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サムイルが持ってかれそうです。

 サムイルを連れて、アリプロフの屋敷に向かう。

 生ハムについては、目の前でサーブする予定であるため、俺が持ったまま屋敷に入る。

「まずは、食事をしてからにするか。」

「それなら、準備をしましょうか。」

 そう言いながら、生ハムの原木をとりだして、案内された食堂のテーブルに載せる。

「チッ。何で肉をこっちに持ち込んでいる。」

「硬さと塩辛さがあるんで、ちゃんとした手順で供さないと、せっかくの生ハムが台無しになりますから。」

「そう言えば、お前らは変わった食い方をするらしいな。」

「ああ、ウチは料理を個別にだしますから、そのことですね。」

 変わった食い方って。

 まぁ、大皿の料理を取り合いするってのが、この国では主流で、貴族ですらそういうものである。

 肉などはナイフで大皿から自分で切り出すのが主流であり、個人や料理ごとに皿があるなんて見たこともないだろう。

 そもそもスープ類以外は皿すら用意されていないことがほとんどで、小さいまな板のようなものや、硬いパンを皿代わりに使うことも多い。

 まだこの国では王族以外はナイフやフォークなんてものは一般的ではなく、手づかみが基本である。

 そのため、今日は皿などの食器も合わせて持ってきている。

 磁器なんてこじゃれたものは、貴族の観賞用しかないため、陶器の皿になるけど。

「ユーキ。その前に、このガキは何だ?」

「今回の定期便で使う馬の確保をしたのが彼です。」

「ムッ、こんなガキがか?」

「ええ。だからこの場にいるんですよ。」

「フンッ。なかなか使えるってコトか。」

「ええ。ゆくゆくは彼が定期便事業の責任者にする予定です。」

「それはわかった。で、この仰々しい準備は一体なんの積りだ?」

「この生ハムっていうのは、結構塩辛いのと、乾燥させて固くなっていますので、こんな風に薄く切って食べるのが一番美味しい食べ方になります。」

 そう言いながら、原木からカットをしていく。

 ついでに、塊も少しだけ作っておく。

 アリプロフに食べ方の意味を知ってもらうためだ。

 並べた皿に晒した薄切り玉ねぎとともに盛り付けて、オリーブオイルを回しかける。

 もう一つの皿には予め焼いておいたリーキをカットした生ハムで巻いて、こちらもオリーブオイルをかける。

「なるほど。こういう食い方なら、個別に皿に出す必要があるな。」

 アリプロフはフォークを睨みつけている。

「フンッ。気取りやがって。王都や帝国の王族はこういった物を使っているとは聞いたことはある。」

「食器の使用については、病気を防ぐためにも推進したいところですね。まぁ、今回は油をかけてますから、手が油で汚れると面倒でしょう?」

「確かにな。」

 アリプロフは慣れない手つきでフォークを伸ばす。

「それなりの味だな。どれぐらい保つんだ?」

「さぁ?今回はそんなに熟成させずに持ってきてるのもありますから。通常は1年から3年程度まで熟成させます。熟成が進んだ物の方が傷みにくいでしょうし、こうやって切り出した後の手入れをきちんとすれば、それなりに保つはずです。」

「航海に持っていくことはできるか?」

「水分には弱いですからね。それに単価が高くて普通の食料として使うようなものじゃありませんからね。」

「そうだな。」

「まぁ、この話はここまでだ。そこの育ちの悪そうなガキも一緒に食っていけ。」

「ありがとうございます。」



「チッ!トロトロ食いやがって。サッサと本題にはいるぞ。」

 食べ終わってから出されたローズヒップティーが出されてから、アリプロフが話しだした。

 最近は慣れてきたので、別に怒っている訳でも無いのもわかってきた。

 癖みたいなもんなんだろうな。

「さて、事業全体の進捗は私からさせてもらいましょうか。」

 俺から軽く一通り現在の進捗を説明した。


 アリプロフは俺じゃなく、サムイルに向かって話し始める。

「荷を増やそうとした場合、どのくらいかかる?」

「1頭引きから2頭引きに変えるには、余分には用意してもらってるとはいうものの恐らく5頭は不足するでしょうね。馬車を新調する時間ぐらいあれば、何とか揃えることができると思います。」

 サムイルが答える。

「ただ、為替に関する遣り取りなどを考えると、荷を増やすより、便を増やした方が良いんじゃないでしょうか?便を増やせば少し待つだけで荷も増やせますから。」

「そもそも、どういうふうに馬屋と交渉するのに値を決めたんだ?」

「ああ、それは…」

 ん?

 ちょっと待て。

「ちょっと、アリプロフさん。サムイルを引き抜く積りですか?」

「ああ。」

 ちよっと。

 すんなり肯定しないでよ。

「今の仕事が落ち着いたら、俺に預けてみろ。」

 まぁ、商人として育てるなら、金も物も人も桁違いにあるだろうから、勉強にはなるのは確かだろうけども。

「俺には娘しかいない。そんなに悪くはないんだが、どこかの誰かみたいに甘い。これからはお前に乗せられて金を取り扱うんだ。そんな甘ちゃんには務まらん。だからお前は俺に振ったんだろ?」

 まぁ、アリプロフの言うとおりなんだけど。

「それに、俺の跡目を継ぐ候補は一人じゃない。生き馬の目を抜くような奴が犇めき合う場所だ。」

「アンタの跡を継ぐ気はないけど、そこに行きゃ、鍛えられそうだな。」

 何でサムイルのやる気に火が着いたの?

「サムイル。お前がやりたい事をやりたいようにやれ。」

 その言い方。

 俺が止めるとも思っていないみたいだな。

 まぁ、その通りだけど。

 ウチの店から抜けられるのは痛いけど、アリプロフ側に行くなら俺に利もありそうだし、それに、サムイルがやる気なら止める理由も無い。

 しかし、嫡子相続に拘らず、才能のある人間を取り立てようなんて、奇特な人だな。

 成り上がりで初代なのに、現代日本でもそう割り切れる人間もそんなにいないと思うし。

 俺の場合は、この世界に残るつもりがないからそう考えられるんだけど。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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