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身中の虫

 街の襲撃からまだ1か月も経っていないだろうが、既に奪ってきた食料は明らかに目減りしており、狩猟などの平常生活に戻り始めていた。

 出産で増えるだけでなく、近隣の群れを併呑していったのもあり、既に俺の群れは300を軽く超えているだろう。

「そろそろ奪ってきた食料も尽きた頃だろう。」

「はっ。お見込みのとおり。もう近くの獲物も狩り尽くすのも時間の問題かと。」

「だろうな。」

「そういえば、街に潜ませた女は戻ってきているのか?」

「はっ。定期的に帰還し、街の動向を報告しています。」

「そうか。で、あの街は攻められそうか?」

「我々の襲撃から警戒態勢を解いておらず、また周辺の貴族領からもいくばくかの戦力が集まってきております。」

 勝てそうなだけ戦力が集まるまでは、周辺の村を襲って回るのが得策か。

「お前のように兵の強化・進化はできるか?」

「なかなか難しいでしょうが、やってみましょう。」

「攫ってきた女の減りはどうだ。」

「まだ、一月も経っておりませんので、まだ3匹ぐらいしか減っておりません。」

「そうか。」

「そういえば、あのアルラウネはまだ生きているのか?」

「ええ。人間よりは強いのですが、それももう時間の問題でしょう。」

 街で攫ってきた娼婦の中に、アルラウネ、魔物の女が含まれていた。

 最近覚えた『鑑定』スキルで鑑定したところ、俺と同じ『魔王の胤』というスキルを持っていることに気付いたのだ。

 『消化液』や『麻痺毒』、『誘引香』のスキルに混じり、何故か『剣術』や『斧術』等のスキルがあった。

 これはこの女の持つ『スキルイーター』というスキルのせいだろう。

 恐らく喰らった相手のスキルを手に入れる効果があるのだろう。

 ただ、その女自体、精神を病んでおり、既にまともな受け答えができる状態ではなかったし、誰かを害するような気概も無いだろう。

 もしかすると、自分と同じ転生者かと思って期待していたのだ。

 若干小さい体ではあるが、見た目も良いので、ゴブリンたちにも人気があるようだ。

 まぁ、肉体だけであるが。


 街に潜ませた人間の女から、この国の地図を手に入れている。

 それを拡げながら、主要なメンバーを集めて会議をしていた。

「今はまだ戦力が足らねぇ。暫くは雌などの拠点は森の奥に移して森の外縁部にある村を襲っていくことにする。」

「デキル!ニンゲンニカテル!」

 城を攻めたがる馬鹿ばかりでまともな会議にならないとは最初から思っていたが、面倒くさい。

「勝てるわきゃねぇだろ。」

 不意に近くで魔力が高まる気配を感じる。

「何だ?」

「テキカ!?」

 かなりの数のゴブリンたちが部屋を飛出し、気配の方に向かっていくのが見える。

 拠点の外れからゴブリンたちの悲鳴が聞こえる。

 最近手に入れた総鉄製の戦斧を部屋から持ちだして、騒ぎの方へ向かう。

 かなりの重量があり、ゴブリンの中では俺しか振り回すことが出来ないシロモノであるが、その重量から生み出される破壊力はなかなかのものである。


 騒ぎの輪に着くと、俺を通すように群衆が割れる。

 そこには、能面のように表情を失ったあのアルラウネを取り込むように、無数の触手が覆っていた。

 その触手は近づく者全てに対して敵意を向ける。

 剣のようになった触手の一本は、ゴブリンを斬り捨て、槍のように伸びた触手は逃げ惑うゴブリンの背を貫き、矢のように飛ばす枝で遠くのゴブリンを射抜いてゆく。

 骸と化したものは、その根のようなものが食い散らかしていっている。

 ゆらりと何かに導かれるようにアルラウネは移動していく。

 周りのゴブリンだけでなく、俺のことすら、眼中に無いようだ。

 俺はアルラウネの正面に立つ。

「何処へ行く気だ。」

 その能面は何の反応も見せず、答えは返ってこず、その代わりに触手が俺を攻撃する。

 そのパワーは大したことはないものの、無数に見える手数が俺を圧倒していく。

 追いすがり、アルラウネに近づこうとするが、圧倒的な物量の触手が俺の接近を阻む。

 魔眼を開放するが、目の前の触手が枯れてゆくだけで、アルラウネまで届かない。

 魔眼により、供給され続ける力のため、一時間近くは戦い続けていたのかも知れない。

 日が陰った。

 どことなく勢いが落ちた気がした俺は好機を逃さないよう、一気に片をつけようとしたが、多量の消化液と今までに無かった太い触手が俺の身体を捉えた。


 気が付けば、岩だらけの荒野に転がっていた。

 左半身は爛れ、筋肉がところどころ剥き出しになっている。

 痛みと疲労で真っ直ぐ歩くことができず、ふらふらしてしまう。

 眼下にトロールの巣が見えた。

 その数は、40から50の間ぐらいはいそうだ。

 既にトロールたちはめいめいに得物を手にして、競い合うように俺に向かってきている。

「あぁぁぁ!」

 俺の口から叫びが漏れると、それに呼応するように、魔眼の力が強まった。

 基本的に俺の魔眼は意識しなくとも視界に入れた生き物の生命力を吸い取っていくものであったが、この時は、意識してトロールの生命力を吸い始めた。

 少しずつだが、気味の悪い音を立てて左半身の傷が塞がってゆく。

 先頭のトロールは魔眼の力だけで力尽きる。

 まだ、トロールたちは数百メートル先にいるが、バタバタと先頭から倒れてゆく。

 俺からトロールの群れに近づいてゆき、落ちていた棍棒を拾って振り回す。

 俺で2mぐらい、トロールは3mほどであるが、俺は軽々とトロールたちを吹き飛ばしてゆく。


 喰うんだ!

 喰って力を付けるんだ!

 本能なのか、魔眼のせいなのか、俺の頭で響く声に従って、トロールたちをその魔眼でその魂を喰い尽くす。

 残る肉体も飢えを満たすために貪り喰う。

 俺の足は自然に、遠くに見えた砦に向かっていた。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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