この時代、都市が変わるとものすごく物価が変わります。
衛兵に聞いた被害状況はまるで原爆が落ちた時と全く同じだ。
そのことに底知れない不安を感じ、マーリヤを連れてきたことを後悔する。
「実はまだ化物が残っていたらしいが、カレンから来た使徒が倒したらしい。あの爆風で本来なら、あんな廃墟なんて残ってないんだろうが、カレンの使徒が守りきったらしいぜ。」
カレンの使徒がいるのか。
こころさんの元パーティーだな。
そのうえ、パンティアの使徒も来てるんだよな。
会いたくはないけど、聞かないといけない事もあるしな。
「へぇ。そういや、パンティアの使徒も来てるんですよね?」
「ああ。多分、城の方にいるんじゃないかな?」
息を切らせて、さっきの衛兵が向かってくるのが見える。
「あの人とあなたって、家族が居ます?」
「ああ、俺はひとりモンだが、アイツは嫁と乳飲み子が一人いるな。」
「乳飲み子とはこんな時に心配ですね。」
「これはさっきのお礼もありますけど、後で彼にも渡してあげてください。」
そう言って、1つの塊を渡す。
こっちの門番の顔はきっちり覚えた。
困ったらこき使ってやろう。
走ってきた衛兵に付いてきた文官らしき男に男爵家の家令が会いたいとのことで、城に招かれる事になった。
少しだけ広くなっている場所に馬車を置き、俺、マーリヤそして小隊長と共に城に入る。
入口近くの簡易な応接に通されると、既に家令と思しき男が待ち構えていた。
「儂はバザルジッダ男爵家の家令、イヴァノフです。」
「トリキアの肉屋の裕紀です。」
「聞いたところ、ソーセージを売りに来たとか。」
「ええ、今回は一緒に商売をしてる店から、ベーコンとソーセージを持って来ました。」
「随分と早いな。」
「ええ。こんな災害の時は困っている方もいるだろうと思い、馬車を飛ばして参りました。おかげで、トリキアから3日で着くことができました。」
値踏みをするような目でこちらを見てくるので、聞きたい言葉を聞かせてやることにする。
「困っている人間から毟り取ろうとは思ってませんよ。ただ、こちらも商売ですから輸送や護衛の費用の上乗せはさせてもらいますがね。マーリヤ。」
マーリヤから価格表を渡させる。
わざわざ価格表を作ったのは、護衛として『銀灰の翼』が来ていることを経費欄に書いて、それを知らせるためもある。
しばらくそれを睨んでいたが、少し悩んだ顔で口を開いた。
「うむ。ここは公正にいきたいところなんで、言わせてもらおう。このベーコンの価格、片腹で銀貨4枚となっておるのだが…」
「ウチのベーコンは味もですが、日持ちもどこにも負けません。これより下げることは絶対にできません。」
「いや、逆だ。この辺りは魔境に近くて山がちで農民が少ないのでな。豚が少ないうえ、ベーコンを作る職人も少ない。普段の値段とそう変わらんかったのでな。ほとんどがトリキアからの仕入れに頼っておるからな。」
「そうなんですか。なら、小麦もですか?」
「いや、小麦はそれなりに高いな。」
「まぁ、普段からウチで取り扱っているものじゃありませんから。まぁ、ベーコンについては好都合です。ただ、他の商人が来始めると、問題になるかも知れませんね。まぁ、そういう声が出始めたら、そちらから価格の調整をお願いします。」
「うむ。この価格を最低ラインに持ってくることになるから、こちらとしても有り難いところだ。」
「しばらくすれば、次の便が来ますし、価格はその都度相談するようにしましょう。」
「こちらとしても、それでお願いしたい。その前に、次の便はいつになる?」
「5日後に到着の予定です。」
ハルグラドの人口は5,000近い。
どのくらい人的被害が出たのか分からないが、見たところそれなりの人数はいそうだ。
まぁ、今回の量だとあっという間に無くなるだろうけど、まだ多少の備蓄もあるみたいだし、気にしなくても良いか。
「それなら、何とかなるか。」
「ウチのなら十分保つ時間ですので、次の便に合わせて調整するのも良いかも知れませんね。それと、ベーコンをこちらを中心に卸し、ソーセージを市民の集まる教会で、残った物をあの砦跡で、というように売り歩きたいんですが、よろしいですか?」
「ああ、立ち入りなどについてはこの状況だから、制限する気は無いが、砦跡には金を持っている者なんておらんぞ。」
「そんなものですかね。無駄足かも知れませんが、行ってみます。」
「それで、今回の買い付け量なんだが…」
ベーコンは6割、ソーセージは8割をこの城に、残りを教会に持っていくことになった。
塩漬け、特に足が多いが、それはかなり少なめだが、教会でほとんど売り切れるだろうという話だ。
いわゆるアイスバイン用だが、こちらではその料理に特に名前はないんだけどね。
話し合いが終わって出ようとすると、引き留められた。
「ユーキ殿。一つ聞きたい。」
「何でしょう?」
「その黒目と黒髪、使徒ではないのか?」
「使徒ではありませんよ。北側の魔境に近い村の出身でして。何代目かは分かりませんが、使徒の子孫になるようではありますが。」
「そうか。」
「一度、使徒様に会ってみたいとは思いますが、お忙しいようなので難しいですね。」
「会いたいなら、伝えてみようか?」
本当は会いたくないが、聞きたいこともある。
「いえ、今日中に砦跡まで回る予定ですので。しばらくはこちらに滞在すると思いますので機会があればそのうちお目にかかるでしょう。」
そう言ってさっさと会話を切り上げ、教会に向かうことにする。




