魔物と出会いましたが無事に帰ってまいりました。
ストーンカという牛の魔物は威圧しながら俺たちにゆっくりと近づいてくる。
その圧倒的な魔力量と威圧感にヴィネフもこころさんも恐怖で心が折れかけているようだ。
しかし、対峙してみると、ストーンカと呼ばれる魔物のその巨大な単眼には、知性が宿っているような気がするのだ。
ストーンカの方も警戒はしているものの、明確に敵意を向けてきている訳ではない。
まぁ、人間ごときに遅れをとらないと思っているのもあるだろうけど。
それに、草食だろうからいきなり齧られるっての無いだろうし、試しに話しかけてみようか。
「あの、お話できますか?」
口の構造からすると、発声は難しいかな。
『変わった人間だな。』
低くてかすれた、いや、無理をして言葉を発しているような声だ。
そりゃ、牛の声帯からだもんな。
「あ、はい。」
『何をするために森に来た?』
「料理に使う薬草を探しに来たんです。ああ、無計画な採取は伐採はする気もありませんから。故郷だと自然を破壊して後から困るとになってたりしましたしね。基本的には街に持ち帰って栽培しようと思ってます。決して森を荒らす気はありません。」
『料理か。人間は身体が弱いから火を通さないと食べ物を食べられんのだったか?』
「まぁ、そういう側面もありますが、色々な食材を組み合わせて、美味しいものを作るという意味合いもありますね。」
『美味い物?良い土地、良い気候があれば、美味く育つだけではないか?』
「美味しくない物を美味しく、美味しい物はより美味しくするっていうところですね。」
『よく分からんな。』
「興味はおありで?」
『多少はな。』
「今度、機会があれば、ご用意しますね。」
なんだか、魔物というよりは、土地神様みたいな感じがするな。
「そう言えば、この辺りでは古い方なんですか?森を守ってらっしゃったりとか?」
『言われてみれば、そうなのか?』
「好きなものは何ですか?お供えとかお持ちしましょうか?」
『ワシは死人じゃないわ。それに草しか食わん。』
「いや、森を守ってらっしゃる方ですから、その恵みに感謝するという意味でですよ。」
『いや、明確に森を守ろうとしている訳ではない。荒らす者は排除するが…』
「ストーンカという種族のようですが、お名前をお伺いしてよろしいですか?」
『名なぞ無いが、先程から何故そんな丁寧な言葉遣いなんだ?』
「この森の主様とお見受けしましたので。」
『なんじゃそれは。ワシはただの牛の魔物じゃ。』
「どのぐらい生きてらっしゃるんですか?」
『そこの木と同じぐらいかの?』
そういって視線を送ったのは、大人3〜4人くらいの幹周りがあるブナの木だ。
樹齢でいうと、500年ぐらいあるんじゃないだろうか?
ただの一介の魔物とはいえ、理性的で話も分かるし、長く生きてるし、信仰の対象になってもおかしくないと思うんだけど。
振り返ると、こころさんも随分と落ち着いてきたみたいだ。
「こころさん、どう思う?」
「何?」
「ストーンカさん、俺らの世界だと信仰の対象になっててもおかしくないよね。」
「言われてみれば。」
「でも何で恐れられてるだけなんだ?あまり人を襲うようには見えないのに。」
自問するようにこころさんに聞いてみる。
「自然信仰が皆無。」
「でも、精霊ってこっちには居るだったよね?」
「うん。」
『精霊とは神の息のかかった魔力の塊だな。』
「自然やその信仰から生まれる訳ではないんですか。」
『そうだ。神の齎した技術で造られた精霊の核が魔力を集め、精霊という存在を作り出しているのだ。』
うーん。
精霊の存在ってのは、システムが介在してるってことなのか?
見かけてもあんまり近づかない方が良さそうだな。
『すまんが、喉が痛くてこれ以上は話せん。』
「申し訳ありません。お時間をとっていただき、ありがとうございました。」
ストーンカは森の方へ身体を向ける。
「最後に一つだけ。また、ここに来てもよろしいですか?」
『勝手にしろ。』
それだけ言い残すと、ストーンカは森へ消えていった。
ストーンカとの邂逅を終えたあと、川原の開けた場所を見つけて、昼食の休憩をとる。
こころさんもヴィネフもストーンカとの邂逅で精神的に少し参っているように見えたので、干し肉と採取したきのこでスープを作って、少しゆっくりすることにした。
固くなったパンをスープに浸しながら食べる。
これだけ水に困らないなら、麦か蕎麦をそのまま持ってきて粥にしても良いな。
その方が保つし。
「もっといろいろと聞いてみたかったんだけどな。」
「いや、おかしいッス。魔物と話そうとするなんて、アニキだけッス。」
「そうなのか?」
「うん。」
こころさんまで同意している。
「別に敵意も無かったし。こころさん、故郷の感覚なら、そんな感じじゃない?」
「うん?敵意?恐怖。何故…?」
こころさんがブツブツ言いながら、自分の世界に入っている。
「何でそんなに魔物を毛嫌いするんだ?」
「だって、魔物じゃないっすか?」
「答えになってない。まぁいいや。もう少ししたら出ようか。」
俺は残っていたスープを平らげ、片付けに入った。
歩き始めたところで、こころさんが話しかけてくる。
「裕紀。魔物への敵意。不自然。」
「不自然って何が?」
「初めて見る魔物に一方的に敵意と恐怖を感じた。」
「うん?森であんなのに遭遇して、怖いと思わない方がおかしいよ。俺だって怖かったもん。」
「うーん。」
結局、こころさんはしばらく考え込みながら歩いていたが、何も解決しなかったようだ。
帰り道も、野犬には遭遇したものの、襲われることもなく、以降は特に何もなく無事に家に帰り着いた。




