少しこころさんの過去の事を聞きました。
「と、そういう事なんだ。」
食後にこころさんと2人で事務所で話をしていた。
これまでの俺の来歴を簡単にこころさんに説明したのだ。
システムの存在や、俺たちがシステムの適用を受けないことは隠し、親父を兄と偽ってはいたが。
それと、親父の周辺のこと、特に魔族のことは話していない。
「裕紀。巻き込まれて大変だった。」
「こころさんの方が記憶まで無くして、大変だったでしょ。」
「仲間に助けられてばかり。何もできなかった。」
今度はこころさんがこれまでの話をしてくれた。
こころさんのいたパーティーは魔族の襲来で仲違いの末、1人減り、その魔族との交戦で男の子は光を失ったらしい。
こころさんはいたたまれなくなり、パーティーを抜けたということだ。
その男の子は最後に残った女の子とともにレベルアップをして、失った視覚に代わるスキルを得ようとしているらしい。
こころさんの話で今まで大雑把にしか知らなかった『使徒』についても知ることができた。
彼らは魔族、または稀に発生する魔王とやらを倒すために、俺たちの世界から12年に一度、大陸一帯で最も信仰されているルース教の中枢、サンモルテル大聖堂に召喚される。
彼らは召喚時にほとんどの記憶を失ってしまうものの、一部の記憶を取り戻す者もいるらしい。
召喚された使徒には、使徒しか使えない特殊なスキルと強力なジョブが与えられるらしい。
そして、その使徒たちは3つのパーティーに分けられ、パンティア王国、ガルディア帝国、そしてカレン連合王国に引き取られるとのことだ。
強力なジョブとスキルを与えられた使徒は軍事力ともなり得るため、王族や中枢で囲われることとなる。
ただし、カレン連合王国は海洋国家であることもあり、陸戦が主となるジョブやスキルに魅力を感じないのと、以前に召喚された使徒がその持ってきた知識と技術により、既存のギルドとの軋轢を生んでしまったのもあり、すぐに放逐されるとのことだった。
カレン連合王国行きの使徒って、貧乏くじじゃん。
それに、放逐されちゃうと、必死に稼ぐ方法を考えるだろうから、余計に対立しちゃうという悪循環じゃないの?
もしかして、自国の技術力を上げるために狙ってやってたりして。
ランプの灯りが消えそうに揺らめき始めた。
ラードを使った獣脂の燭台だ。
「脂を取ってくるよ。」
「ん。」
燭台を手に持ち、部屋を出る。
ラードの灼ける臭いが強い。
そもそも蝋なんて高級品であるうえに、特に寒い気候のこの辺りでは、手に入らないし、植物油も似たようなものだ。
まぁ、貴族になると、魔石を使ったランプなんてのもあって、明るいし臭いもしないらしいけど、魔石のランニングコストは馬鹿にならない。
ランプ一つで月に金貨1枚ぐらいかかるらしい。
庶民の灯りは専ら獣脂、特に手に入りやすいラードである。
しかし、ラードは低所得者の重要なカロリー源であり、革製品の加工にも用いられる。
あと、ウチの売りは皮付きで出荷するため、出る量が少ないのもあって、安価とはいえ、生産者の俺でも自由にできる量には制限がある。
本当は気兼ねなく揚げ物に使いたいんだけど、それも今は難しいんだよね。
ラードを補充して再び事務所に戻る。
「灯り、勿体無い。」
「え?」
「続きは明日。」
「うん。そうしよう。部屋まで送ってくよ。」
朝イチに集合し、ヴィネフとこころさんで狩人に水場や探索できそうな場所を聞きに行くように伝える。
俺は親父の店に向かった
「とまぁ、とりあえず報告だけ。」
肉屋の近況とともに、こころさんから聞いた話を親父に伝えた。
「やっぱり、あの子が盲目の男の子の元パーティやったんか。」
「親父はこころさんの事を知ってるのか?」
「いや、昔のパーティーのメンバーに会うたことあるだけやわ。」
親父からは人を喰う魔族を殺したこと、盲目になった男の子と話をしたことを聞く。
「その魔族って、元人間の転生者だったんだろ?」
「せや。」
「いや、何でもない。」
元の世界からの転生者とはいえ、一時の感情だけでどうだこうだ言うのは間違っているような気がした。
こころさんたちも彼に殺されそうになっていたらしいし。
ここで元の世界の倫理を持ち出すのは間違ってるのかも知れない。
「彼が死んだのは、伝えていても良いかな?」
「んー、そやな。別に支障もないな。」
「ああ、それと硝石を分けてほしいんだ。火薬作ってるよな。」
「何でそない思うんや。」
「お父さんならやってるだろ。」
「人を何やと思うてるねん。」
「魔法があって、スキルやステータスが強化される世界で人を超える魔族と対峙することを選んだんだ。戦う手段は準備してるだろ。火薬を。」
「まぁ、多少はな。」
「ソルトピーター。ハムやソーセージの添加物だよ。岩塩と併用して使う。」
「保存か?」
「だけじゃなくて、発色と風味も変わる。元の世界のハムみたいに。」
「ほう、食品添加物か。」
珍しく親父が知らなかったみたいだ。
ちょっと勝った感じだ。
「なるほどな。添加物に使うぐらいなら、そんなに量は要らんな。」
「ああ。」
「せやけど…」
「ああ。出処は秘密にしとくよ。」
「ほな、ナンボか都合つけとくわ。」
「ありがとう。」
「それと、ホンマに信用できるか分かるまで、ワシは会わん方がエエから、適当に誤魔化しとけよ。」
「分かったよ。」
「それと、ホンマにその子が信用できるんか、ちゃんと見ときや。」
「ああ。分かったよ。」




