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トリキアに帰ろう。

 ライナが代わりのこどもを呼びに行くと言って出てからほんの数分で代わりの男の子と一緒に戻ってくる。

 準備してたのかよ。

「この子は?」

「ジルマ。字はまだだが、計算はそこそこできる。」

「ライナは手先は器用なんですか?」

「ああ。」

 まぁ、無難な人選ってところか。

「一月ほどトリキアで仕込んでから帰らせる予定ですが、行きは2週間、帰りは5日なんで、大体準備に2か月ぐらいかかります。それまでに場所の確保、屋台と調理器具の手配、きれいな水・野菜・小麦・オリーブオイルの仕入先の手配をお願いします。」

「帰りが5日ってのは、どういう訳だ?」

「王都とトリキアを馬車の定期便を走らせます。一頭引きで軽い荷を運ぶための物ですが、こども2人なら大丈夫でしょう。」

「走らせるってお前がか?」

「ええ。基本的には金と書簡の遣り取りを行うための物です。まぁ、商売が始まったら定期報告をお願いすることになりますので、お願いしますね。」

「なるほど、それが離れた王都で商売をしようとした理由か。」

「ええ。こちらで取り立てをしてもらうことになれば、情報の裏付けにもなりますからね。」

「ライナとジルマを宜しく頼む。」

「ええ。そこは心配しないでください。」



 俺達は増えた人員分の毛布と食料を買い足して、すぐに王都を出立した。

「なるほどね。ペネさんに取り立てを頼んだのは、そういう訳だったんだな。」

「情報ってのは使い方次第で金になるもんなんだよ。そうだ。帰りはそこまで忙しくないから、お前らにもアリプロフにさせようとしている為替ってのを教えるよ。サムイルたちにもざっくりとしか説明していないしな。」

「為替!」

 こころさんは驚きの声を上げる。

「ああ。調べたところ、この国じゃ、まだ海外貿易でしか使われてないんだけど、王都とトリキア間でアリプロフを使って始める予定なんだよ。うーん。為替っていろんなイメージがあるから分かりにくいかも知れないな。こころさんだと『手形』って言った方が分かりやすいかな?」

「裕紀の発案?」

「うん。そうだけど。」

 あ、親父の発案かと疑ってるのか?

「親父とその仲間に手伝って…。だいぶ修正されたけど、俺の発案だよ。前も話した小額貨幣をアリプロフに発行してもらうために提案したんだよ。あの人が少額通貨の発行元なら信用もあるし、上手く行けば王都でも使えるようになるかも知れない。」

「本当に小額通貨なんて役に立つのかよ。」

 ヴィネフはそこまで興味は無さそうながらも聞いてくる。

「まぁ、リスクはあるけど、今のまま景気が上向けば、庶民の収入の底上げになるからな。それを逃す手はないだろ。サムイルは将来的にどうなると思う?」

「都会じゃ更に独り者が増えるだろうから、普段の生活に必要になってくる。将来的には国が少額通貨を発行するようになるんだろうけど、庶民がそれだけの経済力を持つなんて、まだまだ先だとは思うし、戦争とか政情不安があればすぐに崩れるんじゃない?一介の商売人が作る少額通貨なんて見向きもされないんじゃない?」

「まぁ、良いところをついてるかな。今回、為替と抱き合わせにしたのは、その通貨の信用を作るのも目的の一つなんだよな。」

「しかし、わざわざアリプロフのところで両替するのが面倒だよね。」

「あっ!」

 こころさんが何かに気付いたようだ。

「手形取引なら帳簿だけ。」

「帳簿だけ?」

 珍しくサムイルがまだ気付いていないらしい。

「正解。アリプロフは食材から木材まで広く取り扱う仲卸やブローカーもしてる。小売店や飲食店は儲けた少額通貨はアリプロフに預ける。アリプロフの取引してる店の間の食材などの材料費はそのまま決済できるから、少額通貨を得た商店はざわざ両替する必要もない。『手形』で決済することが常態化すれば、商店は現金でやりとりする必要もなくなるから、現金をアリプロフに預けることになる。」

「それって、銀行?」

「そう。アリプロフは最終的に銀行屋になるんだよ。」

 こころさんにはイメージが湧くんだろうけど、まだこの世界には銀行という概念はないし、『手形』なんかの信用決済は国際取引でしか行われていないから、サムイルには理解しづらかったんだろうな。

「『銀行』って何だよ?」

「『手形』の決済とか預金、金貸しをする総合的な金融業者だよ。」

「もし、アリプロフが成功したら…」

「それこそ莫大な富を手にするんだろうな。まぁ、それをするだけの元手もコネも信用も無い俺たちじゃ役不足だよ。まぁ、定期便はそこに喰い込むって意味もあるんだけどね。」

「まぁ、いろいろと納得いかないとこもあるけど、今後のアリプロフや金の流れには注意しないといけないってことは確かなんだよな。」

「仕組みをきっちり理解して欲しいかな。これは、サムイルだけじゃなくて全員な。」

 ふと、後を見るとライナとジルマが少し離れてついてきているのが見えた。

「君らもこっちに来なよ。新しい情報をイヴォさんに教えてあげるのも君らの仕事だよ。」

 そう言ってあげると、2人は俺たちの近くに寄ってきてくれるようになった。

 こんな感じで話しながら歩くと、長い距離も少しは楽に感じる。

 帰りは馬屋やフリッツさんの集落に寄ったりしたものの、なんのトラブルも無く、無事にトリキアへ帰り着いた。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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