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恵むだけでなく取引ができるのは良いことです

 男たちが囲むように動き始めるのを見て、瓦礫を使いながら囲まれないような位置取りをする。

 後ろにはマーリヤもいる。

 腹を決めて、右手の男が間合いを詰めて踏み出した瞬間を見計らって、長巻で内腿をザックリと斬りつける。

 痛みで崩れる男を障害物に使いながら、ナイフを振り上げている男の二の腕を下から斬り上げる。

 本当ならきちんと『斬る』ようにすればもっと深手を負わせられただろうが、人を斬るのは初めてだし、囲まれている焦りもあって、叩きつけただけになったが、それなりの質の武器だけあって、それでもかなりのダメージを与えられたようだ。

 普通の人間なら十分戦闘不能と考えても良いだろう。

 3人目は俺から向かって障害物を挟んだ位置にいる。

 先の2人を見て、躊躇しているようだ。

 このまま退いてくれれば嬉しいんだけどな。

「2人とも殺さないと、後がねぇぞ!」

 リーダーっぽい男が他の男を焚き付ける。

「2人ともだと?」

 盗賊でも女子供は殺さんぞ。

 商品になるってのもあるんだがな。

 外道なら心置きなくやれるな。

 アドレナリンのせいか戦闘が始まって冷静になっていた頭に血が上るのを感じてしまうが、マーリアに近付かせないようにまた立ち位置を変えてゆく。

「黙れ!さっさと殺せ!」

 その怒鳴り声に、改めて感じ始めた敵意と殺意に心の中の何かが呼応する。

 右手を長巻の柄で走らせて間合いを調整する。

 左手にいた男を正面に捉え、ナイフを突き出してくる手を叩き落とし、肩を一突きしてから、手を戻して今度は長い間合いで振り返りながら片手で首を薙ぐ。

 攻撃を恐れて縮めた肘に刃が当たり、上に逸れたため、刃は頭部をかする。

 左手を柄に戻し、長い間合いのまま、大上段で振り抜くと、防ごうとして上げた左の上腕に刃を喰い込ませながら、右の上腕で止められる。

 右足を踏み出し、崩れ落ちる男の方に体を動かしながら転回し、後ろから近付く男を正面に捉え、突けるよう構え直しを済ませて、狙いをつけていた。

 その瞬間、風切り音に反応して横に飛び退く。

 大袈裟に飛び退き過ぎた気がしないでもないが、戦闘を終わらせるには良いぐらいか。

「命までは勘弁してやってくれよ。」

 俺の後ろから野太い声がかかる。

 突こうとしていた男は肩を押さえている。

 改めて振り向くと、弓を構えた大柄な男が見えた。

 ニコライだな。

「最初から殺す気で来てる人間相手にか?こいつらマーリヤを殺すって言いやがったんだぞ。」

 あれ、思ったより興奮してるな。

「まぁ、落ち着けよ。そこまで汚れ仕事も慣れてないんだろ?」

 遅れて誰かこちらに駆けてきているのがみえるのは、顔は見えないが鎧姿は小隊長か。

「ユーキ殿!」

「俺は無事だ。」

 状況が落ち着いたのを感じたマーリヤが駆け寄って抱きついてくる。

 俺は軽く彼女の頭を撫でる。

「怖かった。」

「もう大丈夫だよ。」

「あなたが傷つくのが。」

「ああ、心配させてごめんな。」



 小隊長はそれまで、炊き出しの感謝をされ、その後、話を聞きたいと言われしばらく集まった人たちと一緒にいたらしい。

 まぁ、誘われたら一緒に行くように指示したんだけどな。

 それより、ニコライだ。

「何であの場所に居た?」

「お客さんになんかあったら、次は本当に見放されて食料が手に入らなくなるからな。」

 その通りなんだろうが、白々しい表情で応えてくれるので、話がしやすい。

「殺しはしてないが、手当しないと危ないぞ。」

「そうだな。」

 ニコライについてきていた男たちが、転がる男たちの服を剥ぎながら、手当をしていく。

 包帯なんてものはないようなので、自分の着ていた衣服を割いて傷口を押さえることになる。

 布類は高い。

 俺たちが自身に手当を行うだけの備えはあるけど、コイツらに使うほど余裕があるわけじゃない。

「確か、カレンから来た使徒が回復魔法を使えるんだよな?」

「『回復魔法』?いや、付与魔法だ。」

「意味が分からん。」

「人間本来の回復力を強化するんだってさ。ところで『回復魔法』って何だ?」

「怪我とかを治すための魔法だ。」

「何だそれ?聞いたこともないな。何にしろ、落ちた腕はどうしようもないか。」

「まぁ、自業自得だ。」

「早かれ遅かれ起こることだったからな。早目に片付けてくれてありがたいし、これでオレらの言うことも聞くようになるだろう。」

「そう言ってくれると、こちらとしてもありがたい。」

 話しているうちに日が昇ってくる。

 夜の間は火をほとんど使えないため、様子が全く分からなかったが、テントの数は数十ある。

 布があるのに、服で傷口を押さえてる?

「ニコライ。アレは毛皮か?」

「ああ、テントか?」

「ああ。魔物の死骸だけは腐るほどあったからな。普通には食えねぇし、換金しようにも売るような場所も無いからな。」

「魔物の毛皮ってことか?」

「まぁ、多少は獣も混じってはいるけどな。」

 魔物の毛皮や革はとにかく厚くて硬い。

 そのため、道具類や鎧などに好まれて使われる。

 魔力を通すと耐寒、硬化などの効果を発現するも物もあるらしく、そういうものは外套にされることが多いらしい。

 その他にも、美しい物も多く、一頭ものなら鑑賞用、そうでなければ装飾コートなどとして、貴族にも人気だ。

 とまぁ、とりあえず需要が見込める。

 ただ、量が多い。

「テントに使ってるのは鞣してないから、使い物にはならないな。それを抜いたとしても、これだけの量だと値崩れするのは、分かるよな。」

「買い取ってくれるのかい?」

「全量を正規料金じゃ無理だし、これだけの量じゃ値崩れもするからな。多少は買い叩く形になる。」

「それで?幾ら出してくれると?」

「物を見てからだ。」

「ほう。良心的なんだな。」

「相手による。もういくらかは鞣してあるんだろうな?」

「少しだけだがな。」

「鞣した物から値をつける。今、終わってる分は食料で払う。」

 マーリアの方を見遣ると、襲撃で受けたショックも少なそうだ。

 いや、我慢してるだけかも知れないけど。

「マーリヤ!仕事だ!」

 空で荷馬車を返さなくて良いうえ、正当に彼らに報酬を払えるのは喜ばしいな。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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