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ゴブリンだって生きている。

「ディル!」

「ディグ?」

「そう。こっちが、塩!」

「シオ?」

「ああ。」

「シオー!」

 俺はゴブリンの集落に来ていた。

 森の中の岩場で出会ったゴブリンに招待されてきたのだ。

 人里から離れた集落であるためか、金属は使われておらず、獣皮を纏った者が多い。

 トリキアに出たゴブリンは剣なりナイフなりを持っていたが、人から奪ったものだと言っていたので、人里離れた山中ならこんなものなのかな?

 武装は石しか使われておらず、縄文時代を彷彿させる暮らしをしていた。

 ただ、人と異なるのは、食生活で彼らは生食で骨まで食べるため、器という文化が無い。

 ここのゴブリンたちは、何故か暖を取るために火を使うが、それ以外には火を使わないため、料理という概念も無い。

 恐らく他の地のゴブリンたちも同じような生活なんだろう。

 そこで、俺に肉を振る舞おうとしてくれたのだが、生肉を並べられた俺は調理をしようとしていたのだ。

 ゴブリンたちも、肉を焼くということは知ってはいるものの、生が良いとのことで、村に招待してくれたお返しに、ゴブリンたちの肉にも少しばかり手を加えてやろうと思ったのだ。

 肉を切り分け、大きな樽で仕込みをする俺を取り巻いてゴブリンたちが興味深そうに様子を伺っている。

「オマエ、ストーンカのトモか?」

 獣を捌いている俺に話しかけてきたゴブリンは、少しばかり身体も大きく、何より知的な雰囲気があった。

「友達まではいかないけど、知り合いなことは確かだよ。この群れのボス?村長かな?」

「ゾクチョウ。ソウヨバレテる。」

「へぇ。かなり言葉を話せるんだね。」

「すコシ、コトバ、ワカル。」

「そういや、どこで言葉を覚えたの?」

「マゾクとイッショにイタ。ニンゲン、コロシテタ。」

「へぇ。」

 とりあえず彼が正直者で俺に誠意があるのはわかった。

 それに、敵意は向けてきていないので、警戒をしている雰囲気は隠しておこうか。

「族長のお名前は?」

「ナマエ、もラテナイ。オレ、ブカじゃナイ。」

 よく分からないけど、名前は無いってことなんだよな。

 族長でも名前が無いってことは、他の皆もそうなんだろうな。

「ゴブリンは生で肉を食べるんだよね?」

「アア。」

「生でも美味しい食べ方があるからな。ちょっと料理しようと思って。俺は人間だから火を通さないと食べれないから、俺の分は焼くけどね。」

「リョウリ?」

「ああ。だから、味が馴染むまで食べるのを我慢してほしいんだよ。お願いできるかな?」

「ヨクワカラナい。マテバイイのか?」

「ああ。」

 彼らゴブリンは獣の皮を剥いだら丸かじりだ。

 小さく切るとかは肉だけ切り出すなんてことは理解し難いだろうから、適当な大きさに骨をつけたまま切り分けて、岩塩、オリーブオイル、その辺りで自生していたディルと野蒜を刻んだものでマリネする。

 酒があれば良かったのだが、醸造技術は持ち合わせていないようだし、俺も荷を減らすために今回は置いてきたのだ。

 街を襲ったゴブリンたちは襲撃の際に酒を奪っていたので、酒の味を覚えれば、彼らも酒が欲しくなるんだろうな。

 足りないものはあるものの、それなりにいい香りが付いていると思う。

 塩を使う文化もないため、驚くかも知れないな。

 随分とフォークで刺したから、何とか味は染みてくれてるだろう。

 ゴブリンたちは子も合わせると15人ぐらいで、多分、全員分の仕込みはできただろう。

 ゴブリンたちの仕込みを終え、焼く方の仕込みに入る。

 ゴブリンたちも食べてみたくなるかも知れないから、多めに準備しておく。



「さて、焼くか。」

 鍋に獣脂をひき、マリネした鹿の肋肉を焼き始めると、煙とともに香りが辺りに広がる。

 こちらには、少ないがニンニクも入れているため、食欲をそそる香りがする。

 生で入れると辛すぎるし、お腹を壊すかも知れないし、まぁ、なにより、手持ちが少ないのだ。

 時間のかかる骨付きを焼き終えた後、ロースを焼く。

 豚に比べて脂が少ないため、焼き具合は慎重にしないとな。

 もも肉の方は、表面を焦がしたら蒸し焼きにしてローストビーフみたいにしようか。

 なんてことを考えながら準備をしていると、ゴブリンたちが騒ぎ、武器を持って集まり始めた。

「族長!何かあったのか?」

 走る族長を捕まえて聞く。

「オオカミ!マロウのムレ!オマエカクレろ!」

 コイツら良いヤツらだな。

 魔物ってもっと冷たい生き物だと思ってた。

「俺も行く。」

 一宿一飯の恩もあるしな。

 狼ぐらいなら、これだけの人数がいるのだから、何とかなるだろう。

 荷から投石スリングを引っ張り出し、横に置いた長巻を握って族長の後を追う。



 集落の外れにゴブリンたちが武器を持って、みな同じ方向を睨みつけていた。

 ゴブリンたちが睨む森の縁から白い巨体が進み出てくる。

 小さい馬ぐらいはあるその白い狼の神々しさはつい見惚れてしまうほどだ。

 ただ、その威容は神々しさだけでなく、その身体に宿るとてつもない力を感じさせる。

 ゴブリンたちの倍近くはあり、苦も無く噛み伏せられそうな巨躯の狼たちが10頭近く後ろに控えている。

 それらの狼たちは体重も充分ゴブリンたちより大きく重そうに見える。

 ゴブリンたちは歯を食いしばり、武器を構えて狼を睨み付けている。

 後ろに控えている狼だけならゴブリンたちと力を合わせればどうにかなるかも知れないが、目の前の白い狼に勝てるビジョンが全く浮かばない。

「何人かは俺と一緒に足止めを。女こどもは優先して逃がせ。」

 俺は覚悟してそう族長に声を掛ける。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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