盗賊団だって商談相手です。
村を見せてほしいと言って建物から出ると日が傾いている。
今日は止まらせてもらおうかな?
ん?
畑が少ないな。
「フリッツ!フリッツさん!」
村長の家を出てからどこかに行こうとしていたフリッツさんを呼び止める。
「何だ?」
「ちょっと、この村のことを聞かせてくれ。案内も頼む。」
「何を言い出すんだ?」
「この村って、畑が少なくないか?」
「見たとおり山間だからだ。」
魔境に接している森は危険地帯であることもあり、領主もうるさくはないが、それ以外では伐採も含めてかなり厳しい管理がされており、勝手に開墾なんてできないようになっている。
「穀物は?」
「ライ麦と蕎麦だな。」
「なら、ヤギか?羊か?」
「ヤギだな。」
「豚は?」
「豚は大喰いだし、ここじゃ寒すぎてダメだな。全くいないわけじゃないが。暖かいうちだけだな。」
確かに少しだけ標高はある。
それに斜面も多い。
「寒村って言葉がぴったりだな。」
「そうじゃなけりゃ、こんな事してねえよ。」
「そりゃそうだな。村長のところで泊まらせてもらえるように取り計らってくれないか?金は払う。」
「もう暗いしな。」
「アンタも一緒にな。」
無事に村長の家に迎え入れられることになり、一緒に食事をすることにした。
「さっきのとは別の商売の話だ。この村で豚を飼ってみないか?作ってみないか、美味い豚を。」
「豚だと?」
フリッツが聞いてくる。
実際のところ、この男が仕切っているんだろうな。
「言ったろ、本業は肉屋だ。俺の故郷じゃ美味い肉にはちゃんと値がついてた。最近トリキアで始まった闇市なら同じように値をつけれる。」
「ちょっと、ユーキ兄。何を言ってるの?」
サムイルが割り込んでくる。
多分、俺の考えていることに心当たりがあるのだろう。
「それも冬でも出荷できるなら、更に値を釣り上げられる。」
「どういう事だ?」
俺は飼料による養豚、豚舎の建築による冬季での肥育についての構想を説明する。
「ただでさえこの村は冬は飢えるんだ!そんな豚に餌をやるなんて馬鹿なことできる訳ないだろ!」
まぁ、フリッツの言うことも一理ある。
現在、人口は増え続けるものの、農耕技術の発達がそこまで追いついておらず、基本的に食料は不足気味である。
「買えばいい。」
そりゃ、農村で農作物を買うなんて、今まで無かったろうし、そんな発想も無かったろう。
「金貨が入るだろう?だから誘うことにした。」
「そんなうまいばっかりの話はないだろ?」
「まぁな。断っても構わない。今は具体的な事案はないが、今後人手が欲しくなるからだ。恩を売っておきゃ、断りにくいだろ?」
「何を企んでるんだ?アンタは?」
「アンタらが儲けたら、それ以上に俺が儲かるからな。それに美味い肉が年中欲しい。」
「それで具体的なプランはあるのか?」
「今、考えてる。サムイル、次の真冬に秋ぐらい脂の乗った新鮮な豚を売り出せれば、1頭あたり金貨2枚は出せるだろ。どれぐらいでペイできる?」
「村の人件費を抜いて計算すると、3年半ってところですか?」
「見込みは何頭だ?」
「年間300頭です。」
「初年度は、100頭ぐらいいければ御の字なんじゃないか?来年からは300頭ってところか?養豚さっぱりだから最低限いけるぐらいで見積もろう。」
ざっくりと飼料肥育の説明をしていく。
「飼料を作るところから始めるところからが今回のミッションだ。幸い春から着手できるから、冬用の飼料作物の栽培に間に合うな。」
そのまま、ウチのメンバーでの会議が始まってしまう。
三圃式農業が浸透しつつあるところだが、この村では土地に余裕がないため、行われていない。
そこで、飼料用の雑穀の栽培を行う輪栽式農業を提案した。
こころさんからはブタナとカラスノエンドウを勧めてたな。
ブタナはセイヨウタンポポと言った方が分かりやすいかな?
その名の通り豚が好み、ビタミンや鉄分が多く、利尿作用や毛細血管拡張作用、ホルモンバランスの調整、肝機能の促進などの薬効があるらしい。
根はタンポポ茶になり、母乳の出が良くなるらしい。
カラスノエンドウは緑肥になるし、豆も葉も食用にできて栄養価も高い。
薬効として便秘解消、利尿作用、抗炎症作用、血圧を下げる作用、精神鎮静があり、栄養面ではビタミンB1が含まれており、滋養強壮にももってこいらしい。
何より手間がかからないとのことだ。
何だか漢方を勧めているみたいだが、こころさんのジョブは『薬草師』だもんな。
カラスノエンドウが有用なのは分かったけど、燕麦やカブを混ぜながら飼料の増産に努めてもらえばいいだろう。
その辺りは、事業をする者に任せることにしたらいいか。
サイロや豚舎の建築などの初期投資はウチで行い、この冬から徐々に返済してもらう。
まぁ、飼料作物を栽培することになるから、護衛の収入については、返済に充てることはしないのは条件に入れておこうか。
「おい、真冬なら、ここで解体して精肉を王都まで出荷できるな。」
「楽しそうなのは良いが、今日はここまでにしとけよ。」
俺がそう言った時、フリッツが止めに入ってきた。
ついつい熱中してしまっていたようである。
「すみません、つい。」
「じゃ、寝ようか。」




