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堕ちればいい

 いつものとおり死んだ瞬間の夢を見ていた。

 恐怖に引き攣った人々の顔。

 それと雑踏。

 今日はそれに不安を掻き立てられる。

 木々が騒いでいた。

 夢と現の境が不明瞭な気がした。

 木々が私に危険を知らせてくれた。

 人間が、たくさんの人間が向かってきていると。

 街道から逆側にある、いつもの川原のある林の縁で眠っていた。

 ちょうど、日が昇り始めたところだ。


 私のいる場所までもうそんなに距離は無かった。

 大きな川は流れが強く渡れない。

 川沿いに逃げるしかない。

 川上に向かって逃げ始めた。

 日が昇りきれば、逃げ切れる。

 懸命に足を動かすが、重い。

 まだ日が昇りきっていないだけでなく、雲が厚いのだ。

 もう川原の小石を踏みしめる音が聞こえ始めた。

 陽が無い今の私の走力では大人の男に追いつかれるのは時間の問題だ。

 ゴブリンと対峙した時と同じようにモウセンゴケとハエトリグサの葉を準備する。

「気を付けろ!その下にあるのに足を取られると危険だ。あの顎みたいなのは、二人でかかれば何とかなる!」

 そう指示する男がいる。

 ハエトリグサで襲いかかり、男の盾に食いつく。

「いやぁー!」

 激痛が走る。

 ハエトリグサの葉が男の剣により斬られたのだ。

 さきほど指示をしていた男がすぐ横まで迫っていた。

「これが、毒だな!」

「ぎゃー!」

 痛い。

 とんでもない激痛だ。

 麻痺毒の果実も切り落とされる。

 三度目の激痛には耐えられず、私は気を失った。



 揺れている。

 身体は動かせない。

 身体を見ると、縄で縛られているのだ。

「ウチの息子の言ってたとおりだな。攻め方が分かっていたから、楽だったな。」

「確かに、知らなかったら、多少でも被害が出てたかもな。」

 丁寧に猿轡まで噛まされ、声を上げることもできない。

「それなりに上玉だぜ。幾らになるかな?」

「5・60枚はかたいんじゃないか?」

「いや、そこそこの状態だし、100枚はいくんじゃないか?安売りはしないぞ。」

 そんな声が聞こえる。

 指揮を取っていたのは、助けた男の子の父親なのだろう。

 結局、助けたことで、私が狙われたのだ。

 助けなければ良かった。

 いや、あそこで誘惑に駆られて食べてしまえば良かったのかも知れない。

 悔しい。

 ただ、悔しい。

 自分の迂闊さが呪わしい。



 あれからどれぐらい経っただろうか?

 ずっと暗い部屋に閉じ込められ、水以外のものは与えられない。

 少しでも変な動きをすれば、その葉は切り落とされる。

 2回程で反抗する気力と体力は尽きてしまった。

 寝ても覚めても延々と地獄が続く。

 私の罪が許される日がくるのだろうか?

 ただひたすら終わりを望む。

 この上に乗る男の行為が終われ。

 今日が終われ。

 この生活が終われ。

 何もかも終われ。

 もう、憎むという感情さえ忘れてしまった。

 もう何も感じたくはない。

 身体と心が離れていっている。

 どこか自分のいる場所が、身体のある場所が遠く感じる。



 部屋に来る男たちとは、会話はない。

 ただ、何かを一方的に、興奮気味に口にし、放っておけば、いつの間にか上に乗ってきているものだった。

 ある男の事が記憶の片隅に残っていた。

「日本語やな。もう少し待っててくれ。店ごと買うたるからな。」

 珍しく、私も何かを言ったような気がする。

 それももう、記憶には残っていない。



 ほとんど何も覚えていない。

 記憶には霞がかかっているようで、思い出せない。

 ただ、ある日、無数の男女の悲鳴だけがあった。

 いつの頃からか、人間の女たちと同じ部屋になっていた。

 ただ、私の上に乗るのが人間では無くなっていた。

 女たちは私には話しかけない。

 最初はまだ会話があったようだが、女たちもお互いに話す気力も体力失っていき、静寂とたまにそれを破る悲鳴しかなかった。

 その悲鳴も最初は恐怖をもたらしたが、それもすぐに意味を持たなくなってゆく。

 何かを孕む女も多かった。

 中から食い破られることもあったみたいだ。

 次第に女たちの数が減ると、また補充されていく。

 稀に私のように人間でない女もいたようだが、あまり覚えていない。



 気が付けば、私は穴にいた。

 食べかすが捨てるための穴だった。

 骨まで喰らう魔物どもも、髪や爪は食べずに捨てるようだ。

 病気なら食べられずにそのまま捨てられてているようで、暫く息のある女も見かけた。

 何の病かは分からないが、顔を含め体中が爛れ、膿に塗れた女が私の側にいた。

 私も病気だったのだろう。

 彼女らのように皮膚が爛れてはいないが、倦怠と苦痛は常にあるものだったため、よく分からない。

 私はこの腐臭の充満するこの穴にどれほどいたのだろうか?

 このまま朽ちていきたかった。

 穴の中は九相図そのものという他はない。

 ただ、私には、彼らに訪れた静謐が羨ましかった。

 私にも同じやすらぎが欲しかった。



 しかし、私の身体は私を裏切った。

 私の身体はこの穴のやすらぎを侵す暴君と成り果てた。

 根から、葉から、房から。

 私の身体は穴の上の男たちと同じように、穴の中の彼らの安寧を凌辱していく。

 穢らわしい私は、穢らわしい真似しかできなかったのだ。

 腐朽すら、死の休息すら、私には過分なのだ。

 堕ちればいい。

 ただ、堕ちればいい。

 私の支配者たる肉体の命じる儘に。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『エンチャンター(戦闘は女の子頼みです)』 を隔日・交互に掲載しています。 こちらもよろしくお願いします。


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