世間とはこうも狭いものなんでしょうか。
話を聞き終わった全員が返す言葉も思い付かず黙り込んでいた。
いろいろと辛いことがあっのではと想像していたけど、ここまでとは。
しかし、もっと驚くことが…
「聖隷学園。」
こころさんがポツリと呟く。
バレー部のバスが事故を起こし、巻き込まれた車にもその学校の生徒が乗っていた。
話題性もあり、かなり大きなニュースとして報道されていた。
確か巻き込まれて死んだ生徒の名は、御幣島 杏さん。
顔までは覚えてなかったけど。
そしてそれは…
「こころは卒業生。」
「こころさんもか?」
俺が通っていた高校だ。
「も?」
「ああ。」
「俺も、こっちに連れてこられた俺の叔母さんもだ。」
「ちょっと、叔母さんって誰?」
話についてこれなかったマーリヤが聞いてくる。
「その話は今からする。」
「まさか、あの女の連れて来るって奴らは全員、学校の関係者だってのか?」
「その可能性はあるな。」
多分、俺はその中でも本当に偶然だと思うんだけど。
「さて、ここからは、俺からの話だな。重たい話ばっかりで済まないけどな。」
親父がスキルのせいで暴走した由佳さんを捕まえて、今はスキルを発動できないようにしていること、帝国は反女神に見せかけて裏では繋がっている可能性があるということ、それに帝国の皇帝を通じて女神に宣戦布告したことを掻い摘んで話をする。
「昌也さん、よく帝国の皇帝なんかと会えたな。」
「昌也さんのところって、4人も魔族がいるのか。」
ペタルとヴィネフが変なとこで感心している。
「帝国が女神側だということは、ほぼ全世界を敵に回すってことよね?」
マーリヤが心配そうに言う。
「まぁ、そうなるな。」
「いまのアンの話を聞いたところだから、女神に反感を持つのは分かるけど、ウチが昌也さんに協力すれば、どうなるか分かるわよね?」
「まぁ、あーしも協力は求めてないし、危険なマネはしなくて良いと思ってる。」
アンに、とっちゃ普通の普通の人間なんて足手まといにしかならんだろうし。
「ウチは肉屋だ。戦いに行くわけじゃないし、もらった情報から危ない所を避けていればいいと思う。」
心情的には親父もアンも応援したいところだけど、俺はただの肉屋だからな。
兵站の手伝いぐらいはするかも知れないけどな。
「兄貴、俺らはこれまで通りでいいんだろ?」
「ああ、その積りだ。」
「そんで、アンは雇うのか?」
ヴィネフが聞いてくる。
即戦力になるのは間違いないんだけどな。
「こころが見る。」
「お願いしていい?さっきマーリヤが雇うんならしばらく様子見するって言ってたし、こころさんにしばらく面倒見てもらおう。」
アンのおかげで勢いづいて話したいことを話すことができたので、少しホッとした。
「とりあえず、俺らは平常運転だ。サムイルが帰ってきたら、俺から話しておくよ。」
「ちょっと、本当にそれでいいの?」
「それに帝国は今は自国の使徒にも反女神の立場をとってるから、表立った動きはできないし。」
「ここはパンティアよ。」
「パンティアだって一枚岩じゃないだろうし、ここの辺境伯は中立を貫くだろうし、イザとなったらみんなで尻尾巻いて逃げればいい。」
「何も考えてないだけじゃないの?」
「情勢がどう転ぶか分からんし、今心配しても無駄なだけだと思う。」
「俺も兄貴と一緒だ。それに、もう女神なんて信じられなくなったしな。」
「王都からも情報が来るようになってはいるから、ちゃんと警戒は続けるよ。」
考え無しと言われても仕方ないけど、今はどうしようもないからなぁ。
アンの存在がバレれば、危うくなるってのは分かるけど、あんな話を聞いたあとじゃ、無碍にできないよな。
「情報収集とともにウチは関係ないと思わせるよう働きかけはしていく。それと別にもしもの時の退路の確保も進めていく。」
翌日から、マーリヤと約束した、もしもの時の対応を進めていった。
戻ってきたサムイルと話をし、定期便事業は完全にサムイルに任せ、ウチとの関係は切るようにした。
まぁ、元々その積りだったのがは早まっただけだけど。
また、王都の連中との繋がりはサムイルを挟み、ウチとの繋がりを隠すようにする。
もしもの時は王都に逃げ込む積りだからだ。
それから、こころさんには、知り合いの錬金術師に頼んで髪を脱色できる薬剤の確保を頼んだ。
ちなみに、アンのスキルを使えば一瞬で髪の色を変えることができるのを知ったのは薬剤が届いてからだった。
そんな事をしつつも商売は順調で、冬の到来に備えて解体場も改良工事を終え、べセリンさんの肉屋に投資し生ハムの製造蔵の増設も行い、来年度には倍以上の生産できる目処もたった。
また、フリッツさんの村に造った豚の冬期の飼育用のサイロも完成し、着実に飼料を貯め込み始めている。
俺自身としては、食肉ギルドと仲直りをして、今は副会長になった。
ウチで働き始めたアンだが、さっき挙げたような建設工事も多いため、建設専門の部署を立ち上げ、子会社化してこちらはヴィネフとアンに任せている。
そのアンだが、解体場の改修のために廃れていたコンクリートを復活させ、水周りを中心とした工事技術をどんどん開発している。
気が付くとウチ以外から受注を増やし始め、日に日に工事部門を大きくしていっている。
コンクリートの知識自体は、元々彼女の部下であった魔族が持っていたとのことだ。
今は水周り工事しか受けていないが、今後はコンクリートを使った大規模建築を手掛けたいとか言ってた。
やり過ぎだよ。
そのうえ、アンは特に人をまとめるのが上手く、新しく入ってきた職人も大人しく彼女の指示には従うらしい。
まぁ、気の荒い連中でもアン相手にいきがるような命知らずはいないだろうし。




