転生
しばらく、別の転生者のお話になります。
この辺りから少しだけ「エンチャンター」と交差してゆきます。
下らねぇ人生だったな。
盗んだ原付きを後輩に運転させ、後に乗りパトカーに追われていた。
盗んだのは100ccを超えるものだったため、二人乗りでもそれなりの速度が出る。
目の前のタクシーが急に減速したため、追突し、俺は投げ出される。
まるでスローモーションのようだった。
対抗車線まで飛び出した俺の目の前には、乗用車が迫っていた。
走馬灯なんて見なかった。
ただ、あっと言う間の出来事だった。
次に気がつくと、暗い場所にいた。
かび臭い。
しかも、何かが腐ったような臭いと鉄臭い臭いが交じり合っている。
そこここから湿った音が聞こえる。
ぴちゃぴちゃ、くちゃくちゃというような音だ。
真っ暗の穴のはずだが、俺には見えた。
小さな赤ん坊のような魔物がいくつも這い回り、何かに集まっている。
その何かはいくつかあり、獣のような物、そして、人間のような物もあった。
そうだ、コイツらは人や獣の屍を喰らっているのだ。
喰われている屍と目があってしまった。
既に死んでおり、その光を失っていたが、その顔には恐怖の跡が残されていた。
俺は吐き気を覚えたが、えづくだけで何も出ない。
その這いまわる何かたちから距離を取り、穴蔵の隅で膝を抱えていたが、半日もすると空腹に耐えかねてくる。
泣き叫ぶと、魔物が様子を見に来る。
穴蔵の外から俺を覗くその魔物は灰緑色の皮膚をした、人に似た姿を持つ魔物、ゲームやアニメでよく見るゴブリンそのものだった。
その辺りで這い回る者もそれを小さくしたような容姿であり、俺の手は小さくても爪を持っていた。
俺はやっと理解した。
魔物として生まれ変わったのだ。
声の出づらいこの新しい身体で、何度も泣き叫んだが、現実は何一つ変わらない。
穴蔵の中で一日も経った頃だろうか。
飢餓感とでもいうべきものだろうか。
それが俺の精神を蝕み始め、気がつくと、俺は人間の屍に食らいついていた。
恐怖も嫌悪もその飢餓感が消してくれ、内臓の甘さが、血の味が俺を満たしていた。
数日経っただろうか。
這いまわることしかできなかった身体に力が付き、穴蔵の壁で身体を支えながらも立つことができるようになった。
俺は穴蔵から這い出た。
想像どおりの光景が目の前に広がっている。
粗末な小屋を緑色のゴブリンたちが忙しなく出入りしている。
「シファ!コドモガデタ!」
近くのゴブリンが誰かを呼ぶ。
少し毛色の違う魔物が少し離れた小屋から出てくる。
肌の色が緑よりも少し茶色がかっており、頭ひとつ背が高い。
そして、その辺りのゴブリンよりも人間に近い容姿をしていた。
「ジーガ。もう歩けるようになった。」
それは俺を抱きとめた。
どうやら、母だったようだ。
「シファ、お前、俺の母親か?」
声帯なり、身体ができきっていないためだろうか、声が出しにくいため、片言になっていまう。
「ええ。私が貴方の母、シファ。もう、言葉を話せるの?あの人に似たのかしら?」
「父親は?俺の。」
「ここには居ないわ。」
シファはその場で跪き、俺に目線を合わせて言った。
「貴方は『ジーガ』。私、シファの息子よ。」
それから、数カ月、穴蔵とシファの粗末な家を行き来する生活が続いた。
同じ時期に生まれたゴブリンたちも同じような生活をし、そのうち穴蔵から離れていく。
そして、また新たに生まれた赤子は穴蔵に入れられるのだ。
シファから聞いたところ、ゴブリンはこのように集団で子育てをするため、弱い種族ながらも強い繁殖力を持ち、繁栄出来ているらしい。
もう、駆けることもできるようになっており、シファと一緒に狩りに出るようになった。
ゴブリンたちは基本的に、集団で獲物を追い詰めて狩ることが基本になる。
弓などの複雑な武器を使いこなすことのできる者が少ないからだ。
その中でも、俺はすぐに弓の使い方を覚え、獲物には苦労しなくなった。
俺たち親子は純粋なゴブリンではないため、周りのゴブリンよりも身体が大きい。
たった数カ月で俺の身体はゴブリンの成体程度に成長していた。
最も特徴的だったのは、俺たち二人の知能だろう。
俺は元々人間だったのもあるが、シファも教養というものはないものの、言葉も流暢に話すことができ、人間に近いぐらいの知能が備わっているようであった。
身体は同年代の他のゴブリンたちよりも大きくはなった。
ただ、俺たち親子はこの群れの中で虐げられていた。
一対一の素手であれば遅れはとらないものの、貧しさもあり、武器を持たない俺は他のゴブリンの子供たちから虐められていた。
『半端者』や『雑種』と罵られ、石を投げられるどころか、棍棒で殴られるのもほぼ毎日だった。
ある日、俺が狩りから戻ってくると、雄のゴブリンの声が俺の小屋から漏れ聞こえていた。
シファに雄のゴブリンが覆いかぶさっている。
別の雄ゴブリンもいた。
嫌がり逃げようとするシファの姿に俺は激昂し、雄ゴブリンに殴りかかったものの、まだ成体とは言えない俺はふっ飛ばされ、転がったところに馬乗りにされて、ひたすら殴り続けられた。
鼻も歯も折られ、血みどろになった。
トロールは人間と同じように歯は再生できないが、ゴブリン側の特性を受け継いだのか、折れた歯が生えてきたのは助かった。
それから数日後、そのゴブリンの集落は人間たちに襲われて壊滅した。
俺も人間に襲われ、殺されそうになったが、俺を狙う男にシファが背後から襲いかかり、俺たちは命からがら集落から逃げ延びることができた。
ただ、シファは左肩に矢傷を負い、今までどおり狩りに参加することはできなくなった。
食うに困った俺たちは、シファの産まれたトロールの集落に駆け込んだ。




