待望の『薬草師』がきました。(来たのは転移者でした)
ボリスが養子になったこともあって、新商品の販売については、慎重にすることにした。
『べセリンの肉屋』はもう身内みたいな感覚になっていた。
無理な商品の販売はしないことにしたが、開発はべセリンさんの協力も得て、加速している。
実は生ハム自体はこの世界にもあった事が分かった。
この辺りでは食肉といえば、羊肉が主流であることもあって、全く知られていなかったので、無いものと勘違いしていた。
パンティア王国の南西部でほそぼそと作られているだけらしい。
しかも、このトリキア領はパンティア王国の北東の飛地のような場所で、そこからなら、ガルディア帝国の方が近いぐらい離れていることもあるだろう。
辛うじてべセリンさんだけが噂で知っていたぐらいだった。
今日は冷燻まで済ませたものを、俺の蔵で熟成させるために、べセリンさんとボリスが運び入れに来ていた。
「おい、ユーキ。もうすぐ、頼んでいた薬草師が来るらしいな。」
「はい。来週にはこちらに着くらしいです。」
「生ハムは薬草師を待たなくて大丈夫だったのか?」
「ええ、基本的には塩と冷燻だけで充分だと思います。それに、できる限り気温の低い間に仕込んでおきたいですし。」
「となると、薬草を使うのはハムとソーセージか。」
「そうです。味と保存期間の抜本的な改善が目的ですから。」
こんな話をしていたのは、『薬草師』というジョブがあると聞いたため、パンティア王国内で探してみたものの見つけることができなかった。
カレン連合王国には、冒険者ギルドというものがあるらしく、ペタルとアンナの兄妹を遣り、食品の保存期間を延ばす薬草類の探索と栽培を一年の期限で雇用するという依頼を出しに行ってもらったのだ。
ギルドの職員の話では数名の『薬草師』がおり、協力できる人材を連れて来ると依頼を受けてくれた。
先日、冒険者ギルドの職員から依頼を受けてくれる『薬草師』があと一週間でこちらに着くと先週に連絡があったのだ。
生ハムの仕込みまでは、毎日のようにべセリンのところに入り浸っていたが、最近は街の事務所兼自宅でペタルの面倒をみている事が多かった。
その事務所に一人の女が俺を訪ねてきたと連絡を受け応接間で待つことにした。
「『薬草師』募集の依頼できた。カレン王国の冒険者ギルドの。」
事務所の応接間に入って挨拶をしたのは、黒髪の小柄な女だった。
若くは見えるが、20歳そこそこといったところか。
容姿の方は…
彼女の目は大きく見開かれていた。
俺も同じだったろう。
「うそっ!?日本人?」
彼女の口から発せられたのは、日本語だった。
いや、部屋に入って来たときにかけられた言葉も日本語だったぞ。
まさか、こんな事が起こるとは思わなかったぞ。
ここで日本人だとバレるのは拙いんだろうか。
だいたい、親父が事情を教えてくれてないから、どう対応したら良いのか分からん。
親父のこともあるし、どうしよう?
そもそも、どこから来たんだ、この人は?
このパンティア王国には、神の使徒として召喚された日本人がいると聞いたことがあるが、彼らは王室付けでレベル上げに奔走しているらしいが。
確か頼んだのはカレン連合王国の冒険者ギルドだったよな。
ヤバい10秒以上固まってたな、俺。
適当に誤魔化してみるか?
いや、この顔で日本人じゃないなんてバレバレじゃないか。
「あの、日本人ですか?」
再び彼女が口を開く。
「あ、はい。」
あれ?
俺、今、肯定、した?
いや、日本語に関しては、ボロが出るだろうから、そこは肯定しといて良しとしておこう。
「まさかこんな所で日本人と出会えるとは思わなかったんで、びっくりしてしまいました。」
「びっくりし過ぎ。」
「あと、依頼の話とどっちを優先しようかと思って…」
「とりあえず、依頼の話。まとまれば時間はある。」
「ああ、そうですよね。」
クールと言うのだろうか、掴みどころがない感じではあるが、嫌いなタイプでもない。
「では、改めて自己紹介しますね。芦屋裕紀です。この肉屋の主人です。」
「こころ。ジョブは『薬草師』。」
言葉少ないなぁ。
人と喋るの苦手なのかな?
とりあえず、仕事の概要や期間を説明していく。
契約期間は一年程度で双方の合意があれば、延長は可能と募集時からは変更はない。
肉の保存に使用可能な香草等の情報の提供とともに、栽培方法を教えるというのが主な内容である。
成果の有無に関わらず、住み込みで月に金貨3枚の報酬で朝・昼・夜の食事付きだと説明する。
ウチの住居兼事務所はスラムの中にあるものの、改修してそれなりの建物にはなっていると思うし、額面では衛兵隊長には及ばないな、生活費抜きとなるから、金貨3枚の報酬はかなりの高級取りだ。
「聞いてたとおり。大丈夫。」
まぁ、募集条件のとおりだし。
「領主から許可は?」
「トリキア領じゃ、近郊の管理森林以外は狩猟も採取も自由だよ。魔境に面してて、境界が曖昧なのもあるかな。」
「そう。」
領主の管理する場所も確かに広いとは言っても、魔境まで比較にならないレベルの深い森が広がっている。
街道に近い部分から国の内部に向かう部分は管理が厳しいけど、魔境境界は自由だ。
ただし、魔物が出る危険もあるけど。
「森に採取に行く。護衛の費用は?」
「なるほど、それは忘れてたよ。この辺りだとゴブリンぐらいしか出ないし、俺で良いかな?足りなきゃウチの従業員も連れていくけど。」
「私が負担しなければ何でも良い。」
まぁ、最初から自分が行く積もりだったんだけど。
「じゃ、依頼の条件確認は大丈夫だよね。部屋を案内させるよ。マーリヤ、こころさんを部屋に案内してあげて。」
女の子に案内させた方が何かと良いだろう。
ペタルとアンナそれにアガタ、サムイルとマーリヤはそれぞれ同じ部屋で住んでいるため、まだ二部屋余っている。
「あっ。言葉は通じないよね。」
カレン連合王国とここパンティア王国とでは、似てはいるものの異なる言語である。
ルース神聖国を中心に使われている『メフト語』が公用語であり、この言語を各地方で取り込んだ結果、各言語が生まれたのではないだろうか?
ちなみに、文字はメフト文字がこの大陸全土で使用されており、公文書は基本的にメフト語であるらしい。
「大丈夫。スキルかある。」
「え?通訳スキルみたいなの?」
「うん。カレンでもパンティアでも普通に通じた。」
「そうか、便利だなぁ。」
「ちゃんと覚えた裕紀くんの方がエラい。」
「そ、そうかなぁ?」
いや、何で褒められてるの、俺。
しかも、くん付け?
まぁ、こころさんの方が年上っぽいけど、女性に歳は聞けないなぁ。
後でマーリヤかアンナから聞いてもらうようにしよう。




