イケナイコト
「出てくのに、裕紀に挨拶も無くて良かったのかな?」
「『まぁ、ええ加減親離れもせなあかん歳やからな。』とか言いそう。」
「裕紀くん、びっくりしてるんじゃないかな?」
「あの親あって、あの子だから、あっそうかーって感じなんじゃない?20年近く一緒にいてたんだから。」
「ああ、俺もサキに同意だな。」
サキ、ラファエル、宗一郎が3人で話し込んでいる。
由佳は積み上げられた金色の荷の上で灰色の外套を纏って心配そうに前を見ている。
この金色はその独特な匂いから真鍮であると分かる。
また、接合部やいい加減な処理しかされていないバリが見て取れることから鋳物なのだろう。
その視線の先には、巨大な神殿が聳え立っている。
「しかし、ボスなのに奴隷並みに雑用してない?」
「手伝いたいのは山々なんだけど、あの結界に入り込めるのは昌也さんだけだからねぇ。」
「『ワシにはスキルだけやのうて奇策を操るような才も無いし、天才的な頭脳もない。やるべきことをコツコツと熟していくだけや。』とか言いそう。」
「はははっ。そう言う時の顔が浮かぶぜ。そういや、とうとう俺たちもテロリストデビューだな。」
「爆弾テロなんて典型的よね。」
「テロリストの思想も行動も肯定できなかったけど、守りたいものを守るためだったんだよね。」
「複雑な気持ち。」
「まぁ、勝てば官軍だろ。それに行動を起こさなけりゃ、もっと多くの犠牲が出る。」
「世界の仕組みも時代もある。暴力じゃないと解決できない、か。」
地味な花火のような閃光が辺りを昼のように照らしてから、爆発音が何度も響く。
爆発は同時という訳ではなく、散発的に爆発音が聞こえており、また、思い出したように爆発が起こる。
重いものが崩れ、擦れ合う音が追って聞こえてくる。
見えていた巨大な神殿は、崩壊音と引き換えにその姿を小さくしてゆく。
神殿自体は高層化されていないものの、岩山の勾配に沿って建てられたそれは、大きな高低差を持っている。
上から崩れた瓦礫は下の建物を破壊し、新たに出た瓦礫が更に下にある建物を破壊するという連鎖を起こしている。
昌也はその音を聞きながら目を瞑り手を合わせていた。
昌也が運んでいたのは、鉄の容器に詰め込まれた火薬である。
圧電素子を使用したゼンマイ式の電子発火装置が信管に使われており、それぞれの部品の精度の低さとゼンマイを巻くための時間のため同時にとはいかないうえ、不発も少なくはない。
とはいえ、充分に目的を達するだけの数は爆発していた。
「結界は消えたか。」
「ええ。」
「ほな、行くか。」
神殿のあった大きな岩山の麓は大小様々な建物が集まっており、今は建物から飛び出た人々が騒ぎながら岩山を眺めている。
神殿で使われている灯りはほとんどが魔道具であったためか、あまり火は出ていない。
だが、消火に使える水も人手も少ないことから、火に囲まれるのは確実だ。
そのため、暗さで神殿の状態がよく分からないのであるが、普段煌々と灯る明かりが無くなっており何か異常な事態が発生していることは皆認識している。
「一体何があったんだ!」
「神殿はどうなってるの!ウチの子はあそこにいるのよ!」
悲壮な声をあげる人もかなりの数がいる。
その騒ぐ人混みを掻き分けるように、5人は岩山を目指す。
不審がられなかったのは、暗いことと、同じように神殿を目指す人々の群れに紛れ込んでいるからだ。
思い出したように爆発が起こり、群衆から悲鳴が起こる。
瓦礫の山の頂上付近では、恰幅のいい男たちが集まっている。
この神殿を護る聖騎士団だ。
その立ち振る舞いなどから、そらなりの実力者であるのことは察せられるが、焦りや不安、恐怖といった感情は隠しきれていない。
巫女や高位の聖職者を集め、周囲を警戒しながら手当を行っているのが見える。
サキは離れており、昌也の後にラファエルと宗一郎が付き従っている。
「宗一郎くん。すまんが、アレ、頼めるか?」
「はい。」
言われた宗一郎は、背負っていた人間ほどもあろう金色の塊を2つ背から降ろす。
その間にも、思い出したように爆発が起こる。
サキが不発弾を処理しているのだ。
不発の場合は、中に仕込まれた魔道具を遠隔で操作して起爆するようにしてある。
シャンデリアや街灯など高所にある魔石ランプを点けるための魔道具、リモコンを改造したものだ。
神殿付近は結界によって魔族の侵入を感知するだけでなく、登録した人物以外の魔力の動きを阻害するようになっているため、魔法どころか魔道具すら使用できない。
そのため、侵入できたとしても魔道具での起爆もできなかったのだ。
だから、結界に反応しない昌也が人力で爆弾を運び込み、ゼンマイ式の信管で起爆したのだ。
「投げます。」
その声に反応し、昌也とラファエルは瓦礫に身を隠して耳を塞ぎ伏せる。
細長くした卵型の鉄塊を人が集まる上空に矢継ぎ早に放り投げる。
それは投下型爆弾を模した物で外殻だけでも20キロ以上あり、その中には100キロを越える火薬と鉄屑が詰まっている。
放り投げられた高さは30メートル近い。
宗一郎の種族、ドラウグルの特性はその膂力であり、宗一郎頼みの作戦ではある。
「念の為、投げた後は下がっときや。」
既に耳を塞いでおり、聞こえていないのは分かっているが、昌也は宗一郎に声をかける。
今や外見では人間と区別できないが、宗一郎はアンデッドであり、ここに集う聖騎士とは相性が悪い。
数秒後、一度だけ爆発音がする。
片方は不発だ。
防がれたのか、元々不発だったのかは分からないが。
既に立っている者はいない。
多少のうめき声が暗闇から聞こえるだけとなった瓦礫の山に踏み出した。
そして、昌也は手に持つ刃の大きな槍を地に伏す者たちにとどめを刺すために振るい始め、ラファエルと宗一郎はそれを見守っていた。
「ハズレやったな。」
岩山の頭頂から地下に向かう長い階段を降りたその先には暗く広い空間があったが、そこには何かが設置されていた痕跡だけが残されている。
「逃げられたのか?」
「いや、移転さしたんはかなり前やな。ワシらを警戒してっちゅう訳や無いな。」
「とりあえず、また次の場所を探りに行かないと。」
「まぁ、『想定内』でしょ?」
「せやけどな。お前らにあんまし負担はかけたくなかったんやけど。見つけられるまで人を殺し続けなアカン。ますます外道に手を染めていくことになる。ワシは地獄に落ちる覚悟はできとるけど、お前らを巻き込みたくは無かったんやけどな。」
「大丈夫だ。その覚悟はもうできてるし、今回は聖騎士団を壊滅できただけで良しとしとこうや。」




