この世界の魔王とは何なんでしょう
「さっきはああ言ったけど、ウチら本当に友達になれると思ってる?」
「ええ。」
「本当に?」
「うん。」
「伝説の『淫魔の魔王』でも?」
「伝説っていうか、こっちの世界のあの(ルース教)聖書に出てくる初代の魔王ってことですよね?」
「まぁね。魔王って聞いて何でそんなに落ち着いてるの?」
「親父が『魔王の胤』のスキルを持っている転生者を3人ほど味方に引き入れてますからね。」
「『魔王の胤』?何それ?あのサイコ女はまた下らない事思いついたのか。」
「魔王になる素質のある転生者の魔族に発現するスキルらしいです。宗一郎さんの話ではスキルとレベルが上がりやすくなる効果があって、最終的には固有のスキルに変化するって言っていました。貴方の時代には無かったものなんですね。」
「あーしん時はウチらが魔王や幹部になるのが決め打ちだったみたいだからかも知れないけど。その宗一郎ってのは最近の転生者?」
「はい。ドラウグルの宗一郎さん。親父が味方に引き入れた転生者の1人です。」
「魔王の素質を持った転生者を3人も見てるから今更ってわけか。」
「話を戻しますけど、あの(ルース教の)聖書ってほとんどが創作だと思ってたんですけど、もしかして、史実を基に創られた話ってことですか?」
「多少はね。都合の良い嘘で塗り固められてるから、ほとんどはフィクションだよ。」
ルース教はこの大陸のほとんどの場所で信仰されている巨大宗教なので、その聖書の物語は一般常識として捉えられているので、一応目は通している。
ルース教には創世記はない。
魔物を統べる『魔王』という存在から人間を守るため英雄を作り出す話と、その英雄譚がメインになっていた。
確か第一部は魔物に脅かされていた暗黒時代があり、人間は絶滅の危機に瀕する。
女神は人々に魔物と戦う力を授け、何とか生き延びるが、そこに魔王が現れ、人間は再び危機に瀕する。
そこで女神は聖女に神託を授け、聖女に処女受胎させ、初代勇者を産みだす。
その勇者が魔王を倒し、人間を危機から救うという話だ。
その初代魔王は数えきれない程の数の人間を喰らい、虐殺し、淫魔としての能力で勇者を誑かし、苦戦させた。
最終的に聖女の力によって我を取り戻した勇者に倒されたことになっていたはずだ。
「その手の本なんて教会側を正当化して書くだろうから、鵜呑みにはしませんけどね。」
近代日本人の偉人の伝記ですら、主観が入るから当てにならないもんな。
「アタシも後半は知らないけどね。」
俺から見た彼女はまだ普通だ。
憎まれ、命を狙われることから生じた、人間に対する不信感と敵対心は相当なものだろうけど。
「アタシのことどう思ってる?」
「人間不信になるのは仕方ないんでしょうけど、ポチさんや他の魔物に接する態度を見てると普通の、いや、可愛い女の子としか思えませんよ。力は並外れてますけど。」
アンちゃんは少女らしい仕草で俺を見上げてきた。
「友達になるならタメ口でいい。ううん、タメ口にして。」
「分かった。」
「裕紀は親父さんに巻き込まれてこっちに来たって言ってたけど?」
「ああ。アウト・オブ・レンジの人間に俺の親父がこっちの世界に呼ばれてさ。その時に開いた扉を潜ってしまって帰れなくなったんだ。」
「ふーん。随分と間抜けな理由でこっちに来たのね。」
「まぁね。」
「知ってるんだよね?アウト・オブ・レンジを?」
「一応はね。」
「アンちゃんはアウト・オブ・レンジの人たちが何をしようとしてるのか知ってるの?」
「『ちゃん』は要らない。アンタより年上だ。アイツらの目的はあーしと一緒だから。この馬鹿げた世界を作った腐れ外道をブチ殺したい。」
少しだけ、アンちゃんの瞳に昏いものが灯った気がした。
「俺はまだこの世界の秘密を知らない。何故そこまでみんながこの世界を作った奴を憎むのか知らないんだ。」
「聞いてどうするの?戻りたいんでしょ、裕紀は。」
「うん。」
「ウチらは戻れないから。何でアンタの父親が話をしなかったか分かるよ。アンタの性格なら、聞いたら戻れなくなる。それでも聞きたいの?」
「それは君を苦しめてるものなんだろ?」
「そんな簡単に解決するもんじゃないし。」
「そう言えば、アン…は日本から来たんだよね。」
呼び捨てで良かったのかな?
「来たというか、逆恨みで殺されて、嬲るためにこの世界に転生させられた。」
ちょっと待て、殺されて嬲るために転生させられたって…。
しかも、逆恨み?
アンちゃんの表情を見る限り、冗談でも大袈裟でもないみたいだ。
「いや、いきなり何でも聞くなんて、常識ないと思うし、話すのも嫌な事もあると思うから。」
アンちゃんは口を閉じた。
「また今度来ていい?」
「本当にまた来るのか?」
「ああ。俺が作ったもので喜んでもらえると嬉しいしな。」
「クレープ。」
「さすがにそれはここまで持ってくるのは難しいな。」
「じゃあ、あーしが行く。」
「いや、無理だろ?」
「あと数か月もすれば自由に動ける。」
「どうやって!?」
「あーしの本当の種族は『ティアマト』。神話では神や魔物を生み出す存在。それを模して与えられた権能は『バイオクラフト』。」
「権能?スキルじゃない?」
「そう。人間で言うところの『ジョブ』だな。」
「もしかして、『魔王の胤』ってスキルは孵ると『権能』になる?」
「そうかもね。ウチらには最初から『権能』があったからね。」
「で、その『バイオクラフト』は生命を創り出すことができる?」
「いーや、生き物を弄ったり、コントロールするためのもの。多分、この世界に魔物を生み出した時の技術だと思う。それと、いちから生命を生み出すのは神にしかできないかったんだと思う。それをあーしに渡したのは、この権能から『エイジスライダー』つまり、年齢をコントロールするスキルを創造するためだった。」
「コントロール?」
「そう、コントロール。ポチを見たら分かるでしょ?」
「コントロールって、ポチさんが小さくなったのは、若返らせてるってこと!?」
「そう。まぁ、半分は肉体自体も作り替えてるけど。魔力で仮想物体として存在してるものは簡単に弄られるから。」
「それってもしかして…」
「そう。不老長寿のスキルに繋がるモノ。このスキル自体、あのサイコ女が自分の為に作らそうとしていたもの。まんまとノセられたのが腹立つ。」




