約束
夢うつつのまま月日が過ぎる。
見るのは悪夢だけだけど。
日が落ちれば、その夢の中で飽くことなく私は私を殺し続けている。
抵抗しようと考えたことはあるが、抵抗の仕方もすら分からない。
日が昇ると、私が私を殺し続ける作業が終わり、肉体が私に見たくないものを見せる時間が始まる。
何も見えなければ良いのに。
そう思えど、私は肉体に抗えない。
何故狂えない。
狂えれば、肉体は残るが私は死ねるのに。
以前は怒りと生きようとする欲求に私は支配されていた。
いつからだろうか、人間に対する呪詛、元の世界に対する郷愁、帰れぬ事に対する苛立ち、目の前に在るモノを屠りその力を奪いたいという欲求、そういったものがどこからか流れ込み、その濁流が私の意識を押し流してゆく。
そして、希薄になった私の意思を無視し、肉体は動き続ける。
ただ、歩き、喰らう。
飢えからではない。
ただ、喰らうためだけに喰らう。
喰らい、力をつけるという欲求を満たすためだけに喰らうのだ。
閉じることのできない目で、ひたすら肉体の為す惨劇を見続けなければならない。
もう、魔物を殺そうが、人を喰らおうが、心が動かなくなってしまっていた。
私を罰して欲しい、殺して欲しい。
そう願う日もあったが、もう、そう願うことすら諦めてしまった。
今はただ、従順に苦痛を受け続け時間が流れることを待ち続けるだけ。
この無間地獄はいつか終わるのだろうか?
向かってくる男がいた。
顔は分からない。
分からないのではなく、分かりたくないのだ。
その男は倒れず、まだこちらに向かっていた。
近付いて欲しくない。
誰かの死を見たくないから。
近付いて欲しくない。
誰かの苦しむ顔を見たくないから。
近付いて欲しくない。
誰かと話したくなってしまうから。
近付いて欲しくない。
あの人じゃなく、他の誰かだと思いたいから。
近付いて欲しくない。
期待してる自分が嫌になるから。
近付かないで。
甘えてしまいたくなってしまうから。
だから、来ないで。
(助けて。)
だから、触れないで。
(貴方の顔を見たい。)
私の手が男に触れる。
誰も傷付けたくはないのに。
(私を助けて!)
「約束を果たしに来たで。」
(ずっと、その声が聞きたかった。)




