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過保護ばかりでは人間は育たないのです。

「皮剥きにこんなに金をかけてどうすんでさぁ?」

「構わん。商売じゃないが、必要な投資だ。」

 トリキアじゃ、粥はスラム以外では食べられていない。

 それも、製粉の際に出る屑みたいなのでしか作られていない。

 多分、パンティア全体がそんなもんなのだろうと思う。

 当然、商売になるようなものじゃない。

「それで、役人には何とか言い訳が立ちそうか?」

「そこはどうにかする。場所もはっきりさせるんだしな。」

 皮剥き屋の男は縮こまったまま、俺のやり取りを見ている。

「今日中に何とかなるか?」

「工賃弾んでくれりゃ、行く職人も増えるわな。」

「分かった。」

 結局、金貨12枚近い出費になったので、マーリヤ目付きが厳しくなっているが、気にしないでおこう。

「皮剥き屋、契約書はこっちで用意する。働けよ。ついでに人も雇えるように幾らか渡しておく。」

「本当か?分かった!」

「もし逃げたりしたら、『ネズミ』の連中に追っかけさせるからな。」

「だ、大丈夫だ!約束は絶対に守るから!」



「いつものことですけど、いきなりよくあんな大金使おうと思いますね。」

「金で時間を買うだけだ。」

 まぁ、実際はさっき思い付いただけなんだけど。

「まぁ、思い付きで上手く行くこともありますけど、もう少し慎重にお願いしますね。」

「でも、今回はどうしても時間がネックになるからな。」

 今は2人で特注のバックパックに荷物を詰めている。

 マーリヤのはヴィネフの物だけど。

 馬車に積むのも有りなんだけど、貴重品だけは身に着けておきたかったのだ。

「そう言えば、蕎麦は売り物じゃないってどういうことなの?」

「どこに行ったって金の無い奴らはいるもんだからな。」

「それって…」

「まぁ、人助けってやつだ。それはテオドルの名前でやってもらおうと思ってるけどな。俺がそのまま無料で炊き出しなんてすれば、持って行った物を金を出して買おうとはしなくなるだろうし、甘い人間なんて思われれば、襲って奪おうなんて考える輩は腐るほどいるだろうからな。」

「多少はちゃんと考えてたんですね。」

「俺を何だと思ってたんだよ。」

「いつも思い付きが上手くいってるだけだと。」

「そんなの半分も無いよ。」

「今まで半分近くはあったってことなんですよね。」

 こんな時にカマをかけるのかよ。

「でも、お前らがいるからな。」

「それだけ信用してくれてるなんて、嬉しいですよ。」

「特にマーリヤにはついつい甘えてしまってるな。いつもごめん。」

「頼られて嫌な気はしませんよ。これからも頼ってくださいね。でも、大金を使う前には必ず相談してくださいね。」

「はい。」

 こんな感じで、絞られてたけど、無事に告白当日は終了した。

 みんなで一緒に住んでるからな。

 今日なんてみんな聞き耳を立ててそうだし、焦ることもないだろう。

 何よりマーリヤと何かあるならもっと時間とか雰囲気を大事にしたいって思ったから、今日はここまでだ。



 出発の日の朝を迎えた。

 マーリヤとはあれからも特に何もなかったけど、旅路じゃ二人で一緒にいる時間がたっぷりあるだろうから、ゆっくり話してみよう。

 皮剥き屋は昨日入れた石臼を使って着々と蕎麦の皮剥きを進めていて、なんとか今朝までに10袋の納入をしてくれた。

 意外と律儀な奴で良かった。

 ソーセージとベーコン、そして塩漬けの足ももう積み終えた。

 ソーセージは予定よりかなり多い量を準備してくれていた。

 テオドルのところの『銀灰の翼』から、小隊長クラスが1名、正隊員が1名。

 それから、馬の世話のできる人間も都合をつけてくれたので、特に不安もなく出発の時間を迎えることができた。

 優秀な人間に恵まれて本当に有り難い。

 今回の商隊は2台の馬車にウチからは俺とマーリヤ、『銀灰の翼』の護衛が2人、馬の世話もできる人間が3名という編成だ。

 荷馬車だけだから、全員徒歩だけど。

 道中、蕎麦粥の炊き方を『銀灰の翼』を中心に教えながら進んでいた。

 荷は多いものの、小隊長の協力を得ながらギリギリまで進んでいたため、3日目の日暮れ前にはハルグラドへ着くと報告を受けたところだった。

「粥って貧民街の奴らの食うもんだと思ってたけど、今日のも美味いなぁ。」

 蕎麦粥は概ね好評だ。

 今日のはベーコンを焦げ目が付くまで炒めてから作ってるから、出汁もでてる。

「昨日は丸ごとのうさぎで出汁をとったし、今日は良いベーコンを大目に使ってるからな。美味いのは今日までで、明日からは質素だぞ。」

「そりゃ寂しいな。明日の晩だけでも何とかならんか?」

「明日は飢えた人間で一杯だからな。俺らだけ美味いモンを食ってたら取り囲まれるぞ。」

「明日は忙しいから、早く寝な。」

 そう言って、俺とマーリヤはテントに戻る。

 テントを使っているのは、俺とマーリヤだけで、他は毛布か外套に包まって地面で寝ている。

 端から見たらどう思われるかは分かってはいるが、女の子は一人だけだし仕方ない。

 昨日、何となく寝る時に手を繋いだが、それだけで、皆が思うようなことは何もないんだけどな。

 見た目は大人っぽいけど、まだ14歳だからな。

 テントの中はマーリヤの匂いがするから、なかなか寝付けないのもあったけど、今日は皆が寝付くまで待っていた。

「マーリヤ、起きて。」

 可愛い寝顔をしばらく見ていたいとも思ってしまうけど、仕方ない。

「ん…」

 マーリヤはすんなりと起きてくれる。

「見せたいものがある。外に出よう。」

「こんな時間に?」

「前に、お前には俺の事をちゃんと話すって約束しただろ。」

「うん。」



 物音を立てないよう気を付けて2人でテントを出る。

 そして、寝ずの番に声をかけてから、街道を外れて森の中を進んでいく。

「柊華、いるんだろ?」

「ああ。」

 森の奥から巨大な白い影が現れる。

 マーリヤが怯えて俺に引っ付いてきた。

「大丈夫だよ。彼女が友達の柊華さんだ。」

「ああ。お初にお目にかかる。それがユーキのつがいか?」

「ああ。」

「人間の美醜は分からんが、敏くて芯の有りそうな顔をしておる。腰周りもしっかりしておるし、良い雌ではないかの?」

 マーリヤの批評をしだすとは思わなかったぞ。

「今日の昼間、魔物を追い払ってただろ?」

「ああ、我が友に手を出されるなど、辛抱ならんわ。」

 今日の昼過ぎに街道に魔物の影が見えたことがあったのだ。

 通常なら向かってくる筈が、一目散に魔物の群れが逃げ出した。

 その時に遠吠えが聞こえたのだ。

「何で俺の周りには過保護な奴が多いんだよ。逆に怪しまれるから何もしないでくれ。」

「そう言うものか?」

「それに、森を留守にして大丈夫なの?」

「我らスコルは群れならそう簡単に負けんわ。それに我の足なら数刻もあれば戻れようて。」

 柊華の種族はスコルって言うのか。

 今、初めて知ったぞ。

「まぁ、そう言うなら、静観することにしようかの。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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