教会とコネを作るのも悪くないと思うのです。
今日は辺境伯夫人のサロンに呼ばれており、テオドルは警備、俺はヴァイスヴルストを始めとした美容効果のあるスパイスを目的別に調合したソーセージや最近こころさんが作り始めていた化粧水などを提供している。
本当は乳液が作りたかったらしいのだが、乳化剤などは錬金術の領分で、『薬草師』としては植物由来のもの以外は苦手なのだ。
そこで、保水は最低限として日焼け防止、にきび予防を主眼においたものを作っており、まだ試作段階ではあるものの少しばかり話題にはなっている。
まぁ、今日は新製品を持ち込むからと言って参加させてもらっているのだが、要はサロンやパーティーを怪しまれずテオドルと密会できる場として利用しているのだ。
「先に話を進めて悪かったけど、もう辺境伯から打診してもらうことになっている。」
「いや、でも教会に与することになりませんか?」
テオドルは親父たちの計画の一端を担うことになっており、親父の目的も把握している。
親父はどうも爆弾テロをやらかし、ルース教の神殿を破壊、高位の神官も殺し尽くしたらしい。
ほぼ壊滅状態となったルース教を立て直すため、王都の教区長が神殿に向かうことになったらしい。
そして彼がそのまま新たなトップに立つ可能性が高い。
高位の神官は通常、聖騎士団に守られることになっているとのことだが、その聖騎士団も親父に潰滅させられた。
そこで、教区長の護衛を探しているとのことだった。
そこに、キリルを通じて辺境伯から『銀灰の翼』を捩じ込んでもらうことにしたのだ。
「本部はもう無いし、王都の連中なんて、俗人しかいないよ。親父もあの神殿以外は目標にはしないだろうし。それに、潜り込めれば情報が入る可能性もある。それだけじゃない。」
「はぁ。」
「『銀灰の翼』の名を後世に残すこともできるかも知れないからな。」
バチカンには、儀礼的な役割が高いスイス衛兵ってのが現代まで残っていた筈だ。
基本的に『銀灰の翼』は品行方正なテオドルを中心にスイス傭兵をモデルとして作り上げたものだ。
それに儀礼兵まで担えれば心強い。
「儀礼的な装備は俺の方で手配しておく。こういうのは見た目も重要だからな。」
「そこまでして貰うわけにはいきません。」
「持ちつ持たれつだ。上手くいって、ウチから教会への間接的な投資になれば、ウチが疑われる目を逸らすことにもなる。というか、投資分以上に俺の利になるからな。」
それに、持つ者は施さなければならないという風潮もあるからな。
何にしろ、『銀灰の翼』に投資をして動いてもらうのは、俺の利益に結びつく。
「分かりました。しかし、ユーキとの繋がりが表沙汰になりますよね。」
「顔が売れ過ぎてコソコソするのが難しくなってきたし、商売を広げるのにも裏にいるには窮屈になってきた。」
「そうですね。さすがは『トリキアの豚肉王』。」
「大仰な通り名だな。もう充分、パトロンとしての力も着けてこれたからな。ただ、人員を増やすのと、目的別に組織を分けたりするのも今後検討しないといけないな。」
「その事なんですが、『銀』と『灰』の部隊を作ろうと考えていたんです。」
「安直に名前から想像できるな。」
「まぁ、そう言わずに。」
「話は変わるけど、そろそろタメ口になってくれないかな?テオドルの方が年上だろ?」
「もう、癖になってますからね。」
テオドルとの話を終えてから、金に物を言わせて職人を集め、『銀灰の翼』用の儀礼用鎧を20着揃えた。
その鎧はフルプレートではなく、兜、前面だけの胴、草摺と脛当てだけとシンプルなもので、軽騎兵といったところか。
凝った彫刻などは一切無いものの、磨かれ銀に光るそれは、充分な存在感を持っている。
兜の羽飾り、鎧の下に着ている服とズボンは深紅に染められており、銀に輝く鎧と相まって荘厳な雰囲気を醸し出している。
先頭をゆくテオドルの鎧のみ金を使った装飾が施されており、銀と深紅の集団の中でも大きな存在感を放っている。
この装備になっているのは、長距離を護衛しながら進むためだ。
フルプレートなど四六時中着れるものではなく、馬から降りてあるくなんてできない。
また、従卒、従者、供回りも全て真紅の衣装で揃えられており、100人ほどの真紅の集団は見る者を圧倒する。
「こりゃ、想像以上に格好いいな。」
「ありがとう。」
「ま、無事に行って戻ってくるだけのお仕事だ。気楽にな。」
「重圧にしかなってませんよ。」
トリキア周辺で野盗に襲われる心配はないものの、ルース教国は壊滅状態で治安に不安はある。
そもそも農業や産業が盛んでない場所なので、庶民に食料などが行き渡っているとも限らない。
ただ、そうなっていれば、多少の食料を持ち込んだところで焼け石に水だろう。
「絶対無事で帰って来い。」
「当然です。可愛い妻子が待ってますからね。」
昨年結婚したテオドルの妻は最近身籠っていることが分かった。
片道2週間、向こうで2か月の逗留の予定であるため、まだ何とか出産には間に合うと想う。
「ああ、もう出産祝いは準備してるからな。帰ってきてちゃんと受け取れよ。」
「はい。」
横から見知った顔が現れる。
「あ、バトバさん。」
ハルグラド行きに付いてきてくれた小隊長だ。
まぁ、バトバさん強いもんな。
「あのソーセージありがとうな。また食いたいと思ってたんだ。」
「正式にパトロンになったんで、いつでも用意してますから。テオドルの事頼みますね。」
ウチのソーセージは保存性を高めるためソルトピーターだけでなく、ハーブを入れたものも作っている。
バトバさんのお気に入りは、西洋当帰の亜種を入れたもので、ヴァイスヴルストだけでなく、普通のソーセージに入れたものも作っていてハルグラドへの道中で振る舞ったものだ。
「おう、任せとけ。」




