お姉様からお願いされてしまいました
「そう言えば、さっき、『エイジスライダー』ってスキルが女神の為になってるような事を言ってたけど、どういう事なの?」
「このシステムの目的の一つは、有用な技能を体系化して汎用化、つまりスキル化することと、そのスキル自体を発展させる事だ。」
「全てのスキルはシステムの持ち主である女神の物になるってこと?」
「そう。まぁ、スキルだけじゃ…」
アンちゃんが言い淀む。
「今は言わなくても良いし、アン…が言いたくない事は言わなくて良いよ。」
なんか宗一郎さんに言われた言葉を思い出した。
俺の覚悟と力が足りないってことか。
「そう言えば、街に来るとかさっき言ってたけど、無理なんじゃない?」
「あーしはこのスキルと権能を使って、システムの適用から外れようとしてたの。」
「そうなんだ。」
「そう。システムへの接続は肉体に物理的な専用の器官も必要なんだ。これを改変しながら、肉体を器官が生成される前の胎児レベルまで戻して、急激に成長しきると不具合が分からなくなるから、ゆっくりと成長させて様子を見る。これを何度も何度も繰り返してたわけ。」
「システムの支配を外れるのってそんなに大変だったんだ。」
「まぁ、こっちの世界で手に入れた力を失いたくなかったから、随分と手間が掛かったの。ただの人間に戻すだけなら意外と簡単なんだけどね。」
「それって、もしかして、女神に復讐するため?」
「そう。」
その返事から感じたのは相当な覚悟だった。
それだけの覚悟があるから、ここまで長い時間を費やすことができたんだ。
「いま、凄く不自然なことに気が付いたんだけど。」
「なに?一体?」
「何でスキルの名前は英語風なんだろって。」
「このシステムを支えるシステムは人間の脳、それも高度な教育を受けた物が望ましいから、こっちの世界に来た転生者や使徒の脳を使ってるから。」
「脳みそを!?」
システムっつったって、演算装置や記憶装置があるとは思ってたけど、まさかだな。
「その辺はまた今度話すわ。」
「分かった。話は変わるけど、そう言えばウチに来るっていったよな。」
「行かないとクレープと生クリームを食えないんだろ?」
何か忘れてるような気がする。
「どうしたの?変な顔して。」
「あっ!ウチに転移者の女の子がいる!」
「はぁ?!何でそんな事になってるの?!魔王候補者も居るんでしょ?!」
「まぁ、魔王候補者は親父の所だし、こころさんはウチの従業員なんだよ。」
「従業員?!何で?!」
「『薬草師』のジョブを持ってる人を探してたらたまたま来たのが彼女だったんだよ。」
「もう、意味わかんない。」
そんな事言われたってな。
「そう言えば、裕紀は何歳なの?」
「十八。」
「…。」
「高2の時にこっちに来た。」
「…。」
「まぁ、年齢を誤魔化すために髭を生やしてるのも悪いのは分かってるんだけど。」
「ポチ。」
「アン様はユーキが何歳ぐらいだと思われてたので?」
黙ってアンちゃんが俺の顔をジッと見たと思ったら、口元に手を当ててくる。
「剃れ。」
「いきなり何だよ?」
「剃った方がまだ見れるんじゃない?」
「親父から生やすように言われてるから。」
「何で?」
「裏稼業してるから、息子だと思われると狙われるかも知れないんで、兄弟だということにしてるから。」
「ふーん。剃れ。」
「商売するときも舐められなくて良いんだけどさ。」
「剃れ。」
「それは一旦置いといてどうやってウチに来てもらうか考えないと。教会とは繋がりが無いみたいだけど、こころさんもいるし。」
「まぁ、大丈夫でしょ。それより、あーしとの連絡手段でも渡しとこうか?」
「そんな便利なのあるの?」
小さな机の引き出しから、何かを取り出して渡してくる。
「ヒィッ!」
おどろおどろしい雰囲気を纏うその物体に思わず悲鳴を上げてしまった。
どう見たって干し首じゃん!?
「喋れる媒介が必要なんだよ。」
「だからって…」
「本物らしいよ、ソレ。」
落とすのも失礼になるかと思ってしまい、抓んだままどうしようか悩んでしまう。
『カカカッ。ヨロシクナ。』
「ヒィッ!」
不意に干し首が喋りだす。
「イヤならこっちにしとく?」
同じ引き出しから小振りな笛を取り出して渡してくれる。
「ポチは耳が良いから、近くの森までポチが行く。」
「ああ、ありがとう。」
ポチさんが伝令役か。
ポチさんに会いたい時でも使えるな。
「さっきも言ったけど、生クリームは冷蔵庫もないし、暑い時期はクリームが上手く固まらないうえに置いとけないから、秋口までは無理だよ。」
「うーん。その前に生ハムとか食べてみたいな。ポテトサラダとか。」
「じゃがいもは無いから、ポテトサラダは無理。」
「ポテトもまだ無いのか…。と言うことはフライドポテトも…。」
「この世界に、ここの他に大陸はあるの?」
「無い。小島がいくつかあるぐらい。仮想世界が再現しているのは狭い範囲だけ。」
思いがけず、サラッと衝撃の真実が出てきたな。
この世界を仮想世界って言い切ったぞ。
こっちのシュミレーターみたいなものなのか?
俺は実体を持って存在してると思ってたんだけど、実は違うのか?
「それに観測できないよう制限がかけられてるから、確かめようもない。本当に無いだけかも知れないけど。」
もしかしたら、地球が、大地が丸いみたいな常識が通用しないのかも。
まぁ、今はそれは置いておこう。
「誰かに持ってきて貰えればなぁ。食料事情も格段に良くなるだろうに。」
「まぁ、ポテトは諦める。だから、生ハムで。」
「ポテトかぁ。イモ類だと里芋で代わりにならないかな?」
「いや、諦める。」
フライドポテトはどうか分からないけど、コロッケならそれなりに美味しそうだとは思うんだけど。
そもそも里芋があるかもわからないケド。
「それじゃ、近いうちにお招きするよ。」
「約束だぞ。」
他愛もない話をしている間に太陽が中天に差し掛かろうとしていた。
「そろそろ帰らないと。」
「今から帰るんなら、どれぐらい掛かる?」
「ここからユーキの住む街の近くの森までとなりますと、今から出ても夜半にはなりましょうか。」
ポチさんが絶望的な時間を出してくれる。
帰りはポチさんの背中に乗って、というか、行きと同じように縛り付けられて帰ることになる。
馬とか乗れないから、仕方ないけど。
かなりのスピードで走るから、めちゃくちゃ揺れるし、めちゃくちゃ痛いし。
しかも、10時間超というロングライドなんて苦行という他はない。
「族長はどうするの?」
「オレ、ハシル、カエル。アシタノアシタカエル。」
「心配いらぬ。我が巣まで返そう。」
いつの間にか、白狼さんと仲良くなってるな。
「それじゃ、族長も姉さんもまた会いに行っても良いかな?」
族長は鼻息で返事をしてくれる。
「のう、ユーキ。帰る前に一つお願いがあるんじゃ。」




