親父は貧困孤児たちを手足にしたかったようです。
こそ泥に毛が生えた程度の子どもたちを相手にするのに、そう苦労はしなかった。
リーダーっぽい男の子は、すぐに親父に組み敷かれ、残った子どものうち、一番身体の大きかったのが俺に向かってきたが、ナイフを杖で叩き落として太腿を蹴りつけると大人しくなった。
綺麗にローキックか決まると立てなくなるものだ。
他の子供たちは、なす術なく倒された2人を見て怯えている。
「お前らに聞きたいことがあるんや。まぁ、大人しくしてたら、悪いようにはせん。」
リーダー格の男の子は親父に後ろ手に極められてる。
「くそっ。」
「とりあえず、あの毛皮を金に替えよか。ちゃんと分け前もやるがな。」
親父は男の子を立たせる。
「とりあえず、名前を聞こか。」
「ペタル。」
「お前らの住んでるトコで話をしょうか。」
「何でそんなっ!」
しかし、親父の剣幕に押され黙りこむ。
「殺す気やったら、もう何回も死んでるで。こんな人の多いところでできへん話もあるやろ。お前らの家族には手ぇは出さん。絶対や。信用せい。」
「ペタル!そんなヤツの言うことなんて聞くな!」
ほっそりとした男の子が遠巻きに言ってくる。
整った顔立ちをしているが、実に生意気そうな感じがする。
「分かった。」
ペタルと名乗った少年は諦めて了承した。
スラムの奥の半分森に入ったような場所に板が立てられただけのあばら屋とも呼べないような場所に案内される。
「この毛皮を欲しがってたっちゅうことは、買い取ってくれる店を知ってたっちゅうことやな。」
苦々しくペタルが頷く。
「そこは盗品も扱うようなところか?」
再びペタルが頷く。
ペタルの背後に複数の人の気配がする。
彼らの妹や弟がいるのだろう。
「この毛皮やったら、ちゃんとした値段やったら、それなりの価値になるはずや。それなりの分け前はやるから、しばらくワシらを泊めて欲しい。それと、この街の案内をお願いしたいんや。お前ぐらいやったら、街のこともそれなりに知っとるやろうからな。どうや?」
ペタルは迷っていた。
「まぁ、先にこの毛皮を売りに行くか。店まで案内せい。後の話はそれから、いや、飯を食うてからにしょうか。お前らどんぐらい食えてないんや?」
「3日。」
「そら、顔色も悪いわな。」
ペタルだけを伴って、俺たちは街に戻る。
スラムからそう離れていない場所にある店に案内する。
小狡そうな中年の男が積み上げられたガラクタの中から顔を覗かせている。
「ガキか。何か売れるモノでも盗ってきたか。」
「客はワシや。この毛皮を買うて欲しいんや。」
そう言って、親父は男の前に毛皮の束を置く。
毛皮はとりあえず5枚出している。
「田舎モンか。これなら、全部合わせても銀貨5枚ぐらいだな。」
「おい、ペタル。このアホ、殺してもエエか?」
凄まずサラッと親父が言う。
ペタルが血相を変えてを親父を止める。
歩きついでに物価を見て回っていたが、4人家族が一日で食べるパンで銅貨2枚ぐらい、銅貨4枚で銀貨1枚だから、さすがに馬鹿にし過ぎだろう。
「お前も欲の皮の突っ張った商人が飢えて逆上したモンに殺されて奪われるなんて話はよう聞くよな。」
さすがに、ペタルの必死で親父を止める様子を見て、店のおやじは慌てたようだ。
「い、いまのは、あいさつがわりですよ。値段は交渉して決めないといけませんから。」
「一枚あたり銀貨4枚で充分お前の儲けも出るやろ。どうや。」
「ええっと、4、質の悪いのがあれば、4枚では少し足が出ますから。」
「何でワシが4枚って言うたか、意味分かってるよなぁ?今後も取引さしたろか思うてたんやけど…」
親父の薄笑いを浮かべる目が怖い。
焦って男が叫びだす。
「一枚あたり、銀貨5枚で買い取らさせてくださいっ!」
親父の見込みでは、市価で銀貨12 枚、中間の流通を考えれば、銀貨5枚が適正な価格だろうとの予想だった。
俺達にも聞こえにくいよう、小声でおっさんに話しかける。
「4枚で構わん。その代わり、これから話をする手数料にしといて欲しいんや。ちょっと奥で話しよか。」
「え、ええ。」
「ちょっと奥で2人で話するから、お前らは出とけ。」
しばらくして、親父が出てきてから、ねぐらに戻る。
既に日が沈みかけているため、城壁の外まで早足で歩いていた。
「これで、食いもん買って来い。お前らと待ってるガキどもの分もや。体調考えると粥がエエわ。釣りは要らんから買うて来い。」
そう言って、銀貨1枚をペタルに渡した。
そういや、金貨ってのもあったよな。
物価や貨幣については、これから勉強が必要だな。
夕餉は塩漬けの豚肉が入った雑穀粥だ。
こう書くと一端の料理っぽく聞こえるが、塩漬けの豚肉にネギかライ麦やよく分からない雑穀を壺にぶち込んで炊いただけのものである。
年長の女の子が料理をし始めると、隠れていた子どもたちも姿を現し始める。
親父の促すような視線を感じ、俺は話し始める。
「俺は裕紀。君らは?」
6人の子どもたち。
下は5・6歳の少女だ。
年長は親父に捕まっていたペタルとかいう男の子だろう。
この塩漬けされた豚も傷みかけを通り越して不快な臭いを発しており、はっきり言って美味いとは言えない代物であるが、子供たちは喜んでいた。
これまた、汚い木の器によそわれて、一緒に食べている。
こんな物で本心から喜んでいるこの子たちに水を差すのも躊躇われる。
なんとか息を止めて器のモノを平らげることができた。
「さっき、出かける前に言うてた話やけど、受けるか?」
「うん。」
俺たちは、子供たちの近くで毛布に包まって寝ることにした。
翌朝、ペタルを連れて街を回る。
店を持った商店は以外に少なく、そういった店は値の張るものばかりが並べられている。
商店は露店は認められておらず、市場のようなところで場所代を払わないといけないらしい。
しかし、その市場に店を出すのも、同職ギルドに加盟していないといけないらしく、ぽっと出でで店を出すのは不可能らしい。
こういった市はこのトリキアには2か所あり、城を中心に東西にそれぞれあり、スラム街はトリキアの東側の城壁外にあたる。
この東側の市には、川が流れており、そこに屠殺場があるため、精肉を中心に食品の販売が盛んらしい。
逆に、西側の市には鉄鋼を始めとした工業製品が多いとのことだ。
この市から北側、城に近いところに歓楽街がある。
歓楽街なのだが、基本的に宿屋が並んでいるところではある。
トリキアでは、飲食店というものが存在しない。
飲食も、博打も、売春もこれらは宿屋で行われるのだ。
トリキアは城を中心として3重の城壁に取り囲まれており、はじめの城壁までは、平民でも出入りや宿への宿泊が可能となっている。
そして、さらにその城壁の辺りから外側に向けて、夜は立ちん坊が並ぶことになるということだった。




