第37話 閃光杖
争いは平和的に話し合いで解決しましょう!
side 狂信者
私が商会に到着した時、既に来客用の扉は閉ざされていましたので、警備員さんに尋ねましたところ、テーレさんとアーク嬢は裏口から出たそうです。
私も駆け足で裏口に回ると、そこにはどうやら公僕らしき気配がする兵士さん二人に通せん坊をされるお二人がいました。
ふむ、どうやらやはり、アーク嬢は既に目を付けられていましたか。
テーレさんは街の権力者につながるであろう兵士さんと争うのを嫌って手が出せない様子。
アーク嬢はテーレさんにまで飛び火しない内にことを収めようと、自らを差し出してしまいそうですね。
つまりは、まだ手遅れではないということです。
「お待ちくださいお二方。彼女を連れて行く前に聞いておいて損のない……というより、聞いておかないと損をする類の話があるので、少々時間をくださると助かります」
「な、なんだおまえは!」
「邪魔立てする気か!」
殺気立つお二人を尻目に、テーレさんとアーク嬢へと歩み寄ります。敵意に警戒心を返せば、むしろあちらのペースです。敵意になど気付かない愚か者のように平気な顔で間合いを通り抜ければ、あちらも先手は打てません。無抵抗の人間を斬りつければ、市長の後ろ盾があろうと罪に問われるでしょう。最悪の場合、斬られたとしても即死さえしなければテーレさんが何とかしてくれます……たぶん、きっと。
「『テーレさん、日本語で失礼します。少々、お願いしたいことがあります。これを使って……』」
商人さんから買った品をテーレさんに預け、手を開いて危険物を隠していないとアピールします。まあ、実際には隠しポケットに小石程度は入っていますが。使う気はありませんし問題ありません。
「私はこの通り平和主義な旅人です。平和は実にいい。食事もおいしく枕も高く、遊ぶ子供は騒がしい。何事も平和が一番です。あなたがたも仕事がなくて歩いているだけで給金がもらえる、ああなんと素晴らしい」
「話をそらすな余所者! 俺達は市長の命令で動いている! 俺達に反抗すれば……」
「むしろ私は協力的な立場と自負しております。何せ、彼女について重大な情報を無償で提供しようという魂胆なのですから。あなた方はアーク嬢を市長の愛玩具……失礼、使用人として迎え入れる予定なのでしょうが、それは非常に危険です。それはこの街の平和を乱す結果になります。それ故に、互いのためにと情報を共有したいのです」
「早く用件を言え!」
ほらほら、内容のないことばかり言っていましたが、その間にあちらの話を聞き入れようとする姿勢ができています。
人間とは本能的に知識欲が強くできていますから。意味深長なことを仄めかしただけで話し合いたくなってくるのです。
何せ、こちらは丸腰にして友好的、つまり『無敵』なのですから。
そして、その判断の間に、こちらも口にすべき言葉は選び終えています。
「私は彼女と森で出会い、意気投合して街まで便乗させていただきましたが、その途中の道すがら、暇潰しにとした会話の中で極めて興味深いことを知りました。彼女はなんと、信仰のために大願成就のその日まで男性と契りを交わさないことを誓い、これまで一人旅を続けていたそうなのです」
「それがどうした! そんなこと俺達には関係ない」
まあ、確かにそうですね。
表向き、市長は『使用人』として彼女を雇いたいと言っているだけで、男女の関係をほのめかしてはいないのですから。
しかし、ならば彼らに関係のある話にしてしまうだけのこと。
「いえいえいえいえ、それだけならそうでしょう。アーク嬢が感服すべき敬虔な神の信徒であるというだけの話です。しかし、大変なのはもう一つの情報。彼女はなんと、ごく最近ですが偶然に出会い、馬車に便乗を許し仲良くなったお方がいるそうなのですが……それが、神の信徒たる『転生者』なのだそうです。それも、その方は神官系の職業を持ち、信奉する神は違えど信仰心の尊さは同じと彼女の覚悟に感動し、定期的に連絡を取りたいとまで願い出るようなお人。もしも彼女の信仰の証である純潔が、彼女以外の意思で無理矢理に散らされるようなことでもあれば……あなた方を含め、最悪の事態もあり得ます」
「で、デタラメを言うな! その場しのぎの嘘を……」
「嘘だったなら、私の肉をどこでも好きに一掴み分だけ差し上げましょう。なんなら証文を書いても構いません。私は本気です。本気で厚意で誠意で善意で忠告差し上げています。この街とあなた方、あなた方の親兄弟家族友人の平和を守るために」
「っ……本当だとして、命令は……」
「私は以前、別の転生者と会ったことがありますが、彼は能力を惜しみなく使い街を一つ簡単に支配してしまいました。嘘だと思うのなら最近ラタ市で起きたことを調べください。あれは転生者の仕業です。それと同等の猛威がこの街で振るわれれば、命令を出した市長はその後も命令者の位置にいるかわかりませんよ」
非常に不本意ですが、最終手段としてテーレさんに市長宅へお邪魔してもらうという手もありますし。語り手の視点を客観的にしているだけで噓はありません。場合によっては私が真実にするだけです。
「しかし……命令違反すれば、どの道、俺達は……」
「ならば、こうすればいいでしょう。テーレさん、そろそろ時間稼ぎはいいですか? ふむ、良い仕上がりです。ご覧ください、アーク嬢の今の顔を。市長の好みと合致していますかな?」
私の身体で隠していた背後のお二人を、兵士さんお二人に見せます。
すると、兵士さんは驚いた顔で口をあんぐりと開けました。
「その顔……さっきまではそんな痕……」
「それは、魔法か?」
驚くのも無理はありません。転生特典の能力によるものだとしても、テーレさんの技術は見事の一言です。
「暗くて先程はお顔がよく見えなかったのでしょう。ここは商会の壁のランプしかありませんから……この『火傷痕』を報告せずに連れて行き期待外れに思われれば、それこそ一大事でしょう。まあ、アーク嬢が街にいる間はこのままであれば、市長も手を出さないでしょうね」
私がテーレさんに渡したのは、化粧品セットです。
過去に美容にうるさい転生者でもいたのか、日本並みの道具が揃っていました。
後は簡単。
テーレさんに頼み、顔の肌の色を一部塗り替えて火傷痕に見えるように化粧をしてもらっただけです。
化粧とは女性を美しくも醜くもできるもの。
実際、人間の倫理が低下する戦争や災害の現場でわざと醜女を装って男の乱暴を防ぐというのは実際に用いられる方法です。
顔は女の命。アーク嬢には申し訳ありませんが、市長に捕まり旅が終わるよりマシでしょう。
それに、テーレさんもうまく傷物嫌いの貴族様が嫌うとしても一般人の方々から見れば痛々しくこそあれ恐ろしくはない程度にメイクしてくれましたし。私の価値観からすればただの個性の範囲です。商人としての評判が落ちるということもないでしょう。
「あ、えっと……この通り、私なんか使用人にしても見苦しいと思いますから、お引き取りください」
顔を見合わせる兵士さんたち。
数秒後、互いに頷き合って、彼らは私とテーレさんの手を握りました。
「ありがとう。俺達も本当は、こんな仕事したくなかったんだ。感謝する」
街の人々を護るべき仕事を続けるために、外から来る若い娘を半ば拐かすように市長に貢ぐのは、彼らにとっても苦痛だったのでしょう。
しかし、こうして誤魔化しの方法を知ったのです。ならば、これからは抗いようもあるでしょう。
「いえいえ、平和が一番ですとも。私は最初から、そう言っているつもりです」
さて……しかし、病巣は根本をどうにかしなければなりませんねえ。これは一度、市長のお宅にお邪魔してみるべきですかねえ。
side テーレ
「そんなことより、まずは魔法の基礎について予定通り修得してもらうから。手を出すにしても、お金が出来てからの方がいいでしょ?」
商会の客に向けて優先的に営業している宿屋。
一応、兵士に楯突いたことになるから割高だけど商会の勢力圏で市長がすぐには手を出せないここに泊まることにした。
ちなみに、ジャネットは隣の部屋。
どうせ、何かあったら守れって言うんだから、こっちの方が話が早い。
いきなり決戦突入しそうなマスターだったけど、やらせてたまるか。どうせ思い通りにはならないにしても、今度は徹底的に手を出してやる。
「まず、マスター。ちょっと両手見せてみ」
「はい」
「グーじゃなくてパー。手の平上」
「どうぞ」
『万能従者』の霊障治療師のスキルで見れば一目瞭然……魂がかなり灼けてる。
物理的な熱じゃないから普通の火傷みたいには皮膚の上からわからないけど、結構な重傷だ。
治りかけてはいるけど、痛まないわけはないはずなのにこいつ……
「手の平にルーンの火傷、それに指先が特にひどい……何も言わないから精密操作で自分は燃えないようにしてるかと思ってたけど、自分も火傷するほど熱いのに痩せ我慢してたの?」
「魔法とはそのように使うものではないのですか?」
「違うわ!」
本当に馬鹿だ。
もしかしたら、私の術式の話を聞いて魔法には代償が付き物みたいに思ったのかもしれないけど、少しは負担を減らすって発想をしてほしい。
さすがに人間も奇跡を安全に使うために魔法の改良は続けてるんだから。
「いい? まず、霊能系の魔法は確かに基本的に体内が起点なのは間違いないけど、誰もがそんな痛みを我慢しながら発動したりしない……っていうか、普通は火傷しないし痛みでイメージ保てないんだけど」
やってやれないことはないだろう。
でも、普通はやらないし、そんな状態の魔法を『使える』とは言わない。
「もう一度基本的なことを確認するけど、霊能系魔法は体内が起点っていうのは知ってるわよね? だけど中には体内で発動すると危険なのもあるし、出力の調整とかを間違えて害になるようなのをいきなり体内で発動させるのは危険すぎる。だから、魔法を使うならまず法具を用意するのよ」
と言っても、見せるのはただの木材の切れ端なんだけど。
これ自体はまだ、大したものじゃない。宿屋で貰った壊れたテーブルの脚でしかない。
「法具ですか。アーリンさんも言っていましたね。おそらく、魔法使いの杖の類いのことだと思いますが。言語としては先祖の霊やそれに対応する動物を用いた信仰上の象徴だと認識していますが」
「まあ、そういう認識でいいよ。要は、自分の身体に良く馴染む素材で作られた魔法の発動媒体のこと。増幅装置、制御装置、変換機、自己暗示のスイッチ、色々と用途はあるけど、霊能系の法具の基本形としてはこういう木材とかに自分の血とか髪の毛とか爪とかを仕込んで、『自分の身体』を拡張して使う。幻の火を灯しても熱くないし、今日マスターがやらかしたみたいに過剰出力で暴発したら危険な魔法はまず法具に効果を適用して丁度いい出力で安定させてから自分の肉体に適用する。特定の魔法専用に特化した法具も作れるけど、まず汎用型を使いこなせないと話にならないから」
才能と一致した魔法を鍛えるか魔力の扱いに熟練していれば、法具なんて用意しなくても道具一つ使わずワンアクションかノンアクションで魔法を使えるようになるけど、初心者はまず道具に頼るべきだ。
「霊能系は信仰のスキルが重要だから、杖じゃなくてもより自分の魔法の影響が伝達しやすい形、信仰する神様の加護が宿りやすい物品を使うのが大事。信仰の強さは信じ込む強さ、イメージの強さと直結するから。それから、単なるイメージだけじゃなくて法具に術式とかルーンを刻んでおけばいつでも一定の出力になるように設定することもできる。たとえば狙撃目的とかだとコンディションで弾速が変化すると困るでしょ」
「なるほど、把握しました。つまり、『その道具がその魔法を発動する媒体として適している』と認識できることが重要であり、さらに術式を刻んでおくことでその魔法の発動を補助する持ち運び式の魔方陣のように使うことができるということですね」
こういう理解は速いのに、どうしてこっちの気持ちはなかなか汲んでくれないのか。というか、そういうのをすぐに理解できるのに何で自分の指を燃やして魔法使うのが一般的だと思っていたのやら。
「とりあえず、今日はまた火を灯す魔法でまず法具を身体の延長として魔法を発動する練習。身体強化とかも教えたいけど、調節もうまくできない段階で半端に憶えさせて手足が自分の動きで千切れ飛ぶとか勘弁だから、まずはそこから。この端材に血をたらして、その血の上に火を灯してみて」
とりあえず、杖の先に火が灯せるなら松明代わりになる。それが幻の火だろうと押しつけた相手が火傷するほどのものならそれだけで武器として使えないことはない。
「あと、血を垂らすときちょっとこっちにももらうよ。髪の毛と併せて、基本的な法具も作っちゃうから。どんな形がいい? といっても、球体、棒状、平板とかって基本形状との相性もあるし最初はいろいろ試しに作ってみて、しばらく携行して様子見かな。回路だけ通るようにしておいて、一番消耗が少ないタイプが一番抵抗が少ない相性のいい形だから。それが決まってからそれに近い形で本格的なデザインを決めようか」
ちなみに、魔術系が得意な転生者はよく杖の代わりに拳銃とかを作りたがる。銃口から破壊力のある物体が飛び出すってイメージがしやすいからだろうけど。その他にも、弓だったり、剣に熱とか振動をまとわせたりする。
霊能系が得意な転生者なら、お札とか、藁人形とか、数珠とか十字架みたいな思い入れの強い、意味深なものを使うことが多い。
できれば、杖か指輪あたりだと助かるんだけど。
杖ならそのままでも武器として使いやすいし、魔法の媒体として使うだけなら指輪くらいが一番コンパクトで扱いやすいし。
「……テーレさん、話からすると法具というのは個人にとって最適な形が定まっているのですか? たとえば、メインアームとして杖を使っている魔法使いが、杖を失った時のために指輪の法具をサブアームとして装備しているというような場合もありえますか?」
「一応、そういうのもなくはないけど、法具は同じものを使い続ければそれだけ身体に馴染んで来るからいつも使ってるメインアームと比べたら不意討ち用に持ち歩いてるサブアームなんてそれほどの威力は出せない。まあ、一種類の魔法に特化して術式を刻んであれば話は別だけどね」
「なるほど、基本的には使い込むほど思い入れも強くなり魔法発動の感覚も調節されると。そのために、最適な形が決まっているというより使い込んでいる内にその物体で最高のパフォーマンスができるようになるために結果的に個人にとっての最適最強の法具が完成するというわけですね。そうなると、その法具を奪われたり破壊されたりすれば魔法使いにとっては相当な痛手になりますね。ふむふむ」
あ、また何か変なことを考えてるな。
まあ、自分が使って便利かどうかよりも敵に使われたらどうするかを真っ先に考えられるのは戦士として必要な能力だから悪いことじゃないけど。
あるいは……相手を殺さずに『無力化』するときのことを考えていたりするのか。こいつならあり得るな。
「とりあえず、簡単な魔法なら相性が多少悪くても変なことにはならないはずだから、この端材の先に火をつけてみて。ま、自分の身体を拡張するっていう感覚は結構コツがいるから最初は難しいかもしれな」
「できました。見てくださいテーレさん。これでいいですか?」
なんということでしょう。
ただのテーブルの折れた脚が、まるで昼間の太陽を直視した時のような閃光を放つ『聖なる棒切れ』に……
「ぎゃぁああ! 目が、目がぁああ!」
「法具を使う場合は加減しなくていいと言っても炎のイメージのままだと放射熱でまた火傷をしそうなので、光のイメージをより優しいものに調節してみましたが……テーレさん?」
「それ違う! もはやただの浄化の光! アンデッドとか悪魔を倒すやつ、とにかく光らすのやめっ、やめて! てかそんな眩しいものを持って『見てください』とか安易に言うな!」
「これは失礼。確かに明るくはありますがそれほど眩しいとは思わなかったので」
目が、ていうか精神が灼ける!
火傷に消毒液ぶっかけられたみたいにしみる! なにこれ、私天使なのにすごい辛い! 普通に悪魔退治で巻き添え浄化魔法を浴びたときはちょっと痒いくらいだったのに、人間体のせいか不意討ちのせいかめっちゃ痛い! 私天使なのに!
道具使っても普通に魔法使えないのか! この馬鹿マスター!
side ノーラン・エバンズ
この街の商会も駄目だった。
商人として、金に任せて探し回っても、肝心の品がなければ手に入れることができない。
こんな時は、所詮は町人でしかない自分の無力さを痛感する。
もしも私が冒険者なら、世界の果てまでも探し求められた。もしも私が優れた神官なら……
私の傍らで眠る妻の首筋、鎖骨のあたりを見るとますます惨めな思いがこみ上げてくる。
妻は呪いに侵されている。商売上で敵対した者からかけられた、致死の毒に近い呪い。胸から広がり、今は顔まで這い寄りつつ痣が脳まで届けば、妻の命は尽きる。
だから私は、妻を連れて方々を巡り、解呪出来る方法を探した。
厄介なことに、商売敵は遺跡から偶発的に発見された呪いを使っていたらしく、その詳しい製法も解呪の方法も失伝している。
神殿にも当たってみたが、高位の聖職者は未知の呪いには易々と手を出そうとしない。
悪質な呪いは下手に手を出して解呪に失敗すれば解呪を試みた者にまで影響を与えることもある。普通なら、死に至った犠牲者の遺体を詳しく調べ、そこから解呪の方法を模索するのだ。
たった一人だけ、確認された最初の症例。妻に彼らが触れるのは妻の魂が天に還ってからだろう。
「すまない……もう、見えるところまで広がってしまったな。服で隠すのも限界か……明日、新しい化粧品を買おう」
妻が痣を隠そうと持ってきていた化粧品は色が薄く、日に日に濃くなっていく呪いの前には役に立たなくなってきていた。ケバケバしくはなるが、新しいものが必要だと思ってはいた。
だが、手放すのは少し早かったかもしれない。
失意のまま商会から出てすぐ出会った男に、人助けに必要だとまくし立てられた妻が小銭と引き換えに譲り渡してしまった。
妻としては、呪いを隠せない化粧品など持っている意味もないとまた希望を挫かれたことによる諦念からかも知れないが、私はそれがショックだった。
私は妻がお気に入りの化粧箱で自身を磨きあげる姿が好きだった。
また、痣を隠すためなどではなく、自身を美しくするためにウキウキと鏡に向かい合う姿を見られたらと思う。
ああ……駄目だ。
こうなるとわかっていたらなどと考えても意味はない。
マイナスに考えるな。希望を捨てるな。
この際妻を助けてくれるなら誰でもいい。幸運の女神だろうとなんだろうと構わず祈ろう。
幸運の加護が善行に報いる形で現れるというのなら、妻の化粧箱はただ手放したのではなく幸運と交換したと思え。幸運が、妻が助かる道がどこかにあると信じなければこの旅を続けられない。
幸運が、きっと……
「っ! うおっ!?」
突然、天井が激しく光った。
いや、天井の板を透過して光が差してきた?
上の階で誰かが魔法で馬鹿でもやってるのか?
「誰だ! 病人が眠っているというのにこんな眩しくしおって! 大丈夫……か……あ、痣が……」
痣が消えていく。
これはもしや、解呪の光……それも、極めて強力なもの。
妻の痣が、呪いが消えていく。
これは奇跡か……いや、これこそ、探し求めた奇跡ではなく、もたらされる幸運。
きっと、上の階では誰か高名な聖職者が、重い呪いを解くために魔法を使っているのだろう。これはただの余波。誰かが意図したわけではない、本物の幸運。
光を浴びた時間は短く、痣は完全には消えなかった。
だが、目に見えて弱まった呪いの解呪法はきっと見つけられる。何より、この呪いは解けることがわかったのだから。
「ありがとう……誰だか知らないが、本当に、ありがとう」
この街に来て、この宿に泊まって、本当に良かった。




