王都組にクレープの練習をさせてみました。
「えー。晩ごはんまでクレープ?」
「俺は中の生ハムだけだったら、毎日でも大丈夫だぜ。」
王都で生ハムを売るために考えたのは、クレープだ。
生ハムだけでは腹が膨れないため、小麦や蕎麦などの穀物も必要だ。
パンを使うとなると、仕入れが必要だし、作るのであれば、技術が必要なうえ発酵なりの手間と時間が掛かる。
発酵させずにピタパンを作るのも考えたのだが、ベーキングパウダーはまだ実用化されておらず、こちらも採用できなかったのだ。
ベーキングパウダーってどうやって作ってるんだろう?
そこで、鉄板さえあれば作ることのできるロールタイプのクレープかガレットにすることにしたのだ。
これなら、手に入る材料で作れるし、作り方を覚えれば、数量も調整しやすい。
青物として蕪の葉を塩茹でしたものと、水に晒した薄切り玉ねぎを合わせ、オリーブオイルをかけたものを筒状に巻いた。
かなり好評だったが、さすがに4日も続くとみんな飽き始めたようだ。
明日からは闇市に出てもらって慣れてもらう予定なので、クレープ三昧は今日までなのだが。
「クレープはデザートだぜ。」
「デザート?」
不思議そうにペタルが聞いてくる。
「甘い菓子だ。」
砂糖は輸入品しかなく、手に入れづらいうえに、馬鹿高い。
普通に肉の何倍もする。
やっと砂糖が買えるだけ稼げるようになったってことだ。
「菓子のクレープってのを食後に食わせてやるから、期待して待ってろよ。」
晩ごはんは軽めに済ませ、ライナと一緒に厨房に入る。
鍋を温めてライナがクレープを焼き始めると、俺は残していたクリームと昼間に作っておいたぶどうとクランベリーのジャムを塗って半分に畳んでから巻いていく。
ちなみにクリームは生クリームの量が確保できなかったので、水切りしたヨーグルトでかさ増ししているが、これはこれで美味い。
生クリームは自作するしかないが、牛乳自体が手に入らないうえ、そんなに量が取れないので苦肉の策だ。
スーパーに行って何でも食材が揃う日本ってよく考えれば凄いことだったんだよな。
「おい、みんな、取りに来てくれ。」
横でライナが焼き上げた生地をどんどん巻いていく。
「うわぁ!美味しい!」
マーリヤも超ご機嫌だ。
「さて、テーブルに戻れよ。メインはこれからだぞ。」
棚から取り出したものをテーブルに置き、切り分ける。
それはミルクレープだ。
クレープを焼く練習で枚数を焼かないといけないが、材料を無駄にはあまりできないのもあって思いついたのだ。
「こんな美味しいもの、初めて食べる!」
あのサムイルも取り乱すぐらい美味いらしい。
「ケーキ、また食べれた…」
こころさんは何故か涙ぐんでいる。
「みんなに食べさせたい…」
うーん。
転生者に集まられると、困る気もするな。
注文していた鉄板も届き、闇市で売り出し始めることにした。
メニューは生ハムのクレープのみだ。
デザートのクレープ、いや、生クリームなんて商品にするほど確保できないし、バカみたいに高いからな。
価格は銅貨2枚。
安い仕事の日当ぐらいにはなる価格ではあるが、生ハムのコストを考えると、それでも限界に近い。
ドネルケバブも一緒にとは考えてはみたのだが、本業の豚肉でもないうえ、トリキアでは香辛料が手に入りづらく、高価なため断念する。
サクラとして、ヴォイシルさんに食べてもらうと、徐々に人が集まってきた。
価格はさておき、味は好評だ。
見慣れた顔がこちらに向かって来ている。
「フンッ。一つ足味させろ。」
アリプロフだ。
「今日の昼に報告に行くって言ってたじゃないですか。」
まぁいい。
期待してくれていると思っておこう。
「ライナ。木皿に中身だけを出してくれ。」
ライナが持ってきた生ハムをアリプロフに渡す。
「美味いな。」
「ああ。作るのに1年近くかかるけど、保つんです。これは。」
「それで、この値か。運んでも利があるか。」
「この子たちが王都でコレを売ります。報告が遅れましたけど、定期便の準備は順調に進んでます。今の見込みなら、王都まで片道5日ってところですね。」
「早いな。」
「その早さを武器にしないといけませんからね。」
「詳細は昼に聞く。それを持ってこい。」
そう言ってアリプロフは生ハムの原木を指さした。
随分、お気に召したようだ。
「分かりました。」
アリプロフを見送ってから、彼のところに行く準備をするため、一旦店に戻ることにする。
「ライナ、困ったらペタルを頼れよ。」
今日はペタルが店番をする日だ。
ペタルも精肉の方に力を入れてほしいから、そこまで闇市に出てもらう積りはないけど、軌道に乗るまでは俺、ペタル、マーリヤで店番をすることになっていた。
「大丈夫ですよ。アニキ。任しといてください。」
一番不安なんだけど、大丈夫だと思っておこう。




