第184話 不器用な豊穣神
side 狂信者
はてさて、事が終われば事後処理のお時間。
というか、テーレさんのお説教のお時間です。何をしたかと訊かれたら答えないわけにはいきませんし。嘘をつくわけにもいきませんし。
さすがに熱気の籠もったあの場所に留まっていては熱中症になるので冷えた場所まで脱出したら体力がちょっと限界まで来てしまいました。
念のために脱いでおいたスータンの上に日暮さんを横たえたはいいものの、私も動けなくなったので隣で仰向けで倒れているような状態です。
「【過剰回復】を三回……寿命にして十五年程度の消費ですか。まあ、見積もりより少なく済んだということにしておきましょう。ついでに銃痕も治りましたし」
日暮さんの放熱によるダメージもそうですが、ゼットさんに支払った分の失血も馬鹿になりませんねえ。ドラゴンさんとの綱引きで無理をしたことによる銃創の悪化、日暮さんの守護者、ゼットさんの使役コストで死因三つと考えれば順当ですか。
ゼットさんには、『自己保存』の範囲を周囲に拡張し環境を維持するための術式を展開してもらいました。
火山地帯に来るということで毒ガスや火砕流の対策として防護服代わりになるかとテーレさんに術式を教えてもらっておいたのですが、やはり如何せん出力に応じて血液消費が激しくなるというのは厳しいですね。それに、今回はそれでも防ぎきれていませんでしたし(最低限魔法発動に必要な呼吸器系を守れたので大分マシでしたが)。
「血液もある程度ストックして持ち歩くべきですかね……っと、ライリーさん、どうですか? 日暮さんの精神は」
『大丈夫だと思う、前に来たときとそんなに変わらないし……少し変わった部分もあるけど、悪くなった感じじゃないから』
「それはよかった。調べるのに熱中しすぎて防衛反応を起こさせないように気を付けてくださいね」
『うん、わかってる。あんまり動き回って夢に残っても困るもんね』
ライリーさんには以前、日暮さんの精神面に直接干渉(といっても夢の内容を変える程度ですが)を行い能力の制御を行えないかという試みのために彼女の精神に入ってもらったことがあるので、今回のことがPTSDなどに繋がるような痕跡がないかを調べてもらっています。
もしあれば『癒し手』の手を借りなければなりません。まあ、以前はそもそも触れなかったので、問題解決自体には使えない手でしたが……
「今のあなたなら、もう心配はいらないでしょう。ちゃんと、ああやって怒ってしまっても、大事なものは燃やさずにいられましたから」
実は日暮さん、怒るのに夢中で気付いていなかったようですが、さすがの耐火素材も限界があったのか、服の大部分が灰と化してかなり大胆なファッションになってしまっています。
具体的にはちょっと最低限隠さなければいけない部分にも大穴が空いてしまっているので私のスータンの袖を置いて隠してあります。あの轟炎の中で原形を保っているだけでもその職務精神を讃えるべきでしょうが、もうこの服での旅はできないと思います。
しかし、その惨状でもほとんど無傷で残ったものがあります。
実験で贈呈した銀貨のネックレスと、テーレさんの髪留めです。
意識的にも無意識的にも燃やすべきでないとわかっているものは、身に付けていても燃やさずにいられる。あれだけ激昂しても燃やさなかったこれらを証拠として見せれば、これからも身に付けたものを大事にするコツがきっと掴めます……女の子らしい、自分の着たい服を選んで着るという楽しみ方もできるでしょう。もう既に、プラシーボ効果すらいらないかもしれません。
「私の寿命のことは……まあ、心配しないでください。お酒もタバコもしていませんし、鍛えてますから。老年期が減ってピンピンコロリと逝くだけです。それに……誰も受け止められなかった、日暮さんの十五年越しの世の理不尽への怒りや苦痛、悲しみや憎悪。それを受け止めるために私の未来の十五年を使った……それだけのことです」
『触ってほしい』と言われましたからね。
触れさせてほしいのではなく、相手から触ってほしいと。
結局の所、それが彼女の真の願いだったのでしょう。
「病気を理由に腫れ物扱いされていたら……そりゃ、そういう願望もわきますよ」
日暮さんの周りの方々も、彼女を煙たがっていたわけではないでしょう。病気を移されるのが怖くて触らなかったわけではないでしょう。
むしろ……怪我の一つでもさせてしまったら、それが死の危険に繋がるかもしれない。面と向かって語らうだけでも病原菌を吸わせてしまうかもしれない。きっと、そういった心配もあったのでしょう。
脆いからというだけでなく、可愛いからこそ触れられなかった部分もあるのでしょう。超高級の芸術品のように、触れないことも愛情表現の一つだったのでしょう。
寝顔を見ていてそう思いました。
「抱き締めてもらった記憶がないから、どれだけ強く抱き締めたらいいのかわからなかっただけかもしれませんね。これからは、その勉強です。今は日暮さんの方が気を付けて触らないといけない立場ですからね。距離感やよりかかり方も、私はそういうのが下手なので練習相手になるかわかりませんが」
そういえば……あの夢の中で、小柳さんと話をしましたね。
快適な距離によって親しさを定義する場合、互いに手を伸ばせば届く距離なら友人、片方が少し手を動かせば届く距離まで許されるのは恋人や家族だと。
日暮さんの火は近付きすぎれば熱く火傷してしまいますが……適度な距離であれば、存外に心地よいものでしたねえ。彼女が真に心を開けば、もしかたら直に触れたとしても……
「まあ、それは今度の実験で確かめるとしましょうか。その前に、スカウトの話がまだ途中でしたかね。そして、さらにその前にテーレさんのお叱りを受けて……はは、やることが山積みですし、その前にちょっと寝ておきますかねえ」
ちなみに、この少し後。
半裸の私とあられもない格好の日暮さんが並んで眠っているのを見たテーレさんが顔を引き攣らせて苦笑を浮かべていたのは、よい思い出ということにしておきましょう。
side 日暮蓬
久しぶりにこの顔を見る。
麦穂頭の巨乳女神……豊穣の女神『アルファ』。
私の転生を担当した、私に『守護者』を与えた神様……ここ最近は夢にも出てこなかったから、とうとう見離されたかと思ってた。
「何しに来たの? 今更になって」
『仕様です。私はヨモギが会いたいと思えば来ますから……この前、とある人間から「子供の構い過ぎはよくない」と教わったので控えていました』
「気を遣うところが違う気がする!」
機械みたいな一辺通りの返事しかしないと思ってたけど、見ない間にそんな距離感のわからない母親みたいな勉強をしていたとは。
もしかしてこの女神様は私を馬鹿にしてたわけじゃなくて……
「女神様は……わかってたの? 全部、私の心の問題だって」
『はい。私は守護者を制することができるのはヨモギの精神だけであると回答しました』
「わかりにくいよ……もっと、苦手意識を乗り越えろとかさあ……」
『……なるほど。学習しました、そのように表現すべきだったのですね』
「三大女神の一角がこれってこの世界どうなの」
『人間の言語というのは情報伝達の方法として不完全なのだと弁解します。思考情報を直接共有した方が確実性が高いのに』
「いや、それ人間にできないから」
『はい、以前の担当転生者にも「頭を弄られているみたいで気持ち悪いからやめてくれ」と言われたので……その次の担当転生者であるヨモギからは、適切な表現が特定できないことが多々ありますが言語伝達に切り替えました』
「……選べるようにしたら?」
『………………なるほど、マニュアルの改訂を検討します』
「気付かなかったの……」
そんな簡単なことに気付かないとか誰かに相談は……それは、私が言えることじゃないか。
コミュニケーション不足は私も他人のことを言えない。言葉足らずの女神様と、ちゃんと質問せず怒るばっかりだった私。そりゃ、上手く行かないわけだ。
けど……
「……ありがとうね、私の願いを汲んでくれて」
『仕様です。神様ですから』
私も自覚してない願い。
それは『治りたい』じゃなくて、『治してほしい』だった。
私のために死んでほしいわけではないけれど、私を治すために死ぬほど全力で向き合ってほしかった。
もしも、何の問題もなく使えてしまう転生特典をもらって、無理矢理にでも身体のことを理解させられてたら……私のこの気持ちは行き場を失っていた。
思考に直接働きかけたりできる神様なら、死ぬ気になんてならなくても、簡単に解決できてしまった。だからこそ、私の本当の願望を叶えるためには『持て余すような転生特典』を与えるしかなかった。そういうことなのだろう。
それでも、もう少しアドバイスくらいはあってもよかったと思うけど……丁度いい助言とか、難しかったんだろうな。
『ヨモギ……質問です。私のことを、嫌いだと思っていますか?』
「なにその質問……ちょっと前までなら、嫌いだったかもしれないけど……今はまあ、そこまでじゃないわよ。だって……一応、第二の人生くれたわけだし」
『そうですか……では、嫌なら言ってくださいね』
突然……全身が柔らかなものに包まれたような気がした。まるですごいフワフワのクッションの中に落ちたみたいな、そんな感じ。
けど、少ししてそれが、いつの間にかすぐ目の前に移動していた女神様の身体だと気付いた。
「え……」
「なるほど……情報精度に難はありますが、こういった原始的な伝達手段も悪くありませんね。よいことを学習しました」
「な、なんで……」
いつものように、頭に直接語りかけてくる声じゃない。いつものように、次元の違う存在みたいな、そこにいないみたいな雰囲気じゃない。
優しく……少しだけ痛く……少し弱めて。
私の反応を見て調節するように、私の身体に手を回して、力を入れる。その、仕草はまるで……
「な……なによ、いまさら……母親みたいに、愛してくれるなんて」
「最初から、私はヨモギを我が子のように愛しているつもりですよ。けど、言葉にしても伝わらない気がしたから……そう、触ってほしかったんですね。触ればよかったんですね」
「もう……馬鹿みたい。こんな相手に意地悪されたみたいに思って、勝手に怒って、拗ねてたなんて……ほんと、子供みたい……」
「ダメな豊穣神でごめんなさいね。私、『神様』なのに、人がどうしたら幸せなのかわからないから、時々でいいからお話して、教えてほしいの……ちゃんと私を怒ってくれるあなたの言葉を頼りにさせてほしいの」
包み込むと同時に縋るように。
大切な宝物を手放さないように。
威厳や尊大さを放棄して、まるで意図せず養子を引き取ることになってしまって手探りで向き合い方を見つけようとする母親のように、力加減を探りながら私を抱く。
「私はあなたの幸福を願ってるわ……大好きよ、ヨモギ」
『脱穀機』を象徴に持つ、麦穂頭の女神様。
技術の発展や量産を司る、文明の守り神。
人を養い育てるために必要なものを効率的に造る神様で……『子供を抱きしめる』なんて当たり前のことをロストテクノロジーみたいに語る女神様。
どこかがずれていて、人の温かみとかがないと思っていたけど……冷血なわけじゃなくて、どうやってその熱を伝えたらいいかがわからなかっただけなのかもしれない。
だとしたら……私も、よく知ってるわけじゃないけど。
どうしてほしいのかって言うだけなら、構わないよね。
「ダメなんかじゃない……だから、もっとギュッとして……もうちょっとだけ」
side テーレ
今回のことの顛末を説明するなら、私が最適だろう。
何せ、本当の意味で暴走して精神力を使い果たした蓬と、アホみたいな馬鹿なことして自ら寿命まで縮めたというマスターは互いに睡魔と疲労感でろくに動けず、事後処理はほとんど私が全部やったんだから。
まず、町の人間とのイザコザについてだけど、ボロボロになって町の上を逃げるように飛び去っていくドラゴンが目撃されたことで『町を襲おうとしているように見えたのは転生者の少女が町を襲おうとしていたドラゴンと毎夜戦っていただけだった』という作り話を無理やり通すことができた。
私はマスターと違って嘘が口にできないわけじゃないし、実際に最後の投石はおそらくドラゴンを察知して撃墜するためのものだったのだろうと思う。
もしかしたら、実験の時の投石も……視点が高くなって視野が広がったから、そこに隠れていたドラゴンを見つけたからなのかもしれない。
もちろん、そのドラゴンがおそらくはどこかの転生者の乗騎だったのだろうということは言わないでおいた。話がこじれるし、転生者が複数関わった被害報告とか神殿の方でも扱いが面倒になる。
レアなはぐれドラゴンが獲物の少ない山中でろくな戦力もない町を見つけて襲おうとした、それを感知した転生者がドラゴンを待ち伏せしようとして町に入ったけど、町の住人は話も聞かずに彼女を追い出し、彼女は一人山中で何日も睨みを利かせてドラゴンから町を護っていたけど、空腹に耐えかねて襲いかかってきたドラゴンと直接的な戦闘に入ったのが『暴れる魔人』が目撃されるようになった数日前からの話。
そして、とうとう町を直接襲おうとしたドラゴンを追い払うために投石(ちゃんと投げられた岩が町の外にぶつかった跡をみせてやった)。
それなのに町の人間は全てを余所者のせいだといって彼女を追い立て、失意の蓬は山奥で倒れるまでドラゴンと激闘を繰り広げ、二度とドラゴンが戻ってこないように痛めつけることに成功した。
マスターも冒険者としてそれに協力して、町人に拳銃を撃ち込まれた傷が開いて共に倒れた。
そういう筋書きにした。
美談もいいところ、蓬の暴走もやつあたり同然の破壊行為も全部『ドラゴン』っていう天災のせいにして、彼女を人知れず自分を迫害した町の人間をそれでも黙って救おうとした英雄に仕立て上げた。
その英雄を悪者扱いし続けていた町の人間にとっては、さぞ後味の悪いことだろう……いい気味だ。これに懲りたら少しは外の世界を知ったらいい。
ついでに、今回の破壊で山奥に湧いた温泉のことを教えてやったから、それを今後の産業として役立てられるかはここの住人次第だ。
そうして、端的には『こんな恩知らずどもには愛想を尽かせたから都会に帰る』と英雄二人の代弁という名目で文句を好き勝手言ってやり、引き留められることなく定期の連絡馬車に乗り込んで中央都市クロヌスに帰還することになった。
その途中、ちょっとまだボンヤリしていた蓬から聞いた話によると、あのドラゴンの乗り手の他にもピエロのようなやつがいたらしいし、その口振りはどうやら転生者かその関係者のようだったそうだ。
しかも、『能力を改良できる能力』……それが嘘ではないとしたら、無視できない話だ。ルビアの『癒し手』の能力が、本来生まれつきでそうそう変化しないはずの称号が変化していたことを考えるのなら、『研究施設』が強力な転生者を何人も抱えているという話も現実味を帯びてくる。
そして、もしそれが真実で今回の『ピエロ』や『ドラゴンライダー』が『研究施設』の手先……つまり敵対側だとすると、その二人をパワーで圧倒した蓬は申し分ない戦力になる。逆にあちらに拉致または勧誘されていれば絶望的だった。
そのために……だとしても、寿命十五年はあまりにも大きいと思うけど、なりふり構わず彼女を助けて引き込んだマスターは……やり方はともかく、間違ってはいなかったと思う。
それに……彼女の暴走を何が何でも止めなければいけなかったのは本当のことだ。
あの破壊力に防御力、間違いなくあのコーチェンという町は滅びていただろうし、その後も蓬がマスターのような『他人のために死ぬほど全力になれる誰か』なんてそれこそ野良のドラゴンよりもレアなものを見つけるまで放浪を続ければそれこそ魔王案件だ。
物理的にあまりにも強すぎる彼女の精神的弱さを汲み取れる人間なんてそうはいないだろう。理由はどうあれ死者まで出ているとなれば彼女を真剣に救おうと思うのは難しい……怪獣以上の力の奥にある子供らしい繊細さを理解しない人間なら『甘えるな』と吐き捨てるかもしれない。
誰もが昔は親や家族に十分に愛されていたなんて決めつけて、本当に誰にも甘えられなかった人間の気持ちなんて考えもしないで。本当に救いが……『自分で自分を救う』んじゃなくて『他人の愛に救われる』ことが必要な人間がいることも知らないで。
そんな力で止めるのが難しい上に話し合いでの説得が難しい複雑な感情を抱えた彼女をここで見捨てた場合の、最悪の未来を考えれば……私はあんな町のやつらにそんな価値はなかったと思うし、その後に続く被害に関してもわざわざマスターが責任を負う必要もないけれど、あの火焔を正面から打ち破るのなら、ピエロとドラゴンライダーの相手で消耗した直後というタイミングは逃せるわけもなかった。
悪いとすれば……そういった外部干渉やマスターへの銃撃を感知して防げなかった私の方だ。
蓬の本当の願望は聞いた……プラシーボ効果の確認のために敢えてリスクを冒してあの子に直接触れたマスターの方針は、間違っていなかった。あのまま平和裏に実験を重ねて蓬に『守護者』が他ならぬ自分自身の精神の具現だと納得させていれば、きっとそれほどの危険もなく解決できた。
あの子は傷付けたいわけじゃなくて傷付いてほしかった……それくらい、真剣に向き合ってほしかっただけなのだから。良くも悪くも全力なマスターなら、蓬の善意を信じて魔人が出たら危ないくらい近くに居続けるような態度だけで蓬に納得させられただろう。
私も、あの子が人肌の温もりに飢えているような気はしていたし……そのおかげで、倒れている二人を見つけたときに『衣服を破いて直接触れあうようなこと』をして陥落させたのではないかと一瞬だけど思ってしまったのはしょうがないと思う。紛らわしい格好して仲良く添い寝してた二人が悪い。蓬なんかいい夢でも見てたのかマスターの方に寄って幸せそうな顔で寝てたし。
まあ、冷静になってみればそこまでの時間はなかったし嘘言わないマスターが『いかがわしいことはしてない』って言うんだから全然平気なんだけど。全然動揺とかしなかったんだけど。
一応、ちゃんと精神力が回復してきてはっきりと意識が覚醒した蓬にも確認を取った……もちろん、『研究施設』についての話についてもだ。
マスターの理屈としては、『転生特典の問題解決』はあくまで『協力を依頼する上での前提条件』として取り組んだものだけど、さすがにあそこまでされて『はいさよなら』ができるほど図太くはなかった蓬は一緒に中央都市クロヌスへ来ることに快く同意……というより、マスターの仕事への協力という意味で手を貸したいらしい。
蓬の場合は一応、神殿との繋がりは切れていないから荒野耕次のように損害賠償の立て替えで脅しをかけるように勧誘するのは難しかったから純粋なマスターへの好感度で協力を取り付けられたのは大きい。
まあ、その代償ってわけじゃないんだけど……
「ねえ見て見て! このフリルスカート! 可愛くない?」
「ええ、確かに可愛らしいと形容すべきだとは思いますが、興奮して火の粉を散らしては店のご迷惑になりますよ。それと、お買い物は程々に。馬車に載せる荷物も多すぎると大変です」
「えー、いいじゃない! ほら、テーレさんも! サイズ同じくらいなんだし一緒にオシャレしようよ!」
「え、ちょ、私はそういうのいいから! フリフリとか似合わないから!」
「いいえ、テーレさんなら何を着ても似合いますよ。どうでしょう、同じ服を合わせて双子風にしてみるというのは」
「いいね! じゃあ髪型とかも弄っちゃおう!」
「結託すんじゃないわよあんたらは!」
短い間に、ずいぶんと仲良くなってしまった。
何やらかすかわからないマスターに加えて、今までの反動みたいに活発になって(何故か私まで)好感度が急上昇した最強守護者の使い手こと日暮蓬を引っ張ってのクロヌスまでのドタバタ珍道中。
モンスターや山賊が現れれば魔人が暴れ、病人や困り人がいれば足を止めての人助け。常識外れと常識知らずの手綱を握る私の気はいつ休まるのやら。
はあ……こいつとの旅は退屈しないわね、まったく。
・転生者解説
『日暮蓬』。
転生時は十四歳(満十五歳の一ヶ月ほど前だったので肉体的には十五歳)。
母子感染により幼少期に免疫不全症を発症。父親が大企業の代表取締役だったことにより、経済的に不安はなく最新医療設備の揃った無菌室で人生のほとんどを過ごした。
そのため最低限の運動以外はゲームや読書しか楽しみがなく、そのプレイ時間の長さで数種のゲームで世界規模のランキングにスコアを刻んだりしている。
一時期ゲームに熱中していた頃には勉強のためにゲームを禁止され、思う存分ゲームをするために通信教育の教材を前倒しで義務教育完了分まで終わらせたことがある。
死因は偶発的な日和見感染(標準的な免疫力があれば死に至らない病原菌による発症)による衰弱死……と思っているが、実際は医療機関を専門にした医師免許持ちの快楽殺人者により意図的に起こされた殺菌洩れによる医療殺人である。
本人や主治医を含め、犯人以外はその事実を知らず自然な病死だと思っているが、その医師の赴任先での死亡率の異常増加を感知した非公開組織が存在しており、日暮蓬への意図的感染の件に関してとうとう証拠が見つかり、違法捜査により公的な立証が困難な殺人を止めるため暗殺者が送り込まれている。
暗殺者は依頼を受けた中国の秘密組織から派遣されており、嘘か誠か数百年を生きる仙人と呼ばれる(見た目)少女である。
日暮蓬は死後すぐに[データ破損]しており、[データ破損]になりつつあった所を暗殺対象を仕留めに来た暗殺者に[データ破損]されたため、魂がほぼ劣化することなく無事に転生処理を受けることができたという経緯がある。
環境的に発揮されることのなかった才能だが、共感性やコミュニケーション能力は非常に高く、学校経験などがほとんどなくとも人見知りにならない程度の社交性を持っている。
しかし、そのために自分に向けられた愛情や自分がかけている負担を察してしまっており、自分自身の感情を生涯に渡って抑え込んでしまっていた部分があり、裏返すとウニの如くトゲトゲしている。
簡単に言えば普段穏やかでも本気でキレると机とかをぶん投げるタイプ。
ちゃんと向き合ってほしいものの、病人扱いや腫れ物扱いのような特別扱いはしないでほしいという若干面倒くさい部分はあるが、基本的には聞き分けがよく活動的な『いい子』。
また、『他の人間は自分よりも丈夫だ』という先入観に近いものがあるので『力加減』は少々不得意。
辛い治療に何年も文句一つ言わずに耐えた精神力は並みではなく、普通の人間が一瞬で気絶するレベルの出力で『守護者』を展開し続けることができる。
しかし、それでも未だ自分の能力として受け入れて使ったことが少ないので転生特典に関してはまだまだ『成長途中』である。
なお、実は弟の日暮健の初恋の相手であるが無自覚である。




