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こころさんはウチの従業員になりたかったようです。

 翌朝は朝食後すぐに事務局でサムイルと打ち合わせをする。

 サムイルのおかげで馬の購入費が浮いた分、道中の宿場に宿屋を作るように案を変更する内容の打ち合わせをしていた。

 事務所のドアがノックされる。

「入って良いぞ。」

 こころさんだ。

「あれ?今日はゆっくりしてたら良いのに。」

 帰ってきてから、前回の探索で得たハーブ類を吟味し終わったので、今日は休むように言っていたのだ。

「お願い。」

「お願いって?」

「ここで雇って。」

「雇うって?依頼の期間はまだまだあるでしょ。」

「この店の従業員。事務ぐらいできる。」

「どうして?」

「ここに居たい。もっと役に立ちたい。」

 随分と急だな。

 そう言えば、こころさんは使徒として召喚されたものの、元のパーティーとも別れて独りなんだよな。

 パンティアや帝国なら王室付けで、魔王退治が終わっても国で雇われたりしてるみたいだけど、カレン付けのこころさんは行くあても無い状況だったんだよね。

「何でここが良いって思ったの?」

「みんな優しいし楽しそう。それに今一番忙しい。力になりたい。」

 人手が足りてないのはそうなんだけど。

 読み書き計算が出来て、こころさんのように教育を受けたことのある人間は喉から手が出るほど欲しいとは思っているんだけど。

「うーん。ちょっと考えさせてくれないかな?」

「ん。分かった。」

 こころはそう言うと退室していった。

「どうしようかな?サムイル、マーリヤを呼んできてくれ。」

「なんで姉ちゃん?」

「いいから。早く。」



 サムイルには外してもらって、マーリヤにこころさんの事を相談する。

「サムイルを外すってことは、自覚はあるのよね。」

「はい。」

「それで?」

「彼女は記憶も無くて、依るべきところも無い。使徒としてこの世界に来たけど、元の仲間の所にも戻れないし。戦場なりに行けば稼げるんだろうけど、それも彼女は向いてなさそうだし。」

「まぁ、そうよね。その代わり、庇護欲を掻き立てるわよね。」

「読み書き、計算はできるし、見た目と反して能力も低くない。」

「まぁ、そうね。」

「雇っても損は無いんだけど、どう待遇するかなんだよね。」

 コミュニケーションは苦手そうなのに、もう既にうちの子たちと馴染んでいる。

 まぁ、一緒に住んでいるのもあるんだろうし、よく家事なども手伝っていたのは見ていた。

 いつからだろう?

 彼女がウチに溶け込もうと努力していたのは?

「そもそもユーキはココロの事をどう思ってるの?ココロの気持ちは気付いてる?」

「薄々は。」

「まぁ、森であった事でココロの気持ちが動いたのは分かるんだけど…。肝心のユーキはどうしたいの?」

「まだ色々と踏ん切りはついてない。」

 マーリヤが大きなため息をつく。

「それで、私に何て言って欲しいの?どう思ってるの?」

「とりあえず、気持ちの部分は置いといて、うちの子らと同じようにしたい。それと、もう少ししたらまだ話していない事をマーリヤ話す。」

「分かったわよ。色々と納得できないけど。まぁ、ココロはもう結構うちに馴染んでるから、うちに居る分には心配はないわよ。」



 その晩、夕食時にこころさんを従業員として迎え入れる事をみんなに話すことにした。

「みんな、聞いてくれ。こころさんなんだけど、一年の期間で『薬草師』として契約していたけど、明日からはうちの従業員として、みんなと同じように働いてもらうことにした。」

「話すのは苦手だけど、意外と気が利くもんな。」

 ペタルだ。

「まぁ、ココロさんなら、即戦力として使えますね。」

 サムイルだ。

 誰からも反対はされなかった。

「良かったね。ずっと一緒にいれるね。」

 懐いていたアガタとアンナも喜んでいる。

「ありがと。みんな。」

 こころさんの目が少し潤んでる。

 大変だったんだろうな。

 この世界に来てから。

 周りからは『使徒』として、能力は評価されるものの、一線を引かれていただろうし、同じ『使徒』たちからも距離をとってしまぅている。

 この世界に居場所というものが無かったように見えてたんだろうな。

 俺はずっと周りに恵まれてたからなぁ。

 あんまり苦労をしてないから、今後大丈夫かな?

「裕紀。ありがと。」

「うちの子になったんだから、明日からこき使うからな。」

 年上に向かっての言葉じゃないような気もするけど、まぁ良いか。

「ん。」



 その夜、俺は親父に会いに行くことにした。

 こころさんの報告をするためだ。

「彼女が言うには、魔物に対して恐れたり憎んだりする暗示のようなものがかかっているかもと言ってた。」

「ほう。」

「教会には不信感を持ってるし、俺たちの邪魔にはならないと思う。」

 俺の表情を探るように見る。

「あの子の面倒を見たいって言いに来たんやな。」

「ああ。」

「その子のことは、お前に任せるわ。手元に居ててくれた方がエエんかも知らんしな。」

「そう言ってくれるとありがたいよ。」

「そうは言うても、あの子は『使徒』や充分用心しとけよ。」

「分かった。」

 親父としては警戒は緩めないという訳か。

「あと、定期便の事業は今のところ順調に進んでるよ。ウチだけでなんとかなりそう。」

「そうか。そんで、どんぐらいで運用を始めれそうや?」

「最短であと4ヶ月ってところかな。」

「まぁまぁやな。期待しとるで。」

「ああ。」



 サムイルとこころさんを呼んで定期便事業の打ち合わせを始める。

「この中で宿に泊まった事があるのは、実はこころさんだけなんだよね。」

「ん。」

「知識や能力も問題ないし、宿場とそれに付随させる宿屋の確保を担当してもらうことにしたい。」

「まぁ、適任だね。まずは場所の選定なんだよね。」

「馬はローテーションで使えるから、通常よりは長い距離でも大丈夫だよな。」

「ああ。その辺は馬屋の親父に聞いてきてる。」

「今日、明日でこころさんとハーブの確認をしてから、設置場所の確定に出てもらう。俺はヴィネフと護衛を探すんだけど、一緒だな。」

「護衛?マサヤさんの所から借りるんじゃないの?」

「護衛も一度出れば、半月以上は帰ってこれない。そうなると世帯持ちは難しいんじゃないか?」

「そうか?」

 うーん。

 感覚が違うのかな?

 まぁ、食うに困る事が多い世の中だから、稼げるのなら、喜んで来てくれるのかな?

「まぁ、長く務めてもらって信用のある人間を作っておきたいのと、途中で交代できるようにしておいた方が盗賊とかの情報も集めやすいし、体力的にも余裕が出る。」

「まぁ、そうだケド。」

「ここはコストより質を重視したい。」

「まぁ、それなら。ん?ユーキ兄も来るの?」

「ああ。」

「まぁ、ヴォイシルさんよりは迫力無いけど、良いか。」

「何だよそれは?」

「あの人と一緒だと、盗賊が近寄ってこない。」

「まぁ、顔も売れてるんだろうしな。」

「大丈夫。裕紀も強い。」

 こころさんがフォローに来る。

 そうは言うものの、実際に複数で来られると、何人か殺めないと身内を守れないのかもな。

 覚悟はしとくか。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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