魔眼
ゴブリンとは違い、岩場のような荒れ地を好んでトロールは集落を作る。
ゴブリンのように繁殖力がそこまで強くないこともあり、シファの産まれた集落はトロールとしては大きなものらしいのだが、全体で50体を超えない程度のものであった。
実の父である長はシファを情婦とすることを条件として、俺たちを集落に置くことになった。
かなり人間に近い容姿であるシファはゴブリンからもそうだったが、トロールからも人気があるのだ。
毎晩のように祖父はシファを抱く。
その祖父からも俺は『雑種』として罵られ、身内として振る舞うなと言われ続けた。
叔父や従兄弟達からは、一族の面汚しと言われ、毎日のように殴られ続けた。
トロールの集落に来てから3か月ほど経った頃からだろうか、祖父もシファに飽き始めたのか、次第に足が遠のいてきた。
それに従って食料をくれる頻度が少なくなってきたため、自ら狩りに出なければならなくなった。
食いでや狩りやすさの問題から、次第に鹿などから、魔獣を狩るようになった。
魔獣であれば、逃げるどころか向こうから追ってくれるため、狩りやすいのだ。
人間であった頃からすると、この身体のポテンシャルは高い。
筋力だけでなく、その他の五感も人間とは比べ物にならないぐらい優れているため、魔獣を相手にすると決めた時もそこまで怖くはなかった。
その日、初めて狼の魔獣の狩りに成功し、レベルが上がった。
《レベルが2に上がりました。》
まるでゲームのように、無感情な女の声のアナウンスが頭に響いた。
自分のステータスが確認できるか試そうと、そう思っただけで、自分の目の前にステータスウィンドウが表示された。
まさにゲームの世界だ。
スキル欄を確認すると、「弓術Lv.1」と「剣術Lv.1」そして「バニッシュ」というものがあった。
この「バニッシュ」というスキルは斬撃を高威力で放つ技らしい。
ステータスウィンドウに表示されるものを思い浮かべるだけで、その意味まで理解できる。
ただ、『魔王の胤』というスキルだけは、どういうものなのか全く分からなかった。
名前を見る限り、俺は『魔王』になれる資質があるってことだ。
『魔王の胤』自身は今のところ何の効果もないが、そのうちチートなスキルを手に入れることもできるかも知れない。
そんな事を考えながら、与えられた小屋に戻ると、トロールたちのくぐもった声が漏れ出ていた。
3体もの雄のトロールが俺たちの小屋に詰めかけていた。
特に身体の大きい、叔父たちだったから、かなり窮屈そうだった。
その一体の身体の下にシファが押さえつけられていた。
俺に気付いた一体が小屋から這い出してくる。
「ガキハ、ドッカイッテロ。」
血筋もあるのだろう、そのトロールは他のトロールよりも身体が大きく、3メートルは軽く超えている。
また、他のトロールの肌の色も赤茶けた感じよりも、濃く暗い色をしている。
俺の叔父たちだ。
ゴブリンたちは成熟が早いことと、共同子育てすることや、倫理観なんてものが存在しないこともあり、親と番になるものも多い。
トロールはそれ程でもないことと、雌が自分の子を育てること、それに血統というものを意識するため、親族内で番になる者はそう多くない。
この暴挙は俺たちを身内とは思っていないのだ。
「ドッカイケ!ザッシュ!」
俺は腰に下げている、折れて短くなった錆びた剣を抜きざま、大上段に斬りかかった。
トロール自体、その身体は強く硬いが、目の前の男はそれを上回る。
一撃では深手を負わせられなかったものの、膝をついて下がった首筋に「バッシュ」を叩き込んだ。
《レベルが3に上がりました。》
《レベルが4に上がりました。》
殺せたか。
一気にレベルが2も上がるとは。
「コノクソガキァァァ!」
小屋にいたもう一体が、入り口を壊しながら飛び出してくる。
手に持つ折れた剣を投げつけ、時間を稼いでいる間に、殺したトロールの腰にある鉈を引き抜き、俺から飛びかかる。
奥からもう一体もシファの身体を離し、俺に向かってくるのが見えているが、先ずは手前の奴から片付けよう。
レベルアップのお陰か、力が溢れてきている気がする。
2匹目が小屋の外に立て掛けてあった棍棒に伸ばす腕を斬りつける。
腕を落とすには至らなかったが、腕を押さえるトロールの頭蓋に鉈を叩き込んだ。
《レベルが5に上がりました。スキル『魔眼』を手に入れました。》
早速、俺は『魔眼』を使ってみようと思ったが、常時発動するタイプのものだったようだ。
最後の一体を睨みつけると、何か違和感を感じ、自分の身体を確認していた。
武器は手斧を持っていた。
小屋を飛び出しながら、手斧を振りかぶってくるところを、バックステップで距離を取る。
若干ながら、その動きは鈍くなっているようで、躱した手斧が地面に突き刺さると同時に踏み込んで『バッシュ』で腹を割く。
片腕で斬られた腹を押さえながら、再び手斧を構えて向かってくるが、その足取りは非常重い。
力の抜けた手斧を掻い潜り、首筋に鉈を叩き付けた。
「シファ。一緒に来い。」
シファの手を強引に引いて集落に向かって歩きはじめる。
「どうするの?こんな事して。お父さんが黙っていない。」
「殺られる前に殺るだけだ。」
俺はその足で族長である祖父の家を急襲した。
魔眼の力もあったためか、集落の中でも最も身体の大きかった祖父も難なく倒すことができた。
俺はその日のうちに血族を皆殺しにし、その家と集落をこの手に収めた。
元々人間だったからか、トロールの雌に欲情できない俺はシファを番にし、この集落を治める事にした。
暫くすると、俺の噂を聞いたゴブリンたちが、仲間にして欲しいと集まるようになってきており、日に日に集落が大きくなっていった。




