親父に異世界での目的を改めて聞いてみました。
イヴァイロの事件のおかげか、親父の徒党は落ち着いているようで、あの後、徒党はすぐに落ち着きを取り戻していた。
金貸しはフロントと裏とを分けて別の人間に仕切らせることにしたようだ。
イヴァイロの件で絡んでいた西側の徒党の人間を捕まえて脅しをかけた結果、完全に対立しているらしい。
野次馬に個人の強さ、精鋭部隊の連携や情報戦を見せつけ街では親父の噂で持ち切りだったが、何故か名前は伏せられていた。
親父曰く、親父が居なくなった後でも、後継者が苦労しないためらしい。
外出時は四六時中フードまで被っているマントの色、こちらに来てからなったロマンスグレーの髪と芦屋姓の発音のしにくさからカレンでは『灰の人』と呼ばれ、何故かこちらに戻って来てもそう呼ばれている。
しかし、親父があそこまで冷徹に人を殺すことが出来るとは思ってはいなかった。
親父の作った組織はそういうところだ。
必要だったのだろう。
それは理解できる。
理解はできるものの感情では納得できていない。
少し親父が怖くなっていた。
この世界に来た目的を果たすためだけでなく、合理的な判断で人を殺すことができる親父が怖かった。
海を渡った島国のカレン連合王国に向かうとのことで、暫く顔を合わせなくてよくなったので、少しだけ気が楽だった。
2か月ぶりに親父が帰ってきたが、その途端、引く手あまたで不在にすることが多かった。
もう、この世界に来て一年半以上経つが、親父からはまだこの世界に来た理由を聞いていない。
この2か月の間、親父の事を考えていたが、俺も覚悟を持って親父から理由を聞こうと腹を決め、親父の店に向かった。
「今朝まではウェンズ伯爵夫人の別宅の警備です。」
俺が着いた時には、親父は不在だったが、すぐに戻る予定だということで、ヴォイシルとサキが迎え入れてくれた。
ウェンズ伯爵夫人は俺とも繋がりがある。
以前、闇市で俺を恫喝しやがった豪商アリプロフの出入りしていた貴族のひとつだ。
彼の伝手で知り合った彼女の家は、随分と懇意にしてくれたので、皮付き豚のレシピを幾つか教えたのだ。
因みに彼女のお気に入りは、皮付きバラの香草蒸しだった。
塩漬けにして熟成させてから、下茹でし、香草とともに蒸すという手順を踏むことで、プルプルになった皮まで美味しくいただける逸品で、こちらに来てから作り始めた品だ。
あまりにも手間と時間がかかりすぎるので、他には教えていないし、作ったのも数回ではある。
親父のところでは、よく若い衆にご馳走を振る舞う。
俺もたまに手伝いにいくが、そこで作っていたメニューの一つだ。
親父は何度か彼女に作ってあげてたようで、作り方を教えて欲しいと請われたのだ。
「警備って何だよ。」
「聞いてないのですよね?」
ヴォイシルが気まずそうに聞き返してくる。
サキに顔を向けてみると、目を逸らした。
「いや、俺だってもうすぐ18にもなるんだから、二人とも気を使わなくて良いよ。」
まぁ、お母さんももういないし、不義をしてるって訳でもないから、気にしないでおこう。
そうこうしている間に親父が戻ってきた。
「ボス。ユーキ様に警備業務の説明をしていなかったのですか?」
「ああ。もうエエ大人やねんから、聞かれたら言うたったらええんやけどな。」
呆れた顔でヴォイシルが席を外そうとする。
「ほんで、裕紀。どないしたんや。」
「どないしたもこないしたも無いけど、ちゃんと話して欲しい。この間はカレン連合王国に行ってたんだよな。この世界で成そうとしていること、もう、教えてくれても良い頃じゃないのか?」
「まだやな。もしかしたら事を成すまでお前に話が出来んかも知れん。」
「サキさんとラファエルさんにはもう話してるんだろ?」
「この子らは当事者やからな。」
「俺は部外者って言うのかよ。」
「せや。お前は正真正銘、間違えてここに来ただけやろ。」
親父の即答に思わず言葉が詰まる。
確かに俺は部外者になるのだろうけど。
「残念やけどまだ教えられん。」
「理由は?!」
「まぁ、お前の気持ちも分からいでもないけどな。」
「何でそうはぐらかすんだよ。」
「この話は終わりや。分かったな?」
親父の目に力が籠もる。
「裕紀、昌也さんの気持ちも汲んであげて。自分のこどもに手を汚して欲しいな…」
「サキ。要らんコト言わんでエエねん。」
親父はサキの言葉を遮った。
「昌也さん…」
「一体何を抱え込んでるんだよ。」
「今日はもう帰れ。」
ラファエルが出口までついてきてくれていた。
「昌也さんの言い方も悪いけど、その判断は間違ってないと思う。」
「親父は何をしようとしてるんですか?」
「それは言えない。元の世界に居た頃とは違ってるところはあるだろうけど、それでも、昌也さんを信じてあげて欲しい。」
信じてもらってないのはこっちだと思ってたのに、ラファエルさんもサキさんも親父の肩を持ちやがった。
まぁ、あの2人にああまで言われたら、俺も引くしかないし、俺を思ってくれているのも本当なんだろうな。
基本的に過保護だし。
釈然としないけど。
商売の方は、闇市で試験的に販売していたクリスピーローストポークが人気を博し街で売って欲しいと言われていた。
皮付きの肉を売るため、幾つかのレシピを教えながら肉を卸していたのだが、クリスピーローストポークは意外と難しかったらしく、出す店はほとんどなかったのだ。
目新しい食感、ジューシーさは今までに無いと評判になった。
この為にわざわざ炭を焼き、窯を作った甲斐があったというものだ。
新たな事業展開のチャンスだろうと思い、ハムやソーセージを販売していた商会を乗っ取ることにした。
現在の技術を確認するとともに、設備も手に入れることができる。
『べセリンの肉屋』は豚肉ギルドに加盟している肉屋の一つで、べセリンとその妻ニーナの2人で切り盛りしている店で、ハムやソーセージの加工を得意としている。
意外にも肉屋の女将さんであるニーナさんは肝っ玉母さんといったタイプではなく、すらっとした大人しそうな美人だ。
俺はそこにボリスを学ばせに遣った。
まずは、弟子としてではなく、繁忙期の手伝いという立場でだ。
夫婦には息子が二人いたが、病気で亡くし、跡取りがいなかった彼らはボリスを可愛がってくれているようで、彼も満更でもないようだ。
それに、妹のアンナもちょくちょくお邪魔しているようだ。
気が付くと、最近は剣などの稽古の興味が薄れてきているみたいで、どちらかと言うと、嬉しい誤算だろう。
孤児の彼らには、危険な事には手を出さず、手に職を付けて、平和に幸せになって欲しい。
そう思うと、親父も俺に同じような事を思っているんだろうな。




