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肉屋をすることに決まりました。(潜りですが)

「剣を教えてくれるのは嬉しいけど、やっぱりスキル持ちには敵わないよな。」

 ボリスに昼食後も稽古をつけてみたが、基本練習に飽きたのか、その場で座り込んだ。

 どうやら、俺のことをスキル持ちだと思っているようだ。

「頑張ってみれば、ジョブが無くてもスキルを覚えることもあるみたいだし。色々と試してみようか?」

「試すって?」

「あとは『短剣術』と『拳闘術』なら教えてあげれるかな。」

 弓は持ってこれなかったため、いま、子供たちに教えることのできるメニューを挙げてみる。

「スキルもないのに、覚えたって仕方ないだろ!」

 背後にいたペタルが声を荒らげて俺に突っかかってくる。

「それに、本当に教えることなんてできるのか?」

「別に俺はジョブもスキルも持ってないけど、それなりに使えるぞ。さっき剣は見せたな。『短剣術』か『拳闘術』どっちが良い?普通なら無い組み合わせだろ?」

 そもそも、武道というものは、総合的な対人制圧術だと思っているし、親父にもそう教えられた。

 柳生なり、柔術なり単一の技能に偏るものではない。

 ただ、こちらの『ステータスとスキルのシステム』がある世界ではシステムで規定された単一の技能は非常に効率的に習得できる。

 そのため、それ以外の技能に興味を示さなくなる傾向があるのだ。

 俺が焦らないためか、ペタルの勢いが落ちていく。

「俺にも何かスキルがあったら…」

「スキルなんて無くても人間なんだから、努力すればそこそこまでなら何でも出来るんだよ。」

「そんな簡単に言うなよ!」

「簡単だって言ってない。努力は必要だ。ジョブやスキルに振り回されるな。そんなもので人間の価値は決まらない。」

「出来るのか、俺に…」

「ああ。何でもかんでも面倒を見るなんてことは出来ないけど。」

 ただ、自分がどこまでこの子たちのことを見れるのか。

 また、剣などを覚えさせて、危険な事をするようになるのも恐い。

「ただ、君たちに無謀なことをさせるために教えるのは嫌だ。だから、きちんと話をしたい。」

「何だよそれは!」

 ペタルが憤る。

 うーん、ここは一旦、親父に相談したいところだな。

「正直に言うと、スキルを覚えて職に就くことが出来れば嬉しい。ただ、そのスキルで強盗なり犯罪を起こして捕まれば、残ったみんなはどうすればいい?アンナが犯罪者の妹になって、幸せになれるか?」

「そんな先のことなんてどうでもいい!今日、明日食べる物を手に入れるのが精一杯なんだ!幸せなんか生きていなきゃ意味ないんだよ!」


 彼らのような身寄りの無い子供たちに与えられる仕事なんて、ほとんど無い。

 しかも、都市部では単純労働力は過剰供給状態であり、荷運びのような単純労働ですら、幼く身体もできていない彼らにできることは少ない。

 スリや盗みも徒党の縄張りがあり、上納金も強制される。

 実入りが良いのは、ナイフを掴まされて、鉄砲玉のようなことをするぐらいだ。

 ただそれも金貨になるかどうかぐらいの稼ぎにしかならず、返り討ちにあうことの方が多い。

 乞食というのも、その作法やコツを知らなければ、恵みをもらえないどころか、不敬や詐欺などとされてしまうらしい。

 乞食にも徒党があり、徒党の人間しか教えてもらえないとのことだ。

 女の子であれば、尚更、内職なんてものにありつけることは稀で、身体を売る選択肢しか残らない。

 それも、病気をもらうか、すぐに妊娠して出産とともに死亡する場合が多い。

 貧しい者には栄養も衛生的な環境も与えられないからだ。

 また、スラムでは男女ともに栄養失調と劣悪な衛生環境により、30歳まで生きられるのは稀なのだ。

 一発逆転できそうなジョブやスキルの入手も彼らからすると絶望的な費用がかかる。

 ここに辿り着いた時点で、ここから這い上がる手段なんて皆無なのだ。

 俺の考えが甘かったのは確かだ。

「ワシらの故郷には『一宿一飯の恩義』っちゅう言葉があってな。」

 気が付くと親父が帰ってきていた。

「受けた恩はきっちり返さなあかんモンなんや。多少は危ないけど、儲け話があるんや。」

 ペタルは訝しげに俺たちを見ている。

「豚肉の密売や。」

 市場を中に入って隅々まで見たわけではないが、外側から見た印象では、販売されている精肉も料理も羊が圧倒的に多かったように見受けられた。

「ちょっと待って。さっき市場を見てきたけど、豚肉より羊肉の方が圧倒的に多かったよ。」

 恐らく、この辺りの肉の主流は羊肉だ。

「さっきの飯にもヒントがあったやろ。」

 あの傷んだ豚肉が?

「保存か。」

「それにワシもお前もそこまで羊肉を取り扱うだけの知識があるか?」

「確かに。でも、豚ならってことか。」

 親父はペタルたちに向き直る。

「密売する俺らは危ないけど、肉を取り扱うモン自身は罰金刑だけで済むからな。乗るか?」

「ああ。」

「ざっと5人は要るな。集めれるか?」

「妹らも人数に入るか。」

「当然や。口が堅くて、欲をかかんヤツやないとアカンで。」

「分かった。」


 雪豹の毛皮はかなりの値で売れたらしい。

 それを元手に今朝から必要な道具を買って回っていた。

 生きたまま豚は街の屠殺場に運び込まれて買い取られ、そこで解体される。

 都市内の食料品の流通価格はトリキア辺境伯が定める。

 精肉も漏れず決まっており、4ソリ、約2キロで銀貨1枚というのが決められた卸値である。

 当然、この値段は解体とその他の手数料が上乗せされたもので、小売店はそこから購入することになる。

 農家から直接買い取って解体して横流しすることで、その利ざやを稼ぐ。

 衛生、悪臭対策のため、街中で解体をするのはご法度ではある。

 しかし、摘発されてはいるものの、罰金刑で済む程度なので、後は絶たない。

 それに益は利ざやだけではない。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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