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晩餐、頑張ってみました。

「森の中でこんな匂いがすれば誘われように。」

 先頭の白い狼は俺に向かって流暢な言葉で話しかけてきた。

「ニオイ?」

「ああ。固くならずともよいわ。そこに牛の爺さんもおる。揉めるのも面倒じゃわ。」

 白狼の見遣る方向を向くと、いつの間にかストーンカさんがいた。

「アタシらも手土産を持ってきた。こんな腹の減る匂いを撒き散らした償いはしてもらおうぞ。」

 白狼がニヤリとしてから、後ろを見遣ると、森の奥から狼が子牛を引き摺ってきた。

「仰せの通りに。」

 良かった、敵対する気はないみたいで。

 しかも、少し茶目っ気のある良い奴らだ。

 でも本当はちょっと死を覚悟したよ、今日は。

 振り返ると族長を始め、ゴブリンたちは混乱しながらも、ストーンカさんの方に寄っていっていた。

 本当にストーンカはゴブリンの味方だったんだな。

「族長。お客人も宴会をご所望のようだな。」

 持ってきた食材は吐き出しだな。





 日が暮れるまでに何とか調理を終えた頃にはクタクタに疲れていた。

 彼らの普段の食生活から考えたメニューを集落の広場に並べていく。

 ゴブリンたちにはマリネした肉を用意した。

 聞くとやっぱり生が良いのと、匂いの強い物も好きだということだったので、その辺りに自生していたディルと野蒜をメインに塩とオリーブオイルを加えてマリネにしたのだ。

 にんにくを加えれば、もっと美味しくなったと思うけど、近隣で自生する物を使えば、自分たちでも近い物が作れるだろうからだ。

 ぜひ、覚えてもらいたい。

 白狼は焼いた肉も好きだということで、狼たちには生肉とともに焼いたチョップ肉を用意する。

 俺が食べる物よりも塩もにんにくも控え目にはしてある。

 肉を焼くのは自分の分だけなら鍋で良かったのだが、いかんせん量が多い。

 そのため、石と土で簡単な窯を作ってみた。

 天板にするようなものは見当たらなかったので、木材に水を掛けながら使ってみたが、ほぼ炭になっていたもののなんとか今回の使用には耐えてくれた。

 折角窯を作ったので、子牛の腿は貴重な胡椒を使い切ってローストビーフにした。

 その辺に生えていた葉で包んで肉を休ませていたんだけど、意外と良い香りが肉に移ってなかなかの出来のような気がする。

 持って帰って、何の葉かこころさんに聞いてみよう。

 ストーンカさんには雑穀のチーズがゆと、香草の類はキツくても大丈夫だということなので、持ってきたドライハーブを効かせたドレッシングをかけたサラダを用意した。

 量も品数も増えてしまったため、料理を終える頃には辺りは完全に闇に包まれていた。

「みんな!準備はできた!宴会だ!」





「どうですか?お味の方は?」

「この粥というの。多分美味いと思うが、豚が好きそうだな。儂はこっちの『サラダ』がやはり好きだな。リークも生が良いしな。」

 粥は豚の餌かよ。

 ネギは好きなんだな。

 でも、牛は食べられるのか、ストーンカさんが魔物だからなのか判別つかないな。

「うむ。ただ草を組み合わせるだけで、こうも変わるとは。人間が料理というものを作る意味を少しだけ理解できた。」

「本当ですか。そう言っていたたけると嬉しいですね。」

 何種類が作ったサラダのうち、シンプルな味付けのものが好みなようだ。

 因みに、生のにんにくを多めに入れるのが良いらしく、おかわりの際に注文があった。

「お姉さんはお気に召して頂けましたか?」

 向かいでローストしたチョップ肉を骨ごと食べている白狼に声を掛ける。

「お姉さんだなんて嬉しいねぇ。そんなに綺麗に見えるかい?」

 確かに彼女の姿は見惚れるほど神々しくて美しい。

 喋り方だけで年寄り扱いはしない方が良さそうだ。

「ええ、美しいのは間違いないですね。」

 まぁ、種族も違うし、惹かれるってことはないけど。

「料理も美味いけど口も上手い子だねぇ。食べちゃいたいくらいだよ。」

 いや、貴女に言われると洒落になってないんですけど。

「うちの群れでも焼いたのが好きなのは少ないんだけど、わたしはこの少し焦げた所が好きなんだよ。」

 白狼はご機嫌で、他の狼たちは骨付きローストチョップ以外に、そのままの生を食べる者、ローストビーフを貪る者まではわかるけど、ストーンカさんサラダを分けてもらっているのまでいる。

 それに、肉と一緒に骨まで食べる者、骨を大事そうに横に分ける者など、食べ方にも個性があって面白い。

「改めて自己紹介させてもらいます。芦屋裕紀です。」

「おや、氏持ちなのかい?」

「いや、故郷じゃ、平民でも氏のない者はいませんので。貴族でも何でもないです。」

「そうかえ。あたしゃ、まだ名を貰ってないねぇ。仕える主も居ないからさ。」

「あ、族長もそうなんですか?」

「ああ、あたしら魔物なんてのは食うが食われるかの世界にいるからね。大人になれるのは一握りさ。だから、子どもに名を付けるってことはしないのさ。」

「はぁ。」

「魔物に名前があるのは仕える主に貰う時ぐらいさね。人間みたいに子どもに名前を付ける奴らもいないことはないけど、そんなに多くはないね。」

「なるほど。」

 そんなことをしばらく白狼さんと話したあと、少し離れた所にいたゴブリンの族長の所に向かう。

「族長、ゴブリン用の料理はどうですか?」

 ゴブリンたち全員が肉のマリネを美味そうに骨ごと齧っている様子なので、聞くまでもないが、そう聞いてみる。

「『美味しい』ヨクワカラナカッタ。イマ、ワカッタ。リョウリ、スゴイ。」

「ちゃんと女性には教えたので、今度からは作ってもらえる筈ですよ。」

「ユーキ。アリガト。マロウたちトモアラソワナイ。ウレシイ。」

 彼らにとって、魔狼は驚異だったろう。

 森の中の力関係はよく分からないものの、魔狼たちはこの森で上位の捕食者であることは分かる。

 友好関係が築ければ、安心して森で暮らせるようになるのは確かだ。

 彼らゴブリンにすれば、良い事だな。

「ストーンカさん。何でゴブリンさんと交流があるんですか?」

「うむ。彼らには木の間引きや下草刈りをしてもらっておる。」

「やっぱり、森の管理者なんじゃないですか?」

「そんなだいそれた物ではない。我の好きな草は森を手入れせんと手に入りにくいのでな。それにそういった手入れをせんと我と同じように食べ物に困る者もいる。」

「見返りに彼らに火を与えておる。この場所はかなり寒いでのでな。ゴブリンと言えども冬場は暖を取る必要がある。」

 ここのゴブリンが火を使うのはストーンカさんのせいだったんだな。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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