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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
五章:『穢れ』多き英雄譚

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第154話 食えねえやつ

side 狂信者


 カードゲームなどで最も重要なのは、カードのレアリティなどよりも発動のタイミングや駆け引きだと私は考えています。お金をかけてレアリティだけを比較するのならば、わざわざゲームなどに使わずコレクションでも見せ合っていればいいのです。

 それに結局の所、情報戦の一種であればどこで伏せ札を裏返すか、それが最重要となるのですから。


 私が、テーレさんからその情報(カード)を受け取ったのは裁判所からの移動中のこと。

 『テレパスカード』により、ドレイクさんについての知識を密かに受け取りました。

 テーレさんが私と離れて装備開発などを行っていた期間に並行して進めていた情報収集で用意したブラックリストの中の一人として、『転生者殺し』である『私掠怪盗ドレイク』という人物の特徴は把握していたのです。


 曰く、『中央政府にとって不利益な転生者を抹殺する暗殺者』。

 曰く、『転生者が国家転覆などを企まないようにするための抑止力の一人』。

 曰く、『転生者に並々ならぬ恨みを持ち、貴族たちですら特権を与えることでしか抑えられない凶刃』。


 彼自身、その存在を恐れた転生者から命を狙われたこともあるそうですが、見事に返り討ち。

 特異で強力なチート能力を持つ転生者たちを、ただの人間としての力と策で攻略するという難行を幾たびも重ね、あるいはこの世界の人間で最も多くの転生者と交戦したとすらされる戦士。

 そして、同じ転生者に対して同族意識を持つ転生者たちから嫌悪されている中央政府の汚れ役。


 話を聞く限り、アーリンさんのような『力比べ』を望んでいるわけではなく、毒殺闇討謀殺暗殺と、とにかく『結果的に相手を殺せれば過程は問わない』という、最も敵対はしたくないタイプの方です。

 できることなら、転生者であることはこの人物だけには確信されたくないと、テーレさんが念話でそう言ってきたのも納得です。


 しかし……


「どうしました? 聞こえなかったのなら、もう一度言います。答えは『イエス』です。私は『転生者』ですよ、『転生者殺し』のドレイクさん?」


 ここまで疑われたのなら、隠すのは逆効果でしょう。

 私は嘘は言いませんし、どちらにしろ真剣に調べられればすぐに発覚することです。

 であれば、そのタイミングはこちらで決めてしまっていいでしょう。


「……おい。それは、挑発か? お仲間を殺しまくってる俺を正々堂々返り討ちにしてやろうってか?」


「いえいえまさか。お仲間と言われましても、確かにある意味では同郷とも呼べますが、ほぼ赤の他人でしょう。仲間意識というのは出会って互いを理解してから育むものでしょうし……むしろ、私はこれまで何人かの転生者の方と会っていますが、何故かいつも嫌われて敵対しているので。ドレイクさん、あなたが『悪い転生者』を減らす仕事をしているというのは素晴らしいことだと思いますよ?」


「……チッ、嘘やはったりじゃねえのか。じゃあ、テメエは自分がその『悪い転生者』じゃないって確信があんのか?」


「さあ、どうでしょうねえ。私個人としては善く生きたいと思っていますが、人が生きればその行動の結果に善悪両方の側面が付きまとうもの。私を『悪い転生者』とする視点もありえるでしょうねえ……しかしまあ、とりあえずは『生かしておいた方が有益かもしれない転生者』ではないかとも思っていますよ。『研究施設』の情報もありますが、何よりドレイクさんがこうして問答をしてくださるのですから」


「……食えねえやつだ」


「料理は遠慮なくいただきますよ。この街の留置場の料理は少々質素に過ぎましたので」


 油断なく見開かれていた猛禽を思わせる鋭い瞳が、ゆっくりと瞬きをしながら視線を外します。

 どうやら、一番の難所は乗り切れたようですね。よかったよかった。下手をすればここで戦闘になるところでした。とくにこの手羽先風の揚げ物など、絶対に無駄にしたくありませんでしたし。


 テーレさんも、ある程度の警戒は保ちつつも少しだけ気を楽にした様子。

 キャシーさんは何が起こったのか、というような表情です。私の解答はそんなに意外でしたかね?


 まず第一に、ギルドランキング上位には中央政府が認知している転生者がゴロゴロいるとか。それに神殿なども転生者を大々的に支援することが珍しくないそうですし、転生者の存在自体はこの世界では一般常識です。それほど秘されることでもなく、転生者が自ら名乗りを上げることもよくあること。


 であれば、『中央政府公認の工作員』として情報を得られるドレイクさんが無差別に転生者を襲うということはないでしょう。

 そんなことをしていればきりがありませんし、転生者全てが結託して中央政府に反発するというようなことがあったらことです。つまり、彼は個人的な感情はどうであれ、ある程度の分別を持って、おそらくは転生者であることを秘匿していた『破砕槍(ブレークランス)』さんのような転生者としての能力を悪用している転生者だけを殺しているのでしょう。

 であれば、こちらから先に『中央政府に協力したがっている』と主張すればいいだけのこと。

 ドレイクさんの挑発的な態度は、むしろ戦闘を誘発して抹殺する口実を作るためのものでしょう。張り合う必要性は皆無です。


 それに……


「ボ、ボス……と、とりあえず『研究施設』の話はもっと別の場所で……」


 これはなんとなくですが、キャシーさんがいるこの場では示威行為まではあっても、本格的な戦闘にはならない気はしていましたし。ドレイクさんは転生者に厳しい方だとしても、身内には優しそうです。コートや裾を汚しながら急いで裁判所へ駆けつけてくださったのですから。

 逆に、もしもキャシーさんの首だけ持ち帰っていたら中央政府への協力がどうのというのは関係なく暗殺されていたかもしれませんね。


 しかし、テーレさんはまだ警戒を解いていないご様子。

 ドレイクさんを睨みながら警告を発します。


「……一応、先に言っておくわ。私たちを送り込んだのは幸運の女神ディーレ様、既に『兎粥(ラビットポリッジ)』とも接触したわ……変な噂が立つと困るし、直接的な干渉はしないように言ってあるけど。もしも、私たちを暗殺したりしたら……その後、彼らが何をするかなんて責任持てないから」


「……チッ、俺の部下にテメエらを探してるやつがいたが、どうやら先を越されてたらしいな。めんどくせえ」


「こっちだって、自発的に接触しようとは思わないわよ。ただ、私たちに何かがあれば、そう意図しなくても『そうなってしまう』って話。私たちも、ディーレ様への信仰が減るような事件は起こしてほしくないわ」


 テーレさんからの情報開示。

 まあ、相手は政府お抱えの調査機関のようなもの。表向きの偽装が通じるかどうかはわかりませんし、『兎粥(ラビットポリッジ)』から転生者の偽物として認識されているという表面的な情報よりも、もしも危害を加えたらという脅迫に近い形で関係を宣言しておくというのは妥当な判断ですかね。同時に、彼らの苦情をこちらに持ち込まれても困るということも主張できるわけですし。


 と、ここでドレイクさんがじっとこちらを睨み……脅しつけるかのような顔で、問いを投げてきました。


「てか、どういう関係なんだよテメエらは。『星読み』の話じゃ、幸運の女神のところの転生者は一人らしいが、『私たち』なんて括りをするってことは……『使役系』の『人間型』か?」


 噓の一つも見逃さないという、射貫くような視線。

 質問、というよりは確認ですかね。アーリンさんにも似た部分で警戒されましたが、やはり多いんですかね。能力にかこつけて意中の方を手籠めにしようとする転生者の方。まあ、私も『テーレさんを使役する能力』と考えると他人のことなど全く非難できませんが。


 さすがに私もテーレさんに対して命令によって好意を強制していると思われるのは気分のいいものではありませんし、そこはちゃんと説明しておきますか。


「いかにも、確かに私たちは二人の転生者ではなく、転生者とその特典として使役されている『従者』というセット関係です。一応、転生者本体は私の方ですね。しかし、テーレさんは自身の意志でディーレ様への献身を一番に願っていますし、私もそんなテーレさんを応援しています。もちろん、私自身も女神ディーレへの信仰心を持っていますが。最初から目的は一致していて、命令だから合わせているということではありません。故に、便宜上は主従はあっても上下関係というわけではありません……そこは、間違うことのないように」


「マ、マスター! あんたまた勝手に……」


「テーレさん、転生者との交戦経験が豊富な彼らに特典の詳細を秘匿するのは逆効果でしょう。安全保障のためには把握できている転生者の能力を可能な限り解明しておくのが最善なのですから。私たちの戦闘を見たキャシーさんには今更隠しきれませんし、それならまだ早めに情報開示して友好度の上昇を考えましょう」


「それを口に出して明け透けに言ったら意味ないでしょうが……もう、それこそ今更ね。そうよ、私とこの馬鹿はセットで転生者一人分だから。転生特典としての性能だって有名どころに比べたら大したことないし、情報はともかく戦力としてはあてにしないでよ?」


 やはりテーレさん、ちゃんと意図を汲んでくださったようです。

 『使役型なら協力として従者を戦力として派遣しろ』というような要請をされても困りますしね。テーレさんは鉄砲玉ではなくパートナーなので。少なくとも私にとっては。


 私たちの会話を見ていたドレイクさんはしばし黙った後……不承不承ながらも、ある程度は納得したように答えて下さいました。


「ああ、わかった。情報から想定していた通りの転生者だ。正直に言えばテメエらみたいな直接戦闘に特化したタイプより生産系や情報操作系の方が厄介だからな。やたら名義を変えながら逃げ回っていた上に能力不明で手を出しかねていた『破砕槍』を始末してくれた手柄もある。今は殺さずに利用してやるよ」


「ご理解、感謝します」


「……ゾラック、ちょっと来い。森での戦闘について聞きたいことがある」


「あ、はい……じゃ、じゃあ遠慮なくお代わりしていいから!」


 そう言って、席を立つ二人。

 料理を作る店員さんは退去しないようですし、この店を爆破して私たちを始末する……というわけでもなさそうですね。

 とりあえずは、『生かしておいた方がいい転生者』のリストに加えてもらえたようですね。よかったよかった。


「さて、これで『研究施設』にこちらからアプローチする準備も整いましたね。ライリーさんも戻ってきましたし、中央政府との繋がりもできました。さすがに今回の件で完全に敵対的と認識されてしまったでしょうし、そろそろ何らかの組織的バックアップも欲しいと思っていたのです。キャシーさんが工作員だったというのは実に幸運でしたね」


「はあ……かなりギリギリの綱渡りだった気がするわ。ホントに」


「ふむ……このカップケーキ、食べますか?」


「……いただくわ」


 本当に幸運でした。

 いつの間にナイフの柄に手をかけていたのやら。交戦を選べば確実に『恩師の加護』を発動する前にドレイクさんにスッパリやられてましたからね。おそらく、単純な『石化』すらも間に合わないほどに素早い動きで。


 いやはや、『転生者殺し』と呼ばれだけありますよ。

 私は、全くの無警戒に食事を進めるしかありませんでした。他のことを……魔法の一つでも使おうかという気を起こせば、条件反射的に殺されそうでしたから、料理を味わうことに集中して難を逃れたわけですが。

 『何ができるかわからない』という転生者に対して『何もさせずに殺す』を極めた私掠怪盗……このような形で接触できて、本当によかった。心からそう思いますよ。







side カサンドラ・ゾラック


 ボスは私をあの二人から十分に離れた物陰に連れ込み、遮音結界の呪紋(ルーン)を張り巡らせる。ここからは本人たちに聞かせられない、内密な話だ。命の恩人であっても、私たちの仕事が主に『転生者からこの世界を守ること』である以上は、必要な線引きだ。


「で、どうなんだゾラック。やつらの様子を直接観察した様子では……『嘘』は、あったか?」


「……ない、少なくともはっきり断言できるような嘘は。『兎粥(ラビットポリッジ)』についても、本当のことを言ってる。というか……ここ何日も観察してるけど、『狂信者』を名乗る彼は嘘らしい嘘を一度も言っていない。テーレの方は何度か私に軽い嘘を言ってるけど……」


「そっちも嘘を言っていないってことは、少なくとも言ったことは真実か」


「彼ら、交渉の基本をわかってる。あれだけ堂々とノーガードで来られると弱みも探れない」


 人間には癖がある。

 私は武装工作員として、諜報技術の一環で嘘の仕草を見抜く訓練を受けている。体臭の変化や瞳の動きみたいな生体反応もあるけど、何より個々人で違った嘘を隠そうとするときの決まった癖。私たちは数日も共に行動すればそれを見抜くことができるし、自由に会話が可能ならわざと『これには嘘を答えるだろう』って内容の会話を自然に振ることでその癖を引き出すこともできる。


 その『嘘の返答をするべき質問』に本当のことか黙秘、回答拒否で答えた狂信者はともかく、テーレの方はある程度の精度で嘘の仕草を把握してる……だからこそ、さっきの会話に嘘はないとわかる。

 嘘があれば、何を隠したいのか、どう思わせたいのかがわかる。

 けれど、本当にただ額面通りにしか受け取れない真実しか口にしていないというのは厄介だ……隠している情報があったとしても、何を隠しているのかについての情報がない。嘘を見抜けてしまう分、こちらは渡された情報だけは確定情報として受け取るしかない。

 そして、それは本人からの情報だからこそ、別方向から与えられた情報よりも信用できてしまう。


「『戦の女神』の神殿方面から流されてた『幸運の女神の転生者』に関する悪印象を与える情報は、やっぱりデマ臭いな。神々の間での仲が険悪とは聞いていたがここまでか」


「しかも、意図してだろうけど彼らは『兎粥(ラビットポリッジ)』の歯止め役を買って出てる。彼らが積極的に人間爆弾を利用しようとしていたら危険だったけど……」


「ああ、逆に殺せねえ。むしろ、やつらに対しての醜聞をこっちで抑える必要すら出てくる」


 正直者だが馬鹿ではない。

 『自分を殺せばどこかで爆弾が爆発する』と言われれば、こちらとしても迂闊に攻撃はできない。

 しかも、それが『爆弾を仕掛けた』のではなく『自分たちだけが爆弾を解除できるし解除したいと思っているが今はできない』と言っているのだから、脅迫なんてできない以上は交渉するしかない。


「それに、彼らは今まで誰にも止められなかった……止められるまとめ役のいなかった『兎粥(ラビットポリッジ)』を根本から変えられる発言権を持っているかもしれない、史上初めての爆弾処理のチャンス。加えて、『自分たちの邪魔をするな』とも『政治に関わるつもりはない』とも言っていない。むしろ、歩み寄りすら見せている……」


「殺すにはリスクが大きすぎる、生かすメリットがあり過ぎる……抹殺する口実(メリット)を作らせないやり方か」


「ボス……彼らは、先代を殺した転生者とはきっと……」


「いや、最終的には転生者は死ぬべきだ。この世界にとって、やつらは本来いるべきじゃない存在だ」


 ボスは、育ての親である先代頭領を転生者に殺されている。

 私が入団したのはその後だったけど、ただの盗賊団だった私たちが中央政府公認の『私掠盗賊免状』を発行されるまでになったのは、ボスがその復讐心から求めた力によるものだ。


 ボスは、この世界を歪める転生者を憎んでいる。

 武装工作員として働いている先代を知る他の皆も、転生者に敵意を持っている。

 私だって、この仕事をしていて家族のように思っている皆を殺す転生者に、恨みはある。圧倒的な力を持つ彼らにとってはただの『身元不明の暗殺者』でしかなかったとしても、彼らには家族がいる。守りたい世界が……妻や夫、親兄弟や子供がいる。


 けれど……ボスみたいに、全ての転生者を殺したいとは思わない。その神々から与えられた能力を悪用して国家転覆を狙ったり悪逆非道に堕ちる転生者はもちろん排除すべきだけど、それをまた止めようとする転生者もいる。

 ボスとは違って……あのスラムの闇から生まれた私は、この世界で生まれ育った人間の方が必ずしも異世界人よりも善良だとは思えない。


 ボスも、中央政府の工作員としての立場はあるから独断で手当たり次第に転生者を暗殺したりはしないけど……私は彼に、その憎悪の炎から解放されてほしいと思っている。


 死を実感したあの時、思い描いたのは……そのしがらみから解放されて、晴れやかに笑うこの人の顔を見てみたかったという夢。

 私が拾われたときには既に復讐の道に足を踏み入れていた彼が、その暗い道から明るい世界へと抜け出す瞬間を見届けたいという想いだった。


 もしも、ボスが彼らと話して……少しは、変わった転生者もいると思ってくれたなら……なんて思うのは、夢を見すぎか。

 殺せる状況でないのなら、不干渉を決めて機を待つ。今までも、これからも……


「だが……『研究施設』と潰し合ってくれるんなら好都合なのは事実だ。ゾラック、後で協力者用の連絡先、渡しておけ」


「……えっ!?」


「潜入捜査で情報が制限されていたそっちは知らなかっただろうが、『研究施設』は最近活発化してきてこっちも手を焼いてる所だ。どうやったが知らねえが、かなり強力な手駒を引き込んでいるらしい……そいつにぶつけるために、直接戦闘型の転生者は後々必要になる可能性が高い。殺すデメリットが高いなら、あっちから自発的に協力して『味方』として死んでくれた方がマシだろ。頼めるか?」


「…………はいっ!」


 時期がよかったのか、敵が強くなったんだから悪かったのかもしれないけど……どうか、この縁が未来に繋がりますように。






 全身に爆弾を巻き付けてのノーガード戦法で擦り寄ってくるという狂信者の交渉術。

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