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転生したので狂信します  作者: 枝無つづく
四章:見境なき『差別者』たち

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第103話 天使の秘密基地

side テーレ


 あれから、二週間と少しの時間が経った。


 予定ではマスターの方は修道院での修行を始めているはずだ。

 心配ではあるけど、私が現世に留まっていられるということは少なくともマスターは生きているということ。私の干渉は因果的距離を縮めてマスターの運気を下げる危険があるから、できるだけあちらの状況は探らないようにしている。


 こっちも、他の転生者に目を付けられないように隠れて動いているからあんまり余計な情報収集ができる余裕はないし。


「うん、こんなもんかな。さて、素材もそこそこ集まったし、何から作り始めるか……」


 私は、この二週間、昔仕事で現世に来たときに作った拠点の一つを改造して工房を作っていた。

 ポーション合成や鋳造、マジックアイテムの作成や魔本カビの培養が同時にできる複合工房だ。


 それに、必要な資材や道具を集める傍ら、変装しまくって方々で情報屋に政治的情勢や他の転生者の動き、それに神殿がらみの動きの調査なんかを依頼しつつ、モンスターを狩って回ったり薬草摘みをしたりして素材も集めた。

 商会で一気に発注したら目立つから手に入りにくい最小限の素材以外は自力だ。


「私だって、あいつの守りを気にしなきゃこれくらいできるのよ。さすがに疲れるけど」


 『天使』の状態なら二週間動き続けようが疲労なんてしないけど、ないものねだりはしない。

 『万能従者』は食べ物さえ十分にあればカロリー消費で並みの人間が使えるようなスキルはほぼ万全な状態で使用できる。


 私は各地の拠点から宝石(イシコロ)の類を集めれば食費には困らないし、なんならそこら辺で殺したモンスターを調理して自給自足できる。

 ギルドに渡すことを考えなければ人間並みのサイズのコボルト一体でもかなりの量の肉になるし、私のスキルなら固い肉だろうがそれなりに効率良く食べられる。

 さすがに精神力の回復のための休養は必要だけど、肉体疲労自体はあまり問題にならない。


携行食(エナジーバー)も今までみたいなあり合わせじゃなくてもっと効率のいいやつを作っておくかな。せっかくならそれなりに美味しいやつ」


 そういえば、あいつはちゃんとしたものを食べているのだろうか。

 修道院では食事がでるはずだから心配いらないはずだけど……放っておくとガリの実ばっかり食べてるし……


「ガリの実も栄養はあるけど、美味しくないし……」


 贅沢は言わないけど、非常時以外ではあれはやめておきたい。

 携行食を持てる数に限りはあるけど、旅の中で設備がある場所なら作るのは難しくない。せっかく時間もあるんだし本格的に新しいレシピを考えてもいいだろう。今までのはこの世界の料理人のスキル頼りだし。


「マスターの世界の知識も読み込んであるんだから、こっちの材料と合わせて新しいレシピを作ったっていいよね。馴染みのある味の方が食べてくれるかもしれないし」


 他の天使なら『勝手に異世界のものとこちらのものを混ぜた料理を作るのは天使としての特権の悪用じゃないか』なんて言うかもしれないけど、生憎と私は悪い子だ。

 マスターにも美味しいものを食べさせたいし、私自身だって美味しいものを食べたい。そのために仕事で読み込んだ知識を私的に使うのに躊躇はない。はっきりとをそれ禁止する制度はないし。


「ていうか、携行食だけじゃなくて他の料理の再現も一応できるかどうかやってみるか……って、最優先は戦力増強! レシピの探究に時間使ってる場合じゃないし!」


 あいつがガリの実ばっか食べてんのは前世の好きな味がないからかもしれないとかそんなこと知ったことじゃないし!

 それよか工房もできたんだからさっさと準備! 私があいつに気を取られず下準備ができるように別行動にしたんだから!


「とりあえず、ルビアの実験試料からちょっと貰ってきた増殖しやすいカビを使った培養は環境維持を保って置いておけばよし。あと、合成に時間のかかるポーション類の下準備も済ませたし……」


 魔法を使い放題だったらポーションの成分抽出や沈殿分離みたいな行程の時間を魔法で短縮する方法もあるんだけど、私の場合は魔力に余裕はないから時間経過に任せるとして。


 問題はその間にやることだ。

 一応、作るべきアイテムはいくつか事前に考えてあるけど、それは必要最低限なもの。

 思ったよりもたくさん入手できた素材もあるし、予め計画に入れておくことのできなかったそれらでどんなものを作るか……


「あいつの『法具(トーテム)』もそろそろ作るべき時だし、そろそろ戦闘スタイルを固めておくべきか……」


 順当に修道院で修行をしてきた場合を考えれば、回復や強化系の魔法を任せて後衛に専念させて私が前に出るか……でも、あいつの場合は『狂信者』で必ず魔法が暴走することを考えに入れなきゃいけない。

 暴走前提での回復魔法や強化魔法を後衛として当てにするのは難しい。


「結果としてどんなスタイルになっていてもいいように、こっちも汎用性を重視したマジックアイテムを揃えておくべきか」


 従者型の特典を持った転生者としてはどうかと思うけど、今までの戦闘パターンから考えてマスターが前に出て戦いたがる可能性はそれなりに高い。

 それも、無謀な突撃とかじゃなくて、勝算あっての確殺でだ。少なくとも、超強度の【石化(カースロック)】が使えるから前衛で盾代わりができてしまうわけだし。


 そうなると、私の方が後衛になるパターンも考えておくべきだ。あいつが前衛にならなくても、アンナの時みたいに前衛を外部に任せたりする場合もあり得る。

 ここで戦力増強したところで戦闘特化の転生者に勝てる保証はないのだから、場合によっては傭兵やモンスターの使役なんかで戦力を補うことも十分にあり得る。


 というか、あいつにも使える遠距離攻撃手段をマジックアイテムで補うのが妥当か。

 適性次第でどんな魔法を覚えてくるにせよ、霊能系の魔法が基本となる神官系は魔術系より間合いで困るわけだし。


「私の得意な遠距離攻撃は『弓』だし……共有できないし嵩張るのはやめておくべきかな」


 私の一番使いやすい弓は天界で使われている天使の弓だ。

 現世にある人間の使うものとは少し構造が違うし、引き方も天使に合わせて設計されてるから人間体の私にも使えるかどうかわからない。


 むしろ、天使の弓に慣れすぎてて私がこっちの弓を使おうとする方があんまり上手く行かないくらいだ。

 『万能従者』に任せればそれなりではあるけど、私の本来の的中率には及ばない。


「天使の武器といえば、『弓』と『光輪』はともかくとして『剣』なら似たやつこっちでも再現できそうだけど……私は短剣(こっち)の方が得意だしなー」


 片手で弄ぶ短剣は、もう付き合いの長いもの。

 神器だから劣化とかはあんまり気にしなくていいけど、それでも癖でよく手入れしている。武器の手入れが基本的に必要ない天界では他の天使たちからよく何をやっているのかと訝しがられたけど、私はその作業が結構好きだったりする。


 今更だけど、わたしは呪いとか関係なく天使の中では変わり者だったかもしれない。それか、呪いのおかげで呪いと関係ない部分まで少し歪んだだけかもしれないけど。


 少なくとも……私は、他の天使と違った部分の全部が呪いで『悪くなった』結果だとは思いたくない。


「思えば……昔は、単純に悪い子だったしな……私もちょっとは、マシになれたのかな?」







 天界では、天使というのは『造られる』ものだ。

 その核とするのが現世で生まれることのできなかった魂であるといっても、それを言葉も通じない赤子から何年もかけて育てるのは手間になる。

 だから、選ばれた魂に知識や運動機能を読み込んで最初から効率良く教育できるようにして、ある程度成長した姿で造り出す。


 そして、そこから情操教育、人格や精神の成長が始まるわけだけど……最初期の私は、本当にひどかった。


「わーん! テーレがなぐったー!」

「ふんっ! ディーレ様のことをわるくいったあんたがわるいのよ!」


 思えば、そんなことをしても結果的にはディーレ様の迷惑にしかならなかった。

 今では完全に理解できているし、聞き流せる。でも、他の神々に仕える天使がディーレ様を仲間はずれの女神だとか言って馬鹿にするのは耐えられなかった。


 あの頃はお互いに天使になったばかりで精神的に幼かったのはわかってるし、それでディーレ様が何度も謝らなきゃいけなくなったことも、そんな私を庇うことでさらに馬鹿にされることもわかってる。

 でも、その時の私はある時までそれに気付けなかった。


「テーレちゃん、本当にディーレが大事なら、誰彼構わずケンカするのはやめなさい。あの子に迷惑がかかるし……あなたがこうやって怪我をして、私の癒やしが必要になるのはあの子も嫌なはずよ」


 それは、他の天使とのケンカで怪我をした私をいつも治してくれていたどこかの古い神様か、かなり年上の天使だったと思う。

 毎度私の傷を飽きることなく治してくれた彼女は、私に色々と助言をしてくれた。

 ルールを無視してケンカするのではなく、ルールの中で少しだけズルをするのを教えてくれたのも彼女だった。


「またテーレが相手だわ」

「光輪もまともに使えない出来損ないが相手なら今回は楽勝ね」


 天使の主な仕事は悪魔を浄化すること。

 幼い天使には悪魔を倒すための訓練があって、その模擬戦では天使同士での戦闘訓練もあった。


 もちろん、武器は互いが本質的には傷付かないようになっていたけど、その勝敗は互いの仕える女神の面子にも関わる。少なくとも、幼い天使たちの社会では模擬戦での強さは上下関係に大きく影響した。


 私は同世代の誰よりも早く『戦術』や『作戦』という概念を実践して、私の生まれ持った『悪意』の正しい使い方を知った。

 天使の武器の扱いが他の天使より下手だった私は、その使い方を変えることで他の天使の思いつかない戦い方ができるようになった。


「そっこだー!」

「これでおーしまい! あれ、これって……」


 攻撃手段として、小回りが利いて不意討ちに使いやすい短剣を使うようになったのもこの頃からだった。


「光輪で作った偽物……」

「え、なら本物のテーレは……」


「あんたらいつも単調なのよ。パワー押しのバカ」


 訓練での模擬戦は実戦を想定している。

 やられた相手が卑怯だズルだと言ったところで『実戦ではそんなことを言っても通じない』と撥ね除けられた。実際、私はルールを破っていないから。

 それに……


「すごいわねテーレちゃん! また討伐数上がったらしいじゃない! あなたのことでディーレを悪く言ってた子達も何も言えなくなっちゃって、私も嬉しいわ。でも、無茶しちゃだめよ」


 悪意に長けた本物の悪魔の動きを予想する必要のある実戦でも、私は強かった。

 さすがに一番ではなかったけど、私は光輪の扱いとかで私よりずっと成績の良かった他の天使を仕事で追い抜いた。


 ルールの中でズルをする。

 悪いことでも咎められない。出し抜かれた相手の悔しげな顔を見られる。

 そして、ディーレ様のためになる。


 もちろん、他の天使からの受けは良くない。

 私の出した結果がディーレ様のためになるから同僚の天使たちからは嫌われなかったけど、他の部署の天使たちからは割りと目の上のたんこぶ扱いされてるかもしれない。


 もしかしたら、転生者や神々だけでなくて、ターレ以外の天使の中にも……


「……いつかは、『魔王』を倒す必要がある。そして、もしかしたら他の転生者や天使とも戦うかもしれない」


 もしそうなった時、マスターの修行と私のここでの準備が足りなければそれが敗北に繋がるかもしれない。

 多種多様な能力を持つ転生者の対策を事前に取っておくことは難しいけど……万が一に備えて、『天使』の対策も考えておくべきかな。


「ふふっ……もしも、私が人間体の今なら勝てると思って襲ってきて返り討ちにされたりしたら……どんな顔するんだろう」


 まあ、普通に考えればターレがやったみたいに天使がそのまま『天使』として地上で襲ってくるなんてルール違反に決まってるけど、ルールというのは破ってはいけないと言われているだけで破れないわけではない。

 もしも、明確にルールを破って襲ってきて、それをルールを破っていないこっちに返り討ちにされたら……それはさぞ、悔しい顔をするだろうなあ。


「さーて、やることはいっぱいあるし。まずは最初から決めておいたアイテムだけでも作っちゃおうか。それから必要なら素材集めして……公式チート使い共に『反則(チート)だ』って言わせるようなもの、作ってやるわよ」


 全てはディーレ様のために。

 汚れ仕事は私の手で。

 せっかくあんな変わり者の転生者を引いたのに自重なんてしてたら勿体ない。どうせあっちもきっと、修行中だって構わずどこかで自重なんてせずにやらかしてるんだから。





 ちなみに、テーレの工房は子供が全力で山の中に作った秘密基地みたいなデザインです。

 ただし、基地の周りのトラップとかコレクションの玩具とかがガチの危険物。魔法ありの世界の殺意高いホームアローンみたいになってます。

(しかも周囲の運気が下がるのでトラップの回避率が低下する特殊マップ状態)

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― 新着の感想 ―
テーレさんが楽しそうで非常に可愛らしいですね
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