初めての王都です。
用意してもらった部屋までフリッツさんが案内してくれる。
村長の家の構造を熟知しているみたいだな。
「すまんな、ベッドは一つしかないし、空き部屋はここだけだ。他は荷があってな。急だったから許してくれ。」
「いえ、こちらこそご無理言いまして、申し訳ありません。失礼なこと聞くかも知れないけど、村長のご身内ですか?」
「何か急に言葉が丁寧だな。まぁ、似てるか。ここの三男坊だよ。貧乏が嫌で村を抜けて王都で衛兵になったんだがな。」
三男とは言いながら、長男、次男らしい人間は見当たらなかったが、聞けなかった。
別に家を構えてるってことは、村を飛び出した手前、実家には戻れなかったのかも知れないな。
「それじゃ、おやすみなさい。」
ベッドにはこころさんを寝かせ、男三人は床に転がる。
一応、毛布は敷いてくれていたのは助かった。
「それじゃ、護衛の件、前向きに検討をお願いします。」
そう村長に伝え村を出ようとした時、フリッツさんが遠くから呼び止めてきた。
「下見も必要だからな。」
「今は報酬も出せませんよ。」
「構わん。ところで何故そんな改まった口調なんだ?」
「フリッツさんの方が年上でしょ?先の交渉じゃ舐められる訳にはいきませんでしたから。すみません。」
ちなみにフリッツさんは30歳手前ぐらいだろうか。
「はぁ?」
「18歳ですよ。」
「マジかよ。確かに言われてみればそんな気もするな。」
途中の街道沿いにある街で宿場の交渉をしながら、6日目に馬の牧場に辿り着く。
交渉はサムイルの役目なので、顔見世を終えたあと、こころさんとサムイルを残し、俺たちは近くの街の宿で軽い物を食べながら休憩していた。
「本当に馬車の運行をするんだな。」
「ええ。大金を動かすための情報を遣り取りするためにね。」
「いや、こんなガキだけでよくこんな事業なんてできるなと思ってな。俺が同じくらいの時は、ただ衛兵になろうと必死で何も考えてなかったよ。」
「まぁ、食うために必死だったからですから、同じですよ。それに手助けしてくれる大人もいましたから。フリッツさんみたいな。」
「ばっ、何を。」
「さて、護衛の件は受けてくれると考えても?」
「ああ。本当にこんな突飛な事業をするなんて信じられなかったからな。豚の件も乗ろう。」
「本当ですか?」
「ああ、お前ら本当に楽しそうだからな。疑うのが馬鹿らしい。ただ、利益が出なけりゃ、そこまでだがな。」
「ま、そこは必死に頑張りますよ。トリキアの豚肉ギルドとの諍いはあるでしょうけどね。」
「そういや『ネズミ』とは本当に関係があるのか?」
「ああ、幹部に兄がいます。でも、今回の件は俺が自由に動かせる人が欲しかったのもあるんですよね。向こうとあんまり関係が濃すぎるのも面倒なんで。」
「そりゃそうだな。」
翌朝すぐに集落を発ち、そのままプリッツさんを連れて王都を目指す。
牧場との交渉も上手く行き、王都へもあと3日というところで、盗賊に遭遇した。
この辺りまでくると、親父の徒党の名前も効かなくなる。
まぁ、今後、王都の支部が大きくなれば、また状況は変わってくるんだろうけど。
「フリッツさん。この辺りまでくれば、純粋な護衛になりますよ。」
「ああ、分かってる。」
連れていた軍馬の手綱をヴィネフに渡して剣を抜いていた。
俺が長巻に手をかけると、後頭部を叩かれる。
篭手は鉄だそ。
そのうえ髪が篭手に挟まって何本か抜けて地味に痛かった。
「馬鹿。お前が商会の主人だろ。何かあったらどうする。下がって見とけ。」
フリッツさんが話し掛けると、話し合いになり、しばらくすると盗賊たちは帰っていった。
まぁ、どういう交渉をしたのかも含めてお任せしたことにしておこう。
王都の巨大な城壁に開けられた大口のような城門の前に着く。
その内側に広がるのは、巨大な防壁に幾重にも囲まれた城を中心とする巨大な街だった。
壮観という他はない景色に言葉を奪われる。
「ケアールドとはまた違う。」
こころさんが嘆息を漏らす。
「外側は綺麗なもんだが、中に入ればそうでもねぇよ。人間が集まる場所だからな。」
「かなりの人口がありそうだな。」
「ケアールドは高い建物が多かったから少しこじんまりしてた。こっちは2階までが多くて広い。」
そういや、この世界に来てから俺はトリキアと森しか行ってなかったな。
人に道を聞きながら、アリプロフの商会に顔を出してから、城門近くの『ウンベルト爺さんの宿屋』に向かう。
王都だけは交渉がにしくそうだと、親父が事前に交渉してくれていたのだ。
かなりの部屋数があり、小奇麗なところだ。
今日はここに泊まる積りなので、交渉後に泊まるというと。
「いやいや、お代なんて頂けませんよ。もうしばらくお待ちくださいね。」
なんて言われる。
何を待たされてるのかと思えば、どう見ても真っ当な職に就いているように見えない3人組が現れる。
真ん中の男は恰幅も良く、服装も品は無いものの、利発そうではある。
年はまだ30を少し超えたぐらいか?
若いとはいえ、使えそうな人材という印象だ。
「ペネと申します。貴方がユーキさんですね。マサヤさん共々いつもお世話になっています。」
面倒くさいな、この手の人間は。
「いや、俺はただの肉屋だし。」
「はい、それは存じております。トリキアではウチの妹や同じスラムの仲間を使ってもらってます。みな、貴方の所で働けた者は貴方に感謝しています。」
ん?組織としての挨拶じゃなくて、直接俺と話したかったのか。
もともと、スラムの子どもたちを使って始めたから、事業拡大の時もスラムの子を結構雇ってたもんな。
元の人件費が異常に安いから、頑張った分だけ色をつけてあげるようにしているんだけど、そのおかげでみんな結構頑張ってくれてるんだよな。
「スラムの子たちを少しでも真っ当な職に就けてくれる貴方にみな感謝しています。これからも宜しくお願いします。もし、王都で何かあれば俺たちを頼ってください。貴方のために動きたいと思っている人間はたくさんいますから。」
そんな挨拶をしていって、男たちは帰っていった。
「裕紀、カッコいい。」
こころさんが感心したように言う。
「いや、伝手もコネも無いからスラムの子どもたちを利用してただけだよ。」
「謙遜。」
あんまり何も考えてなかったけど、意外と感謝されてたんだな。
まぁ、確かにスラムの子どもたちが真っ当な職に就ける機会なんてほとんどないだろうし、親父のところだとしても売春宿だもんな。




