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せっかく異世界に来たんですから、少しぐらい冒険させてください。

 事務所に戻る頃には、昼を過ぎていた。

「ただいま。」

 マーリヤに声をかける。

「おかえりなさい、ユーキ。ココロを放ったらかしにして、何処に行ってたんですか?」

「べセリンさんのところ。」

「ちゃんと何処に行くか言いました?空いた時間どうしたら良いとかちゃんと指示してあげましたか?」

 あれ、怒られてる?

「ごめん。あ、連れてけば良かったな。」

「だ、そうですよ。」

 こころさんがマーリヤの後から出てくる。

 いや、14歳と21歳の立場が逆でしょ。

「ゴメン。もう要らなくなったか心配だった。」

 ナニ?この状況?

 14歳の女の子の庇護欲掻き立てるなよ。

「まだ、手伝ってもらいたい事も山ほどあるし、契約の一年の雇用期間は保証するから、安心して。」

「ん。」

「それと、今日の事とこれからの事業の話をしたいから、夕食後に時間をとってくれる?」

「ん。」

「マーリヤ、みんなにも声をかけといて。」

「はい。ボリスは?」

「今回はいい。」

 ふと、こころさんの方を見てみる。

 その後でニヤニヤしてるヴィネフが腹立つな。

 傍から見ればこころさんが俺にべったりに見えるんだろうけど、マーリヤにも大概だぞ。

 甘え上手というか、何というか。



 今日はヴィネフも招いたフルメンバーだ。

「アニキ、ボリスが来ないんだったら、別に食後でなくても良いんじゃないか?」

「込み入った話だからな。食後に茶でもしながらの方が良い。」

「ああ。」

 食事が終わり、マーリヤが皆の茶を淹れてくれる。

 『茶』とはいっても茶葉なんて目が飛び出るような高級品ではない。

 いわゆるハーブティーで、ローズヒップを主にして何種かのハーブがブレンドされたものである。

 食事と肉以外に使う物に興味が無いので、詳しくは分からない。

 この辺りはバラが特産でローズエッセンスが重要な交易品になっている。

 まだ、圧搾がメインで今のところ蒸留などでのオイル抽出とかはしていないみたいだ。

 その辺りも興味が薄いので、かなり曖昧だけど。

 とりあえず、そのバラの花のお溢れなので、比較的安価で手に入るらしい。

「さて、話をするか。」

 全員が俺の方を見る。

「こころさんの持ってきた発煙筒。これが肉の保存期間を延ばすための薬になるんだよ。」

 全員に硝酸カリウム、亜硝酸の働き、べセリンさんと協力して亜硝酸成分の多い岩塩を探すことを説明する。

「そのうえで、これからの戦略だ。シンプルな味はべセリン、ハーブを使ったものはウチ。市場開放を目指すのなら、統一するより幅を広げることが必要だ。」

「で、その硝石とやらをどうやって隠すか、ボリスにどこまで黙っておくかだよな。」

 サムイルだ。

 今年で13歳になったが、まだかなり体の線が細い。

 顔だけでなく体型まで含めても女の子にしか見えない見た目だが、見た目と違い負けん気が強い。

 女の子にしか見えない外見も有効に利用している節がみられる。

 しかも、色々と気も頭も回る。

 もう充分ウチを支えてくれている人材だ。

「逆だ。硝石は広める。それで救われる命もあるだろう。」

「本気で広めたいなら、領主の成果にでもして、一気に広めるか?」

「そうだな。うちの名を広めて困ることは…」

 そういや、親父が俺らがイクサスシステムが適用されてない事がバレると拙いとか言ってたよな。

「俺ら兄弟の名が出るのはちょっと拙いけど、ペタルがこの店の代表なら問題無いか。」

「え?俺?」

「まぁ、元々定期便の事業を企画したときから決めてたんだけど、こっちはペタルに仕切らせる積もりだったしな。まずは、商品を作って、販売実績を上げてからの話だから、随分と先の話になる。」

 ペタルがしぶしぶ納得する顔をする。

 まだ、店を仕切るだけの自信が無いんだろうな。

 独りじゃないから、心配しなくても良いと思うんだけど。

「そして、ハーブの力で更に保存期間を延ばした商品で、べセリンさんとこと差別化をしていくことを目指す。こっちの方はウチの独占だ。まだそのハーブを探すのは今からだけどな。それと、味に問題なければ、精肉にも使えるだろうしな。」

「精肉に使えるんなら、充分に探しにいく価値はあるな。」

 ペタルも賛成してくれるみだいだ。

「まぁ、何となく見えてきたよ。そんで、俺の仕事はユーキ兄が店を外すことも多くなるからそのサポートと、持ち帰ったハーブを秘匿する手段の準備ってわけか。」

 サムイルめ。

「まぁ、そのとおりだけど、喋らせろ。ハーブ探しは体力のあるヴィネフの方に頼む。問題ないな。」

「いや、そもそも何でユーキが自分で行かないといけないの?人を雇えば良いんじゃないですか?」

 マーリヤだ。

 彼女の言うことはもっともだと思う。

 経営者である俺が行く必要性は薄い。

 俺が行きたいだけだ。

 せっかくの異世界だ。

 多少は冒険してもいいじゃない。

「マーリヤの言うのももっともなんだけど、手に入ったハーブはサムイルの言うとおり秘匿したい。なら、探しに行くのは俺たちの中からじゃないとダメだ。体力的には俺かペタルが中心にしないといけないんだけど、ペタルを今外すのは得策じゃない。納得できたか?」

 マーリヤしぶしぶ頷く。

「でも、ハーブ探しは危険な旅になるかも知れないんでしょ?」

「その辺りも、考えてはいるけど。こころさんに『回復薬』を準備してもらう。」

 こころさんの雇入れの際に以前の依頼のことを少し聞いていた。

 先だってノヴェルでの騒動の際、パンティア王国軍の医療班として、回復薬を準備するために雇われていたということだった。

 一応、本人にも確認した。

「それって、金貨何十枚もするのに、作ってから、そんなに保たないだろ?大丈夫なのか?戦力も足りてないだろ。」

 ペタルだ。

 どちらかと言うと事務仕事が嫌いだし、外を見たいってのもあって、ハーブ探しに参加したいのだろう。

「卸値は金貨10枚。」

「店で買えば、何十枚になるし、売値はそんなもんだけど、材料はウチで準備するからそこまでにはならないよ。」

「あの、それで大丈夫なの?マサヤさんに手伝ってもらったりできないの?」

「マサヤって、裕紀の兄さん?」

「ああ。」

 本当は親父だが。

「ありゃ、過剰戦力だし、長期でお願いはできないからな。自分らでその力をつけるのも目的だからな。」

「過剰戦力って。どんなジョブの人なの?」

 こころさんが、突っ込んでくる。

「ジョブなんて無いよ。元々の力かな。」

 冷静に考えて、親父みたいなスキルも使えない人間が役に立つとは思えないが、アレは正直規格外だからな。

 サキだけじゃなくて、それより明らかに身体能力に優れる人狼のラファエルを従えてるんだから。

 そういえば、親父は元の世界にいた時より、イキイキしてる気がする。

 あの人は生まれてきた時代と場所を間違えたんだと思う。

 そして、本気で生きれる場所を見つけられたんだと、最近そう思う。

 もしかしたら、今まで窮屈な人生を送ってきたのかも知れない。

 俺はあの人の足枷だったのじゃないだろうか。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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