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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
第十二章:暇乞う『魔王』

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第437話 異世界街道

side 狂信者


 『ノギアス・マフィア』の若頭、ゴルディオさんの一人娘であるダイアナさんの立場はいわゆる『お嬢』、裏社会における社長令嬢か会長の孫と言えるようなポジションにあります。


 そして、賭場(ハウス)の所有者としての立場もあり、それに付随してノギアスにおけるいくつかの収益施設(シノギ)も手にしている経営者でもあるとのこと。

 それもゴルディオさんからの親子間でのプレゼント、いわゆる七光りではなく、自ら挑んだギャンブルの戦利品としての利権というのだからまごう事なき才女の器と言えるでしょう。


 そして、今のゼロさんのパートナーという立場まで手にしている彼女は他人から見れば人生が全て上手くいっているように見えても仕方のないくらいの状況かもしれません。

 しかし……他人から不幸に見える人間だからといって不幸とは限らぬように、他人の偏見とは関係なく誰にでも悩みはあるもの。

 

 むしろ、経営者としての立場もあるとなれば同じような年頃の少年少女にはない悩みもあったりするでしょう。

 ということで……


「つまり、私とテーレさんに新しい観光施設のテスターをしてもらいたいと?」


「そう、若頭同士の仲が悪かろうがなんだろうが、ノギアスの一番の稼ぎは観光客だから。ギャンブルばっかりじゃなくて、お金を使って楽しむ方の施設も発展させていかないといけないし。狂信者……正直に言って、ここ最近暇になってるでしょ? なら、明日の昼はちょっと協力してくれない?」


 ダイアナさん所有の賭場の裏手、もはやお決まりスタイルとなったゼロさん同伴のダイアナさん。

 彼女からそう言われてしまっては、まあ後継者争いも私が転生者によるイカサマ作戦への抑止力になってしまったせいか膠着状態になって待機状態が続いてるのは事実なわけですし、ほとんどスタッフとしては何もせずお給金をもらっているのも心苦しいわけで。

 昼間も、一昨日からはメメさんがいなくなり小野倉さんが不器用ながらに真面目に職業体験している状態ではお目付役としてやることもあまりなし。


 断る理由はありません。

 はい、ないのですが……


「で、そのテスターをやるって観光施設がこれってわけね……『異世界街道』ってのとパンフで一応の理念は理解できるけど、その上で……なにこれ?」


 渡されたパンフレットを見ながら若干困惑顔で問いを投げるテーレさん。

 まあ、私も表紙を見ただけで趣旨は理解できましたが、それでも転生者としてはなかなか興味が湧くというか詳細を知りたくなる内容です。


「その名の通り、転生者がこの世界に来る前に生きてたっていう『異世界』の文化とかを体験できるところよ。転生者からの聞き出しとか、持ち込みされた本とかの知識とか。そういうのを元にしたやつ」


「なるほど、やはり映画村みたいな類の試みなのですね……まあ、それはよしとして。この推奨コースなのですが……」


「明らかになんというか……これ、何を資料にしたの?」


「そりゃあ、転生者が持ち込んだ資料の中から『最高の思い出を作る方法』とかその手のことが書いてあるやつを中心にした感じでね?」


 渡されたパンフレット。

 施設の規模は、そうですね……大型の集合商店、いわゆるショッピングセンターの類が近いくらいですかね。なかなかに大規模です。

 そして、その中には……


「入り口すぐのところで待ち合わせの目印として『忠犬像』、夜景の見える『特別展望レストラン』、そして一泊可能な『ご休憩所』……」


「他は基本的にショッピングセンターにありそうなものではありますが、大胆なセレクトですねえ」


「これのテスターをしろってことは、つまり……」


「まあ、そういうこと。恋人なんだしデートくらい、別にいいでしょ? 狂信者とテーレって付き合ってるのよね?」


「「いや、恋人ってわけじゃなくて……」」


「そうなの?」


 私たちの返答に驚いたような反応をするダイアナさん。

 まあ、ある意味では恋愛関係よりも深い一蓮托生の関係であることを考えれば私たちを見てそう考えることも不思議ではありませんが。

 寿命差とかそういった込み入った話をすると話が長くなってしまいますし、そうですね……


「私とテーレさんの関係は、強いて言えば同じ任務のために協力して事にあたるエージェントコンビ、相棒(バディ)のようなものです。まあ、もちろん私としてはテーレさんのことは愛おしく思いますしデートできる口実があるのなら喜んでそうしたいのですが」


「ま、まあ私もマスターとのデートくらい何度も経験あるし! 理由があるならいつでも相手してやるわよ」


「へえ、恋人ではないけどデートはしたいんだー。なんか大人な関係……なのかな? まあいいや。じゃあ、受けてくれるってことでいい? もちろんお礼はするし、なんなら依頼ってことにするけど」


「ええ、お礼を受け取るのならテスターを依頼として受ける、というのが収まりのいい形でしょう。では、そのように。いいですか、テーレさん」


「いいわ、祭壇の複製についての打ち合わせも大体終わって手の空いたところだったし。ダイアナもそれを見越して話を持ちかけてきたところなんだろうけど」


 テーレさんも承諾。

 ここ最近、私が小野倉さんの監督役や転生者対策スタッフをしている間、テーレさんには『神器』の専門家として複製計画の実現性を確認してもらったりしていましたから。ここでリフレッシュしてもらうのもいいでしょう。

 私とテーレさんの同意を得て、ダイアナさんは安心したように笑います。


「よしっ、じゃあ明日! 朝九時に入り口の像の前に集合ってことで」


「集合といいますか、私たちは一緒に現場まで行くので……」


「あ、そうそう。言い忘れてたけど。私とゼロも行く予定だから、よろしくね」


「え? ちょっと、私たちとダイアナ、ゼロの四人行動ってこと? それってつまり……」


 テーレさんが問いかけると、ダイアナさんは得意げに頷きながら答えました。


「そう、私たちとあなたたちでダブルデート。私たちはデート初心者だから、いろいろフォローよろしくねー」


「明日……よろしく」




 そして、ダブルデート当日。

 待ち合わせ時間の五分前。

 渡されたチケットで『異世界街道』と名付けられた娯楽施設に入場し、迷うことのないように入り口の目の前に設置された待ち合わせ用の目印に到着したわけですが……


「あら、お待たせしてしまいましたか?」


「一応、早すぎず遅すぎずの時間に来たはずなんだけどね」


「ううん、今来たところ! うん、これやってみたかったの!」


「正確には、8分42秒前。ダイアナ、ずっとウキウキしてる」


 いつもよりよそ行きのオシャレ着のダイアナさんと、特注らしき特大のカッターシャツをラフスタイルで着せられたゼロさん。

 旅生活では荷物になるよそ行きの服を持っていないため変わり映えのしない私たちよりも気合いの入った、いかにも『休日デート』といった雰囲気です。


 とまあ、それはそれとして……


「パンフレットのイラストでも思いましたが……やはり、これは少し大きすぎませんかね? 確かに待ち合わせのシンボルみたいなものではありますが」


 待ち合わせの目印として入り口正面に設置されたモニュメント。

 言わばこの娯楽施設の顔となるものなわけですが……『人の頭を丸呑みにできそうなサイズの忠犬ハチ公像』という、ちょっと強調の過ぎたものといいますか。

 あれ、実物は普通に柴犬サイズなので知名度のわりに小さくて驚かれるそうなんですが、こちらは大きすぎてちょっと怖いです。

 あと、微妙に開いている口から覗く牙が結構尖ってるのも怖いですね。


「いやー、あはは。最初は実物大で作ってみたんだけどさー、どうにもインパクトがないっていうか『異世界街道』の顔って感じしなくて」


「ダイアナ……にわかに漂う成金感は置いといても、ちょっと大きすぎでしょ。魔獣かと思われて攻撃されたらどうするの」


「あ、それは大丈夫! 実はこれ街の非常用警備ゴーレムにもなってるからそう簡単には壊せないし」


「逆に恐いわ! 下手したら血染めの銅像になるやつでしょそれ!」


 早速弾む女子トーク。

 いやはや、仲良きことは善きことかな。

 しかし、放置されるのはちょっと寂しいものですし、ちょっと何かデートらしいことを……おや、ゼロさんも察してくれましたね。それでは、そうしましょうか。


「テーレさんテーレさん、見てください。ほら、『真実のハチさん』です」


「ダイアナ、注目」


「こら! 動くって聞いた直後に変なことしてんじゃないの! 誤作動して噛まれたらどうするつもりよ! ていうかゼロも!?」


「そう心配せずともそんなことが滅多にあるわけ……おや、私の指は何処(いずこ)に?」


「きゃぁあああ! 指が三本も……ってそれ最初からなかった指じゃん!」


「ダイアナ、テーレ。ゼロも、これ見て」


「マスターもゼロもふざけてないで……って、それ! 手! 手首から先! ホントになくなってない!?」


「えっ! まさかホントに!? ゼロ大丈夫!?」


 気付けば手首から先の見えないゼロさんに驚き駆け寄る女子お二人。

 手を引っ張り出してみれば本当にその先がないことに驚き慌て始めたところで……


「……冗談。ネタばらし」


「クックッ、さすがはゼロさん。やりますね」


 ゼロさんの手首からニョキリと生えてくる手先。

 奇跡とは呼ばれない範囲の隠し芸、この程度の肉体変化は『願い』すらも必要ないらしく、大丈夫というように手を振ってみせるゼロさん。

 それくらいできるだろうなと思っていたのは私だけだったのか、テーレさんもダイアナさんも本気で驚いていますね。


「トリック大成功ですね。はい、イエーイ!」

「……イエーイ」


 生えてきた手とこちらの手を合わせてのハイタッチ。

 慣れないながらも私の真似をして手を出すゼロさん。

 さすがの学習力、アドリブもバッチリです。


「もー……あんたら、打ち解けてるわね……」


「ちょっとー、本気で焦ったんだけど……」


「クックッ、焦り顔のテーレさんはやっぱりお可愛いですよ。もちろんダイアナさんも」


「びっくりさせた……ごめん。でも、またやりたい」


 謝りながらも正直にまたやってみたいという欲を吐露するゼロさん。

 それに呆れながらも、ホッとして溜め息をつく女子お二人。


「またやりたいって、楽しかったのね……」


「少しくらいなら悪戯もいいけど、あんまり常識外れなことはやめてよね」


「まあまあ、今の悪戯が常識の範疇かどうかはともかく発案者は私の方なのでお叱りは私の方に。それはさておき、今日はテスターとしての仕事を受けてのデートです。スケジュールを先に進めるとしませんか?」


「いけしゃあしゃあと言うんだから……まあいいわ、お仕置きは後にしてあげる。行きましょ、ダイアナ。こいつの行動に一々驚いてたらきりがないから」


「はは、噂には聞いてたけど強いだけじゃなくて面白い人だよね……うん、行こうかゼロ。まずは朝ご飯から」


 今日の予定は始まったばかり。

 再現とは言え現代日本の娯楽文化をまた体験できる貴重な機会、テーレさんと『現代風デート』ができるまたとない機会です。

 存分に楽しむとしましょう。




 ということで、本日のプランにおける第一のデートスポットはある種のレストラン、というか『カフェ』の一種なのですが。

 いやはや、よく作りましたねこれ。


「まさか、本当に『漫画喫茶』があるとは。本の数はやや少な目ですが、よくこんなに揃えましたね……転生者の持ち物、というわけではないとは思いますが」


「転生者の中には『この世界の素材で自分のいた世界の物を複製する』みたいな能力のやつもいるからね。戦闘にはあんまり向かなくても、少ない元手からこの世界では他に手に入らないものを作って売る、需要は多いし便利なのよね。まあ、能力が便利すぎて転生者が誘拐されたりってのはよく聞くけど」


「大部分はそのコピーのコピー、魔法転写の写本ね。キャラの顔とかの印象的な部分が強調されてて絵柄が違ったりはするけど、ストーリーは変わらないしそれほど質が悪いってわけじゃない。これだけでも転生者相手に懐かしい漫画が読めるって言えば需要になるだろうけど……気になるのは、そこの『店員』ね」


「小野倉ねね。臨時スタッフ。今日、ずっと一緒」


 ゼロさんの簡単な説明。

 いえ、まあ一目見てわかってはいましたが。

 『ダブルデートを見せつけられる仕事とか嫌がらせっすか……』って感じの顔をしていますが。


「ああ、『ねねちゃん』には転生して日も浅い転生者として、ついでに他のスタッフの見本としても『現代日本の店員っぽい応対』をお願いしてるわ。テスター二組のためだけにフルスタッフ動かすのは無駄が多いし、形だけでもスタッフとしての振る舞いが一通りできる人が何役か兼任した方がいいでしょ?」


「よくないっすよ……お客様の経験があってもこういうお店側のバイトとかしたことないっす……ていうかマンガ喫茶とかオタキャラの聖地ってか実家よりも実家みたいな場所っすよ。普通にお客さんになりかったっす」


「それはまたの機会に、もっと言えば経済力に余裕ができてから。これもまた経験であり仕事ですよ。ほらほら、まずは笑顔の練習です。小野倉さん、笑顔は便利な武器ですよ。私の知る凶悪転生者の方々は笑顔で暗殺を試みてきた人ばかりですし、友達になるにも殺し合うにもまずは笑顔というのは一つの摂理です」


「いやそれ、あんまりアドバイスになってないっすよ!? ていうか暗殺とか凶悪転生者とか参考にする対象がおかしいっす!」


「小野倉ねね。一応言っておくけど、あんたの能力ってかなり暗殺型だし、それを平気で悪用してた時点でわりとそっちの傾向はあるわよ。目の前の楽な方に流れ流れてズブズブと破滅していくタイプの転生者、便利な能力なのに手を汚す内に悪用『しか』できないようになっちゃうタイプ。そっちに流れたくなかったら頑張って軌道修正しないと」


「うぅ……時々はご褒美がほしいっす……」


 涙目でスタッフのポジションに戻る小野倉さん。

 それを見たダイアナさんは、少しだけ考えてから提案します。


「なら、準備中とかの空き時間にここのマンガ読めるように手配してあげよっか? 今日の仕事がちゃんとできたらだけど」


「マ、マジっすか!?」


「マジマジ、どちらにしろまだ本格始動までは本棚に入れておくしかないんだし。汚さないなら貸し出しも考えるから仕事の合間の楽しみにでもしたら?」


「が、頑張るっす! ご注文、お取りするっす!」


 具体的なご褒美が提示されたことでピシリと背中を正して慣れないながらにスタッフとしての仕事に集中する小野倉さん。

 いやはや、ダイアナさんの経営手腕の片鱗はさすがとして……


「では、今日一日を楽しむための朝食と参りましょうか。テーレさんにも私の『故郷の味』を体験してもらうのはちょっと楽しみでしたからねえ」


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