親父は油断しなかったようです。
「意識はあるか?喋れるか?」
返事はないが、少女がマントの中で身じろぎするのを感じるているようだ。
「いや、喋んのは落ち着いてからでエエよ。」
よく見ると、灰色の革のマントはその内側から布を貼られ大きく広がるように細工をされていたようだ。
「そういや、喋れるかどうかも分からんかったよな。少し座るか。」
少女にマントを掛けたまま、二人はその場に座り込む。
「このマントの裏地は鉛線で編んであってな…」
一旦、言葉を切るが、改めて労るように声を掛ける。
「とりあえず、このマントをしっかり被ってたら、大丈夫やから。」
ぽつりぽつりと囁くように、ゆっくりと昌也はマントの中の少女に声をかける。
「ジブン、由佳ちゃんやんな?」
「由紀恵の旦那の昌也や。覚えとるやろ?」
「済まんな。すぐにでも助けたかったんやけどな。」
「ここに来てからだけやのうて、向こうにいてた時、生まれ変わる前からやな。」
「由紀恵もずっと心配しとったんやけどな。そもそももっと早うに動けとったら、あんなことにはならんかったのにな。」
「ホンマに済まんな。」
マントの中の少女を抱き締めながら、昌也は徐ろに顔を上げる。
「みんな、頼むわ。」
離れた場所で待機していたラファエルと宗一郎が昌也の側に立つ。
「数は?」
「ハイド系のスキルで正確には分からないね。」
「俺の鼻じゃ数が分からん。」
「でも、殺気は感じるよ。」
そう言いながら宗一郎が上げた腕を下ろすと、突風が吹き荒れる。
こちらに向かってきていた男たちの速度を少しばかり緩める程度の効果であるが、副次的に向かってきていた男たちの姿がはっきりと見えるようになった。
追い風に乗るラファエルは獣人化しながらその豪腕を男たちに振るう。
「よし2人。」
宗一郎はまだ残る突風に石礫を乗せて飛ばす。
狙われた男は軽く体を捻り避けようとしたところを、地面から生えた棘に襲われる。
「ぬがっ!」
ラファエルは首元に近づくナイフを腕で払う。
だが、返す刃でその腕を更に傷付けられる。
その瞬間、男が立っていた場所に炎柱が噴き出すも空振りに終わる。
それだけでなく、お返しとばかりに投げナイフが宗一郎へ殺到していたが、何とか障壁でやり過ごす。
投げたナイフを追うように男が迫るが、宗一郎は巨大な大剣を片手で振って迎撃する。
男は堪らず後に下がる。
「種族『ドラウグル』?コイツ、魔物か?」
「待ってたで。井内くん。腹芸の苦手な蓮くんやと使いにくいやろから、君が来ると踏んでたんや。」
「俺を知ってるのか?」
そう声を掛けられたのは、前回の帝国の使徒である『アサシン』の井内 剛だ。
公式には前回、魔王と戦った際に死んだことになっている。
「せや。皇帝との会談の時からいてたやろ?殺気が漏れ漏れやったで。スキルに頼り過ぎて基本ができてへんで。」
無言で井内は前へ踏み出す。
霞んで見えるほどの加速で、通常の人間では反応できないレベルである。
昌也の合図で側にいる宗一郎が地面に棘を生やして足止めする。
バキバキ!
その瞬間、背後で生木の折れる音がした。
昌也は既に動き始めており、飛ぶ井内に向かって体を踊らせる。
空中で井内の突き出すナイフを避けながら、両手を伸ばす。
両手は井内の頭に絡み、衝突により空中で2人の態勢が崩れる。
メキョ!
再び生木の折れるような音が響く。
昌也と井内は絡まったまま数メートル後方に飛んでいき、背後の大木にぶつかる。
しばらくしてから立ち上がってきたのは昌也だった。
「大丈夫!?」
しばらく姿が無かったサキが慌てて駆け寄ってくる。
「ああ、肋は何本かはイッたかな?それと、ちょっとナイフで首んトコが切れたわ。」
「まさか真っ直ぐ昌也さんに向かって行くとはね。」
「そら、目標はワシやし、お前ら相手じゃ分が悪過ぎるからな。想定どおりや。」
井内との対戦を見届けたラファエルと宗一郎は残る暗殺者の掃討に入っていた。
「アンタ、本当に普通の人間なのか?」
サキの向かってきた方向から蓮が姿を現す。
「どんだけ速う動けても、人の形をしとるからな。」
そこまで機動力の無い宗一郎は手近にいた何人かの暗殺者を屠り昌也のところまで戻ってきていた。
「一体、何をしたんだ?」
「予め『操糸』で飛んで移動するのに使いそうな枝に切れ込みをいれといただけや。宙を飛んどる最中やと大したこと出来んからな。」
「はあ?」
「空中で頭を抱え込んだら、あとは自分の慣性で身体が振り回されて、首がポキリというワケや。」
「マジかよ…」
「なまじステータスで強化されてすぐに死ぬようなことが無いから慢心してたんやろ。所詮は人間やのにな。」
気が付くと、宗一郎は姿を消し、人の姿に戻ったラファエルが戻ってきている。
背後の森から人の声が聞こえ始め、蓮のパーティーメンバーと討伐遊軍の人間が近付いてきたのが分かる。
「急に見失ってしまったから、心配したよ。」
木村を先頭にパーティーメンバーが蓮のところに集まる。
「この男たちは?」
巨大なメイスを担いだ町田が聞いてくる。
「邪魔しに来たのか何か分からんケド、狙われたから返り討ちにしたったんや。たぶん、調べても身元は割れんのちゃうかな?」
「その可能性は高いか?そこの男は日本人じゃないのか?」
「多分な。斉田くんもそこの男みたいな汚れ仕事押し付けられへんように気ぃ付けときや。」
「お、おう。」
急に声を掛けられた斉田は理解できていなそうだが返事をする。
「しばらくはラファエルに抱えられといてくれへんかな?」
昌也のマントを被せられた少女のフードが揺れる。
「ワシらはここで解散さしてもらうで。」
「ああ。スヴェン中将も良いですか?」
「その、そこに居るのはあのアルラウネなんだな?」
「せや。」
「殺した方が安全だろ?本当に連れて行くのか?」
「せや。約束通りや。すぐに帝国から出てトリキアに戻るから、心配せんでエエやろ。」
「大丈夫なのか?」
スヴェン中将は蓮に聞く。
「今は信用するしかありません。それに彼らの本拠地がパンティアのトリキアなのは確かです。」




