使徒のパーティーは異世界の勇者っぽいです
「既に剥いであるので60か。鞣してあるのが10。塩漬けの足を超える分は銀貨で払う。」
「ほう、銀貨が出るか。」
「あと数日もすれば、他の街や村からも食料を売りに来るだろう。半分鞣せば俺の所持金を超えるから、以降は要相談だ。」
「いや、これで何とかここにいる連中を養うことができる。」
「しかし、よく領主に徴収されなかったな。」
「鞣さないと使い物にならんから、そのまま捨て置けばただのゴミだしな。王国の法では倒した者が所有権を持つことになってるし、王国の使徒のパーティーにいる姫様の前じゃ、欲をかいて要らんことをする気にもならんだろう。」
「そういう話は聞いたことがあるが、本当に姫が同行してるんだな。」
「ああ、そのへんは、坊主、っとカレンの使徒が釘を刺してくれたんでな。」
「そのカレンの使徒は一体何をしてるんだ?姿が無いようだが。」
「魔物から取った魔石を王都に売りに行ってる。」
「ここから王都だと片道、14、5日はかかるんじゃないか?往復一月ぐらいか。」
「いや、行きは城から魔法で王都まで飛んでいける事になったから、片道分たけだな。」
遠くまで飛んで行ける魔法か。
だが、普及してないのをみると、制限があるか、普段使いするのに見合わないコストなんだろうな。
「そんな凄い魔法があるんだな。しかし、片道でも、飢え死にする人間も出てくるだろ?」
「それもあって、少しでも食料に替えれるように革を鞣してたんだ。」
「でも、足らんだろ?どうみても。」
「そこはパンティアの使徒が交渉してくれようとしてたみたいなんだが…」
「思わしく無かったわけだな。」
「それと、魔物の肉を何とか食べる方法もあってな、それで糊口をしのぐ積もりだった。」
「どうやって魔物の肉を食えるようにするんだ?」
「水に晒してから干すのを繰り返せば食えるようになる。ただ、魔物によっては何回も必要だし、完全に毒抜きできる訳じゃない。」
「もうすぐしたら傷み始めるだろうしな。」
「まぁな。」
「しかし、これだけの魔物の山を作るとは、カレンの使徒は相当な化物だな。同じ人間とは思えんな。」
「オレらも多少は頑張ったが、使徒ってのは俺たち普通の人間と比べられるようなモンじゃねぇよ。」
解体されていない魔物の死骸は、まだ大きな山を作っており、まだ数百を超えそうな数はあるように思われる。
ゴブリンやオークなどの人型と虫型は革も肉も取れないから、ただのゴミだが。
『おや、日本人ですか?』
荷馬車から塩漬け豚の足を下ろし、ニコライたちに渡している時に、後ろから声をかけられた。
日本語だ。
豪奢な金属鎧を着込んだ青年が、美少女の群れを引き連れている。
パンティアの使徒だろうな。
「俺はトリキアの肉屋のユーキだ。」
日本語が出そうなところをパンティアの言葉で返す。
「アンタがパンティアの使徒様か。」
『まるで日本人みたいだな。』
「祖先に使徒がいた。この名前も故郷の言葉からとったと聞いてきるが、今は関係ない。いや、ないこともないか。」
こころさんも使徒だからな。
先に教えとかないと、逆に怪しまれそうだな。
『そっか。僕は如月 遥人。』
「パンティアの使徒か。使徒とは関係なくもないって言ったのは、ウチでカレンの使徒のココロという女性を雇ってるからだ。」
『確か、ちょっと根暗っぽい人だったよね。おんなの子の中では最年長だけど、頼りなさそうな人だったんじゃなかったっけ?』
同行する女たちに尋ねるように言うと、女たちは苦笑しながら如月に頷いている。
失礼な奴らだな。
「パンティアの使徒様のように、性格もジョブも戦闘には向いていなさそうですが、ウチでは優秀な従業員です。」
マーリヤが言い返している。
「烏は羽の黒さを隠せない、か。」
まぁ、元々品が無い者は取り繕ってもそのうちボロが出るみたいな慣用句だ。
後ろの女たちを無視して如月に言う。
『こっちの慣用句だね。後で僕からも言っておくから、大目に見てよ。それより、もしかして、炊き出ししてくれてたんだ?』
「『炊き出し』?よく分からんが、護衛に雇った、傭兵団の『銀灰の翼』が部下にさせた施しの事か?人気取りでもしたかったんじゃないか。」
『へぇ、僕はキミがしてるんだと思ってたんだけど。』
何気に鋭いのは敏いのを隠しているのか、天然なのか?
前者の気がするが。
「俺が?」
『違うの?』
「ん?何か気になる事があるのか?」
『鑑定阻害は道具?それとも、スキル?』
「鑑定阻害って何だそりゃ?」
『惚けるんだ?』
そうだ、確か親父から俺たちはシステムの適用を受けないため、『鑑定』スキルで見る事ができない。
そこから足がつかないように気を付けるように言われてたっけ。
どうするか後で考えることにして、とりあえず無視しよう。
『ああ、そのコートか。魔力を遮断するみたいだね。』
無視しても、如月は話しかけ続けてくる。
『遥人が話しかけてるのに、無視するなんて失礼よ!』
コートじゃなくてマントだけどな。
引き連れているハーレムの一人が苛立ったのか、大きな声を出してくる。
脅す気なのか女の身体に魔力が満ちるのを感じたが、小隊長が剣の柄に手をかけているのが見えたので、俺は構えないことにする。
「頭の弱い奴が力を持つと厄介だな。ちゃんと躾けておけ。」
『ごめん、ごめん。彼女らも悪気がある訳じゃないんだ。許してよ。』
遥は人ハーレムに目配せして黙らせた。
『さっき、強盗に襲われて一瞬で5人も倒したっていうから、どんな人か気になっちゃって。』
「お前らみたいな化物と一緒にするな。俺はただの肉屋だ。」
『そっか。僕は君と仲良くしたいと思ってるんだけど。』
「なら、一つ聞きたいことがある。」
これを聞くために、こころさんを馬鹿にされても我慢して、更に使徒に会うというリスクを冒したんだ。
『何だい?』
「親父から聞いたことがある。お前らの来た世界には、この惨状のように街一つを吹き飛ばすような魔道具があると。」
『科学だけどね。』
「《科学》か何だか知らんが、その魔道具を使った後には目に見えぬ毒が残り、永く人を苦しめると。アンタがここにいるってことは、そんな毒は無いってことか?」
『放射能の汚染はほとんど残っていないと考えてるよ。』
「《放射能》?目に見えぬ毒をそう呼ぶのか?」
『爆発があったときに放出されたものはあった筈だ。まぁ、その辺りは菜月さんが詳しいんだけど。彼女は理系だからね。』
おっとりとして見えるが芯は強そうな女に視線を向ける。
理系なら、魔法使いの方が向いてるんじゃないか?
『おそらく核融合と思われる反応があったと考えられますが、ウランなどの汚染物質を使用したとは考えられませんので、この土地が放射能で汚染されていないと思われます。ただし、それらの反応の際に大量の中性子が放出された恐れがありますし、放射線の被爆症状が出ている方も見受けられます。』
それって中性子爆弾みたいなものだったってことか?
「よく分からん言葉が多いが、結局、この街の人間はすべて目に見えぬ毒に冒されているってことなのか?」
『ええ。ただし、ここは爆心地からかなり近いにも関わらず、そういった症状が出ている人が皆無です。魔法障壁で防御したとのことですので、恐らく魔法障壁に中性子線を防ぐ作用があったと考えられます。』
便利だな魔法障壁ってのは。
ここの人間を生かしておかないと、街が壊滅する可能性があるって訳か。
とりあえず、マーリヤに影響が無いのが分かったのは良かったか。
「なら、ここにいる人間以外は毒に冒されている可能性があるってことか。その事は領主は知っているのか?」
『いや。今知らせれば混乱が起きるわ。だから、遥人は目立たずにここの人間を助けようとしているの。』
そもそも助ける方法なんて無いしな。
教えたって混乱が起こるだけなのは確かだ。
「そう言えば、魔物の食い方を教えたのはお前らか。」
『そうだよ。金はあっても物が無い。だから、炊き出しなんかも出来なくて困ってたんだよ。何か助けになることはないかと思っていたんだけど、それぐらいしかできなかったよ。』
「当面のウチの在庫はもう無いしな。ニコライ、カレンの使徒が稼いだ金はどう管理するんだ?」
「ああ、最初はユウが預かって管理するが、そのうち何人か代表を選んで共同管理する予定だ。」
「そうか。なら、金はカレンの使徒に渡せば良いか。それか、今必要ならニコライが代理で受け取っておくか?」
「ユウが戻ってきてからにしてくれ。」
遥人は周りを見渡す素振りをする。
『僕らは、少し様子を見てから城に戻るよ。』




