名前を考えるのは難しいです。
「お主からワシに名をくれんか?」
「何ですか急に?」
「牛のが魔王様とお主から名を呼ばれる度、嬉しそうな顔をしよる。主従関係ではないとはいえ、お主からは名で呼ばれたい。そう思ったのじゃ。」
そんなこと言われては、断りようもないんだけど。
「そうですね。白くて綺麗で、強いイメージですかね?」
「『パンナコッタ』!」
アンが横から口を挟んでくる。
「涼しくなったら作るから、黙ってて。」
「じゃ、『パンナ』だけじゃ?可愛くない?」
『パンナ』だけだと、生クリームって意味なんだけど、分かってて言ってるのかどうなのか。
とりあえず、放っておこう。
少し考えてから、思い浮かんだ名前を言ってみる。
「『柊華』なんてのはどう?柊に華やかと書いて、『とうか』。」
「人間臭い名前だな。ってか、このババアには若過ぎる名前じゃない?」
「年齢とか気にしないでいいじゃない。『白』の付く名前だとそのまんま感があるし、こうやって話ができるような彼女みたいな存在なら、人間みたいな名前でもおかしくないだろ。」
「ユーキ。『柊と書く』というのは、どう言う意味なんじゃ?」
「俺たちの国の言葉は、漢字といって文字自体に意味があって、それを別の、色々な読み方をするんだ。だから、名前というものにいろんな意味があるんだ。」
「なるほど、ならその『トーカ』という名前であれば、『華やかな柊』という意味があるってことかい?」
「柊は冬の象徴で、花言葉には、用心深いってのもあるけど、剛直ってのもあって、綺麗な白い花が咲く。イメージとしてはピッタリなんだよね。」
「花言葉なんて洒落たものよく知ってたな。」
「いや、『柊』っていう字が姪っ子の名付けで候補に上がってたからなんだよ。」
「なんだ。で、お主はどうじゃ?その名前は?」
「名前にこんなたくさんの意味や想いが込められているというのは、驚きじゃな。」
『ポチ』の由来は絶対に言わないでおこう。
「俺たちの故郷の文化だからね。こっちじゃ珍しいし、文字が違うから分からないよね。」
「うむ。ユーキの気持ちとともに、その名を受け取ろう。」
「ありがとう。これからもよろしく。」
「ああ。こちらこそ。」
苦行のロングライドの休憩をとるために、小川のほとりでポチさんから降りて、話をしていた。
「結局、アンと女神の関係を聞きそびれちゃったよ。」
「そのことなんだがな。我らがアン様に会う少し前に、アン様と一緒に連れて来られた友が亡くなられたのだ。」
「他にも居たのか。」
「1人が権能の影響で心に変調を来たし、それを治すためと、隠棲しておられたのだ。」
「それがとうして?」
「詳しいことは何も分からん。ただ、生死のみが確認できたとのことだ。」
「それでアンの機嫌は最悪だったってことだ。」
「そうだ。」
「まぁ、次も会う約束をしているのだろう。話を聞くのは慌てなくとも良いのではないか?」
「そうだね。」
「うむ。」
そう言えば、アンちゃん、一瞬だけ本気で怒ってたけど、基本的には試されてる感が満載だったな。
「口調はアレだけど、根は優しいよね。嘘を吐くのも上手くないし。それでよく魔王になんてなったよね。」
「我らは実力主義であったからな。そのうえアン様は慈悲深く、慕う者も多くいた。アン様は正に王の中の王であった。」
魔物、魔族は個体差が大きい。
人間は個体差が少ない生き物だからこそ違いを持つ者を恐れるのかも知れない。
なら、何故、この国の人間は、この国の王族は召喚された転移者を恐れないのか。
成長すれば、国すら脅かす武力になるはずじゃないのか?
何か使徒を恐れずに済む秘密があるのか?
それと…
「いや、少し人間側の色メガネで見てたのかも。人間を脅かしていたとしても、それは人間側だもんな。身内にしたら強くて優しい王様だもんな。」
「そうである。」
じゃあ、何故、アンちゃんは人間と敵対したのか。
「そのアンが何故人間と敵対して戦ったのか?それも聞きたかったんだけどね。元々人間だったアンにとっては、辛い選択だったと思うんだけどな。」
「人間側は徹底的な殲滅戦を仕掛けてきた。女子どもも皆殺しだ。それが人間側でも魔族側でも繰り返されるようになった。何故、そんなことになったかは不明だ。我が知らぬだけかも知れんが。あれは異常な戦いだった。」
人間と魔族側との戦争。
殲滅戦なんて、一体、何があったんだろう。
「そうなんだ。その内容なんだけど、まぁ、話せる範囲で良いから聞きたいんだけど。」
「アン様からは特に話すのを禁じられたものはない。」
「我が知らぬ事も多いとは思うが、何でも聞くがいい。」
ポチさんが生まれたのは、ルース教では聖戦と呼ばれている、人間と魔族、魔物との戦争の最中であるという。
その戦争自体は100年をゆうに超え、誰も正確な年数は把握していないらしい。
戦争の始まったきっかけというのは、実はよく分かっていない。
人間が女神から『ジョブ』と『スキル』を得て、鍛えれば魔族を超える個が出てきたことで、魔族を排除しようとしたことがきっかけだと言われている。
しかし、『スキル』自体は魔族にも発現しているため、それが根本的な原因ではないのではないかと考えている者もいるらしい。
魔族はそこまでは過去にこだわらない者が多いため、その伝承は失われている。
ただし、過去にこだわらないという表現は少し語弊があるようなので、付け加えておくと、魔族には昔から声や記憶を継ぐことのできる能力を持つ者がおり、それら現存する過去の記憶などは大切にされる。
そのためか、失われたものに対しての興味が薄いのだ。
また、その能力が存在するため、魔族では文字を使うのが一般的でないこと、相当数の種族がそれぞれ独自に文化を持っており、それらが共有されることが少なく、その種族が滅びてしまえば、誰もその種族が持っていた過去を知ることができないということも原因の一つとなっている。
休憩で少し話し込んでしまったのもあって、トリキア近くの森についた頃には、もう日は昇りきっていた。




