親父が魔族を連れて帰ってきました。(実は転生者らしいです)
肉屋が軌道に乗り始めてからも、ペタルたちは同じ事務所で住み込んでいる。
唯一、ヴィネフだけは、別に自分の部屋を借り、事務所から出たが。
事務所にいるメンバーは全員、勤勉で信用でき、扱いやすい。
また、事業が軌道に乗ったのもあり、余裕ができたので、今は人を雇って読み書きと計算をメンバー全員に覚えさせている。
彼らに仕事を任せることもあるだろうし、俺が元の世界に戻れる時には彼らに店を譲ることになる。
年少ながらサムイルが読み書きも計算もトップだ。
ペタルは全体的にそれなりにこなすが、読み書きだけならマーリヤの方が得意である。
ボリスとヴィネフはどちらも似たようなものである。
何故か毎朝、ペタルとボリスは俺の稽古に付き合っている。
それだけでなく、一月前からテオドルがその稽古に参加してきている。
親父がテオドルを置いて、どこかに消えたのが原因なのだが。
「稽古に付き合ってくれるのは、有り難いんだけど。」
元々、貴族であるテオドルを貧民街で生まれ育ったペタルたちはあまり良く思っていない。
「何か問題がございましたか?」
「まぁ、ここにいる時だけその話し方はやめてくれるかな?」
このところ、素が出始めているのと、俺が尊敬する親父の弟だと思っているのもあり、俺に話しかける時は、貴族っぽい話し方に戻ってきている。
ペタルとボリスなら、ボリスの方が実力がある。
剣だけに限ると、剣士のジョブを持っていることもあって、テオドルが一番だが、ボリスが槍を持った場合は、ボリスの方が上という、微妙な力関係だ。
俺はと言うと、何とか今のところは彼らにまだ負けないで済んでいる。
俺も親父の真似をして、最近は長巻の練習を始めている。
棍の扱いに近いのもあり、抵抗無く使えるし、剣より間合いがとれるのが良い。
ナイフ、剣、槍、格闘、長巻、弓と様々な物をかじって練習しているが、それぞれを使いこなすというより、使い方を知ることでその対策を身につけるためだ。
ただ、テオドルは剣術のスキルを持っており、その恩恵で知識を持っているため、剣の練習をする時はテオドルが講師となってくれると稽古が捗るのもあり、結局はペタルとボリスも渋々受け入れているというのが現状だ。
親父がテオドルを置いて姿を消してから1か月が経つ頃、ひょっこりと店に顔を出した。
「一体、どこに行ってたんだよ。長く留守するんなら、声ぐらいかけてから行ってくれよ。」
「おう、済まんかったな。」
「事務所に入る?」
「ああ、ちょっと紹介しときたい奴らがおるんや。」
二つの人影が近づいてきた。
見た目はただの若い男女だが、どちらからもただならぬ力を感じ、身体が強ばる。
だが、親父と一緒ということもあり、ナイフを取り出すのには躊躇った。
「この子らが新しい仲間や。人狼のラファエルとサキュバスのサキや。これが、ワシの息子の祐希や。」
なかなか言っている意味が理解できず、固まってしまう。
若い女は無遠慮に親父の横に座り、腕を首に回している。
「あら、息子さんはワイルド系なんだ。」
何故かこの2人には息子であることを話しているようだ。
「見た目だけやけどな。」
「この二人は?」
「日本からの転生者や。」
「日本っ?!転生?!」
灰色の髪をした若い男が軽く頭を下げてきた。
「俺は人狼族に転生したラファエル。元の名前は坂上宏太。日本にいてたときは、サラリーマンしてたよ。」
隣に居た透き通るような白い肌をした長い黒髪の女が代わって自己紹介をしてくる。
「アタシはサキュバスに転生したサキ。名前は転生前からよ。」
整いすぎたその容姿はまるで人形のような冷たさを感じさせる。
女は話しながら、親父の頬にキスをした。
息子の前でイチャつくなよ。
「今回は別の用事やけど、魔境に潜入してたんや。」
魔境とは、魔族の領域の事だ。
一口に魔族とは言っても、多くの種族・血族によって構成されており、最近は混血も進んでいるため、種族というものも曖昧になりつつあるが。
大小様々な種族や豪族が跋扈し、鎬を削り合う乱世が続いているため、国という体をなしてはいないため、あくまで『魔境』と呼ばれる。
稀に強大な力を持つ『魔王』なる者が産まれ、一時的に統一が行われるが、個の武力を最も尊ぶ彼らにあっては、その『魔王』が倒れる度に乱世に戻るという事を繰り返している。
現れた魔王によっては、人間の国を攻める場合もあり、彼らの動向は人間たちにとっても無視できないものではあった。
「それって、この世界に呼ばれた依頼のため?」
「そや。」
結局、親父がこの世界に呼ばれ、何を依頼されたのか、未だに詳しくは教えてもらっていない。
「今、魔境がエラいことになっててな。これから魔境周辺が騒がしくなるぞ。」
「魔境なのか、周辺なのか、どっちが大変なんだよ?」
「どっちもや。ワシが探してた子が暴走して、魔境で暴れまわってるんや。」
「お父さんの探してた子って、売春宿で囚われていた魔物の女の子だろ?」
「この子らの事を『魔物』なんて言うな。」
親父が強い目で俺を睨む。
「この子ら魔族っちゅうのは、人間をベースに創られた種族や。」
「創られたって、一体誰に?それって、人体実験みたいなものか?」
「まぁ、要するに人間と一緒や。それは分かってくれ。」
「うん。その部分は分かったけど、女の子が暴走って、意味が分からない。」
「多分、暴走系のスキルを持ってたんやろな。今は力をつけて、目の前の全てを虐殺して回っとるんや。」
「暴れてるって言っても、その魔族の女の子一人だろ?それが周辺が騒がしくなるのと何の関係があるんだよ。」
「ただ一人で小国規模の戦力に成長しとる。もはや災害レベルやな。魔物、魔族が魔境から逃げ出し始めてるんや。」
「それで人のいる場所に?」
「正解や。あの子はこの街の近くから魔境の中を北上してる。魔境の北西側にはノヴェルの国や。」
「ノヴェルっていうと、ヴァイキングみたいな奴らだったっけ?」
「せや。ノヴェルは魔境を隔てる山脈の北西側の港町が中心や。」
「ノヴェルは海と山脈に挟まれた狭い平野しかなかったよな。」
「その平野に近いうちに魔境を逃げ出した魔物や魔族が押しかけてきよる。」
「そのノヴェルが逃げる先は、ウチの国か。」
「恐らく沿岸部から進入してくるやろうな。」
「難民対策と防衛戦か。」
「せやな。防衛戦には傭兵は向かん。略奪しようにも、侵入者と難民は女とわずかな財貨しかないやろうし、自領の集落を襲ってやり過ぎれば、味方から刺される。うまみもないし食い扶持の確保も難しい。」
「とはいうものの、王族直轄の兵を動かすにはちょっと遠すぎるし、それにどれぐらいの時間がかかるか分からない。」
「そういうことや。そこで、テオドルの出番やな。」
「テオドルの傭兵団で、古臭い騎士道を掲げて、人助けでもするってのか?」
「いや。プロフェッショナルを作るんや。スイス傭兵みたいなヤツやな。」
「スイス傭兵ってよく分からないんだけど、現代のフランス外人部隊みたいなもの?」
「また、ちょっとちゃうな。フランス外人部隊ってのの理解ももう一つなんかもな。まぁ、規律の正しさと忠誠心の高さで有名やった傭兵団やな。」
「そういえば、魔境の中も騒がしいとか言ってなかった?」
「ああ、魔族たちが力を合わせて討伐を行おうとする動きがあるな。」
「そりゃ当然だろ。」
「まぁ、そうなんやけどな。いろいろ厄介なことになるから、衝突は避けたいんやわ。どないするかその辺はもう少し考えんとあかんのやけどな。」




