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親父が本気で怖いヒトになりました。

 もう、真夏といった季節だが、日本と違って乾燥しているのもあるのか、まだ過ごしやすい。

 ただ、冷蔵庫が無いため、品質管理にはかなり気を使わないといけない。

 今は、気化熱を利用して蔵を冷やせないかなんとか考えてみているところである。

 昔にネットのニュースか何かで漆喰に水を含ませて冷やすってのを聞いたことがあったからだ。

 まぁ、地面を掘るだけでも随分と違うので、コストも含めて検討中だ。

 そんな中、親父が珍しく事前に声をかけて店にやってきた。

 また珍しく武装しており、腰の左右に短剣を佩いている。

 それよりも目を引いたのが白髪である。

 こちらの世界に来るまでは白髪なんて目立つほどはなかったのだが、最近、どんどんと白髪が増え、一年ぐらいでロマンスグレーと呼んでいいぐらいになっていた。

「なんか、白髪も落ち着いて綺麗に見えてきたな。」

「まぁな。年相応か。それよりもすまんな。面倒に巻き込んでもうてな。」

 先触れに来たヴォイシルから事情は聞いている。

 親父の下にいたイヴァイロがゴロツキをまとめており、用心棒と賭場を任されているが最近、素行の悪さが目に余り、親父に責められて反発しているとは聞いていた。

 みかじめ料の取り立ての素行が悪ければ、評判が悪くなるから、少し心配だったのだ。

 街の西側の組織と繋がりを持ち始めたらしく、親父を排除すれば、東側のボスにでも認めてやるとでも言われたのだろうか、親父を狙うという情報が入ったのだ。

 それで襲撃を誘い出すために、先触れを出して俺の所に来たと言う訳だ。

「たった一年でそんな事をしないといけないぐらい組織が大きくなってるとはね。」

「まぁな。」

「親父。そう言えば、闇市と売春が合法化されるんだってな。」

「ああ。ワシがけしかけたんや。フリズア侯爵主導の制度改革っちゅうことになってる。」

 テオドルとフリズア侯爵家との縁談は、売春と闇市の合法化及びそれにかかる課税について、フリズア侯爵の手柄として発案、実施することとの引き換えであった訳だ。

「そういや、闇市はどうやって課税するんだよ。」

「場所代から天引きや。まだ、売り上げに対する課税なんて制度は無理やろうからな。」

「売春宿にも税金がかかるようになるけど、運営は大丈夫なの?」

「別にその程度のことでどないもならん。女性保護の名目も合わせて取り締まりが強化されるから、準備してなかったところは、色々と厳しいやろうな。正々堂々と商売できるようになるし、多少の税金取られてもメリットの方が大きいんやわ。」

 それに侯爵家とのコネクションは非常に大きい。

「でも、反対する人間もいるんじゃないの?」

「売春もワシのところが一番大所帯やから、小さい所はだいぶ潰れるやろうな。」

「大きいところは?」

「侯爵家相手にどうこうする奴はおらんわな。街の混乱はそんなに起こらんやろ。」

「それで、西側の奴はイヴァイロを唆してけしかけてくるぐらいしかできない訳だ。」

「まぁ、向こうさんにしたら、ウチの勢力を削りたいのもあるやろうしな。」

「で、元々素直に従わなかったまとめ役のイヴァイロを片付けて、逆らう者への見せしめにもすると。」

「まぁ、そんなところやな。そろそろ店におる従業員は奥に避難させといた方がええやろな。」

「ペタル!」

 俺が大声で呼ぶと、扉の向こうから声だけがする。

 事務所の扉を開けると、ペタルがソーセージを煮るための大釜を親父の部下らしい男と運んでいた。

「もう来たのかよ。」

「ユーキ、襲撃はヴォイシルから聞いている。」

「いやぁ、それは死人が出るんじゃないの?」

「何を甘い事を。向こうは殺す気だぞ。」

「ああ。切り替えるよ。皆を守るのも俺の仕事だからな。」

 親父が急ぐでもなく事務所から出てくる。

「お。沸湯か。ありがたく使わしてもらうわ。ペタル、他の従業員は倉庫の方に隠れるように言うてくれ。」

「俺以外はもう隠れている。」

 ペタルが返す。

「すまんな。こんな事に付き合わせてもうてな。後はワシらで片付けるさかい、お前らは皆と一緒に倉庫で待っとき。」

 無駄に優しい声で俺たちに言う。

「よっしゃ。ストヤンらは一緒に、上から湯を頼む。仕掛けるタイミングは任せる。ヴォイシルは情報を。」

「了解!」

 ペタルは剣を携え、倉庫に向かったが、俺はその場に留まった。

 親父は何も言わず、俺に背を向け入り口へ向かう。

 ヴォイシルが戻って来るのは早かった。

 二言三言、言葉を交わすとドアの前で待機する。


 ここは事務所がメインであるため、構造は民家と変わりない。

 厚めのドアを開け、事務所を取り囲む集団に対峙した。

 剣を抜いているのが10人ほど、後で親父にボウガンを向けているのが5人ほど見える。

 いや、左手にガントレットだけ着けている。

 既に10メートルほど間隔を空けて野次馬が群がっている。

 娯楽の少ないこの街ではいいイベントなんだろう。

「おう、イヴァイロ。何しに来たんや。」

「いっつもどっかにフラフラしてる癖にくだらねぇ指図ばっかりしやがって。そんなに俺が儲けるのが嫌だったのかよ。」

 そう言えば、素行や無理な借金の取り立ての噂がありイヴァイロの徒党は評判が悪かった。

「お前のために注意したったんやけどな。ワシに刃を向けたっちゅうことは、覚悟はできてるんやろうな。」

「覚悟するのはてめえだよ!」

 イヴァイロが手を挙げ、合図をすると親父は一旦、扉の内側まで下がると、扉に矢が突き立つ音がする。

 剣を持った男たちが扉に殺到した瞬間、二階の窓から熱湯が浴びせられた男たちの絶叫が聞こえた。

 親父に続いて外に出ると、熱湯を浴びて呻く男たちが転がっており、ボウガンを持った男たちは後から親父の部下に射抜かれて全員倒れていた。

「お前は自分の店を守っとけ。ワシの仕事には口と手ぇは出すなよ。」

 そう言って、イヴァイロに向かって歩を進める。

「ジュール、鼠は捕まえたか。」

「はい!」

 増え続ける野次馬の中から親父の部下の返事が聞こえる。

 にじり寄るイヴァイロの部下たちに反応するように、一瞬、親父は左側の腰に手をやり、短剣の柄を握るが、すぐに手を離して馬鹿馬鹿しいとでも言うように軽く手を挙げる。

「てめぇ!」

 まだイヴァイロの横に残っていた二人がけしかけられて突っ込んでくるが、歩く速度を急に緩められて虚を突かれ、男たちは親父の前の地面を叩く。

 二人が接近しすぎていたため、振りかざすしかできなかったのだろう。

 左側にいる男の顔を右手で引っ掛けるようにして、右側の男の方に引き倒す。

 親父は容赦なく下敷きになった男の頭を踏み抜いていた。

 その親父に向かってイヴァイロが斬りかかるが、親父は倒した男の首根っこを掴んで、盾にする。

「ひぃぃぃっ!ひぎゃっ!」

 情けない声とともに、首根っこを掴まれた男から鮮血が迸る。

 体を入れ替え、イヴァイロが振り下ろした剣を上げさせないよう手首を押さえ、間に挟まれた男を跨ぐように膝を踏み降ろす。

「ぐぎゃぁぁ!」

 激痛に剣を取り落とし、膝をつこうとするイヴァイロの右手を変な方向へ捻り上げる。

「ごめんなさい…許じ、許じでっ!」

 親父は冷たい目で手を離して地面に転がるイヴァイロを見下ろす。

「もう遅い。」

 地面をのたうち回るイヴァイロの顔をボールのように蹴り飛ばす。

「ひぃぃ!つい、でき…」

 親父は言葉を遮り、その頭を踏み抜いた。

 あまりの光景に野次馬も凍りついている。

 その間にヴォイシルが湯を浴びてのたうち回っていた男たちに止めを刺してゆく。

 正に皆殺しだった。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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