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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
一章:招かれざる『転生者』
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第1話 転生処理

 今作の主人公は『共感して楽しむ』タイプではなく『見て楽しむ』タイプの主人公だと思います。

side ■■■■


 ついてない人生でした。

 いや全く、これでも努めて善き人になれるように、うまくやろうと真面目に頑張って生きてきたつもりでした。


 まあ、失敗ばかりでしたが。

 どうにも人付き合いや交友というものが上手くできないものでして、他人のためになることなどわからず、何かお手伝いをしようとしても邪魔になってばかり。


 そして、この最期。

 卒業研究の合間の企業説明会の帰り、電車を待っていたら酔っぱらいのケンカに巻き込まれ……というか殴られた課長さん(口論の内容から推定)に押し出されて電車の迫る駅のホームからダイブとは。


 これは無理ですね。

 ホームとの隙間に逃げ込む暇とかないですね。


 ああ、やだやだ。

 本当についてない。

 本当に……


「俺、そんなに悪いことしましたかねぇ」









「誠に申し訳ありません! 手違いです! ■■さんは何も悪くありません! 担当者に代わり謝罪します! ごめんなさい!」


 気付けば何やら真っ白な部屋にいました。

 目の前で何故か年端もいかない少女が猛烈に謝って来るんですが、外国の子ですかね。夕焼けのような綺麗なオレンジ髪です。


「おっと、これは失礼しました。どうやら白昼夢を見ていたようで、話を聞いていませんでした。駅のホームから転落してしまうという突拍子もないどうでもいいような夢を目の前の方より優先してしまうとは本当に申し訳ない。ついでに言えば、ここに来るまでの記憶がないのですが、もしやお酒か何かで前後不覚になり不法侵入してしまったのでしょうか。驚かせてしまったならこちらこそ謝罪します」


 アルコールは飲まないので前後不覚になったことはないつもりですが、話によると記憶が飛ぶと言いますし飲んでいないとも断言できません。酩酊後の覚醒とはこんな感覚なのでしょうか。


 というより、そもそもお酒を疑うならホームからダイブしてしまったこと自体が幻覚か夢だと判断するべきでしょう。現に今は五体満足ですし、あれは夢幻だったと考えた方が妥当性がありそうです。

 リアルな夢でしたが、夢は所詮夢。痛みがないので痛そうなシーンの直前で目覚めるというのはよくあることです。


「ち、違うんです! ここはいわゆる死後の世界で、あなたは本来ホームに落ちるはずだった男の人の身代わりになってしまって、電車に身体を強く打ち付けて……」


「身代わりということは、あの人は助かりましたか。それは良かった……うむ? すみません、何故私の見た夢の内容を知っているんですか? もしや……」


「そ、そう……私はあなたたち定命の人間が呼ぶところのか」


「これは夢から覚めたと思ったらまだ夢という二段落ちですか。なるほど、ではもう一度起きなくては」


「み様なんですけど、話聞いてますか!? なんかこの人すごい丁寧なのにマイペースなんですけど! スルースキルが嫌に高いんですけど!」


「これはまたしても失礼しました。我が深層心理の具現様……まさかこんな姿になりたい願望があるとは、我ながら驚愕でして」


「私はあなたの妄想じゃないんです! もうやだこの人!」


 おっと、少女が泣きそうな顔をしています。

 夢の中とはいえ、子供をいじめてはいけませんね。


「そうですね。こうして対面して対立構造をとっている以上、この表面的な『私』と『あなた』は独立した別の意識として見るべきでしょう。人間には潜在的に『異性としての自分』という意識があると言われますし……」


「あなたは死んでしまったのです! そして私は女神であなたの魂を預かるものです! 夢でも何でもいいからちゃんと話聞いてください!」


 ……はい?

 私が、死んでしまった?

 いやいやいや、あれは悪い夢のはず。でなければ今ここに五体満足でいるというのはおかしく、いやそもそも本当に五体満足ですか?

 電車なんかに轢かれたらきっとバラバラの肉塊に……


「うぉわっと! ちょ、勝手に昇天しようとしないでください! 話を最後まで、ちゃんと終わりまで聞いてください!」


『ああ、本当についてない人生でしたなぁ……』


「て、転生できますから! 手違いした分補償しますから! 勝手に消滅されると気に入らない人間を転生させずに抹消したことにされてしまいますから!」


『……つまり、濡れ衣で、そちらが、困ると?』


「そうですだから」


『ではとりあえず話だけでも聞きましょう」


「のわぃ! あ、はい。ありがとうございます。では、説明しますね」



 自称神様は慣れていない様子でしたが、説明からは大変な努力と誠意が感じられました。

 なので、説明はなかなかにわかりやすいものでしたが、その内容をさらに纏めさせていただくと主に次のことを言っておられました。


①神々の世界(どうやら神様は複数いるようです)では、我々人間のいるような世界を管理する職業があるそうですが、その内ミスをする者がいると予定外の人間が早く死ぬことがある。


②個々の人間がどうなっても神々の世界にはあまり影響はないものの、世界の管理自体はとても大切な仕事であるためミスを減らすためのペナルティ、それと同時に迷惑をかけた人間への謝罪の意味で転生という処理を行う。


③この転生という処理は主に対象者の信仰する神かその従属神とされる神が行うものの、私は特に宗教的な信仰対象が定まっていなかったため、異世界の神であるものの信者の少ない目の前の少女神が担当することになった。


④信仰は神々にとっては電気や石油のようなエネルギー資源として重要であるため、信仰者の多い神はそれだけ力を持つ。慣例的に転生者には補償の一部として優れた能力を与えて自身が信仰されている世界へ送り込み、神威の証明として奇跡を起こさせる。



「つまり、創作でよくある転生と似たようなものですか?」


「はい、そもそもあれを書き始めたのがこの手の説明の簡略化のためにと頼まれた転生者で……まあ、理解していただけたなら何よりです」


「理解はしました……しかし、納得はできませんね。いや、正直に言えば死んだと言われてどこかホッとしていた部分もあったのでまた別の世界で生きろと言われても困ります。あと、■■と呼ぶのはやめていただいていいですか? 先祖と親からもらった名前は一生ものですから。転生であれなんであれ一つの生を終えた私はもう『■■■■』を名乗ることはありません。名は体を表し魂を縛るものですから。しがらみと言いますか、その名を呼ばれる度にもう会えない家族や知人を思い出して辛い、かもしれないので」


「ごめんなさい。そう……ですよね。本当に、こちらの勝手な事情なのはわかっています。いくら能力を与えられても、だから感謝してくださいとか、虫が良すぎますよね」


「はいまあ、その通りです。神様に対して嘘を口にするというのも罰当たりですから正直に言いますが、生きるというのは辛いこと。偶然にしろ人を助けて代わりに死ぬ、しかも死を自覚することのないほどの即死となれば私なんぞの人生にしてはそれなりに上々な幕引きです。ここから先は蛇足というもの。異世界とやらで勝手に祀り上げられて御使いを名乗れと言われてもモチベーションが上がりません」


「わかります。勝手に祀り上げられて、挙げ句の果てに女神様なんかになっちゃって、先輩たちからは計算高い腹黒女なんて言われて、私はそんなつもりなかったのに……」


 おや、少女神の表情に陰が。

 どうやら、神様も苦労というものと無縁にはなれないようですねえ。


「これは申し訳ない。あなたがこのシステムを作ったわけでもないのにこんなことを言っては八つ当たりもいいところですね。あなたはただ、私という厄介なひねくれ者を押しつけられただけですし」


「それは違います! 選ぶ過程は色々ありましたが、ちゃんとあなたの人生を見て、納得して担当を請け負いました! あなたの人生は本当に素晴らしいものでした!」


 ……はい?


「いま、なんと? 私の人生を見て、素晴らしいと?」


「はい、『幸運』と共に『善意』を司る私にはわかりますよ。あなたは理解されなかっただけで、本当はとっても善い人、より善き人になろうとしていると。だからこその、あの最期であったことも」


 困ったような、しかし作りものではない微笑み。

 まるで、テストやスポーツで努力したにもかかわらず本番で勝利には至らなかった弟子に『頑張ったのに、残念だったね』という師のような、気遣いがありながらも結果を否定しない言葉。

 これは……経験のない、感覚です。


「そんな、ことは……私は、他人(ひと)に褒められるような人間では……」


 本当に、生き方を褒められたことなどありませんでした。

 それどころか、いつも失敗ばかりの人生でした。

 昔から不器用で、態度ばかり丁寧になって、周りに馴染めなくて、笑顔で取り繕って。

 皆からは大人に媚びていると言われたり点数稼ぎと言われたりして、母からも融通が利かなさすぎると言われるだけで……


 こんな私の人生が、素晴らしいはずが……


人間(ヒト)が褒めなくても、(わたし)が褒めます。何せ、私は女神ディーレ。見返りも名誉も求めない、飢えた旅人に食べ物を分け与えるような些細な善行を見届け、その報酬としてちょっとした幸運を与えるというだけの、ちっぽけな女神ですから。信仰されていない世界とはいえ、あなたのような方が報われずに最期を迎えてしまったことは本当に悲しいことです……どうされました? 俯いて……」


「お、お……」


 私の人生が『素晴らしいもの』であったと。

 私の人生を見通して、その上で……あの死に様すらも哀れだとは思わないと?


 それはなんとまあ……私のような人間の一生などお見通しというかのように上から目線で、神様らしい評価でしょうか。

 それをまあ、なんと軽々しく、気安く口にするのでしょう。


 そんなことをされては……私の人生は……


「あの、どうしたんですか? 急に涙を零して、もしかして致命傷の痛みがぶり返したり……」


「ぉお! 神よ! 女神ディーレよ!! 私はずっと(あなた)にお目通り叶う日を待っていました!! あなたの瞳を、あなたの観測を待ち望み、それだけのために生きてきたと言っても過言ではありません!!」


「うひゃい!」


 『私の人生は報われた』と言わざるを得ないではないですか!

 よりにもよって神から直々に、あんなにも自然に、笑みまで添えてあのような評価を!


 ああ!

 今日は私の生きた中で最高に素晴らしい日です!

 死んでしまったことなど取るに足らない、私の永久記念日です!

 探し求めていた人生の意味が、価値が、空白が、ようやく満たされたのです!


 ああ、報われずに最期を迎えたなどと、そんなことはありません!

 たった今、報われたのです!

 私はずっと待っていた、望んでいたのです!

 『損な生き方』でも『不器用なやつ』でもなく、『素晴らしい』と!

 幸運の女神が、私の人生がついていなかったのが手違いであったと、幸運を得るに値する行いをしていたのだと、認めてくださった!


 ああもどかしい!

 この感動を感情を、全て言葉にできない自分がもどかしい!


「神よ! 女神ディーレよ! 今までの無礼をお赦しください! そしてこの言葉にできない感謝を受け取ってください!」


「は、はい! う、受け取らせていただきます!」


「神よ! 私は、私は愚かでした! こともあろうに私は、あなたの存在を疑って生きてきた! 疑いながら、見返りを求めていたのです! それが今、(あなた)が私の人生を肯定してくださったことで、全てが報われた! 浅ましく、疑いながらも褒美を期待した私に、あなたは寛容に祝福をくださった! 素晴らしい人生だったと、褒めてくださった!」


「そんな大袈裟な! 私はただ当たり前のことを……」


「そして私は現在進行形であなたに命を救われているのです! ああ、なんということでしょう! 私の今までの人生で行ってきた善行では返しきれないほどの大恩を受けてしまった! 私の次の生、その全てを女神ディーレに捧げます! どうか私があなたを信仰することをお許しください!」


「あ、は、はい。入信は大歓迎です。では、転生先の説明と能力の選択を……」


「この上で能力など受け取れません! 先程神は仰せになった。あなたはささやかな善行とささやかな幸運を司る謙虚な神、その名を広めるために大きすぎる力を振るっては、女神ディーレの司る本来の意味は忘れられてしまうでしょう。私は、能力などいりません」


「え、えぇぇ……いえでも、規則なので何か能力にあたるものは与えなくては」


「では、神との通信手段とこれからもお話しする権利をいただくというのはどうでしょうか? もちろん神からも気軽にご連絡くだされば申し分ありません。何か私の振る舞いが女神ディーレの不都合に繋がるなら……」


「そんなわざわざ特典扱いにしなくても……」


「一言お声掛けを受ければ、私は速やかにこの命を返上しましょう」


「とりあえず第二の生は命を大事にしてください!」


 おお、なんと優しきお言葉。

 本来なかったものだからと粗末に扱わず、神にもたらされた幸運を感謝するべきという深い思慮が感じられます。これは訓戒として記録しておくべきでしょう。


「どうしましょうこの人。私は転生手続き初めてですけどこんなに難しいんですか? 先輩方は『日本人は能力渡しておけば後は適当に自分でやってくれる』なんて言ってましたけど、勝手に能力決めて渡しちゃダメですよねさすがに。でもこのままだと本当にただの通信機能になっちゃいますし……」


「ディーレ様!」


 おや、急に新しい少女が現れました。

 さらさらとした金色の髪をした見目麗しい少女です。振る舞いからして女神の配下、つまり天使のような存在なのでしょう。翼と光輪もありますし。外見的にはディーレ様とほぼ同じ十歳前後ですが、口調もとてもはっきりしていますし人間と同じように見るべきではないのでしょうね。


「テ、テーレ? まだ転生手続きの途中なので他の仕事はもう少し待って……」


「その転生についての話です。この者の転生特典……私に任せていただきたいのです」


「え、え、どういうことですか?」


「私が転生特典として同行します。武器や従者の特典は前例がありますし、ディーレ様のご意志を私が伝えればこの者の希望とも矛盾しないでしょう」


「それは確かにそうですが、何でテーレが」


「ディーレ様は無防備過ぎるんです! こんな男と簡単にアドレス交換なんてしたらストーカー化待ったなし、必要もないのに届く長文メール、数日間返信しなかっただけで届く質問、脅迫の文章。うわああ、思い出しただけでも鳥肌が!」


「テーレ、まだこの前の出張でのことトラウマになってるんですか? さすがに、そんな心配しなくても……」


 おお、女神ディーレよ。

 そんなに目を泳がせてどうしたのですか。


「……申し訳ありませんが、私にも普段の仕事があるためいつでも連絡が取れるわけではありません。ですので、連絡は基本的に彼女を通します。このテーレの言葉を私の言葉だと思ってください。地上ではテーレは人間と同等の存在になりますが、能力は標準的な人間の持てる範囲内で最高水準になります。きっと、あなたの第二の生の助けになるでしょう。きっと……たぶん……おそらくは……あなたの心強い味方になってくれる、はず、です。テーレはちょっと口は悪いかもしれませんが、私の部下の天使の中では一番現世での仕事に慣れている子なので」


 なるほど、転生の同行者としては最も適任な天使様ということですね。

 ふむ、しかし何故だか不確定性を示す単語が重ねられていますが、そも未来とは不確定なもの。利用規約の『不測の事態がありうる』という但し書きのようなものでしょう。『幸運』を司る女神が言うのですから、不要に不安を抱くのは失礼でしょう。

 それに……ええ、悪くありません。意見がハッキリとした方は嫌いではありません。


「わかりました、では転生特典は女神ディーレのお勧めくださった通りのもの、ということで。テーレ様、よろしくお願いします」


「…………言っておくけど、形式的には従者としての同行でも、私の主はディーレ様だけだから」


 ディーレ様は私など及びもつかない理想の主だということを端的に表現してくださるテーレ様。ディーレ様に命を拾っていただけた幸運を再確認させていただけるとは、とても親切なお方な用です。


「わかりました。では私はあなたをディーレ様の代理として、ディーレ様にするように崇拝し、敬いましょう」


「それはやめて。一応従者扱いでもあるからもう少し軽くして」


「ではディーレ様に仕える者、崇拝する者としての大先輩として敬います。どうぞよろしくお願いします、テーレ先輩」


 跪き、友好の握手を求めます。

 本当なら爪先に……いえ、手の甲にキスくらいはしなければいけないかもしれませんが、それではどちらが従者かわからなくなってしまいますので、テーレ先輩にとっても本意ではないでしょう。


「この人めげない。ちょっと怖い」


 テーレ様。いえ、テーレ先輩は少々躊躇しながらも、私の手を握り返してくださいました。


「では、転生特典はテーレの同行でいいんですね? 転生先の世界の詳細は現地でテーレから聞いてくださればここで私が話すよりわかりやすいと思います。ではどうか」


 女神ディーレは、私に向けて彼女が司るものに相応しい、慈愛に満ちた微笑みを送ってくださいました。


「To be next life! よき人生を!」










side ディーレ


 ふう……テーレのおかげでなんとか転生手続きは完了したみたいです。

 こちらの仕事からテーレが抜けるのは痛いですが、彼女のことです。長期の出張を自分から申し出るなら、先に引き継ぎや人員補充の手配は済ませているでしょう。割と他の部署の天使さんたちと交流ありますし。


 それよりも、心配なのは……


「異様にマイペースな方でしたが、彼は異世界で生きていけるのでしょうか?」


 テーレがいるから最低限の生活は問題ないと思いますが、そもそも転生者は安全な世界に慣れすぎて反則(チート)と呼ばれるような能力がなくては他の世界で生きていくのが難しいことがほとんどなので、すごく心配です。

 彼の場合、プロの狩人や武術の達人だったわけでもないはずですし。


「ディーレ様! 転生者のステータスについてですが……もう、送り出してしまったんですか?」


「あ、ターレ……ごめんなさい。もう送っちゃいました」


 ターレは私の部下の天使の一人です。

 彼女には先程の転生者についての詳細資料をまとめてもらっていたのですが、思ったより時間がかかってしまったので先に転生手続きを済ませてしまいました。犯罪歴などはありませんでしたしステータスは現世で調べられる情報なので、問題はないかと思ったのですが……


「何か問題があったんですか?」


「いえ、問題というか……彼の生前のスキルを測定した結果、一つだけ数値がひどく不安定で計測困難なものがありまして、確認のために時間がかかってしまいました。それがたった今、異常な数値で安定したので報告をと……」


「異常な数値のスキル? つまり、情報にはなかったけれど、彼は世に出なかった才能を持っていたということですか?」


 転生者には、こういったことは割とよくあるらしいです。

 たとえば、魔法のない世界で生まれ育った人間でも、ずば抜けた魔法の才能を持っている場合があり、それを知っていれば転生先の世界では魔法を集中的に学び、天才魔導師として大成することもあります。


 そういった才能の発見ができるのも転生者のメリットだと言えますが、それを指摘するのは生き方をこちらで指定することにもなりかねませんし、それ以前に極端なステータスの発見は稀なことなので手続きではわざわざ言及しないこともあります。

 今回はその慣習が悪い方に働いてしまいましたね。


「彼に飛び抜けている才能があるならテーレを通じて伝えるべきですね。それで、彼にはどんなスキルがあるんですか?」


「それが……前例のないことで、信じられないのですが……」


 ターレの見せてくれたステータス表には、棒グラフ形式で一つだけ飛び抜けて、枠の端まで届いてるものが……つまり、カンストしているスキルが一つだけありました。

 それは……


『スキル:信仰 LV:999』

『信仰対象:なし→幸運の女神ディーレ』


 心から信仰する宗教も神もなし……これ自体はこの世界へ送られる転生者候補の多くを占める信仰的中立地帯『日本』なら珍しくはありません。

 神々の干渉が少なく魔法が普及していない世界では『信仰』というスキルは極める価値があまりないと言われています。職業が宗教関係者でも信仰心の強い人より政治的な才能がある人の方が出世しやすいですし。そもそも日本では信仰に関連する職業自体が一般的とは言えないはずです。


 しかし、信仰対象がないにも関わらず、信仰のスキル値がカンストしている。これはつまり、日本において今までは誰にも負けないほどの信仰心を持ちながらも、信じるべき『神』を見つけていなかったということになります。


 しかし、彼は先程、『神』を見つけてしまいました。

 行き場のなかった彼の信仰は、私に向けられてしまいました。


「な、何事もなく平和な一生を過ごしてもらえたらいいですね……」


 私は全知の権能なんて持っていないちっぽけな女神ですが、この祈りが叶わないことは何故か手に取るようにわかってしまいました。


 この男チョロい(神様限定で)。

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― 新着の感想 ―
やばい狂信者が爆誕してしまったww. 幸運の女神様、めっちゃいい神…こりゃ信者になりますわ
[良い点] 常識人っぽい感じのいい人がなんでタイトルみたく狂信者なんかに?って最初思ったけど途中から雲行き変わったな笑ボルテージ上がりすぎて怖い笑
[良い点] 善き人が良き人かと言われると……… 振り切ったLOWは怖い
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