帝国の皇帝はフランクな方みたいです
豪奢な装飾がされた扉が勢いよく開く。
「アセン!」
「おう、無事で帰ってきたのは良いが、来客中だ。行儀が悪いぞ。」
若い男が高い身分の人間の執務室と思しき部屋に飛び込んでくる。
「っっ!」
若い男は執務机の向かいにある応接机に座る男と目が合い、出そうとしていた声を飲み込む。
応接のソファの背中に左腕回して振り返った男と目が合う。
「元気のエエやっちゃなぁ。」
「何かしら言いたいことがありそうだな。構わんぞ、この男に知られても。」
「アンタ、一体何者なんだ?」
『あれ?まだワシのこと聞いとらんのかいな?』
「日本語か!?」
『せや。状況もある程度把握しとるから、コイツに文句言うついでに報告頼めるか?』
「こっちの言葉で話せ。」
「なんや、この子に報告ついでに言いたいこと話すよう言うただけや。それに日本語かてゆっくりやったら分かるやろ?」
「お前は訛ってるから聞き取りにくい。それにまだ俺からはお前の事を説明しとらん。」
「ほな、自己紹介からやな。ワシは芦屋 昌也や。パンティアのトリキアで自由な商売しとるんやわ。」
「そうだったな。日本じゃそういう風に言うこともあったな。」
「ほんで、君が今回の使徒の藤堂 蓮くんやな。」
「そうだ。それで自由業のオッサンが、何でこんな所にいるんだ?」
「簡単な話や。『女神』を始末するために協力を得に来たんや。ほんで、首尾はどないやった?」
どうしたら良いか分からない表情で皇帝を見る。
「構わん。説明する手間が省けるからな。」
戸惑った表情のまま藤堂 蓮は報告を始める。
「俺は指示どおりハルグラド盆地に封印されていた魔族の封印を解いた。」
そして、藤堂 蓮はハルグラドであった出来事を話し始めた。
皇帝は何も言わず聞いている。
そもそもの作戦は、ハルグラド盆地で封印されていた魔族の封印を解き、カレンの使徒である陽菜と引き合わせ、彼女が『女神』であるか確認するというものだった。
結果として、封印されていた魔族に匹敵するような魔族が更に2体いたが、魔族同士の戦闘で封印されていた魔族ともう1体が相討ちし、生き残った1体の魔族が陽菜と邂逅し、『女神』であることが確認できた。
結果だけ見れば上々だ。
「スタンピードに乗じて接触するのは上手くいった。ハルグラドはスタンピード対策がされているときいたいたが、見捨てられる人間があんなにいるなんて聞いてなかった。」
「仕方あるまい。スラムの人間かなんかだろう?結果は上々だ。お前は十分良くやったよ。」
「それにあの魔族ども。封印された魔族も含めて全員レベル上限に近かった。」
「俺もそこまでとは思わなかった。」
「あの魔族が使ったスキル。あれは核爆発だ。街一つ綺麗に吹き飛んだんだぞ。」
「核だと?」
「ああ。お前、ハルグラドに何がいるか知ってて俺らに封印を解かせたんだろ。」
「おいおい、仮にも皇帝に向かってお前呼ばわりはないだろう。俺もそこまでの事になるとは思ってもみなかった。」
「ふざけるな!」
「まぁ、そうカッカするな。」
「俺らは捨て駒か?噛ませ犬か?どっちの積もりだったんだ?」
「そんなわきゃねぇだろ。封印を解いてからすぐ逃げりゃ追っては来なかっただろ?まぁ、ここまでの事態は想定してなかったのは確かだ。済まなかった。」
「アンタの睨んだとおりだった。これで『女神』は特定できた。だが、今回の戦いで魔族を倒してレベルも上がった。それに、優が強力なスキルも得たぞ。もうオレらじゃあの2人には太刀打ちできない。」
「でも、敵対はしてないんだろ?」
「まあな。」
「今はそれで充分だ。」
「何が充分なんだ!?生き残った大半の人間も放射能汚染で苦しんでいる。街一つ滅ぶんだぞ。何人の人間が犠牲になったと思ってるんだ。」
「確か4,500人ぐらいか。仕方あるまい。必要な犠牲だ。冥福を祈ろう。」
「人間はただの数じゃないんだぞ。」
「まぁ、これからのことは今から詰めてくが、作戦はいくらでもある。だから、ちゃんと鍛えておけ。でないと生き残れんぞ。」
「お前を同郷の人間だと思ったのが間違いだったよ。」
「ちょっと待て。何で核やと思ったんや?」
しばらく2人の話を聞いていた昌也が口を開く。
「放射能の症状が出始めてる人がいてたからな。」
「お前らは大丈夫なんか?」
「確か原爆より、中性子爆弾に近いものだと仲間が言ってた。」
「中性子やと環境への汚染はそんなにないやろけど、爆発した時の被曝量は多なるんやないか?」
「ああ。それは魔法障壁で防げたらしい。あの女が言ってたから間違い無いだろ。」
「なるほどな。ご苦労やったな。皇帝陛下、この子も疲れとるやろから今日は休ましたったらどないや?」
「ああ。今後のことはまた情報が集まってから話そう。」
「分かった。」
途中で勢いを削がれた蓮は静かに執務室を出ていった。




