分の未来がそこまではっきりわかるっていうのも、『魔王の力』のおかげなのかしらね」


「それで『マニス派』との対立が激化したと」


「アタシが最初から『息子』としてちゃんとしてたら、そうはならなかったのかもしれないけどね。本当に……アタシが悪いだけ。ダイアナちゃんは、血も繋がってなくて疎遠でも、ギャンブラーとして偉大な『お爺ちゃん』を尊敬してる。本当なら、血は繋がらなくても『孫娘』として、自由に合えるようにしてあげたいけど、今のアタシと父の関係じゃむしろ逆効果ね」


「ダイアナさんがボスと会ったことは?」


「一度だけ、あの子がこの店を潰して手に入れた時。その時の経営者が、相手が子供だからって、どうにか権利書を渡さずに済まないかってごねてた所に突然現れて『席を譲れ。不正はなかった』って……それから、ダイアナちゃんに『これからは、お前がこの賭場(ハウス)を管理しなさい』って。それで話がまとまったの……有望なギャンブラーとしての才能を見抜いたからなのか、単に場を手早く収めたのかはわからないけど。ダイアナちゃんは『ボス直々に賭場(ハウス)を一つ任された』って意気込んで頑張ったわ。でも、それから音沙汰なし。昔から、結構な放任主義なのよ。今回も……」


 ゴルディオさんの表情がやや寂しそうなものになります。

 わかっていたこと、というように。


「確認したけど、こんな大一番でもボスは見に来ていないわ。まあ、代わりにディーラーを送り込んでるわけだし、『魔王の力』があれば街の中のことならどこからでも見られるし、いつでも来られるから。わざわざ足を運ぶ必要なんてないってことだろうけど。ま、それに今日のゲームはボスじゃなくても街中で見られるしね! むしろ、ほとんどの人にとってはそっちの方が貴重な体験かも」


 今回のゲームは、特別に電気的な撮影機材とモニターを通じて街の各所からリアルタイムで観戦できるようになっています。

 いわゆる動画配信というやつです。発電機を含む機材の提供は主にゼロさんから、希少な転生者製の家電製品をコピーしたものを使っているので中央政府の定める法律的にはかなりのグレー。今夜限りの特別サービスです。

 開催告知からたった一日という短期間でのイベントに大きな不満が出ていないのも、そのサプライズがあってのこと。


 そうは言っても、やはり少しでも近くでゲームを見たいという心理はあるもの。

 この賭場(ハウス)の周辺の店は営業を中止していただき、その代わりに路上にもモニターを設置して、区画ごとに入場者と交通を制限することでパニックを防止する形をとっています。

 まあ、店を閉めておくのは遠隔系の転生特典を人知れず発動できるような死角を生み出さないためでもありますが。念のためです。


 細工は流々、それでもトラブルは起こるもの。

 だからこそ、現実というのはハラハラドキドキできるものです。


「さあ、そろそろ時間ですかね。では、ゴルディオさんは地下道から退避を。無用な被害者が出ないように、外側の方をよろしくお願いします」


「ええ、そっちは中の方でしっかり。負けたら落とし前よ?」


「クックッ、それは怖い。何としても勝たなくては」


 立ち上がり、背筋を伸ばして深呼吸。

 ふむ、コンディションはこれでいいでしょう。

 スリルはありますが、重ねてきた準備への安心感も十分に。


「それじゃあ、後でね。狂信者ちゃん」


 ゴルディオさんに別れを告げ、会場へと移動。

 まあ、なんやかんや言って拠点としてもそれなりにお世話になったので見知った廊下です。

 しかし、それを抜けて入ったカジノルームは、突貫工事ではありましたが特設されたステージが据え置かれた常ならざる景色。


 観客の侵入や妨害を防ぐために柵で囲われた空間。

 向かい側の観客から相手の手札をリークさせるようなイカサマを防ぐため、すぐ後ろ側には観客席を置かない形と、絶対に相手から手札が見えないようにデザインされたプレイヤー席。

 プレイヤーの会場入りに反応して、観客席から声が上がります。


「よう、随分と余裕の登場じゃないか。こっちは楽しみで早めにスタンバってたってのに」


「おっと、これは失礼。時間ピッタリに入場できたと思ったのですが」


 私がプレイヤー席まで行くと、あちらはもう既に席に着いていました。

 予定通り、私のゲーム相手はオスカー・キャトレ氏。あの賭場(ハウス)潰しの夜、大量の人員を使って並行作業で店のチップを奪い取っていた他の店と違い、巨大資金で大勝負を張り続けることで単身で『賭場(ハウス)潰し』を成し遂げたギャンブラー。


 彼の背後にはその付添人としてマニス派の方々が控えていますが、暴力行為が意味をなさないこの街ではプレッシャーをかけるためと、あと強いて言えばこちらの『イカサマ』を見抜くための目、というあたりですかね。

 ざっと見、十数人。思ったより少ないですが、それだけ精鋭を揃えてきたと考えるべきですか。


 まあ、それも予定通りです。

 むしろ、こちらとしてもその方が都合がいい。

 と、その前に……


「えーっと、確か……あ、テーレさん。見てますか?」


 観客席に手を振ると、『そういうのいいから』というような反応を見せるテーレさんの姿。

 その近くにはダイアナさんやゴルディオさんの姿も。


 ふむ、問題はないようですね。

 オスカーさんはそれを挑発と見たようで、わずかに顔を歪めます。


「本当に余裕があるもんだ。そんなに勝てる自信があるってか。こっちもなんかそういうパフォーマンスをやった方がいいかあ?」


「失礼。ええ、まあ一応は勝算がある程度はあるからこそ、こういった勝負を持ち掛けた立場ですので。しかしまあ、口上や煽り合いみたいなことをするのも空気に合いませんし、変に怪しまれるような振る舞いはこの辺にして、厳かに始めるとしましょうかね」


 互いに席に着き、向き合ってゲームの準備が整ったことを示すと、会場はざわめきを強めます。

 そして、店の奥からワゴンを押して現れるのは……兎の髪飾りを付けた、見目美しく若い女性ディーラーさん。ボスの賭場(ハウス)から招かれたこのゲームの進行役であり、結果まで責任を持って見届ける証人となってくれるお方。


「静粛に、これより若頭マニスと若頭ゴルディオの代打ち『オスカー・キャトレ』と『狂信者(ルールマン)』による代表戦を開始します。よろしいですね?」


「はい、よろしくお願いします」


「構わないぜ。先を続けろ」


「では、ゲームのルールについては事前に互いの確認が完了していますので、概略のみを再確認します。ゲームの種類はポーカー、一枚だけのジョーカーは任意のカードとして扱うことができるものとし、特に宣言がない限りはその手札で一番強い手ができるカードを選択したとして扱います」


 そう言うと、ワゴンからテーブルの上に移される二つのトレイ。

 その上には、同じ数できっちりと積まれたチップのタワーがそびえています。


「また、チップにはこちらの特別なものをご使用ください。これは互いの派閥の人員や資産を置き換えたものですが、ゲーム後にボスの承認を得て権利に交換するまでは単なるカウンターであることにご留意ください。また、各ゲーム毎に参加料として任意の賭け金とは別にチップ五枚が必要になりますのでご留意ください」


 全てを賭けた勝負、互いにチップは千枚。

 資金で勝るマニス派と、人員で勝るゴルディオ派。

 その『現在の財産の合計』は同量と見なす。それが今回のルールです。


「また、イカサマ行為の指摘は片方のプレイヤーの承認があれば自由、その立証をディーラーが確認すればその時点で実行プレイヤーのチップは全て没収となりますが、立証できなかった場合はペナルティとして承認を行ったプレイヤーは一回分の参加料を相手側に支払うことになりますのでご注意ください。また、テーブルの周囲五メートルは両陣営とも、プレイヤーとディーラー以外は立ち入り禁止です。無断でそれを破れば強制排除も認められるのでご注意ください」


 そして、ワゴンから取り上げられるカードケース。

 テープを剥がし、中のトランプを取り出して慣れた手つきでシャッフル。

 そして、それをテーブルの上へ。さらに、ダイスを一つ振ります。


「カードはこちらで事前に用意したものを使用します。シャッフルの後、互いに枚数を宣言してカット。その後、ゲームを開始します。カットの宣言は親から。最初は……ダイスロールの結果により、オスカー様からとなっています。今からゲームを始めてよろしいですか?」


「ああ、そうだな……説明はもう十分だろ。カットは七枚、ラッキーセブンだ」


「……二十枚、にしておきましょうか。いいでしょう、ゲームを始めましょう」


 互いに参加料のチップを置き、配られる五枚の手札。

 それを相手に見えないように捲り、自分の手札を見たオスカーさんは……笑いをこらえるように、まずは小手調べだとチップを五枚置きながら目を隠します。


「おいおい、こりゃ傑作だ……チップ五枚でベット、手札交換はなしでいい。狂信者、悪いことは言わないから諦めたほうがいいぜ。今日の俺は最高についてるらしい」


「……レイズ、私も手札交換はなしで構いません。オスカーさん、それはブラフにしてはあからさま過ぎるのでは?」


「レイズ。俺は本気で言ってやってんだぜ? お前は絶対に勝てない」


 このルールでは、賭けるコインは互いがレイズするごとに必要量が二倍になっていきます。

 互いがレイズし、チップは最初の賭け金の四倍で二十枚。既に互いの派閥の資産の2%を賭けていることになります。

 金額としては、それだけもかなりのものになるでしょうが……


「コール、いいでしょう。そういうならばここで勝負してみましょうか」


 互いに二十枚掛けで最初の勝負。

 会場の緊張が高まる中、互いに手札が伏せられ……


「お前は手札見せなくてもいいぜ、理由なんざ言うまでもないだろ?」


 先に開示されたオスカーさんの手札に、会場が大きくどよめきました。

 何故ならそれは……


「ダイヤのフラッシュ……いえ、ロイヤル・ストレート・フラッシュですか」


「な? これより強い手はないだろ?」


 『10』から『A(エース)』までキッチリと揃った同じマークのカード。

 初手で、手札交換もなしで引き当てられたものがそれだった、その事実に会場が騒然となります。

 なるほど、確かに『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』より強い手はない、それは道理です。

 しかし……だからといって、『絶対に勝てない』というのは正確な表現ではありませんでしたね。


「はあ……『絶対に』などというので、てっきり『スペード』を握られてしまったかと思いました。まあ、危うく負けてしまうかもしれなかったというのは間違いではありませんが」


「あ? 何言ってんだよ。さっさとチップを……」


「事前にルールは確認しましたよね。マークの強さは『スペード>ハート>ダイヤ>クラブ』だったはずです。ディーラーさん、そのルールに間違いはありませんね?」


 私がそう確認するとディーラーさんは首肯します。

 オスカーさんの手札が『絶対』ではない、その認識を共有できているようです。


「はい、こちらもルールはそのように確認しています。狂信者様、カードの開示を」


「おっと、これはお待たせして申し訳ない。では、とりあえず……」


 『ハートの10』。

 『ジョーカー』。

 『ハートのQ』。

 『ハートのK』。

 『ハートのA』。


 私が出した手に、騒然としていた会場は一気に静まり返りました。

 カメラを通してゲームを見ている外の方々も似たような反応かもしれませんが、一番驚きに満ちた顔をしているのはやはり目の前のオスカーさんですかね。

 まあ、とりあえずは。


「『ハートのロイヤル・ストレート・フラッシュ』。ファーストゲームはこちらの勝ちということで。早速、次のゲームと行きましょうか」


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