第137話 豊穣の生娘
side 狂信者
まず前提として、私の前に現れた『大天使アジム様』が本物であること、そしてテーレさんの『よっぽどのことがない限りアジム様が現世に現れることはない』という証言が真であるとします。
テーレさんは噓は言いませんし、アジム様が本物でないのであるのならそれはそれでいいのです。最悪の状況ではないということですから。
ならば、目の前の現実をどう説明すればいいのか。
何故、ありえないはずのことが起きているのか。
そんなものは、少し考えればわかります。
ありえないはずのことが起きているのであれば、奇跡的なまでの低確率な原因が偶然か必然かはともかく、目の前で起こってしまったということです。
たとえばそう、三大女神にも勝てる強さを持つような大天使様が降臨しなければいけないような事態……それこそ、三大女神そのものが勝手に現世に降臨してルール違反を起こしている、というような事態が起きていると考えるのが自然でしょう。
少なくとも、嘘の逸話とはいえディーレ様が兎の化身となって食肉を提供したという伝承が受け入れられるのですから、本体ならずとも何万分の一という縮小化された力しか持たない化身くらいなら現世に降ろすのはない話ではないのでしょう。
それに思い当たれば、後は簡単です。
テーレさんから何度も聞いた話ですが、三大女神を中心に行われている『転生者』という駒を用いた信仰争奪戦において、神々が現世の転生者に干渉することは基本的に御法度。
手番を無視してチェス盤の上の駒に触れることに等しいのでしょう。
ディーレ様は何度か融通を利かせてくださっていますが、それもターレさんの暴走や未回収の神器による被害などのちゃんとした理由があってのこと。
本来は、神々による自身の担当する転生者への助力も、ましてや他の神々の担当する転生者への攻撃も、明確なルール違反であるはずです。
神々は担当転生者へ語りかけて誘導することはできますが、明確に干渉と言える権限で言えば、強制可能な命令権すらありません。
つまり、『三大女神の誰かが降臨した』『神々が転生者である私に直接干渉した』この二つがトリガーとなって大天使アジム様が降臨したと考えれば、コムギさんの正体も自ずと明らかになります。
まあ、彼女自身も隠す気はありませんでしたがね。
豊穣の女神の神殿を『自分の特等席』だと言ったり、自身を『神殿の偉い立場』だと言ったり。
豊穣神が自らの恩恵で育つ作物を名前代わりに使うのも嘘とは言えないでしょう。身の糧となる作物へ捧げる日々の感謝や信仰が豊穣神への信仰となるのですから。
むしろ、私が彼女の正体に気付くのに遅れたのは彼女自身のあまりに嘘偽りのない振る舞いが原因でしたがね。
さすがに私も、この世界における三大女神の一角、それも『豊穣神』に位置する神格を持つ方から『子供との向き合い方がわからない』というような相談を受けるとは思いませんよ。
地球で言えば豊穣神なんてそれこそメソポタミアのイシュタル様やギリシャ神話のデメテル様のような、基本的に豊満な母性で知られる大地母神ですよ?
それがこんな生娘のようなお姿で、敵対勢力の転生者である私なんぞにそんな相談をしてくるなんて思いませんよ。いえ、身内だからこそ相談できないというのはご自分で言っていたことですが。
しかし、さすがにテーレさんからアジム様の話を聞いて確信しましたよ。
アジム様も分体として大天使としての力のほんの一部しか降臨していないとは思いますが、それでも最強の天使様と同等に戦える存在など神々しかいないでしょう。そして、豊穣の女神自身でもでなければ冗談でもこの町の神殿を『自分の特等席』などとは言わない。
つまり、全面的に非があるのはコムギさんこと女神アルファ様。
アジム様はただ単純に、大天使として世界の秩序を保つために彼女が私に干渉するのをやめさせようとしていただけです。
問題は何故、豊穣の女神がそこまでのリスクを冒して私への干渉を行ったかという点ですが……
アジム様に猫のように襟首を掴まれたアルファ様当人からの返答は、ひどく単純明快なものでした。
「あはは、転生者のことで相談できる人間を探してたら、うちの神官にいい説教してくれたっていうのを聞いてね。真面目に相談に乗ってくれるかなーって思ってこっそり……」
要するに、私が『女神ディーレの担当する転生者』だから私の前に降臨したわけではなかったと。
ただ、最も相談相手として相応しそうな人間として目に留まったのが私だったので、ルールで禁止されているとしても相談がしたくて、端的に言えば『仕事のための勉強』を目的にお忍びで降臨したと。
まあ、私が転生者だというのは転生者についての相談相手としてプラス材料であったということも否定できないでしょうが、アルファ様は私よりもさらに参考になる意見を出してくれそうな人間を見かけていれば相手がどこの誰だろうが降臨していたのでしょうね。
そして、実力的に代わりの利かない役目として三大女神の信仰争奪戦のルール違反を取り締まる立場にある大天使アジム様がマニュアル通りに干渉をやめさせようとしてきて、アルファ様は自分の『仕事のための勉強』を邪魔するアジム様に腹を立てて、ささやかな反撃をおこなったと、それが事態の全容です。
アジム様としては女神からの直接的な干渉をやめさせるために降臨したのにその対象者である私を害しては本末転倒ですから私を攻撃するわけにはいきませんでしたし、アルファ様はそれを理解していたので私を盾にしていたと。
まあ、整理してみれば大して複雑な話ではありません。
ちょっと勉強熱心な神様が、マナー違反を承知しながらこっそりと本屋で立ち読みしていたのを店員であるアジム様に見咎められて軽く文句を言っただけ。そのようなことです。
行儀はよくありませんが、お金がないわけではなく規則で買うことができない本であるとすれば、努力で解決できない問題ならば、ルール破りをしたくもなるでしょう。
しかしですね……
「ごめんなさいごめんなさい! うちの馬鹿がとんだご無礼を! こいつちょっと馬鹿なんです向こう見ずなんですアジム様の偉大さもなにもちゃんと理解してなかっただけなんです! ですからどうか厳罰だけは、私からきつく言っておきますので命だけは……」
思いの外、テーレさんにストレスをかけてしまったようです。
いえ、私も【神を試してはならない】を大天使様に対して試してみたいという欲求を押さえられなかったというのはありますが、まさかここまでテーレさんに精神的負荷をかけてしまうとは。
「そう地に頭を擦り付けるな。立て、天使テーレ……否、転生者の従者テーレよ」
アジム様の口調は淡々としていて、天使然とした顔貌からも感情は読み取れません。人間ではありえないほど整った美しさを持つ顔から一切感情なく見つめられるというのは、それはそれである種の恐怖を感じさせるものでしょう。
立てと言われたテーレさんも次の瞬間には無礼打ちで首が飛ぶのではないかというように身体を僅かに震わせています。
ちなみに、私は異空間からの脱出後、すぐにアジム様から地表に降ろされたところをテーレさんに捕まり、頭を押さえつけられて黙って土下座をしているようにと厳命されました。
テーレさんは立つように言われたので立ちましたが、私はまだ土下座のままです。
「咎はない、命も奪わぬ、罰則もない。転生者が現世で何をしようが、天界はそれを縛りはしない。当然、『転生者の従者』がすることにも、我から言うことはない」
「し、しかし……」
「くどいぞ、従者よ。咎を受けるべきは其処な豊穣の女神である。それとも、汝は自らを犠牲にその咎を肩代わりしたいとでも?」
「い、いいえ……寛大な裁定、深く感謝します」
「否、我が裁定に寛大さの入る余地なし。これは必然と知れ」
淡々と問題を処理するようにそう言うアジム様。このまま何も言わなければ、アルファ様を連れて天界へ帰ってしまいそうです。
しかし、その前に……
「失礼ながら、アジム様……アルファ様と少しだけ話をさせていただけませんか?」
「ばっ、せっかくお咎めなしで……」
テーレさんが私に注意をしようとしますが、言葉を詰まらせます。おそらく、目の前で言い争いをするという行為が無礼になることを恐れたのでしょう。
どちらにしろ、しておくべきことはするべきです。
「できないというのなら、それで構いません。しかし、アルファ様には『巻き込まれた』立場として言っておきたいことがあるのです。可能ならば、ですが……」
「……よい、面を上げて申せ」
許可が出ました。ならば、ここで躊躇う方が失礼でしょう。
顔を上げ、アルファ様の目を見て問いかけます。
「豊穣の女神、アルファ様……あなたは、幸運の女神ディーレ様のことがお嫌いですか?」
私の問いかけに対し、アジム様に吊られたままのアルファ様は何一つ迷いも躊躇いもなく答えます。
「うん、嫌い。性質的に相容れない」
「性質的に、とは?」
「わたしは豊穣の女神。わたしの本質は『生産の安定性と確実性』そして『発展のための努力の成就』を保証すること。女神ディーレが『幸運』という不確定性を肯定する神格である以上は、どうあってもその存在を肯定するわけにはいかない」
「『幸運』がさらなる発展のきっかけになることがある、としてもですか?」
「答えは変わらない。技術の発見や発明といった形での発展もまた、そのためにリソースを割り当てることで計画的に進められるべきものだから。女神ディーレの『幸運』の権能が影響力を増せば、想定外の発展により歪な結果が生まれる可能性は上昇する。だから、世界全体の確率の乱れに繋がる女神ディーレの勢力拡大は容認できない」
確かに、ディーレ様の『幸運の加護』というのは、言い換えれば確率を偏らせ『計算外』を起きやすくするということ。
毎年十分な作物が取れることや工業製品の安全確実安定的な量産を保証するように『確実性』を重視するアルファ様からしてみれば、世界的な誤差増幅装置である女神ディーレの権能が大きくなればなるほど、自分の権能が損なわれるというわけですか。
「なるほど……つまり、アルファ様は人格としてのディーレ様を嫌っているわけではないと。そして、嫌うべきものであるから嫌っているだけであって、憎んでいるわけではないと」
「……肯定する。わたしはわたしの存在意義を完全に全うするために、その障害となる幸運の女神の必要性を否定する。けれど、そこに感情的な必然性はない。感情としての好感や嫌悪というものは持っていない」
なるほど、私を相談相手に選んだ時点で察してはいましたが、つまりは商売敵のようなものですか。そして、それは『幸運の女神』がディーレ様でなくとも変わらないことであると。
なおかつ、この目の前の女神様は仕事の参考意見を聞くためだけにその『嫌いな女神』の担当転生者にリスクを承知の上で意見を求めに来るほどに、自らの神としての役割に忠実であると。
であれば……
「では……アルファ様、今回の件について、私は特に文句を言うつもりはありません。しかし、その代わりにお願いしたいことがあります」
「……なに?」
「難しいことではありません。ただ、あくまで嫌っているのが『幸運の神』であり、誰それの人格でないというのなら……私とテーレさんの現世での活動を、『豊穣の女神』の信徒や転生者に妨害させるようなことをしないと、約束していただけないでしょうか」
迷惑料として、これくらいは要求してもいいでしょう。
無事に助かったとはいえ、事情もわからず死ぬかと思うような戦闘に巻き込まれたのですから。ダメならダメでそれまでですが、願掛けというのはそういうものでしょう。
せっかく願掛けの対象となる神様が目の前に来ているような状態なわけですし。お参りしお祈りしお願いしない手はありません。
「もちろん、現世における信徒や転生者が各々の個人としての考えで私たちと敵対することは仕方ありません。しかし、神託で信徒を動かすことや、異教徒だからと神殿が『アルファ様が女神ディーレの御使いの排除を望んでいる』というような勘違いと集団心理で私たちを攻撃しようとする動きを放置するようなことだけは、止めていただけないでしょうか?」
「……どうして?」
「確かに、私は女神ディーレの信仰者、私の現世での活動がディーレ様にとっての利益に繋がることを願っている者です。しかし……同時に、それは私個人の勝手な願望であり、ディーレ様がアルファ様や他の神々から信仰を横取りするようにと命じたことではありません。結果としてアルファ様に御迷惑をかけてしまうかもしれませんが、私は単に己の願望のために信仰する神のために努力したいだけなのです」
「……『女神ディーレの手駒』じゃなくて、『女神ディーレを信仰する人間の一人』として努力してる、そう言いたいの?」
「はい、神々の間での派閥争いや好き嫌いがあるのは存じていますが、だからといってそれを現世での争いの理由にするつもりはありません。私がアルファ様の正体に気付いても協力をやめなかったのも、その信念あってのこと。確かに、アルファ様にとってディーレ様の信仰拡大は都合の悪いことであるのはわかっていますが……私は所詮、一人の人間でしかありません。ディーレ様のために努力を続けても、他派閥の妨害や謀略によりそれが裏目に出ることもあり得るでしょう。ですので……転生者だとしても、所詮は人間一人のすること。見逃してもらえないでしょうか?」
多少、卑怯な論法であることは自覚しています。
『努力の結果を保証する』という神格に、アジム様への個人的な反発に手を貸した恩に着せて『努力するのを邪魔しないで欲しい』と言っているわけですから。
しかし、こうしないわけにはいきません。
この遭遇、この幸運を逃すわけには行きません。
私も何も考えず、大天使アジム様の行動を妨害したわけではないのです。『敵』などというものは……最初から、作らないのが一番いいのですから。
「……わかった。最大の信仰対象が幸運の女神であったとしても、努力は成就されるべき。私の神殿には、あなたたちへの妨害工作や攻撃をさせないように命じておく。神殿として転生者を差し向けることもしない。個人的にあなたたちに接触しようとする子は止められないけど」
「はい……ありがとうございます」
「元々、わたしには転生者の活動まで妨害する気はない。現世の信徒の中には、勝手にそうしようとするのもいたみたいだけど……やめさせておく。足の引っ張り合いは非生産的だから」
そう言うと、アジム様へと目を向けるアルファ様。
すぐに戻って約束を果たす、そのつもりみたいですね。
本当に、仕事に真面目で律儀な女神様です。
「話は済んだか。ならば我らは天界へ帰還する」
そう言って、光に包まれてアルファ様と共に消えるアジム様。残されたものは、アルファ様が依り代にしたと思わしき麦穂の山のみ。
日の出と共に起こった世界を揺るがす大事件。その結末はあっさりとしたものでした。
さて、取り残された私とテーレさんは……まあ、時間的にはまだまだ早朝です。一日はこれから始まるのです。
「さて、テーレさん。呆然としていないで、朝食にしましょうか。反省会は食べながらにしましょう」
そして、宿部屋にて。
しばらくボンヤリしていたテーレさんでしたが、カロリーバー(ガリの実味)を口にして、ようやく意識がはっきりと覚醒したようで、始まったのは予想通りのお叱りの言葉でした。
「信じられない! 豊穣の女神に恩を売るためにアジム様に刃向かうなんて! そりゃ、確かに政治的妨害工作の三分の一が事前に解決できたのはありえないような成果だしお咎めもなかったけど……あーもうっ! また勝手にとんでもない賭けをやらかして!」
頭ごなしに怒れないというか、結局上手く行ってしまったので否定できないというか、複雑な心境のようですね。
というか師事していたというのでもう少し親しげなのかと思っていましたが、テーレさんの中でのアジム様のイメージは、慈悲の欠片もない機械的な大天使様なのですかね。
「まあまあ、お怒りもごもっともですが、私とてハイリターンに目が眩んでハイリスクな賭けに手を出したわけではありません」
「じゃあ何だって言うのよ!」
「いえいえ……能力的にテーレさんの完全上位互換だというアジム様ほどの賢明な方が、この程度のことを想定しないわけはないと思いましてね」
「意味分かんないんだけど!」
まあ……そうですね。
勝手に説明していいことではないかもしれませんし、本当にお怒りに触れるのは勘弁です。ええ、アジム様御自身がああいった態度を保つのであれば、それはそれでいいのでしょう。
……私は、少々反応に困りましたがね。
『でね! その一番偉い天使様、実はすっごく可愛くてね! 最近なんかお弟子の天使様が初めての大仕事に就いたとかで心配だったり期待してたりっていうのを他の天使様には言えなくって私の夢に愚痴りに来て三時間くらいそのお弟子の天使様の話を……』
まあ、部外者に見せられても、立場や威厳の問題で天界の身内には見せられない顔というのもあるのでしょう。
しかし、私にはどうしてもアジム様が『本気』で私を巻き込んだとは思えないのですよ。まあ、『手を抜いていた』というより『試していた』という感じでしたが。
そもそも、人間の習得しうるあらゆる技術を極めているというデタラメなまでの攻撃手段を持ちながら、敢えて私にダメージを与える可能性を捨てきれない炎の魔法ばかり使っていたのは、アルファ様に盾にされる私を炙り、対応を……テーレさんへの救援要請を誘っていたのではないかと。
一瞬にして空間を隔離できるほどの能力を持つアジム様であればテーレさんが一ヶ月程度で開発した通信アイテムの遮断ができないとは思いませんし、気付かないということもないでしょう。
それなのに、通信アイテムは問題なく機能し、テーレさんへ干渉するなという警告もなかった。ただひたすら秩序を保つために機械的に動いているというのなら、通信遮断を徹底していないのはおかしな話です。
その上、空間干渉への対策に攻勢防壁の類もなく、都合よくテーレさんが今の実力で頑張ればどうにかならないこともない程度に設定されていたというのも……まあ、私の邪推でしかないかもしれませんがね。
「まったく……あんたが転生者だからアジム様が過度の干渉をしなかったっていうのもあるんだろうけど、私は恩を仇で返したって思われるんじゃないかって心臓バクバクだったんだからね! あの様子じゃ私のことなんてただの天使の一人としか思ってなかったみたいだからよかったけど!」
ただの一人の天使としか……というのは、どうなんでしょうね。
本当に、私の邪推偏見独自解釈でしかありませんが。
アーク嬢から聞いていた『一番偉い天使様』と、目の前に現れたアジム様のやたらと事務的な態度の違い。
それが、『仕事先ついでに弟子が元気でやっていることを確かめに来た師匠の照れ隠し』だったかもしれないと思ってしまうのは、いけないことですかねえ。
まあ、もしそうだったのなら私があまりにもテーレさんの同行者として不甲斐なければ事故に見せかけて処分されていた可能性もありますが。
「ねえ、ちょっと聞いてる……」
「ええ、聞いていますとも。テーレさんはご自身で思っているよりも、ずっと愛されているのかもしれませんねえ」
「はあ? 何言ってんの?」
「いえいえ、テーレさんの隣に立つのに相応しい者でありたい、という話ですよ」
でないと、こわーい天使様に睨まれてしまうかもしれませんしね。
……豊満な母性 (ボソッ)。
ちなみに、『豊穣の女神アルファ』は『量産』を司るだけあって、三大女神の中で展開できる化身が一番多い女神です。
そのため種類や姿も豊富でツルペタから異形までなんでもあります。
せっかく女神が現れたので、天界の神々について以下に語る機会のなかった設定をツラツラと並べさせていただきます。
転生者による『信仰争奪戦』は、『異世界で天命を果たせず無念の内に死した人間に幸福な第二の生を送ってもらう』という建前を悪用した神々の代理戦争です。
情報戦の側面もあるので、女神が人格神として転生者についての情報を得る手段は『強い祈りや信仰から関連する記憶を読み取る』『神殿(祭壇)で神官が報告する』『情報共有に同意している転生者の記憶を見る』の三つが主です。
しかし、それとは別に通常業務の一環として奇跡を起こすために『化身』を降臨させることができます。
この『化身』は当然記憶を本体に還元できるので、豊穣の女神アルファは方々に実りを振りまくついでに情報収集したりして一番情報力を持ってたりします。
しかし、化身は現世に干渉してしまうので、夢の中でもなければ転生者とは出くわさないようにしないと抑止力が飛んできます。
また、他の神々の担当転生者への直接干渉はもってのほかですが、特例として本人の合意があれば担当神が転生処理のミス(『肉体の性別がなんか違う!』『座標がずれて海のど真ん中に降臨して溺れた!』『個人情報が流出していた!』『未回収神器に殺されかけた!』etc.)を補償するなどとして神器などを直接渡しに行くことも可能です(天使に任せることもできます)。
石化魔導書事件の時のような未回収神器の被害についてはそれが持ち主の転生者を失って本来は回収されているべきものであれば、その放置が危害に繋がったということで『天界からの転生者への不干渉』に抵触するためです。
狂信者は魔導書事件の際に補償の内容として『自分の死期を告げる赤い流星』を要求し受理されたので、女神ディーレは任意のタイミングで神器を狂信者に向かって支給することができます。
この場合は要求自体が『自分を殺すことが可能な神器』なので女神ディーレは転生者への過干渉に抵触せず狂信者の命を取ることができます。
そういう能力の神器なので、例え狂信者が石化していても、どんな防具や城壁、結界に護られていても止めを刺すことが可能です(対象が『狂信者』に限り無敵貫通、必中、防御無視、即死100%)。
前代未聞の要求に女神ディーレは深くため息をつきながら、発射スイッチに鍵をかけてしまい込んだそうな……




