変態に目を付けられそうになりました。(仕事はできるようです)
闇市が開始されてから、2週間が経った。
ゴブリンの襲来により焼跡となっていた場所に屋根だけを新たに設置した場所を中心に屋台が建ち並ぶ。
中心部から離れるほどに場所代が安くなるようになっている。
外縁部はゴザだけ敷いた露店になるが、既に店の数は50を超えているだろうか。
それに群がる客はもう数え切れないぐらい溢れかえっていた。
「すげぇな。たった2週間でこれだけ人が集まるとは。」
「まぁ、事前に根回しはしといたしな。」
「それだけ、望まれてたということですよ。」
親父とヴォイシルに案内されて、闇市を見て回っているのだ。
「うちの店は?」
「ああ。お前のところの店は一番中心に置いてる。目玉商品やからな。」
闇市の中心の壁まで付いた一番良い待遇のところだ。
「安く買い叩くだけが商売じゃない。付加価値のあるものは高く売れると言うことを示す必要がありますから。」
「一旦は高くなるけど、少ししたら一気に値崩れして、全体的に安くはなるやろうけど、購買意欲が高まるやろ。」
「後はシェア競争と生産力強化か。」
「そやな。」
今日はボリスが店番で、ペタルと交代で店番をすることにしている。
「兄貴!ちょうど良いところに。早く来てくれよ!」
俺の姿を認めたボリスが大声で呼んでくる。
「何だよ。」
「ユーキの兄貴、こっちのお客さんなんだけど。」
ボリスと話をしていた身なりの良い男が俺に向き直る。
「お前がこの肉屋の店主か?ふんっ。若いな。」
横柄な男だな。
「ボリス、どうした。」
ボリスを遮り、男が話かけてくる。
「お前のところの肉を買ってやろうと言っているんだ。」
「どちら様でございましょうか?」
「アプリロフ家の者だ。公爵家やその周辺で使う肉を私のところに納めさせてやると言っているのだ。」
確か、公爵家の御用聞きをしている商人だったのではなかっただろうか。
面倒な雰囲気がプンプンしている。
「わざわざご挨拶いたけるとは恐縮です。一頭以上お買い上げ戴くのであれば、邸までお届けさせていただきますよ。」
闇市に卸しているのは、5頭分で今の生産能力でいうと、日に20頭が限界だろう。
随分と取り扱い量も増えたものだ。
公爵家に肉を卸しても充分供給できるとは思うが、何が目的なのか。
「どうも、この『白豚』は屠殺場で取り扱っていないらしいな。」
「左様で。精肉として街に搬入すれば、街の中で屠殺しないのであれば、法に触れることもありませんよね。」
「はんっ。しかし、不当に廉価で販売されていると聞いているぞ。」
まぁ、今後は普通の豚肉より高い値になる予定ではあるが。
「儂の持つ屠殺場で解体するのであれば、見逃してやっても良いのだがな。」
まぁ、毛抜の技術がそれなりの優位性を持っているのを確認できたのは良いけど、面倒だな。
とうやって切り抜けようか。
「おや、アリプロフ様。お久しぶりでございます。」
ヴォイシルがアリプロフに挨拶する。
「何故、お前がここにいる?」
「私の方でこの市を取り仕切らせていただいておりますので。アリプロフ様の取り扱う商品とは質が違いますし、客層も異なりますので、ご迷惑はおかけしていないかと。」
「この違法な肉屋を我が店で雇ってやろうかと考えておったのだ。」
「それは、私どもとしましても困りますね。ここはお引き取りいただきたいと思っておりますが。」
「この肉屋が何なんだ?」
「この店がこの場所にあることを考えていただきたい。」
ヴォイシルの目つきが鋭くなる。
何故かアリプロフが折れた。
結局、毎日2頭分を準備するという、普通の商談に落ち着いた。
「何か弱みでも握っているのか?」
「ああ。性的倒錯者でしてね。暴力を振るわないと興奮しないらしいです。何度か後始末をしたことがありますよ。」
「そうか。助かったよ。」
「いえ、こちらもこの店にかけているところも大きいですから。」
この店にかけているというのは、本当のところだろう。
品質での価格差の生み出しとともに、ブラッドソーセージのような価格統制から外れる商品の販売といった現行の制度を否定することのできる商材だからだ。
しかし、今回は助かったが、もっと多方面への対策を考えないといけないな。
それに、早く合法になるように手を尽くすのも必要か。
何にしろ、今は具体的にどう動けば良いか思い浮かばない。
親父や皆に相談しながら考えていくか。
「ちょっと、飯でも食うか。」
俺とヴォイシルを連れて、浴場へ向かう。
まぁ、飯が食えるのは確かだが、息子を連れてってのはどうなんだろう。
ここにもかなりの量の肉を卸しており、お品書きを見ると肉料理が充実している。
個室もあるだろうが、何故かテーブルが席に着く。
テーブル席とはいえ、片側はソファになっており、親父はソファ側に座った。
「ハーブとかスパイスが少ないな。」
「元々流通量が少ないから貴族連中に買い占められてもうたら、あっちゅう間に無くなってまうんや。」
「そういえば、薬草師を雇おうかと考えてるんだ。」
「ほう。面白そうやな。代替のハーブを探すのも一つの手か。」
「ああ。本格的に動くのは合法化してからと思ってるけど。」
「まぁ、それも言うてる間やな。闇市の合法化と合わせてやな。」
話している間、通りがかりの娼婦達が親父にキスしながら挨拶をしていく。
「ああ、また今度な。」
そんな中、一人の女が親父の横に座る。
20歳になるかならないかぐらいではあるが、艶もあるし知的な感じもする。
「あら、これが貴方の弟?」
俺の頬を掴み、軽くキスをしてきた。
「ああ。あんまし女に免疫ないやろうから、からかうんもそれぐらいにしとったってくれ。」
「ええ。このまま良い?」
「ああ。仕事に差し支え無かったらな。」
「アノ人が来るのは、もう少し遅くなってからだから。はじめまして。エリナです。」
「あの、良いの?」
「良いっていうより、この娘らに手伝って貰わなあかんからな。」
たあいもない話をしていると、エリナが他の女の子から呼び出される。
「行っといで。」
親父が優しい声でエリナを送り出す。
「上手いこといったらええんやけどな。」
「それはそれでこちらも大変になりますね。彼女は優秀ですからね。」
エリナはここに通う貴族に気に入られており、縁談を持ちかけられているらしい。
あの親父を見る目も気になるところではあるが気にしないでおこう。




